※この作品はR-18です。

紅と黄金.r18   作:斬刄

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アウラ奪還

 

「エンブリヲの騎士と言うから…どれほど強くなったか。期待外れだな、サリア」

「…何しに来たの?今更」

 

アンジュに一方的な革命を否定され、不甲斐なさを暴露し、信用をなくした。そんな彼女がラグナメイルに騎乗し、レイゼル達を守ったことに、ジル以外違和感を抱く。

 

急に割り込んで、一体何しにここに来たのかを。

 

「どういうつもりだ…まさか、罪滅ぼしとかそんな下らないことの為に来たんじゃないだろうな」

「罪滅ぼし、か。

確かにそれもあるかもしれんな」

「…それも?」

 

本当に罪滅ぼしのために来たのかと思っていたが、サリアを相手に何かあったのではないのかと。彼は詳しく気は無かったが、それでも思うことがあるのではないかと。

 

「何を言われても貴方の言葉はもう信じないわ!

私はエンブリヲ団長の騎士、ダイヤモンドローズ騎士団サリア!

そして…あの方の仇を討つ者よ!」

「だそうだ、クルエルとアウラの元へは行っていいぞ?」

「…分かったよ。

行くぞ、ヒルダ」

「えっ…あぁ、うん」

 

ジルがサリアを抑えている間に行けとレイゼル達に相槌をする。その言葉を信じ、二人はタスクの元へ向かっていく。

 

「待ちなさい!レイゼルっ‼︎

一体どういうつもりなのっ!」

「どういうつもりか?そうだな…ノーマ解放のためのリベルタス、そしてエンブリヲを殺さんと筆頭になった私もまた、仇の内に入るんじゃないのか?」

 

レイゼルとヒルダを追わず、目の前にいる障害を消さんと武器を構える。

 

「邪魔をするなら、斬るわっ‼︎」

「ほぅ…やってみろ」

 

サリアとアレクトラが激突し、レイゼル達の向かう先を考える。

アンジュはあの骸骨マントで消え、アウラを助けに向かっているサラマンディーネ達も数の暴力で押されるのではないか、タスクもヒステカリテを相手に悪戦苦闘している。

 

『マスター、サラマンディーネ達の所へ向かわなくとも問題ありません。多分、国に配備されてるピレスロイドも泥を相手にするのが程いっぱいだと思います。

もう数が数なので、敵の敵は味方って考えた法がよろしいかと。

 

キューエル達はアーニャがいるので問題ないですし、一番危険なのはタスクの方です。

タスクはエクシアで乗り切ってますが、敵の機体は泥の効果で何度でも再生する以上、クルエルを倒すどころか消耗する一方です」

「分かった。なら…優先順位はタスクか。キューエル達のことは信じよう」

 

 

*****

 

ミスルギ皇国の空は、混沌としていた。

黒いドラゴンや、パラメイルが敵味方関係なしに暴れている。街は火の海となり、下にいる人は混戦に巻き込まれて逃げ惑っている。

その分、レヴェンの予想通りにミスルギ皇国にあるピレフロイドは泥を敵と認識し、サラマンディーネ達のことは気にも止めない。

 

「急ぎましょう!この好機を逃してはなりませんっ!」

 

道中で襲われる事もなく、アウローラとサラマンティーネ達はアケノミハシラへと向かっていく。

 

『この船をみんなに乗せて帰るんだからね!

護衛はしっかり頼むよ!』

「「イエス・マム!」」

(アンジュ、レイゼル…無事だといいけど)

ミスルギ皇国の警備員と兵隊達も指示が錯綜としており、侵入することは造作もなかった。アウローラにはミランダとココ、マリカ、ノンナ、メアリーが守っている。

その中にナオミも、二人のことを心配しつつも守っていた。

「アウラ!アウラですのね!」

 

サラマンディーネ達はアウラの元にたどり着き、目視する事はできるが、

 

流石に鹵獲している場所にはピレスロイドが配備され、外敵を襲う。

 

「サラマンディーネ様っ!」

「ここは我々が!」

 

カナメとナーガがピレスロイドを抑え、サラマンディーネはアウラ奪還の為に時空砲の準備をする。

 

(アウラを解放できるというのに…何故こうも胸騒ぎがするのでしょう。

いえ、今は一刻もアウラを解放しなくてはっ!)

