当小説のお気に入りが突然増えに増えてびくびくしている作者です。
今回は普通の対魔忍お約束回でございます。
『――以上が今回の任務の内容となります。任務資料は追ってそちらに送りますが、何か質問事項はありますか?』
「いいえ、特にはありません」
通信機から発せられる女性の声が暗い教室に響く。
暗い教室に佇む長い金髪をツーサイドアップにした女性。
その足元には先ほどまで夜の学園に潜んでいた大きな魔物が息絶えていた。
月に照らされるバラバラになった魔物の亡骸は女性の倍は優に超えるほど大きい。
大きさだけでなく筋肉の塊とも言えるその巨体の腕には、特殊合金でできた拘束具だったものが無残にもぶら下がっていた。
米連の試作段階とはいえ、最新技術を用いられた拘束具を純粋な力のみで引きちぎることが可能なことから魔物の膂力の異常さが窺える。
そんな到底人では対処すら不可能な膂力を持った学園に迷い込んだ魔物の討伐が、偶然にもその学園に通っていた女性に与えられた任務であった。
その任務達成の報告を終えたばかりだというのに無線から聞こえてくるのは次の任務の内容。
学園を卒業するまであと数ヶ月もなく、女性としては一人の学生として残り少ない学園生活を謳歌したいところである。
そんな女性の内心を無視してやってくる任務の連続に、任務の内容を伝えてくる機能を優先した無骨な通信機を持つ手に自然と力が籠められた。
『あなたがそちらを卒業し、こちらに戻るまで時間もあまりありません。ですからなるべく急ぎ、何より安全に任務を達成してください』
「わかっています。先生を心配させたりはしません」
通信機から響く優しい声の主がこちらを大事に思っていてくれていることを感じ、聞いていて安心できるがそれはまた別の話。
立て続けに任務をこなしているために少しくらいはイライラしてしまう。
『これがそちらでの最後の任務になります。大切な残りの学園生活の時間を奪ってしまい申し訳ありません。あなたの成長した姿を見られる日を楽しみにしていますよ』
「ありがとうございます」
次で最後。
その言葉を聞いたのは1週間ぐらい前だっただろうか。
『それでは――』
――ブツッ
「はぁ~~」
無線が途切れる音が教室に響くと共に、大きな溜め息が女性の口から漏れる。
「魔物が迷い込んだと思えば、次は教会のシスターの失踪?この学園はなんでそう事件が多いのかしら?」
女性が来てから、いや女性が来る前からこの学園は何かと裏の世界が関わる事件が多かった。
闇の住人の支配地域が近いせいか逃げ出した魔物が紛れ込むなども少なくない。
時には学園の学生や関係者が失踪したこともあった。
米連の管理している学校施設の中でも比較的新しい設備が優先的に取り入れられているこの学園だが、闇の世界の住人に脅かされるのは米連としても面白くないのだろう。
こうして在学している彼女に任務としてお呼びがかかったのであった。
「この学園にいるのも後少しだから、さっさと片付けて残りの短い学園生活を謳歌するとしましょうか」
今回の任務も彼女からしてみれば特に危険なものではなかった。
魔物の亡骸の回収と破損した教室の修繕は米連が行う手はずになっている。
むしろ米連の最新技術が用いられた拘束具を身に着けている以上、今回の原因は闇の住人ではなく米連側にあるのであろう。
技術流出や魔物のことを調べられる危険性を取り払いたいが、自分たちで処理するのは避けたいジレンマの中で米連側が妥協した結果であった。
魔物を切り刻んだ時に返り血が飛んでしまったマゼンタの対魔忍スーツと、バラバラに切り刻まれた魔物を一瞥すると女性は教室から音を立てずその姿を消した。
「失踪したシスターの名前はクリスティア・ローベル。数年前に学園の敷地内にある教会に赴任してきたシスターで、数日前の夜に失踪――」
窓辺の椅子に腰かけ、朝の暖かな陽射しをその身に浴びながら手元の資料を眺める女性の名前は
入浴後の火照る身体をバスローブに包み、水分を多分に含んだ長い金髪は背を預ける椅子の背もたれを濡らしていた。
