「………………ん」
瞼を超えて眼球に染み渡る白い光に、カーラの意識は覚醒する。
一番始めに視界に映ったのは、染み一つない天井とカーテンの隙間から薄っすらと漏れる陽光だった。
グラムの支配から逃れてからの数日は睡眠が常に浅く、数時間で目が覚めたと思えば全身が汗でじっとりと濡れているのが常だった。
意識の覚醒は牛歩のように遅く、目が覚めたら覚めたで、全身が鉛に変わってしまったかのように重く、身体を起こすことすら億劫であった。昼日中など、眠気を覚えて思考が定まらないの繰り返し。
だが、今日はどうだ。
覚醒は速くはなかったが、思考の霞が晴れるのは快適そのもの。手足は羽毛のように軽く、ベッドから起き上がることも苦にならない。
ふと自分の身体を見下ろせば、毛布が掛けられていた。まさか、こんなにも深い眠りに付けるとは考えてはいなかったからベッドに潜り込まなかった。虎太郎が掛けたのだろう。
其処で、眠る直前までその場にいた筈の虎太郎へと思い至ったカーラであったが――
「――――おはよう」
「…………っ」
――突如として掛けられた朝の挨拶に、驚きからビクリと肩を震わせた。
カーラの驚きも当然であった。虎太郎は昨夜のソファから動かずに其処に居たのだから。
ソファの肘掛けに頬杖をついて脚を組み、瞼を閉じたまま語りかけてくる虎太郎に、カーラは驚きに続き、呆れを抱いてしまった。
完全に眠りの世界に堕ちる直前、悪夢に変わり始めたのなら、すぐに起こしてやると言っていた気がしたが、様子を見て自分の部屋に戻ればいいものを朝まで待っていたらしい。
無論、これが単純に他者を気遣う優しさによるものではなく、自ら口にした言葉を忠実に守ることで信頼を得る、打算有りきの行為であることは、カーラも察していた。
しかし、何も完璧に気配まで消すことはなかろうに。
カーラの五感ですら捕らえきれぬ隠形術。確かに視界の端には映っていたのだろうが、気配がなさすぎて置物となんら大差のないレベルであった。
その律儀さにカーラは笑みを溢した。
彼ほどの技量であれば偵察や潜入に使用すべき技術を惜しみなく使い、優しさなど一片もないままに気遣いを見せる妙な律儀さは、何となしに可愛らしく映ってしまう。
一晩中、眠りもせずに気配を消しながら、カーラの様子を探っていたであろう虎太郎だったが、瞼を開き、顔を向ける動作に眠気など一切ない。
昨晩聞いた穏やかな声音は見る影もなく、無機質で冷徹な視線をカーラへと向けた。
「よく眠れたようだな。睡眠不足による眼球の充血も見られない。肌の張りも、血色もいい。質のいい睡眠が取れた証拠だ」
「ええ。身体も軽いわ。久し振りに、懐かしい夢を見た気がするけれど、それを思い出せないのが少し残念」
「吸血鬼も脳の構造は、人の脳と変わらない。睡眠で得られるものに違いはあるだろうが、夢を見るメカニズム自体は基本的に変わらない筈だ。夢を見たが思い出せないということは深く眠っていた時間が長かった証だよ」
夢は、特殊な能力によるものでなければ、通説として記憶の整理であると言われている。
整理が行われるのは決まって浅い眠りの間であり、脳が軽く運動をしている状態に等しい。夢を見ない、見たとしても覚えていないということは、深い眠りにあった証なのだ。
虎太郎はカーラを一瞥しただけで肉体や精神状態を把握すると、ソファから立ち上がる。
腕や肩、首を回すと、凝り固まった関節がパキパキと小気味良い音を鳴らした。本当に一晩中、地蔵のように身動ぎ一つしなかったのだろう。
「7時前か。そろそろ神村も、クリシュナも起きてくるな」
「…………そう言えば、朝食の用意はどうしましょうか。食堂の者もいなくなってしまったし」
「オレしかいないだろ、料理できる奴」
吸血鬼は人間よりも長い期間、絶食していても問題はない。
元より血液を主食とするからか、或いは人間よりもエネルギーの摂取効率が良いのか、消費するエネルギーが少ないのか、はたまた貯蔵できるエネルギーが多いのか。
兎も角、人間と同じ間隔で食事を繰り返す必要はない。また、カーラは虎太郎の血を吸ってからそう日が経ったわけでもない。腹が減っていないから、其処まで気が回らなかったらしい。
人外らしい食事に対する頓着の無さに呆れながら、隼人学園に残された者の中で唯一料理と呼べるものが作れるのは自分だけ、と虎太郎は嘆息した。
カーラはヴラドの女王。
ヴラドは貧困とは程遠い小さいながらも豊かな国だ。豊富な地下資源もあれば、ヴラド産の食品は通の間では人気であり、経済的な余裕もある。
女王自ら調理場に立つほど逼迫した懐具合でもなければ、人材不足でもない。侍女やお抱えの料理人が身の回りの世話をする故に期待など出来ない。
マリカも東にしても似たようなもの。
両者共に戦いを生業とする者であるが、家柄は相当に良い。クリシュナ家は代々、王の近衛騎士を努めてきた貴族階級であり、神村家は長らく続く退魔の家系。
親元を離れた東はズボラな性格故に自炊などしたことはないだろうし、マリカはマリカで王の補佐は出来ても、炊事洗濯など下々の者が行うべき雑務という認識であるはずだ。期待をする方が間違っている。
であれば必然、白羽の矢が立つのは虎太郎である。
生まれは兎も角として、乞食・浮浪者に等しい幼少時代を過ごし、長らく一人暮らしを続けてきた彼しか出来ないだろう。
また面倒事が増えた、と虎太郎は肩を落とした。家事は出来るが、嫌いであることを如実に表している。
「なら、私も手伝うわ」
「え? 出来るのぉ?」
「まあ、その、初めてだけれど…………働かざる者、食うべからず、が北絵の方針よ。郷に入れば郷に従えと言うのも日本の諺ではなくて?」
(それは大いに賛同するけど、適材適所ってあると思うの……)
カーラにしてみれば虎太郎への感謝のつもりだったのだろう。
北絵不在の間、東に代わって学園の運営に申し出たが、それはあくまでも北絵のためであり、学園のためであった。そう考えれば、虎太郎には何も返していないも同然だ。