 

泥が邪魔をすることもなく、このまま順調に救出できることに疑問に思いつつも、サラマンディーネはアウラを助ける為に歌を歌った。

 

しかし、悪い予感は的中していた。

既にアウローラで起こっていたおり、ミランダとココ達だけではなく、他の乗組員も驚いている。

 

「ナオミちゃん…‼︎」

「なんでいないの!

ナオミは、ナオミはどこにいるのっ⁉︎」

 

ーーークルエルの手によって、ナオミの乗っていたパラメイルごと目の前で消える。

 

「確認できました!

場所は…えっ、これってクルエルの正面⁉︎」

「なんであの子が、そこまで飛ばされてんだい⁉︎」

 

機体の反応から、タスクと同じ場所へ移動されていた。

 

*****

 

サリアの猛攻は続くが、その攻撃を全て止めている。アレクトラもラグラメイルに騎乗し、革命の為に戦っていた。

その腕は、未だに衰えていない。

 

(何で当たらないのっ…)

「相変わらずだな、サリア。

それでは、私には届かんぞ?」

 

かつてサリアの持っていたパラメイルは海の底に落ち、今ではエンブリヲからの施しを受けている。

サリア自身が、強くなったわけではない。

その証拠に、同じラグナメイルでもジルは冷静にサリアの攻撃を防ぐことができている。

「エンブリヲ様は私を選んでくれたの。

強さも愛も、全て!」

「愛だと?奴は誰も愛してない。

利用するために餌を与え、可愛がるだけだ。

 

私もそうやって弄ばれて、飼い慣らされた。

目を覚ませ!サリア!」

「言ったでしょ、貴方の言葉は信じないって!私を利用してたのは貴方よ‼︎」

 

張本人がいない今、彼女にどんな言葉をかけてもサリアはアレクトラに殺意を向けている。

 

「私には何も無かった!

皇女でもなければ、歌も知らないっ!

指輪だって持っていない!

どんなに頑張ったって認めてくれない!

 

 

ヴィルキスにも!貴方にも!

そんな私をエンブリヲを選んでくれたのっ‼︎

でも、エンブリヲ様はもういない!

私だけを愛してくれたのに!

あの男のせいで‼︎」

 

努力しても、結局は報われなかった。何も持っていない空っぽの彼女にとって、それがどれだけ辛かったことか。

 

(お前をこんな風にさせたのも、そうだな…私の責任でもある、か)

「私だけ、か…重い言葉だな」

 

後々考えても、彼女の心の弱みをエンブリヲに付け入られていたとはいえ、死にかけた彼女は不出来な自分に嫌悪し依存するしかなかった。もうそうすることでしか、彼女はもう立つことができなかった。

アレクトラが過去にその言葉に釣られた時と同じように今度はサリアにも君だけだと言葉騙し懐柔させた。

 

「だからアレクトラ!

貴方なんてもういらないよっ‼︎」

 

今更褒めたところで、サリアの心を簡単に変えることは出来なかった。

クルエルからの記憶の改竄と、エンブリヲの洗脳を解くような事態にならない限り。

彼女の心は未だに変わらない。

 

*****

 

ロザリーとゾーラは、クリスと交戦している。

二人を相手にしても機体の性能もラグナメイルの方が桁違いに強く、防戦一方のままクリスを止めることすらできない。

 

「ハァ…弱っ、ホント何しに来たの?

早く友達を殺したアイツを始末しないといけないんだから。

 

こんなことで手間を取りたくないのに」

「アンタ…いつの間に腕を上げたのかい。

それでも私の腕が…鈍っちまったのか」

 

騎士の紋章で特別な機体を手にしただけではなく、腕もゾーラ以上の実力を発揮している。ロザリーが横から割って助けても、戦力差は埋まらない。

 

「今まで弱いから虐げられて、馬鹿を見たんだ。そんな私を、友達のエンブリヲ君は強くしてくれたの!」

「へぇ…強くなったねぇ。あの怪物の手で強くなったの間違いじゃないのかい?」

 

その言葉にクリスは何も返事を返すことはない。ロザリーも、ゾーラも、二人の関わり合いにウンザリしていた。

都合の悪い言葉を聞き流し、唯一の友であるエンブリヲと、その仇討ちの事しか考えていない。

 

「…もう耳障りだから、いい加減二人仲良く消えて」

 

ゾーラの乗っているパラメイルは片腕を破壊され、戦闘継続はできない。ロザリー機も損傷が大きくても、立ち向かっていた。

 

「な、んだよっ…これっ」

「あの怪物をクリスに従うようクルエルって野郎が指示したんだろうね。

当の本人は…この様子だと周りが見えてなさそうだな」

クリスの周りには黒い泥で形成された機体とドラゴンが、彼女の言葉に合わせてトドメを刺さんとばかりに集まっている。

 

「ロザリー!ここは私に任せるんだよ!」

「でも、それでも…私が今ここで啖呵切って止めなきゃ一体誰がクリスを救えるんだよっ!