図らずも男性を誘惑してしまうほどに肉感的な乳房とお尻は赤みを上気し、厚手のバスローブの上からでもその存在感を発している。
異性であろうとなかろうと今の彼女を見てしまえば喉を鳴らすことは間違いない。
「また面倒な任務ね。っと、そろそろ時間だし、行きましょうか」
朝方に届いた今回の任務の資料を眺めていた静流は資料を机の上に投げ出すと眼鏡をかけ直す。
椅子から立ち上がると身体を包むバスローブを乱雑に脱ぎ捨てるとグラマーなスタイルを惜しげもなく晒し、静流は裸で部屋を歩き回り始める。
床が乳房や手足から滴る水滴で濡れてもお構いなしであった。
手早く髪を乾かしツーサイドアップに結い上げると、脱ぎ散らかされたショーツやブラを手に取り身に着ける。
そして今度は制服を探している。
これが彼女の登校前のいつもの光景であった。
学園では品行方正、文武両道。
否が応でも人の視線をその身に一身に集め、生徒から尊敬され、教師からはそうあれかしと全幅の信頼を置かれている優等生の面影など存在していなかった。
静流は今の自分がどう見られているかなど気にしていない。
今の彼女に問えば彼女はこう答えるであろう。
「自分の部屋なのだから見られていなければ、何をしててもいいじゃない」と。
静流は6ヶ国の多言語話者であり、2つの博士号取得者であるなどの高度な特技と深い知識を持っている。
このため様々な人物になりすますため隠密に長け、グラマーなスタイルがハニートラップの才能となっており、潜入系の危険な任務が専門の対魔忍である。
植物を操る木遁の術の使い手であり、毒性の花弁を以って嵐を発生させる技「忍法・花散る乱」や、バラから鞭を生成して得物にしたりすることから「花の静流」とも呼ばれていた。
今の彼女は米連での任務に合わせ、偽名でこの学園の学生として潜入していた。
ただ任務をこなすだけでなく、表の身分である学生としても疑われることのないよう勉学に励んでいる。
結果としておまけ感覚で2つ目の博士号を取っているほどであった。
隙など全くないような静流であるが、そこは対魔忍。
つけ入る隙はしっかりと存在していた。
それはプライドの高さ。
博士号を難なく取得し、スポーツも一流に迫る彼女であるがそれは持ち前の高いプライドが良い方向に働いた場合である。
プライドが高い故に彼女は任務の失敗を極端に嫌っていた。
自分にかかれば失敗する任務など存在しないと思っているためである。
そのため本来は撤退すべき状況において、撤退を選ばず無理に続行したために結果として状況が更に悪化した任務も少なくない。
彼女の高い評価の影に隠れがちであるために、周囲も今まで把握できていない彼女の高いプライド。
それは確かに静流の明確な弱点であった。
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学園の敷地内に存在する教会。
宗教教育の一環として建設されたその建物は、近隣の教会から赴任してきたシスターや学園の関係者によって管理されている本物の教会である。
あくまで教育的な観点から建築されており、セキュリティ上の問題からミサなどは行われていない。
かなりの予算を投じて建築された教会で、造りもしっかりとしているが日頃訪れる学生も数えられるほどに少ない。
このため学生からは半ば忘れられている存在であった。
「問題の教会って言うから来てみたけれど、何もないじゃないの」
赤日が射し、学生の数が疎らな学園全体が赤く染まった中、静流は教会を訪れていた。
彫像や祭壇が夕日によって赤く照らされ、一層の荘厳さを醸し出す。
今ここで静流が祈りを捧げていたならばそれは一枚の絵画として残るようなとても映える光景となっていただろう。
だが静流としては任務以外で教会に用などない。
さっさと任務を終わらせて最後の学園生活を楽しみたいだけであった。
「シスターが失踪したってこれじゃあ誰も気が付かないわけね」
教会の内部をぐるりと見渡しながら静流は呆れていた。
