かなりの間が開いてしまいましたが2話目投稿です……
・2016/07/25
誤字修正しました
(あれは……何!?)
ポニーテールを靡かせ、東京の夜を駆ける黒い対魔装束を纏った女性――ふうま 時子は混乱していた。
お館様と共に「対魔忍の里」と呼ばれる関東圏に存在する五車町に潜伏すること数年。いずれ独立し五車町を脱出した後、拠点の一つとなるであろう東京キングダムの情勢を探るべく情報収集をしたその帰り。いつも通り千里眼で視覚を飛ばし、人の視線が存在しない場所を選び、ビル群を駆けていた時である。
ビルの合間を跳躍し、一つの小さなビルの屋上に着地した瞬間。
突如、東京キングダム全土を覆い尽くさんとばかりに放出された濃密な魔力の濁流が時子を襲った。
無秩序に放出された暴力的なまでの魔力の波に足を浚われた時子は、身体が塩の柱と化したように動かなくなり、呼吸が苦しくなる。酸素を求めて繰り返される荒い呼吸は空気中に白い霧を作った。夜で気温が低いとはいえ、突然極寒の大地に立たされたように冷やされた身体が震え始める。震え始めた身体は本人の意思とは関係なく震え続け、魔力の波が去った後でさえ収まる気配はない。
時子はいつまでも震えて動かないであろう身体を無理矢理動かすため、身体の奥に留めておいた気を身体に拡散させる。喝を入れるように身体全身を奔り拡散した気は身体の震えを止め、何が起きても即座に対応できる万全の状態へと身体を温めた。
身体が動き、異常がないことを確認した時子はこの濃密な魔力が放出された方角を見た。目視では高く聳えるビル群以外、視界に映らないその先を
東京キングダムの中でも一段と高く聳えるビルのその屋上。
ビル群を駆け抜ける風に舞う銀髪は神聖な気配を纏い、視界に焼き付くほどの玲瓏を誇る。しかし禍々しい程の紫色に染まった毛先が、美しい銀髪を神聖さと禍々しさが共存する混沌へと変えていた。また、こちらを見据えているであろう鮮血を思わせる紅の瞳は宝石であるルビーが霞むほどに美しい。そして、紅の瞳が飾る中性的な顔は端整な作りで女性男性問わず魅了するには十分すぎるほどであった。
全ての生き物を無差別に無遠慮に魅了していくであろうその存在は黒い外套に身を包み、ビルの屋上に静かに佇んでいた。
同時に時子は呼吸すら忘れて見入ってしまっていた。
一瞬だろうか、それとも数秒、あるいは数分。
流れる時間すら忘れさせて、ただの月夜を存在するだけで絶景へと変えたその存在に見入ってしまっていたのだ。
最上級の魅了に匹敵するであろうその瞳を持つ存在を、永遠に見続けていたかもしれない時子を魅了から解き放ったのは風であった。
ビル群を抜けてきたヒヤリとした風に頬を撫でられ我に返った時子は、すぐさま目を開けるとその存在の視界から消えるべくビルの屋上から飛び降りた。
これだけ遠くから見てあれほど意識を奪われたのである。
これ以上近くで、魔力に魅了の類を乗せられてしまえばそれこそ永遠に、命を引き換えとしてその魅了に心を奪われるのであろう。
遠くから見ていたが故に簡単に意識を取り戻せたが直接この目で、あの存在が視認できる状況で見てしまえば命取りである。
人の視界があるかどうかなど確認するなどは頭の片隅にも存在しない。
こちらを見据えていたあの存在の視界から消え、一刻も早く主の元へあの存在を知らせることが優先された為であった。
全速力で持てる手段をフル活用した時子に追い付ける人は存在はいない。
時子は主の待つ対魔忍の里へ脇目も振らず駆け抜けていった。
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対魔忍の里、五車町のはずれの小さな屋敷。
ふうま時子の主、彼女がお館様と呼ぶ者はそこにいた。
「お館様、時子です。至急お伝えしたいことがあり、帰還致しました」
後を付けている者がいないか何度目かの確認をした後、薄暗い廊下を駆け抜け、お館様がいる部屋の前に着いた時子は主を呼んだ。
「時子か?わかった、入れ」
襖の奥から聞こえてくる主の声を確認した後、襖を開け時子は中へ入っていった。
「わかった。今日はもう休んでいてくれ」
普段息を切らせて部屋に入ってくることのない時子が息を切らせている状況から彼女の疲労の度合いを察し、休息を取らせるために下がらせた。
全速力で駆け抜け帰って来てくれたであろう時子が去った後、少しの間彼女が占めた襖を見る。
時子がその場に残っていないことを気配で確認すると、机に向き直ると俺は時子が持ち帰った情報を整理し始めた。
