サブタイトル変えました。
後日、レイゼルはダイヤモンドローズ騎士団がアンジュを捕らえてミスルギ皇国に連れてきたことを知った。アンジュのいる場所へ向かうと、既にダイヤモンドローズ騎士団ことサリア、ターニャ、イルマの3人がやられている。
「おい、何があった?」
「実は…」
レイゼルはターニャとイルマの二人に聞いた。アンジュが次女であるモモカを連れて、この別荘で逃げている。しかも、しかも隊長格であるサリアはアンジュに銃を取られ、投げ飛ばされたいうのを聞き、レイゼルは余りにも間抜けすぎて溜息をつくしかなかった。
(アホすぎるだろこいつら…アンジュ相手に3人がかりでこのザマか)
レイゼルは心の中でそう思いながらもあえて口には出さなかった。如何にも厨二病みたいな変な名前で組織を作っている集団にいちいち反応するのも馬鹿らしくて疲れるからだ。
こうして、サリア達の方はアンジュを探し回っており、アンジュの散策は彼女らに任せた。レイゼルは3人を放って、いつものように、エルシャの手伝いに向かったら
「よう…アンジュ」
「…」
アンジュとモモカがエルシャと座って話していた。アンジュと最後に出会ったのは、タスクと協力して以降のこと。しかし、アンジュの方はレイゼルと出会ったことにそんなに驚いておらず、レイゼルの居場所がここにいることをわかっていたかのようだった。
「貴方、何やってるの?…ヒルダ達が心配してたわよ」
「そうか…お前、妹達と。あいつらには悪いことをしたな」
アンジュは此処に連れ去られる前にヒルダ達と出会っていた。ヒルダの方は兄に何日間も離れ離れになってから、落ち込み続けている。チーム全体としてレイゼルを助けに行きたいという気持ちもあったが、兄を取り戻しても人質になった母親の方について悩んでいた。
もう、エンブリヲが絡んでいる以上どうにもできないと覚悟しなければならないことは分かっていたが、
「ねぇ…これからどうするつもりなの?まさかずっとここで生きていくとかじゃないでしょうね」
レイゼルはすぐにでもエンブリヲの弱点を見つけて、かつこの場所出て行きたがっていたが、人質になった母親が原因で止まらざるおえない。更に、エンブリヲのせいで母親の娘が巻き込まれ、その少女と肉体関係を持ってしまった。
エルシャについてはちょっと知り合うぐらいなだけで、本当ならばここから出て行くつもりではあった。
「ヒルダの方は、貴方のことを助けるために母親を諦めるか必死に悩んでるわよ」
「連絡を取ろうにもな…監視されている」
「なら欺いて逃げ出そうとする方法は考えてるの?」
ヒルダを取れば、エルシャとアルゼナルにいる幼年部の子供達を見捨てることとなる。しかし、レイゼルはエルシャの期待を裏切り、子供達を捨てる覚悟がまだできていなかった。
何も言えない彼にアンジュは呆れていた。
「貴方、いや…アンタは何のために闘ってるのよ?愛する妹のヒルダ?それともエンブリヲの腐りきった世界なの?