 

ここで無茶してでも救わなきゃ、生きてても一生後悔してしまう‼︎」

「おい待てっ‼︎」

「いい加減目を覚ませよ‼︎クリスっ‼︎」

 

ロザリーは必死に叫ぼうとしても、クリスの耳には届かない。

クリスは感情に任せて、銃口を向ける。

 

「邪魔を、するなぁぁぁっ‼︎」

 

なんとかロザリーの機体は弾に当たることなく、泥のドラゴンに被弾した。頭に直撃し、形状を保てないまま地面に落下していく。

撃たれて落ちていく泥を見て、クリスは異変に気づいた。

 

(え、なにっ…これ)

 

我に帰って周りを見渡すと、気づかないうちに得体の知れない黒い機体が囲んでいる。

表面には複数もの人の顔が飛び出し、不気味な表情をしていた。

生きているかのように、顔だけではなく腕や手が至る所に飛び出ている。飛んでいるドラゴンですら全く気付いておらず、得体の知れない怪物に包囲されていた。

 

ーー泥の怪物達は部位に目を生やし、一斉に彼女を凝視する。

 

「あ、あ、あぁぁっ…うわぁぁぁぁっ‼︎」

 

サリアのように完全に復讐心に駆られていた訳ではなく、状況を確認したことで凄惨な場所にいることに気がついた。正気を取り戻した彼女は、今度は錯乱状態に陥る。

 

「来るな、来るなぁぁぁっ‼︎」

 

復讐心よりも恐怖が込み上がり、周囲の怪物を撃破していく。頭部を破壊しても、何度も再生してゾンビのように近づいてくる。

その近づいてきた頭蓋を、連装砲で粉砕した。

「クリス!今助けてやる!」

「助ける…?ふざけないで…アンタ達が私のこと見捨てておいて…寄ってたかって私のこと馬鹿にして!

 

私がこんなにも辛くて、苦しくて…どうして分かってくれないのよ‼︎」

「見捨ててなんかない!

アタシは馬鹿なんだから!辛いって、本心で言わなきゃわかんねぇよ!」

 

泥がクリスのラグナメイルを包もうとし、コックピットを無理矢理取りはずす。ロザリーのパラメイルも泥に浸かりかけ、機体を飛行状態にし、クリスに飛びかかってを助ける。

 

ラグナメイルとパラメイルは、そのまま泥に飲み込まれていく。

 

「離して…落ちてる」

「いいよ!一緒に死んでやる!アタシは…アンタがいなくちゃダメなんだ!

あんたが好きなんだよ!クリスっ‼︎」

「どうして…なんで」

 

クリスにとって、アルゼナルにいた頃は二人が鬱陶しく思っていた。

ゾーラ隊長は指揮がちゃんとはしていたけれど、彼女の女癖にいつも気を遣って心労が耐えなかった。

ロザリーにも、自分のことばかりで付き合っているクリス自身は何も面白くなかった。

 

今までそう思っていたはずだったのに、こうして命を落としてでも、友達を助ける為に飛びついて助けてくれたことに驚いている。

 

「信じてくれよクリスっ!

アタシがあんたのこと見捨てるわけねぇだろ‼︎

私達だけじゃねぇか!

アンタの胸のサイズも、弱いところも!

へそくりの場所も全部知ってるのは!

 

もう一回信じてくれよ!

もう一回、アタシと友達になってくれよっ!」

「ロザリー…」

 

ロザリーの覚悟が、クリスの心を変えた。

クルエルに弄られた記憶は着実に正常に戻りつつあり、正気を取り戻しつつある。

 

落ちていく二人を、ゾーラが救出した。

 

「ごめん…ごめんなクリス」

「許さない…新しい髪留め買ってくれるまで」

「い、一番良いのを買ってやる!」

「ゲームする時、ズルしない?」

「しないっ…!」

「お風呂の一番譲ってくれる?」

「あぁ…!」

「でもアタシ…取り返しのつかないことしちゃった。二人のことを殺そうと」

「そんなこと、もう気にしてねぇよ。

こうしてアタシら生きたんだから」

「馬鹿みたい…世界が滅ぶ時に、何やってんだろアタシ達。

 