虎太郎にしてみれば、要らぬ気遣いであった。
そもそも、カーラの身に陵辱が降り掛かったのは、自身がグラムの行動を黙認した所為だ。
グラムを完殺するために必要であったとは言え、被害者にしてみれば元凶の一つと認識したとしても不思議ではない。
殺されていない、糾弾されない、責任の追求をされないだけで十分過ぎる報酬だ。
「しっかし、いいのかなぁ、女王様にこんな事させて……」
「私自身が構わないと言っているのよ、何の問題もないわ。それに、新しい体験と言うものは胸躍るものがあるわ」
「そうか。じゃあ、お言葉に甘えて。着替えてから食堂の方に来てくれ。準備しておく」
虎太郎は微笑むカーラに手を差し出し、ベッドから立ち上がるように促す。
カーラはトラウマから生まれる男に対する忌避感から、きっと拒絶してしまうと思っていたが、彼女自身も驚くほど自然に差し出された手を取っていた。
彼の行動や姿勢は信頼を勝ち取るには十分であり、カーラが心を許すには申し分ないものであった証左だ。
この後、カーラは初めての体験に悪戦苦闘。
何とか出来上がった朝食は、不揃いのお握りと味が薄く、具が固い味噌汁という悲惨なものであった。
だが、東からは女王様の手作りなんて珍しい、虎太郎からは初めてにしては上出来、と概ね好評であった。
――――女王たるカーラを調理場に立たせる不遜極まる行為に、虎太郎がマリカからしこたま怒られたのは、また別の話だ。
―――――
――――
―――
――
―
あれから一週間の時間が過ぎた。
幸いというべきか、カーラの精神と肉体共に順調に快方へと向かっていた。
何より顕著だったのは、無意識の内に抱いていた男に対する嫌悪感や忌避感を払拭し始めていたこと。
何処かよそよそしかった態度や仕草、ふとした瞬間に見せる怯えた表情は見られなくなり、彼女本来の笑みが多くなっていた。
新しい体験とした料理も、元々舌が肥えていたカーラには素養があった上に、これまでの経験にはなかった新鮮さに今では虎太郎と共に三食を作るほどだ。
今では炊飯器の使い方や味噌汁の作り方程度は誰の手を借りることもなく行える。カーラの熱心さと勤勉さには東も舌を巻くほどであった。
ただ、マリカと東をやきもきさせたのは、カーラと虎太郎の距離が、精神的にも物理的にも縮まっていたことか。
今や、二人の間に会話が途切れることはなく、冗談まで飛び交うほど。元々、気難しい性格ではないカーラではあったが、男と此処まで親しくなるのは稀でもあった。
マリカは、対魔忍などという汚れ仕事の代行者の上、人間の男にカーラが心を許すのは気が気ではなかった。
東は、自分でも訳も分からないままに、二人が肩と肩が触れ合いそうな距離で談笑しながら料理をしている姿を見ているのに胸がチクチクと痛んでいた。
カーラ自身も信じられない事態であった。
予てより家臣から世継ぎを望まれ、見合いのような事も繰り返してきたが、どうにも相手の男に何の興味を持てなかったのは事実だ。
彼等の言葉も外見も、取り繕って飾り立てられているばかりで中身がない伽藍堂にしか思えなかった。
女王としての仮面を被ってきたからだろう。彼等が興味があるのはカーラ個人ではなく、カーラの持つ地位にしか目を向けていなかったのだ。そんな相手に、興味など持てようはずもない。
その点、虎太郎は興味の対象であった。
彼の語る言葉は、不思議とストンと胸に落ちる重みがあった。経験を伴った言葉だからだろう。空々しさや、形ばかりの言葉とは訳が違っていた。
ともすれば、二十の半ばに過ぎない彼は、長い時を生きてきた自分よりも多くの経験を重ねてきたのではないか、と錯覚してしまうほどに。
彼の言動も、行動も、強さも全ては経験に根差したもの。
一体、どのような経験を繰り返せば、彼のような人間になるのか、興味が尽きない。
何よりも女王としての彼女を尊重し、受け入れながらも、カーラ個人として接してくれている。そんな相手は本当に貴重で、気を引かれるのも無理はない。
「……はぁ……はぁ……くぅっ……」
ただ、問題であったのは、これから虎太郎と二人きりで取り留めのない会話を楽しみ、また彼の声に誘われて眠りの世界へと落ちていく予定だと言うのに、体調が急激に悪化してしまったことか。
身体が燃えているかのようだ。
全身余す所なく鋭敏化しており、乳首も乳輪から勃起して服を押し上げている。
漏れる吐息は欲情で濡れそぼり、服が地肌を擦れるだけで身悶えを抑えられない。
(寄生蟲が目覚めた、わけではないわね……これは、アムリタの禁断症状。今になって……!)
ウイルスの生存期間はまだ一週間はあるし、身体が自由に動く時点で寄生蟲によるものではない。ならば、この発情状態はアムリタの禁断症状と見るのが自然だ。
アムリタは吸血鬼の血液を特殊な製法によって凝縮したもの。ただ吸血鬼の血を飲んだとしても、此処までの異常は発生しない。
効果も魔界製の麻薬に劣らず、禁断症状もピカ一である。
通常の麻薬よりも遥かに強い幻覚、空虚感、虚脱感は勿論のこと、肉体面に関しては強烈な発情を催し、人間であれば細胞の急速な老化まで発生する。
今までカーラが禁断症状に襲われなかったのは、初めて血を吸ったことで吸血鬼として飢餓状態から開放され、身体調整機能や自己回復機能が跳ね上がっていたからに他ならない。
しかし、それも此処まで。禁断症状に立ち向かうために無意識にエネルギーを消費し、彼女は再び飢餓状態へと陥った故に、禁断症状が顔を覗かせたのである。
(…………もう、覚悟を決めるしかない、わね)
ベッドに横たわったまま、興奮から紅潮した顔を左腕で覆い、牡を求めて疼く子宮を鎮めるように下腹部を右手で撫で回す。
男に身を任せる恐れはまだあった。
それはそうだろう。自分の意思や感情の介在せぬままに快楽で翻弄され、痴態を晒すなど誰であれ望ましいものではなく、楽しいものでもない。
だが、それでも――――頭に思い浮かぶ男であれば、それも構わないと思えている自分が居た。