貴方がエンブリヲに何をされたか私にはわからないけど、このままここにいればサリア達と同じように貴方までエンブリヲの考えに賛同してしまうわよ」
「…」
「私からハッキリ言わせてもらうけど、もう母親のことは諦めなさい。妹にも兄が大事ならその覚悟もしておいてって既に伝えておいたから…アンタが何もできずに帰っても責めたりしないかもね。でもね…エンブリヲにつく気もなく、だからといってここを出ることも考えてないって、正直みっともないわよ。今の貴方が」
前のレイゼルなら即答でエンブリヲの世界なんてまっぴらごめんだと否定しているが、こうして何も言い返せないことに悔やんでいる。
ヒルダの母親は救えることができず、娘の処女を奪い犯して、自殺させないために肉体関係を育んでしまい、そんな汚れた手でエルシャの子供達に触れている。彼の目的が段々と見えなくなり、中途半端になっていく。エンブリヲ幼稚園を作ってエルシャと共に暮らしても良しとしている自分が半分ある。それでも、
「一応伝えておいたから…それじゃ」
(覚悟を決めなきゃいけないことぐらい、それぐらい分かっているさ)
アンジュの言う通り一番大事な妹であるヒルダを見捨てることは絶対にできない。今は動こうにも動けず、娘を連れて逃げ出す覚悟を決めなければならなかった。
彼の決意が揺らぐ前にすぐにでも。
(このままだと、俺がダメになる。母親はどうにもできないかもしれないが、救った娘だけでも)
アンジュはレイゼルと話した後、クリスがアンジュとモモカをエンブリヲへと案内していた。
*****
エンブリヲはアンジュをこちら側につかそうと口説き文句を何度も囁いたり彼女の身体の感覚を操作してくるが、アンジュはそれでも強情で屈しなかった。そして数日後、アンジュとモモカの二人が抜け出し、ヴィルキスに乗って逃げていった。サリアの方は服を奪い取られてしまい、気絶させられている。クリスがアンジュを追いかけ、残り3人はシンギュラーを守ろうとしていた。
「子供達の方は俺に任せろ。だからお前は心配せずにさっさと行け!」
「分かったわ!」
エルシャ、ターニャ、イルマの三人はアンジュの他に3機を相手している。その3機はかつてアルゼナルを襲撃し、アンジュと同じように収斂時空砲を放った連中だ。レイゼルは妹を連れて別行動し、攻撃に回るよりも守る側に移る。アルヴァアロンのGNフィールドで木々に隠れている子供達に被害が出ないように攻撃を防ぐ。
『今なら母親を捨ててこの娘と共にここから逃げ出すことが…マスター、指示を』
「子供達を見捨てるわけには『何のために闘っているのですか‼︎ヒルダと共に闘ってるのならば、たとえ非情になろうともエルシャと知り合った子供達を切り捨てなくてはいけないっ!たとえ囚われの身である母親と会ったとしても…もう貴方の母親は…』分かってるよ‼︎子供達を助けることが独りよがりだってことも、母親のことは二人の妹を犯した時点で和解が無理になってるってことぐらい‼︎」
母親の希望がもう薄いことは彼自身分かっている。もう前の頃の母親に戻ってくれないことも、この場所から離れようとしても迷いがあることも分かりきっていた。レイゼルのアルヴァアロンが子供の前に留まり、飛んでくるビームの攻撃をGNフィールドで防ぎ、エルシャの子供達を守っている。
3つの機体が撤退し、クリスはロザリー、ナオミ、ヴィヴィアンを相手に手こずってしまい結局誰も倒せず撤退するしかなかった。
「逃すかっ‼︎」
「深追いはダメよ」
ターニャはさっきの3機を追うために駆逐形態から飛行形態に変わるが、エルシャが彼女を止める。
『攻撃がやめましたね。離脱するチャンスは失ってしまいましたが、このままアンジュがあちら側に無事に回収されると嬉しいのですが…あの、マスター?マスター!』
「レイゼル兄様?」
(そうか、アンジュの言う通りだよな。何をやっているんだ俺は?レヴェンの指示に従っていれば、このままエルシャ達や母親を捨ててエンブリヲから逃げ出すことだって出来たはずだろ…⁉︎
あの数日で本当におかしくなっちまったのか?過去に俺がアルゼナルを潰そうとしていた時だって子供達に遠慮していた。俺のこの弱さが原因で、迷いを断ち切れず、決断に対して躊躇っているのかよ)
子供達がエルシャとレイゼルの機体に向かって手を振っていた。この世界はレイゼルにとっては余りに残酷過ぎていた。この差別世界で、敵側が子供を巣篭っている。その迷いと躊躇いがあるせいでヒルダを貶したジルも敵であるエルシャも彼の手で裁くことができなかった。
「私の代わりに子供達を守ってくれてありがとう」
(俺は…アンジュの言う通り抜け出さなきゃいけない。一刻も早くこんな場所から…このままだとエンブリヲの施しに依存して、飲み込まれてしまう)
守ってくれたことに無邪気に笑顔を見せてありがとうと叫んでいるけれど、今のレイゼルにとってエルシャと少女達の無邪気な笑顔と感謝は苦痛と罪悪感にしかならなかった。揺らいだ決意が、ここから抜け出すチャンスを不意に投げてしまった。