それに…さっきまでアタシ…憤ってたのに、急に落ち着いてる」

 

今まで積もっていた苛立ちが、突然と無くなっていた。喧嘩別れしてたのが、胸がスッとなっている。

 

「ぶつかり合って仲直りしたから、だろ?」

 

ゾーラ隊長はボロボロになった自分のパラメイルを見て、こうなるだろうなと諦めていた。

 

(本当なら、アタシが気張るつもりだったんだがな)

 

 

クリスとの戦いが長引くことも考慮していた為、戦死者を出さないよう自分が前に出て動くつもりが、ロザリーが必死に説得し、クリスを助ける為に飛びついたとは思わなかった。

 

結果的にロザリーのパラメイルを損失、ゾーラ機のパラメイルが無事なのが幸いだった。

 

「やれやれ…相変わらず世話のやける二人なことだ、こんなにも手間もかかって。

ロザリーは泥に飲まれて、私のパラメイルもこの有様だ…

 

でもまぁ、良いもん見させてもらった。

根性張る価値はあったよ」

 

皮肉じみたことを口ずさむが、あのキスと命懸けの叫び、そして二人の友情にゾーラも満足の笑みを浮かべていた。

 

*****

 

タスクはクルエルによって召喚した機体と交戦している。

泥の機体を真っ二つに切り裂き、撃墜させた。しかし、撃破した機体は海底から黒い泥が吹き上がられ、損傷した箇所を形成して復活する。

 

(埒があかない…早くアンジュのところへ助けに行きたいのに。でもサラマンディーネさんの歌が聞こえてるなら、少なくともアウラの解放は)

「アンジュを何処にやった!」

【もう一つ、器ニ等しいモノがいた】

 

クルエルは、アウローラにいたはずのナオミをタスクの目の前に転移させる。

 

「ナオミちゃんっ⁉︎」

「あ、あれ?私…アウローラを守っていたはず」

 

クルエルの前に転移されたことで、目を丸している。クルエルの手で出現させたナオミに、泥の機械とドラゴン達は手出しすることはなかった。

 

(急に止まった⁉︎

何か指示しているのか⁉︎)

「タスク!助けに来たぞ!」

「やっと辿り着けたけどサリア隊長はどこに…」

「おい!あれを見ろ⁉︎」

 

同時刻に、レイゼル達とダイヤモンドローズ騎士団の二人が合流する。ターニャとイルマは豹変したクリスとサリアに追いつけず、後から辿り着くことができた。

 

「これは…一体、どうしてジル司令とサリア隊長が!」

「だ、だって、エンブリヲ様を殺したのは」

 

何も操られていない二人はクルエフを発見したと同時に、交戦中のサリアとクリスを発見した。憎むべきはエンブリヲを殺したクルエルのはずなのに、クルエルがサリア達に何かしたかと判断した。

 

「貴様…隊長に、一体何をしたぁぁぁっ‼︎」

「⁉︎おいそこの二人!止めろっ‼︎」

【ソうイエば、側近ガ二人イタな?】

ラグナメイルを持っていたとしても、相手が悪すぎた。エンブリヲですら葬るほどの桁違いの強さを持ち、二人は泥によって迂闊に手を出せない事も全く知らないのだから。

突っ込めば、機体ごとその身体を侵食されていく。

 

しかし、クルエルの狙いは突っ込んできたターニャではなく

 

「た、助け…ター、ニ」

「イルマっ⁉︎」

 

彼女の背後にいたイルマを取り込み、ラグナメイルごと泥の一部となってしまった。そして目の前にいるイルマは頭上にいる泥の大型ドラゴンが鱗を飛ばす。

 

(馬鹿なっ…防いだ筈なのに、どうして)

【オ前達ハ、ドウデモ良イ】

 

ラグナメイルの盾で鱗を防いだが、不運か飛び散った鋭利な破片が中まで貫通し、イルマの腹部を貫く。

 

クルエルは、ナオミのことを気にせず落ちていくクリスとロザリーの二人を眺めていた。憎悪と機体に細工施したはずなのに、感情値が正常に戻っている。

そのことに興味抱いていた。

【キオクヲ…ココロを…カえ…た?】

泥の怪物達が囲っていたのに、それでも命がけでクリスを助けることに成功した。

三人はあの状況下から生き延びたことに関心したが、いずれ三人もまた何も出来ずに取り込まれるだけ。

 