「監視カメラもセキュリティも配置されてない。シスター1人でこんなところにいれば誘拐し放題じゃないの……」
人気が微塵も感じられず、監視カメラすらない閉鎖された空間など誘拐する側にとってこれ以上ないほどの絶好の狩場。
教会と言う神聖な場所であるが故に監視カメラを設置できず、セキュリティも頻繁に訪れるわけにはないという宗教観点上仕方のない点はあった。
だが神聖なはずの教会が、裏の住人にとって都合の良い場所になっていては困るのだ。
「これに懲りて次からは監視カメラくらい最低限欲しい所ね」
教会を訪れる人の頻度や学園の端と言う立地から考えて目撃者など到底望めない現実に静流はため息を漏らす。
「あら、珍しいですね。礼拝される方でしょうか?」
「っ!?」
背後からの突然の声に静流の心臓が跳ねる。
咄嗟に苦無に伸ばしかけた手を既でのところで止めた。
対魔忍としての思考に切り替え、何処にでもいる学生のように振る舞うことを改めて意識する。
いとも容易く後ろを取られたことに驚くも、顔に少し大袈裟なくらいの驚きを貼り付け振り返った。
「きゃっ! びっくりしました! 前から気になっていまして、初めて入ってみたのですが、えーと? あなたは……っ!?」
そこにいたのは教会の修道服に身を包んだシスターであった。
首元に輝くロザリオ。
慈愛を湛えた碧眼。
ベールに映えるブロンド。
そして修道服に封じられていながらも人目を釘付けにする豊乳。
何処かで見たような既視感がある、ではなくつい最近。
それも今朝、資料に添付された写真で見た姿がそこにはあった。
「あら、挨拶がまだでしたね。私の名前はクリスティア・ローベル。この教会に最近赴任してきたシスターです」
嫋やかに礼をする彼女は失踪した本人とは思えないほどに落ち着いていた。
失踪したのは1週間前と米連の報告にはあったが、何事もなかったかのように目の前にいる彼女を見てしまうと、失踪が本当にあったことなのかすら疑わしいものであった。
「私は高坂と言います。もうすぐこの学園を卒業してしまうので、思い出を残そうかと、こうして学園の施設を回っていました」
「あら、そうでしたか。ではこの教会に来られたのは初めてですか? であればこの教会について説明をさせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「……え、ええ。教会の方から直接聞けるなんて滅多にないことなので、お願いします」
驚きを隠しつつ、咄嗟に嘘の理由を話す。
卒業間近の学生が最後の思い出づくりにこうして学園を回ることは珍しくない。
適当に彼女と会話を進めつつ、静流の頭の中はこれからどう対応したものかと悩んでいた。
静流の表の身分が学園に通うただの学生である以上、失踪したことを直接聞くことはできない。
裏の身分を明かし、確認することは簡単だが目の前の彼女が一般人ということがそれを邪魔していた。
ではどうするかとなるとそれとなくこの1週間何処にいたのかを聞き出すことだが、初めて教会を訪れたただの学生がそんなことを聞いてくれば不審に思われることは間違いない。
誰だって初対面の人間に何処にいたのか聞かれれば不信感を持つのは当たり前だろう。
「――――以上でこの教会の説明は終わりになりますが、何か聞きたいことはありましたでしょうか?」
「いいえ、丁寧に教えてくださってありがとうございます。とてもわかりやすかったです」
静流の体感では5分くらいだろうか。
随分と深く考え事をしていたようで、いつの間にか彼女の丁寧な教会の説明は終わっていた。
教会のことに詳しくない静流にもわかりやすいように、丁寧に彼女は話していたが静流にそれを聞く余裕はなかった。
計画の大幅な見直しと米連への確認などやることは山積みである。
ひとまずは彼女の周辺を洗い直し、失踪に繋がる原因の特定。
同時に教会へ通い、彼女と親しくなることでそれとなく情報を聞き出し。
そう見通しを立てた静流は致命的な見落としをしていた。
故に。
それ故に、背後から強襲する敵に気付くのが遅れた。