ある種の覚悟が決まり始めた頃、タイミングを見計らったかのように、部屋のドアがノックされる。
「はい、どうぞ」
「邪魔するよ」
初日と全く同じやり取りと共に、虎太郎は部屋へと上がり込んだ。
不様な姿を晒すまい、とカーラはふらつきながらも身体を起こし、ベッドの縁と移動する。この一週間、常にこうして迎え入れていた。
自身を出迎えたカーラの朱に染まった表情を見るや否や、虎太郎は片眉を持ち上げた。
こういった症状や媚薬の効能は腐るほど目にしてきたのだろう。さして珍しいものではないとでも言いたげに、すぐさま表情を元に戻す。
普段であれば、ベッドの脇に置きっぱなしの椅子に腰掛けるところであったが、虎太郎は腕を組んで壁へと寄りかかった。明らかな望まぬ発情と興奮で濡れる表情にありながら、その瞳だけは覚悟を讃えていたからだろう。
「その様子じゃ、腹は括ったようだが――――本当に、構わないのか?」
「構わないわ。貴方になら、身を任せられます。ただ、マリカは……」
「あぁ、そっちの方は気にしなくていい。アムリタの後遺症への対応はしている。状態は、アンタよりもいい。勿論、同じ対応をしようと思えば出来るが……」
「いえ、どの道、遅いか早いかの違いでしょう?」
「まあ、それもそうだがな」
熱と興奮で浮かされ、思考もまともに定まらない頭の片隅で腹心であるマリカの表情が消えてなくならない。
あの頑固で意地っ張りの性格では、そう簡単に虎太郎に身を任せる筈もない。こんな苦しみの中、一人堪えているかもしれない現実に、カーラはそれこそ堪えられない。
だが、薬によるものか、或いは自身の知らない技法によるものか、マリカの方にも対処してくれているようだ。
この一週間、マリカに微細な変化すらなかった。虎太郎への態度が軟化することなどなかったが、それが今は逆に安心感を覚える。少なくとも、マリカを傷つける口に出せないような対応ではないことの証となるのだから。
そして、当に腹を括ったと言うのに、今になってそんな事実を明かして確認を取る虎太郎の律儀さに笑ってしまう。
マリカに対して既に行動を起こしている点、アムリタの後遺症が発露している点を黙っていたのは、自身に余計な心配を抱かせないためだと嫌でも分かる。
身体にせよ、心にせよ、治すのであればまずは己を第一に考えねばならない。其処に心労の要因があれば、治るものも治らなくなる。
打算によるものだとしても、その心遣いはカーラにとって嬉しいもので、覚悟を深めるには十分過ぎるものだった。
自分の意思から離れつつある身体を押して、ベッドから立ち上がる。
虎太郎も意図を察したらしく、無言のまま背を向けると背広を脱ぎ、ネクタイの紐を緩めて服を脱ぎ始めた。
はぁ、と身体に堪った熱を吐き出すように息を漏らし、カーラもまた服へと手をかける。
まずはブーツを、と身を屈めたのだが、上手く行かなかった。衣服に擦れるだけで官能が高ぶる身体は意のままにならず、容易くバランスが崩れてしまう。
「――――あ、んんっ♡」
「大丈夫か?」
「んっ、ふぅっ、ふっ、え、ええ、ありがとう」
床へ倒れ伏しそうになった身体に、男らしい太い腕が巻き付き、転倒は避けられた。
ただ、床に倒れる不様を見せてしまった恥ずかしさよりも、驚きと異性の感触に漏れてしまった甘い声にカーラはただでさえ赤い顔を更なる朱に染め上げる。
官能は高ぶるばかりで自分さえ見失いかけていた。
吸血鬼の嗅覚で感じる男の香りは、いっそ獣臭とさえ捉えてしまいそうに関わらず、身体が歓喜で震えているのが分かる。
「ご、ごめんなさい。ふらついてしまって……」
「吸血鬼だから死ぬことはないだろうが、危険な状態だと自覚した方がいいぞ。下手をすれば、発狂しかねないんだ。手伝うよ」
「で、でも……」
「女王様なんだ。お召し物を脱がされるのも、着せられるのも慣れっこだろう?」
「もぅ……殿方に着替えを任せた覚えなんて、ないわ」
くつくつと漏れる笑い声と冗談に、カーラは拗ねたように口唇を尖らせる。
本当に、嫌になるほど女の扱いが巧い。彼女はそれが腹立たしくあったものの、僅かに残っていた筈の不安も気の重さも霧散してしまう。
カーラの背後に回った虎太郎は、彼女のワンピースドレスを押さえるベルトに手をかけた。
まるで果実の皮を剥いていくように遠慮の無さにも関わらず、身に傷一つ付けまいとする繊細さは一流の料理人のようだ。
背中が大きく露出し、胸の谷間から臍が露出する大胆なドレスであったが、生来生まれ持ち、更には教育によって強固かつ完璧になったカーラの品性によって下品さは微塵も感じられない。
首のスカーフを解き、その下にあった留め金を外すとドレスはするりと足元に堕ちた。
露わになったのは、薄いボディストッキングで包まれた月の女神と見紛う、目も眩むような美しい肢体だ。
ウエストは女性としての脂肪は残しているが綺麗に括れ、ただでさえ豊満なバストとヒップをより強調しているかのよう。
ボディストッキングのみで支えられた胸の頂点では限界まで隆起した乳首が布地を押し上げ、下着で包まれた尻は雄を受け止められるように厚い。どちらも成熟し、孕み頃の雌であると示していた。
どんな男であっても虜になってしまいないかねない完成度を誇る肉体は、魔の代名詞である吸血鬼にして女王に相応しい。
無論、虎太郎も欲望が鎌首を擡げたのは言うまでもない。彼もまた男、それも極度の女好きと自覚している。だが、自覚した女好きであるが故に、女への気遣いも自覚したものだった。
自分の女を前にしてするように、生唾を飲み込むような真似はしない。不躾な視線も決して送らない。
男の欲望は、女にとって悦びにも映れば、嫌悪を催す下卑たものにも映る。
生きている以上は欲望がついて回り、そもそも欲望に貴賤などない。問題は発露のさせ方と相手との関係性だ。
より近しい関係であれば、どのような発露をさせても受け入れられるが、カーラの関係は近しいと言うよりかは親しいに留まっている。