「東京キングダムは相変わらずノマドが掌握していると見て間違いないな。そして新しく入った中華系の龍門か……」
東京キングダムの勢力図はノマドの存在故、簡単には変わらないだろうと予測はしている。
今日、時子が持ち帰った情報に入っていた外套を着た存在が無ければ。
「そして……今考えるべきは外套を着た存在か……っ!?」
時子が持ち帰った外套を着た存在。
その者について考えようとした瞬間、俺は死んだ。
いや、自分が死んだことを連想し、今生きながらに今死んだと思ってしまったと言うのが正しいだろう。
即座に武装し振り返ると今まで俺の部屋であった空間は、半分以上が視認できるほどの黒い魔力の塊に埋め尽くされていた。
部屋を埋め尽くした明確に死を意識させるほどの魔力が、部屋の中心に集まり黒い人型を成していく。
黒い人型を成した魔力に滴が滴ったかのように波紋が広がると色が付き、正しく、時子が見たであろう外套の存在が姿を現した。
「ふむ、貴様があの者の主と見るが……相違ないな?」
そして、紅の瞳で俺を射ぬくように見据えると、無遠慮に質問を投げてくる。
紅の瞳、外套、そして銀髪の青年。
先ほどの時子の報告が正しければまさに今、目の前にいるものがそうなのだろう。
「あの者……とは誰のことだ?」
質問に質問で返し、時間を稼ぐ。
絶対強者であるが故の余裕から生まれる独特の雰囲気。
これを俺は何度も見たことがあった。
忍びという生まれである以上、強者が持つ雰囲気など見慣れている。
その強者相手に生き延び、時にはその生命に迫り息の根を止めたことでさえ既に慣れたことなのだ。
しかし、目の前のそれは俺の経験の中の強者など遠く及ばない。
いや、比べることすら痴がましいレベルの強者を超えたナニカだ。
かのエドヴィン・ブラックに迫る、いやそれ以上の超越者なのかもしれぬ者が目の前にいるのだ。
下手に腹の探り合いに持ち込めば即座に俺は消されるだろう。
そして相手の言う
時子だ。
時子はこいつと目があったと言っていた。そして即座に帰還してきたと。時子の全力に追いつき、追っていることを完全に悟らせないことなど造作も無いことだろう。
問題はここからだ。
こいつは時子が俺の従者であることを確信し、その上で聞いてきている。
そして、この話は俺が主であることに意味があるものだ。
時子がフリーであれば既に時子はこの場に帰れてはいないだろう。
「貴様はそれを認めるだけでいい。でなければ判断する機会が消えるだけだ」
「判断……?」
「ああ、判断する材料がなければ貴様は活かしておく価値が有る者かわからないだろう?」
嫌な予想が当たってしまった。
判断する機会がなくなるのは俺が死ぬからだ。
いつだって強者は理不尽を突きつけてくる。
相手は同じ席についているはずでありながら何も賭けない。
ただ俺は命を賭けること以外の選択肢がなく、生きることが報酬となる。
「ああ、俺が時子の主だ」
俺は認めざる負えない。
誰にだってわかる命を賭けた選択肢だ。
相手が答えを明示しているのだから選ばない理由はないだろう。
そして俺の命を賭けた
「素直でよろしい。では貴様の素性を話してもらおうか。人となりを知らねばあの者が使えるに相応しい者かわからぬのでな」
「巫山戯ているのか?」
「巫山戯てないどいないさ。人の世で言う面接とやらだ。相手と問答し判断する。判断する基準にするのは相手の答えだが良い文化ではないか」
巫山戯ているとしか思えない。命を賭けた面接が何処にある。そんな企業があるなら受けた奴が間違っているだろう。そんな自殺志願者になったつもりはない。しかし、俺はその巫山戯た面接を受けねばならない。
これには時子の命運もかかっているのだから。
「俺の名はふうま―――――――」
どれほど時間が経ったであろう。
今のところの回答は相手を満足させることができている内容だと判断して良いのだろうか。今のところ命が奪われるようなことも、何一つ被害はない。傍目から見れば問答をしているだけのシュールな光景として映るだけなのだろうが、こんな命を賭けるような巫山戯た面接があるというのならば二度とゴメンである。
「ほう、何れ貴様は外で勢力を作ると。もし、障害が現れた場合はどうする?」
「潰す。相手が余程規模が違う組織でなければ潰すだけだ」
「ふむ、では貴様の言う余程規模が違う組織にあの者、時子が囚われた時はどうする?」
「そんなもの決まっている。時子を取り返すためにはなんだってするさ」