「――っ!」
振り向くと同時に視界に入ってくるのは鈍く光る刃。
すぐ目の前に来ているそれを拳に出現させた薔薇の鞭で弾くと静流は大きく跳ねる。
追撃の届かない離れた位置に着地した静流は鋭い眼をクリスティアへ向けた。
「危ないわね。……さて、どういうことかしら?」
「あらまぁ。反応できるとは思っていなかったのですがタイマニン、と言うものは凄いのですね」
「反応したのは良いけど。強いかどうかと言われれば、……弱い」
誰とも知らない者に弱いと評価されたことに若干の怒りを覚えつつ、襲撃者へ視線を向ける。
そこには蠢く闇を全身に纏った人型と仲良く談笑するクリスティアの姿があった。
クリスティアを睨む鋭い静流の視線などまるで気にしていないかのように、 先ほど背後から襲ってきた者の隣に立つクリスティアは静流へ先程と変わらない笑顔を向けた。
人型の闇もこちらに顔を向けているようだが静流にはそんなことなどどうでも良かった。
静流は己のミスで招いたこの現状の打開策を探していた。
闇の住人の支配地域が近い場所での人の失踪は、基本的には闇の住人が関わっていると警戒するのが常である。
そして、その失踪した本人と会う際には最大限の注意を払う。
これを静流は忘れていた。
いや、あまりにも失踪した本人と会うのが早過ぎた為に、無意識にその危険性を軽視したのが原因であろう。
闇の住人に連れ去られた人間は、何かしらの手が加えられるために以前の人間のまま再開できることはまずない。
洗脳されていた場合や何かしらの薬が使用されていたり、改造されていたりするのがほとんどである。
そこに失踪期間の長さなど関係はない。
たった1週間と言えど敬虔深いシスターが性奴隷に早変わりすることなど珍しいことではないのだから。
「こうして私を襲ったという事は、あなたはこの学園の敵という事でよろしいかしら?」
この場での応戦と撤退かを天秤にかけつつ、静流はクリスティアに話しかける。
学園の臨時の警備員も兼ねる静流を攻撃するという事は学園と敵対するという事である。
こうして襲ってくる以上、学園の常駐する警備員や普段は表に出てこない戦闘員との戦闘も覚悟しているはずである。
何より静流が応援を呼べばすぐ教会が包囲されるのは想像するに難くない。
「いえ、この学園の敵になったつもりはありませんわ」
「なら何故私を襲う必要があったのかしら?それも背後から」
「神の施しをあなたにもしてあげたいと思ったからですわ。それに、正直に伝えてもあなたは否定してしまうでしょう?」
まるで悪いことなど何一つしていないようにクリスティアは微笑んだ。
「これは話にならないわね……っ!?」
話し合いで少しは情報を引き出したいが、相手がまともに返答を返してくれる気配はない。
このまま話していても埒が明かないことを確信した静流は、そう言いつつ懐に忍ばせた通信機に手を伸ばす。
「これっ……はっ……」
通信機に後少しで指先が触れるようとするその時、静流の手が止まった。
静流としても何故手が。
いや、手どころではなく全身が動かなくなったのかわからない。
ただ動かない。
同時に本人から身体の所有権が奪われるように力が抜けると床に倒れ込んだ。
「2度も背後に立たれている時点でおかしいと思わなかったのかしら?」
目の前に立つクリスティアでもその隣に立つ闇を纏う人型でもないまた別の声が教会に響く。
「だ……誰?」
背後から聞こえた声の主に対して問うも、そこまでが限界であった。
静流の意識が抵抗すらできずに闇に沈んでいく。
「神の御名の許に、また新たな信徒が誕生致します。……ザーメン」
静流が聞き取れた言葉はそれが最後であった。
最後の言葉からして静流の後ろに立った3人目がわかった人は多いはず……。
さて、昨日から始まったワールドレイドですが報酬がすごいことになってますね。
クローンアサギは毎度使える性能でしたがまた一段と恐ろしい能力となりました。
もちろん取りに行きますが皆さんも無理はしないように行きましょう。