此処で品のない真似をすれば、今まで培ってきたものが全て台無しだ。だからこそ、壊れ物を扱うように優しく、ただひたすらに優しく、カーラの心と同じく衣服を解く。
「んっ、ふっ……は、ぁっ、……んんっ……♡」
限界まで官能の高まった身体は、カーラの意思に反して甘い吐息を漏らさせる。
ボディストッキングに手をかける感覚ですらが、途方もない快楽として彼女を襲っていた。
それだけではない。
触れ合うほど近く傍によって虎太郎の息遣いや体温、体臭までもが興奮を呼び起こす。
口唇を噛み締めて漏れる声のはしたなさに涙が溢れそうであったが、それ以上に鼓動が危険な域にまで達しているようで身体が震える。
胸の内で脈打つ心臓の跳ね上がりは激しく大きい。鼓動は頭の中で何百と反響しているかのようだ。それが不安や恐怖によるものではなく、期待によるものと自覚して、更に羞恥を煽った。
支えられていたボディストッキングから開放された両胸は、柔らかさを示すようにぷるりと揺れ、張りを示すように型崩れすることなく同じ形状を保っていた。
処女雪のように白かった全身の肌は、羞恥と興奮からほんのりとした桜色を帯びている。
最後に残った砦は、発情と期待の愛液でクロッチが汚れた黒いリオカットショーツだけ。
カーラを生まれたままの姿にしようと、ショーツに手を掛けたその時――――
「…………ま、待ってっ」
片手で両胸を覆ったカーラは、空いたもう一方の手で虎太郎の手首を掴み、動きを制する。
骨が軋む程の力に虎太郎が痛みを覚えるよりも早く、彼女は慌てて力を緩めた。
「ご、ごめんなさい。その……」
「大丈夫、聞いてる。東の身体も見た。カーラは、此処なんだな?」
「そう、よ。気味の悪い形をしていると思う、けれど…………い、ひぃっ♡」
虎太郎の腕が身体に回され、抱き竦められた状態で下腹部の上から子宮を撫でられる。
優しい手付きは、もっともっとと強請る子宮を宥めるかのようだ。
地肌と地肌が触れ合い、相手の熱が直に伝わってくる。それだけで全身に鳥肌が立ち、身体から力が抜けていく。
思わず虎太郎の身体にもたれ掛かり、背中を預けてしまう。
更に相手の存在をはっきりと、より色濃く感じ取り、もうコレ以上大きくならないと思っていた乳首と陰核は震えながら大きさを増していった。
最早、今までとは質の違う快楽にカーラは抵抗の余裕すらなく、また虎太郎の力強い言葉に抵抗する気すら起きない。
虎太郎に任せるままショーツを降ろされる。
露わになったカーラの女陰は愛液によってしとどに濡れていた。しかし、カーラが気にしていたのも、誰の目を引くのも其処ではない。
――ひくひく、とそそり勃つ陰核。
奇形、と呼んでも差し支えない。
太さも長さも人差し指には及ばないが、まるで男根を想起させるようにクリトリスの形状が変わっている。
これがグラムの陵辱の証であり、寄生蟲がカーラの身体を改造した結果でもある。
淫らで醜い改造を見られ、カーラは口唇を噛み締める。もう当に終わった叔父に対する憎しみは増すばかりだ。
「これは、辛かったろう。普通に生活するのも大変だ」
「え、えぇ、今日も、下着に擦れて、痛くて…………貴方は、大丈夫? 萎えてしまったりは……んんっ♡」
「何の心配をしているんだか。ほら、分かるだろう?」
「わ、分かったから、余り押し付けないでぇっ……」
ズボンを押し上げて固く勃起した男根を、尻の谷間に押し付けられ、カーラは安堵した。
異常肥大したクリトリスは見られたくなかった上に、虎太郎に気味悪がられると思っていたが、そんな心配は杞憂に過ぎなかった。
自分が如何に興奮しているかを分からせるように、カーラの身体を抱きしめたまま、腰を振って怒張の存在を知らしめる。
カーラは微弱な快楽から逃れようと身を捩ったが、より強い快楽を求めて尻を降っているようにしか見えない。まるで、もう我慢出来ないとでも身体が叫んでいるかのようだ。
「大丈夫、元に戻る。任せておけ」
「――――きゃっ」
突然、地面が消失し、急な浮遊感からカーラは悲鳴を上げた。
虎太郎は彼女の膝裏と背中に手を回し、身体を抱き上げたのである。
そのまま、ベッドへと上ると硝子細工を扱うように優しく、カーラを仰向けに寝そべらせた。
「じゃあ、これから本物のセックスを教えてやるからな」
「……本物の、セックス」
「まずはキスからだ。真似をしてみるといい」
これまでの陵辱は児戯や自慰の類に過ぎないと断言する言葉に、ゴクリと喉が鳴った。
陵辱は屈辱に耐える拷問に等しかったが、快楽に嘘はなかった。何せ、それが嘘であれば籠絡も不可能、傀儡にするなど夢のまた夢だ。
それを超えるものとはどんなものなのか。想像も出来ない領域に、期待から生唾を飲み込むはしたなさに、恥ずかしさから顔ごと視線を逸らしたが、虎太郎に顎を持たれて向き直される。
「んむっ…………はっ、はっ……♡」
「ほら、今度はカーラがキスをしてくれ」
口唇と口唇が優しく触れ合うだけのキス。
余計な欲望を介在させず、相手への思いだけを伝えるための口付けに、カーラは全身を震わせた。
口唇から伝わってくる感覚に、自分の女が完璧に目を覚ましたような気さえした。頭の最も深い部分に電流が奔り、子宮が慄くのがよく分かった。
虎太郎は自らの左手でカーラの右手を取ると指を絡め、カーラもそれに倣い、言葉と自らの欲望に従うまま、自ら口唇を押し付ける。
「んんっ……んっ……ちゅ……んむっ、ちゅっちゅ……♡」
瞼を閉じ、少しでも相手の感触を確かめようと何度も何度も口唇を重ね合う。
瞬く間にカーラの全身は汗で濡れていく。陵辱では決して得られない本当の女の快楽と幸せが花開いていくように。
けれど、それも次第に物足りなくなった。
もっと強く、もっと深くとせがむように。重ねるだけでは足りなくなったカーラは、自ら口唇を開き、虎太郎の口唇に吸い付いていく。
「んんんむっ♡ …………んれ、れるるっ、んちゅっ、こくっ、こくごくっ、れろっ、りゅれろ、れろろっ……♡」