唐突に時子が話に混ぜられるが俺の回答は変わらない。時子は俺の右腕だ。俺が生まれた時から今までずっと俺の隣で生きてきた半身だ。その半身が奪われたのならば俺は俺を守るために、完成させるために半身を取り返す。たとえそれがどれだけ無謀と呼ばれる戦いとなろうとも、どれだけ超常の存在と相対する結果となってもだ。
「米連程度ではどうする?」
「米連だろうとなんだろうと変わらない」
「その組織がノマド、そして対することになるのがエドウィン・ブラックになったとしてもか?」
その者の名前が出て俺は息を呑む。
エドウィン・ブラック。
その名は聞く者が誰も関係なくその身を震わせる超常の名。
ノマドの王にして吸血鬼の始祖。
不死の王。
世界最強とさえ謳われる古の吸血鬼。
東京キングダムに住まう魔の住人でさえ恐れ、近づこうとしない。
近づけばそれは命を捨てることと同義であるとまで言われた存在。
しかし。
「ああ、変わらない。エドウィン・ブラックだろうと、俺は変わらない」
俺にとっては時子を奪った相手が誰だろうと些細な事だ。
最後に時子を奪い返せばそれは俺の勝利なのだから。
「ふむ。ブラック相手でそう言い切るか」
そう言ったこいつの口元が緩む。
「なれば貴様が死ぬまでは任せていても良さそうだ。あの者をみすみす逃すことなどあってはならぬぞ?」
「当たり前だ」
そう言い放った俺に満足したのか目の前の存在は一瞬で闇に掻き消えた。
そして闇が霧散していく。
「此度の面接とやらの褒美だ。少しは貴様に利をやろう」
同時に何処からともなく奴の声が響き、屋敷の外に奴がいることが強大な気配が出現したことでわかった。
「利だと?」
屋敷の門のところまで出てくると武装した時子と出会う。
先ほどの気配を察知し出てきたというところだろう。
そして、俺が門の外で見たものは遺体だった。
この者は探知能力に長け、屋敷全域を覆うほどの索敵能力を持つ忍びだったはずだ。
それが死んでいる。
いや、
この者の存在は確かに厄介で俺達の準備の枷となっていたのは事実である。
抵抗した形跡もないことから一瞬で、何年も風雨に晒されたような白骨死体へと変えられたのだろう。
「お館様……これは……」
「大丈夫だ。」
「ですが!」
「この白骨死体を作った奴はもうここにはいない。奴は帰った」
「奴……ですか?」
「先程まで話していた奴だ。これが褒美だとでも言わんばかりに殺していったのだろう」
「それは……」
「大丈夫だ。何もなかった」
時子は俺のことを把握しているが故に物分りが良い。
いや、良すぎるきらいがある。
大方外套の存在に己が後をつけられていたことを把握し、俺の元まで招き入れてしまったと思っているだろう。
従者としてはあってはならぬ失態だと、俯き唇を噛み締めた時子がいた。
「何をしている。これからが忙しいぞ」
「お館様」
「こいつが死んだことで俺たちは暫くの間準備を大きく進めることができる」
そうだ。
これほどの者は簡単には替えが効かない。
探知能力に限れば確かにいるだろう。
しかし、俺た2人相手に時間稼ぎができるほどに戦闘をこなせ、俺達が妙な動きを見せた際に咄嗟に正確な判断を下せるものとなれば話は別である。
そして、前任者が抵抗という抵抗すらできずに一瞬で白骨死体にされたとなれば更にそのハードルは上がる。
次は監視の者は増えるかもしれないがそんなことは些細な事である。
監視の者がおらず、悟られることがない今、どれだけ俺達の準備が進められるかどうかが重要な事なのだから。
「ここからは時間との勝負だ」
「はい!」
時子と俺はすぐさま準備を進め始めた。
と同時に屋敷の監視の者が死んだことについての対応を話し始める。
知らぬ存ぜぬでは意味が無い。
この者が死んだことを最大限利用すればするほど俺達の時間は増えるのだから。
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ふうまの主従が独立のための準備を大きく進めているその頃。
政府によって設立された対魔忍養成学校 五車学園には、その場にいる誰もが耳を疑うような緊急の連絡が届いていた。
1人の対魔忍の任務中の行方不明。
それは対魔忍の上層部の中で箝口令が敷かれ、極秘裏に捜索が進められることとなる。
その緊急の連絡の内容は、
――対魔忍不知火、未帰還
――捜索するも行方不明
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