(舌、入ってぇ……♡ こ、これが、虎太郎の味ぃ……♡)
だらしなく開いた口唇を更に押し開くように虎太郎の舌が這いずった。
口内に侵入してくる異物に、カーラは驚きから目を見開いたものの、一瞬で切れ長の目がとろんと蕩けていった。
僅かに煙草の味が伴う唾液と共に、肉の帯が口腔を蠢き、あらゆる部分を舐め上げていく。
舌の腹や裏は勿論、上顎や歯茎、口唇の裏側まで、思う存分に舐められる。
舌が這う度にカーラは腰をピクリと跳ねさせ、新たに溢れる愛液に羞恥を覚えながらも、キスに没頭する。
「んれぇっ、んくっ、んちゅぅっ、んむむっ、れるれるっ、れちゅぅっ、はぅっ、むちゅちゅぅ……♡」
(凄い、馬鹿みたいに気持ちいい……キスが、こんなに凄いなんてぇ……あはぁっ、今度は私が……♡)
虎太郎の舌が引き抜かれていくと、待ってと追いかけるようにカーラの舌が踊る。
極上の快楽を教えてくれた感謝と愛おしさから強く手を握り、お返しとばかりに虎太郎の口腔に舌を滑り込ませる。
初めてではないにも拘らず、初めてのような男の味。
煙草の苦味と臭いを感じながら、自分がして貰ったように見様見真似であらゆる場所に舌を這わせた。
「はんっ、んふっ……んんっ……ちゅちゅっ……れる……れろろ……ろりゅ……んふっ、んふふっ……♡」
(う、上手くできない、けど……はっ、はぁ、虎太郎の息も荒く……♡)
辿々しくはあったが情熱的な舌使いに、虎太郎の鼻息は荒くなり、カーラも荒かった鼻息は激しくなっている。
思わず、嬉しくなってしまう。自分一人だけが感じ、よがっているわけではなく、虎太郎もまた感じている事実が、女としての自信となってカーラの舌使いにいっそう熱を込めさせる。
「んふっ、んん……れろるっ……るろろ……れろ、れる……んれぇっ……んえっ……ちゅぅううぅぅ……♡」
一体どれだけの時間、舌を絡めていたのだろうか。
顎に疲れを、舌に引き攣りを覚えた頃、カーラは娼婦顔負けの舌使いを身に着けていた。
互いに口から舌を突き出し、虚空で絡め合わせる。
児戯のようなキスは終わりを告げ、欲望と欲望を絡み合わせるような淫らなキス。
カーラは続き、口内に舌を招き入れると、ちゅうちゅうと音を立てて吸い上げる。周りからの目など一切気にせず、ただ気持ちよくなりたい、ただ気持ちよくなって欲しい、と言わんばかりに。
「んむ、んちゅっ、ちゅちゅ、れるるっ――――んひぃっ♡」
今度は散々絡め合い、草臥れかけた舌に吸い付かれ、甘く噛まれるとカーラの腰が跳ねた。
ぶちゅり、と本気汁が秘裂から吐き出され、尿道口からは透明の潮が勢いよく噴き上げた。
アムリタの後遺症によって感度が上がり、キスによって高ぶりに高ぶった身体は絶頂を迎える。
キスだけでの絶頂、という初めての経験にカーラは目を白黒とさせながらも、与えられた快楽を逃すまいと全力で貪っていた。
「ひうぅ、はっ、はぁ……んれ、んえぇええぇぇっ……♡」
呆とした意識の中で絶頂の余韻に浸っていたカーラは、舌を解放されたものの口内に収める余裕もない。
それどころか顎まで互いの涎で汚したことに気にも留めず、もっともっとと強請るように舌を伸ばした。
「こ、虎太郎、も、もっと、キスゥ……♡」
「はは、悪い悪い。でも、これ以上はカーラが壊れちまうよ。キスだけじゃ満足できないからな。でも、素直で可愛かったぞ」
「あ、うぅ、は、恥ずかしいわ。あんな、はしたない真似、してしまうなんて……♡」
「でも、良かったろ?」
「ええ、とても。頭も身体も蕩けて、一つになってしまったみたいで。気持ち良くて、う、嬉しくて……」
ちゅ、と頬にキスをされ、自分の痴態に照れを覚えながらも、否定はしない。
はしたないと分かっていながらも、虎太郎への欲望を抑えられず、虎太郎の欲望に応えたかった。
キス一つでこの有り様ならば、これから先はどうなってしまうのか。
正気を失ってしまうのではないかという不安はあったが、それ以上に期待の方が大きかった。
虎太郎の言葉は事実だろうという確信はあった。
子宮にはマグマのようにドロドロとした女の欲望が渦巻いており、今すぐにでも破裂してしまいそうだ。全身はガクガクと痙攣し、明らかな限界を伝えてきていた。
本来であれば、じっくりと愛撫をして身体の準備をするつもりであったが、これ以上はカーラが正気を失いかねない。
そう判断した虎太郎は、ズボンと下着を脱ぎ捨て、同じく裸体となる。
「は、ぁぁ……ごくっ……♡」
虎太郎の股間でそそり勃つ一物を目にした瞬間、カーラは甘い雌の吐息を漏らす。
これまで見てきた男のそれが、全て粗末なものに思えてしまうほど大きく、凶悪で、逞しい。正に雄の象徴であった。
カーラは剛直に釘付けとなり、牝の欲望のまま、またしても音を立てて生唾を飲み込む。
「じゃあ、挿れるぞ」
「はっ……ふっ……ふくぅうぅううぅうぅぅっっ♡」
くちゅり、と熱い肉棒が割れ目に押し当てられ、カーラは何とか乱れる呼吸を整えようとしたが、挿入の瞬間に全てが無駄な努力であったと悟る。
ぶちゅ、と本気汁を押し出しながら、奥へと進んでいく怒張の全てが分かる。まるで膣を蹂躙するために作られたような肉棒の侵入は、これまでの陵辱が児戯であったと知るには十分過ぎた。
既にキスだけで開いてしまった身体は、虎太郎の一物が自分のために誂えられたものだと錯覚するほどに、鋭敏に感じ取る。
亀頭の大きさも、雁首の高さも、鉄のような硬さも、長すぎる全長も、浮かび上がった血管ですらも。
奥へ奥へと侵入し、襞の一枚一枚を丁寧に掻き分ける剛直に、カーラの意思と身体は完全に同調して潮を噴いて歓喜を示していた。
コツン、と子宮口を叩かれるまでの間に、何度呼吸を忘れ、何度絶頂に達したか分からないほどだ。
「んっふっ♡ んふーっ♡ ふーっ♡ はっ♡ はぁーっ♡」
「我慢しないで、カーラの喘ぎ声、たっぷり聞かせてくれ」
「……おっ? おぉっ……おほっ♡ な、何っ♡ 何これっ♡ 知らない、こんなの知らないぃぃっ♡」
こつこつと一定のリズムでポルチオを刺激され、カーラは獣のような声を上げた。
小突かれる度に軽い絶頂が襲いかかり、子宮口が亀頭に吸い付き、引き伸ばされて離れる度にまたしても絶頂する。
抑えきれない牝の声が迸り、膣は剛直を締め上げて、隙間からは本気汁が漏れる。
目の前が真っ白になり、子宮から昇る快楽の電流が、頭のもっとも深い部分を掻き乱していく。
虎太郎はカーラの上に覆い被さり、豊満な胸が胸板で押し潰されて形が変わり、改造されたクリトリスは下腹部に触れていた。
「ふににぃっ♡ はっ、こ、これ、ち、乳首も、クリトリスも擦れてっ♡ き、気持ちいい、気持ちいいきもちいいっ♡」
「喜んでくれて何よりだ。ほら、カーラのおまんこも喜んでるぞ」
「ぐちゅぐちゅ、音たてさせないでぇっ♡ うぅ、は、恥ずかしくて、もっと、気持ち良く、なっちゃうぅっ♡」
「カーラはマゾっ気があるなぁ。なら、もっと気持ち良くなってくれ」
「はっ、はひっ、いぃぃっ♡ はぁあっ♡ アうっ、ひィい、イクっ、またイクっ、ううぅうぅうぅっ♡ 波、引いてくれないぃいぃいいぃっ♡」
度重なる絶頂の波に、カーラは悲鳴のような嬌声を溢す。
しかし、それは明らかな悦びで濡れている。自分が喘ぐ度に、絶頂から膣をきつく締め上げる度に、中で脈動する肉棒が喜んでいたからだ。
カーラは知らず知らずの内に虎太郎の背中に腕を回し、腰には脚が絡みついていた。
「ははっ、気に入ってくれたみたいだな。脚まで絡めてくるなんて」
「こ、これはぁっ、ふヒィィっ、身体がぁ、勝手にぃっ♡」
「それだけカーラのおまんこが悦んでくれている、ってことだろ。嬉しいよ」
「わ、私も、虎太郎のおちんぽがっ、喜んでくれて、嬉ひぃっ♡ はぁっ、んおっ、おほぉっ、た、堪らないのぉ♡ ふひぇぇえぇえぇっっ♡」
虎太郎に合わせ、カーラもまた女王とは思えない下品な言葉を口にする。
抽送されても、身体に抱きついても、乳首とクリトリスが擦れても、下品な言葉を口にしても、何をしていても絶頂に達してしまう。
「うヒィっ♡ 凄いっ、すごいすごいぃっ♡ ほんもの、ほんものセックス、凄すぎるぅっ♡」
「ふふ、それは何より、でも大丈夫か、カーラの此処、ヒクヒクしちゃってるぞ?」
「ひぃっ、ら、らめぇっ♡ こつこつ、もう止めてっ♡ き、気持ち良すぎて、ダメなのぉぅっ♡ でる、でるでるっ♡ でちゃうぅぅうううぅううぅぅっ♡」
ヒクつく尿道口を指摘され、カーラは湧き上がっていたはずの感覚にようやく気付き、静止を懇願する。
しかし、虎太郎はカーラの懇願になど耳を貸さず、優しいままの腰使いで速さだけを増し、執拗にポルチオを責め続けた。
度重なる絶頂に緩みきった尿道は、容易く決壊する。
「んっへぇえぇっ♡ お、おしっこ、漏れてるぅっ♡ うへぁっ♡ ひぃ、ふぇぇええぇえっ♡」
「気持ちいいだろ? お漏らしするのも、見られるのも」
「ら、らめぇっ、こんなのらめよぉっ♡ う、うひぃっ、と、止まらないっ、おしっこ止まらな、ひぃっ♡ こ、こんなの、癖になるぅっ、うっへぁっ、はへぇっ♡」
「じゃあ、アクメしているところに、
「あぁっ、ああっ、い、今、射精されたら、あぁぁっ、イってるっ♡ 今、イってるのに――――ほひぇえええええぇぇぇっ♡♡」
最後の一撃は、虎太郎のものではなく、カーラ自らが招いたものだった。
黄金水を吐き出し、虎太郎の下腹部に引っ掛けながらも、カーラの絡みついた両脚は腰を前へと引き寄せる。
ゴツン、とすっかり開いた子宮口に亀頭がすっぱりと嵌まる。
その瞬間、虎太郎の我慢が限界を迎えたのか、濃厚極まる白濁液が噴き出さした。
「はっへぇぇぇっ♡ で、射精でるぅっ♡ し、子宮に直に出てるぅううぅぅうッ♡ たまりゃないっ♡ こんなのイクしかないぃいいぃいぃッ♡」
「そんなこと言って、カーラも腰を振ってアクメを貪ってるぞ?」
「とめられるわけなひぃぃっ♡ とめられるわけ、ひぐぅううぅううぅううぅぅっ♡ ま、まだ射精るのぉっ♡ ひぃいいぃいいぃぃぃいいっ♡」
「あ、あちゅいっ、熱いっ♡ 虎太郎のザーメン、熱いぃぃいっ♡ と、蕩けてるっ、子宮、蕩けてるのぉっ♡ イク、子宮蕩けて、まらイクぅっ♡」
「あっ、あっあっあっ♡ おしっこも、アクメもとまらないっ♡ 乳首もイク、クリも、子宮もぉっ♡ あ、はぁっ♡ イッってるのに、イク、イッちゃうっ♡」
もっと奥へと求めるように、カーラは絡めた脚に力を込めながら、同時に腰をくねらせる。
よりよく絶頂に達するために、そしてよりよく射精を促す牝の仕草であった。
もう彼女の顔に女王らしさはない、一人の女として、一人の牝として幸せを噛み締めている表情しか刻まれていない。
口唇をふやけさせ、だらしなく舌を出し、涙や涎、鼻水まで垂らして、目尻を垂れ下げた蕩けた表情だ。
「はひっ、ふへぇっ、ひぅっ、あっへえぇええぇえぇぇぇええぇえぇぇえぇえぇぇえぇっ♡」
びゅぐ、と一際激しい吐精に、カーラは身体を逸らしながらも、密着した身体を離すことなく深い深い絶頂へと達した。
度重なる絶頂と多幸感から、カーラの身体からようやく力が抜け、手足が虎太郎の身体から離れ、ベットへと投げ出される。
虎太郎は、恥じらいながらも余すことなく痴態を見せてくれたカーラの頬にキスをする。
すると、カーラも茫洋とした意識の中でそれを感じ取ったのか、嬉しげに膣をきゅっきゅと締め上げ、亀頭を飲み込んだ子宮口で吸い付いてきた。立派な牝の仕草だ。
「ん、んひっ……はっ……はぁっ……ひゅ……ひゅーっ……はぁあぁっ……♡」
ぐったりとしたカーラの身体から剛直を引き抜くと、その感覚だけでまた絶頂に達したのか、ぴゅっと潮を噴いた。
カーラは動く気力すらないらしく、だらしなく開いた股を閉じもしない。
潰れた蛙のような格好で、秘裂からは収まり切らない精液が、ごぽっ、ごぷぅっ、と泡と共に垂れている。
暫くの間、虎太郎は怒張とカーラの秘唇を繋げる精液の糸も切らず、労うように下腹部を撫でる。
それは、カーラが荒い呼吸と腰を中心に痙攣を繰り返しながら、やがて呼吸を整え、絶頂の余り瞳から失っていた光を取り戻すまで続いた。
「はっ、はぁ……ひ、酷いわ。女を、こんなに……は、恥ずかしかったん、だからぁ……」
「はは、悪い。でも、カーラも気持ちよかっただろう?」
「そ、それは、そうだけれど……んもぅっ……!」
全身のだるさに身を任せながら、恥ずかしいと口にしながらもカーラは秘部を隠そうとはしない。
それどころか、未だ衰えることのない剛直と虎太郎の表情を交互に眺めながら、くぃっ、くぃっ、と腰を振っている有り様だ。
身体も心も、彼女の女全てが虎太郎を求めている。言葉にしなかったのは、最後に残った羞恥心からだ。
「精液は多ければ多いほどいい。続き、しようか」
「しちゃいま、しょうか……んくっ♡ もっと、本物セックス、たっぷり、ねっとり、みっちり、私に、教えてちょうだい……♡」
もう何度目か分からない、期待による生唾の嚥下。
二人の身体が密着し、ベッドの軋みと粘着質な水音、そしてカーラの牝声が響き渡るにはそう時間はかからなかった。
―――――
――――
―――
――
―
「ん……はぁっ……」
様々な体液でべたつく全身をシャワーで洗い流しながら、カーラは一心地ついていた。
結局、昨日の晩から今日の昼まで、虎太郎と交わり続けた。
グラムの陵辱によって傷ついた女としての自信と誇りを癒そうとしていたのか。それとも、目覚めた女が虎太郎を求めていたのか、カーラにも判然としない。
獣のように激しく突かれることもあれば、寝そべった虎太郎の上に跨って腰も振れば、自分の愛液や小便、虎太郎の精液の味を覚えながら嬉々として男性器を咥え込んだ。
冷静になってみれば、頭を抱えたくなるような痴態であったが、虎太郎の気持ちよさそうに頬を緩め、快楽に堪える顔を思い出せば、恥じらいよりも甲斐はあったと悦びが勝っていた。
最後には気を失い、今や時間帯はとっぷりと日が暮れている。
ほぼ丸々一日、仕事を投げ出してしまったが、それでも東もマリカも姿を表さなかったのは、気を使ってのことだろう。明日の仕事量が増えてしまったが、自分と虎太郎ならば問題なく片付けられる量だ。
「んっ……んっ、ふっ……はあっ……♡」
シャワーを浴びながらカーラは股を広げ、秘裂へと指を差し入れ、膣と子宮に溜まった精液を掻き出していく。
指ではすっかり物足りなくなってしまった刺激であったが、それでも快感は快感だ。摘めるほどに濃い精液はまだまだ中にいたいと抵抗するかのようで、思わず喘いでしまう。
折角、射精してくれたのに、という切なさと申し訳無さを感じながらも、それ以上に射精しすぎよ、という感想の方が勝る。
指の動きに合わせ、溢れた精液はシャワーの湯に混じって太腿を伝い、膝を越え、足首に絡みついて、やがて排水口へと消えていった。
「ふっ、うぅ……もう、虎太郎ったら、こんなにいっぱい射精すんだから…………、虎太郎?」
既に湯船へと浸かっている虎太郎に不満混じりの言葉を掛けたが、何の返事もないことを不審に思ったカーラは背後を振り返る。
見れば、虎太郎は頭を支えることすら辛いと言わんばかりに、ぐったりと全身から力を抜いていた。
無理もない。この一週間、自身のケアに付きっ切りの寝ずの番に加え、昨日からは交わりっぱなし。カーラの知る中でも、此処まで体力の続く人間は他に知らない。
だが、それ以上に顔色が可笑しかった。
瑞々しさなど欠片のない土の色。眼窩は落ち窪み、頬は痩けている。ただの疲れでは、こうはいかない。
「こ、虎太郎! 虎太郎っ!」
「大丈夫だ。問題は――――あるが、死ぬレベルじゃない」
「あぁ、そんな。ごめんなさい、私に付き合わせたから。私達と人の違いは、分かっていた筈なのに! すぐに、出て……!」
「違う。落ち着いてくれ。これは、そうじゃない…………ああ、もう、面倒だな。こっちに来い」
「ちょ、きゃぁあぁ――――!!」
異変に気付いたカーラは、すぐさま湯船の虎太郎へと駆け寄って声をかけるが、返ってきた声にはやはり力がない。生気というものが丸事抜け落ちているかのようだ。
吸血鬼と人の種族差。
そんな初歩的なことに思い至らないほど追い詰められた状態だったとは言え、彼の負担を考えもしなかった自らの馬鹿さ加減に歯噛みして、カーラは虎太郎を立ち上がらせよう腕を掴んだ。
だが、虎太郎は蒼褪めたカーラの腕を逆に掴み、湯船の中へと引き入れる。
体積と勢いによって大量の湯が跳ね上がり、流れ出す。カーラが驚きから立ち直ってみれば、湯船の中で向かい合い、虎太郎にすっぽりと抱き竦められていた。
「虎太郎、こんな事してる場合じゃ……!」
「いいから、黙ってよく聞け。これは、お前の問題でもあるんだよ」
「ちょっと、待って。それはどういう……?」
「オレがこうなった理由は、二つある。一つはマリカに行ってる対症療法だ。気功の一種なんだが、オレは元々、気だの対魔粒子だのキャパシティは人よりも少なくてな、体力の消耗が激しい」
「そんなことまでして、貴方は……!」
一体、如何なる技術なのかは彼女には判然としなかったが、虎太郎の消耗振りを見れば、命の危険を伴う行為であることは理解できる。
何一つ気づかないまま虎太郎に甘えてしまった自分を責め、何よりも虎太郎の身を案じ、真っ当な怒りから目に涙を貯めていた。
虎太郎は彼女の怒りも当然と言い訳もせずに受け入れ、頬に手を伸ばし、今にも溢れてしまいそうな涙を親指で拭う。
助けを求める者に手を伸ばすならば、まずは自分の安全を確保しなければ話にならない。手を差し伸べた挙句に奈落に堕ちるなど、誰も笑ってくれはしないのだ。
「重要なのはもう一つだ。カーラ、お前はエナジードレインを行ってるようなんだよ」
その言葉に、カーラは瞳が零れそうな程に瞼を開き、愕然とした。
エナジードレインは他者の生命力を吸収する能力、或いは生態の総称だ。
そして、この能力を使う者は、カーラの知る限りただ一人――――吸血鬼の始祖、
一部の研究者の見解では、吸血鬼の吸血行為は、ブラックのエナジードレインの代替、或いは劣化ではないか、と考えられている。
事実、魔術師の間では“血液”は命の通貨と呼ばれるほど、生命力や魂に直結した代物と伝わっており、吸血鬼によって完全に吸血された死体は、通常では考えられない乾燥、風化が見られる。
虎太郎は、ブラックが直接、血を分けた存在を、二人だけだが知っている。
異種族の子を孕む能力を持ち得た女が、ブラックの精によってこの世に産み落とした二人だ。彼女等もまたブラック同様にエナジードレインを行使する場面を、虎太郎は目撃している。
人界の吸血鬼の王族であるカーラは、ブラックの血を色濃く受け継いでいるとも言える。この稀有な能力に目覚めたとしても不思議ではない。
「でも、どうして急に。私は、今までそんな……」
「資質は十分にあったんだろう。だが、鍵を抉じ開けたのは、オレだな」
考えられる切っ掛けは、カーラの吸血だ。
虎太郎の身体から完全に血を吸う行為、吸血による本来の力の覚醒によって、眠っていた資質が目を覚ましたと考えるのが妥当だった。
「だ、だったら、こうして触れ合っていることだって危ないわ!」
「だから、落ち着けって。オレはそういうのに精通してる。性技――というより、房中術か。そういうのは生命力と密接な関係にあるからな。吸い取られてるかどうかなんて、よく分かる。今は大丈夫だよ。吸われてたのは、お前を抱いてる間」
「それこそ、なんで止めないのよ! どうして教えてくれなかったの!?」
「いやぁ、カーラが悦んでるのが嬉しくって可愛くって、つい」
「貴方、真性の女好きね! 私以上の本物の馬鹿よ!」
信じられない返答に、カーラの怒りは爆発した。
確かに、自分も悦んではいた。それこそ、虎太郎の変化に気づかないほどに、没頭し、求めてしまった。だが、それはエナジードレインなど行っていないことが前提で、分かっていたのなら虎太郎が死にかけるような行為は決してしない。
そうまで思ってくれていたのは単純に嬉しい。自分の女としての価値を認められたも同然なのだから。それにしたところで、自分の命を危険に晒してまですることではなかった。
激情のままに張り手の一つもくれてやりたかったが、相手は重傷者、万が一にも手を挙げられない。
かと言って、そのまま浴室に虎太郎を置き去りにして出ていく訳には行かない。湯船で気を失って、そのまま溺死なんて事態も有り得るからだ。
やり場のない感情と虎太郎への情と心配の板挟みとなったカーラは、虎太郎の腕を振り解くと、湯船の反対にまで離れ、膝を抱えるくらいのことしか出来なかった。
「おい、怒らないでくれよ。確かに、何も言わなかったのは謝るけどよ」
「私にとって、恩人であることを忘れないで。私は、自覚もなしに恩人を殺してしまうような存在になるつもりはないわ。…………ちょっと、近寄らないで。触らないでちょうだい! もぉぉっ!」
「だから、大丈夫だって言ってるだろ?」
自己嫌悪と情けなさから距離を取ったカーラであるが、虎太郎は遠慮もなしに彼女を抱き寄せる。
過度な抵抗は相手を傷つけると分かっている彼女は、大した抵抗もできないまま、むっつりと頬を膨らませてされるがままだ。
それでもカーラは冷静な部分の思考を使って、自己の能力を分析していた。
エナジードレインを行ったのは、無意識の状態であった。吸血という行為は吸血鬼にとって、本来は親愛を意味している。
それも当然。彼女達にとって吸血は食事であると同時に、同胞を増やす行為でもあるからだ。ならば、エナジードレインが発露してしまったのも、また同じような心境が鍵である可能性は高い。
「目覚めさせたのは、オレの責任だ。きっちり使い熟せるように手伝うさ。安心してくれ。それに、お前も周囲の連中を干乾びさせて殺すなんて真っ平だろう?」
「その過程で、自分が死んだとしても?」
「責任ってのはそういうものだ。まあ、それに腹上死ってのも、悪くない。クソッタレと笑いながら野垂れ死にするよりかは、マシな最後だとは思わないか?」
本気でそう考えているのだろう。
虎太郎の顔に気負いもなければ、恐怖もない。
いっそ清々しいまでの女好きに、カーラは呆れ返って言葉もなかった。
「…………もぅ。私の負けよ。この力を使い熟せるまで、貴方を頼り、身を委ねます」
「妥当な判断だ、嫌いじゃない」
「でも、忘れないで。私は、貴方を死なせないわ。何があっても、絶対に、ね」
今までの根負けした雰囲気は何処に行ったのか。
虎太郎の両頬を掴み、爛々と輝く赤い眼光で虎太郎を貫く。これには、さしもの虎太郎も背筋が震える。
虎太郎が死をも覚悟しているように、カーラもまた覚悟を決めていた。
もしエナジードレインを完璧な形で手中に収める過程で、罷り間違って虎太郎が死ねば、カーラはあらゆる手段を用いて虎太郎を生かすだろう。
その為ならば、女王としての地位も捨てる。その為ならば、先王が定め、自らも同意した掟を破る禁忌さえも辞さない。その為ならば、虎太郎を眷属の吸血鬼とする。
そして、殺してしまった責任を取るために、永遠に等しい生を共に歩むのだ。
「……嬉しいね。其処までオレに価値を見出してくれるとは」
「当然よ。貴方は恩人。恩の一つも返せないままでは王など務まりません」
「それもそうだな。じゃあ、早速」
「ちょっと、んんっ、ダメよ、んむっ、人の話を、ちゅ、聞いてたのぉ……?」
「人を止めて長生きなんて御免だが、どの道、除去手術が終わるまでカーラを抱くんだ。なるべく早く気兼ねをなくしておかないとな♪」
「ちゅ、れる、も、もうっ、死んでも知らないんらからぁ♡ れろろっ、吸血鬼に、ちゅちゅ、しちゃうん、れひゅからねぇ……♡」
湯船の中でカーラを押し倒した虎太郎は、その口唇を容赦なく奪っていく。
僅かな抵抗を見せたカーラであったが、キスの悦びには抗えず、次第に口を開き、舌を絡め、手足を虎太郎の身体へと巻き付けていく。
以後、浴室には常に虎太郎を気遣うカーラの声と甘い牝声だけが響き渡った。