【モウ一度ド問ウ、器に認メラレシ強者共モ泥ト一つにナラナイカ?】

 

タスクの方を再び向き、勧誘する。

アンジュとレイゼルは拒絶したが、選ばれた者達は泥のここまで争う姿を見てまだ生きながらえている。

 

【泥ト一つニナれバ、老イも、傷モ、死ヌ、コトも無クナル。

ーー苦しみも、悲しみも感じなくなる。

 

タスク、アンジュリーゼ、レイゼル、ナオミ…運命の人と一つにナリ。幸せな時間をこの泥と共に永遠に過ごす事ガ出来ル。

何モ、怖イコトは無イ】

 

泥に取り込まれたものは、斬られても壊されても、一瞬に戻る。たとえ心臓や脳といったような致命的な箇所に損傷を受けたとしても。

 

「泥と一つになれば、永遠を過ごせる…だって。

確かに愛する人と永遠の時間を過ごしたいって考えた事もあったかもしれない。でも老いることも、死ぬ事も、それはマナとノーマ…いや、人間に老いと死があるから…生きていた記憶も、思いも尊い。

 

だから俺は…いいや俺達は何度でも拒絶する。泥と一つにはならない」

「レイゼル!暫くはナオミのことを頼む!」

「いっけぇ、ファングっ‼︎」

ナオミとイルマを守るようにアルヴァトーレとヤークトアルケーガンダムがファングを展開し、近づいてくる敵を退治する。

本来タスクの援助に向かう筈だったが、無防備なままのナオミを放っておくわけにもいかなかった。

 

「な、ナオミ…」

「それ以上喋っちゃダメ!傷が広がって」

「も、う…いいの」

 

ナオミはイルマの元へ向かうが、腹部から流れる血は止まることなく、彼女の生命を奪う。

弱くなった声で、ナオミに伝えるために口を開く。

 

「私の、ラグナメイルを、使って…私はもう、助からない。私の代わりに貴方が…二人の…敵を取って。

 

私はダメだったけど…もしかしたら、貴方なら届くかもしれない。泥が迫る前に、私が命がけで操作できる前に急いで」

 

血反吐を吐きつつ、彼女の瞼はゆっくりと閉じようとしている。

皮膚は冷たく、顔色も青くなっていった。

 

ナオミもレイゼル達と共に挑んでも、パラメイルのグレイブではお荷物になるしかない。

泥はドラゴンと機体の形状と性能を酷似させることができるのだから、生半可な機体では飛び込んでも墜落するだけ。

 

そのまま庇われるより、一緒に戦う方が良いことは分かっていた。

 

「貴方の機体…私が使います」

「あり、がと…」

 

ナオミは泣くのを堪えつつイルマの持っていた騎士の紋章を取り付け、パラメイルからラグナメイルに騎乗する。

 

『マスター!海から何か来ます‼︎』

「海からだと⁉︎

ナオミ!その場から離れろ!」

 

黒い大型ドラゴン二体が海底から外へ出現する。

空ではレイゼル達が守っているのなら海底に潜ませ、真下からナオミとイルマを食らいつこうとする。

 

「助けてあげられなくて…ごめんなさい」

「アンジュの…ヴィルキスと同じ。

でも模様が」

ナオミはビクトリアに騎乗し、ドラゴンの攻撃を避けて撃破した。損傷した箇所が元通りになり、黒くなっていた機体はいつしかアンジュのヴィルキスのように白く輝いている。

 

「クルエル…貴方は、寂しい人… なんだね。自分にすら嘘をついて」

【ウソ、ツキ?】

「本当に怖いものがないなら、どうして貴方の人格が芽生えた時に世界を取り込もうとしなかったの?

それができなかったってことは、貴方にとってこの世界に怖いものがあったんだよ。

 

 

…12歳の私でも分かることを、貴方は何も理解してない」

 

クルエルは少女の言葉に何も反論し、黙っいたままだが。

少なくとも彼女も救済を拒むと判断し、ナオミを泥の機体が囲む。

 

【誰も受諾シナイノナバ、私ノ手デ取リ込ムシカナイ】

「いいや…ここから先は取り込むことはない。

 

何故なら、俺達がお前を倒すからだ」

 

その時、聞き覚えのある歌が終える。

ミスルギ皇国にあるアケノミハシラから光の柱が立ち、その中からアウラが飛翔した。

 

叫びが聞こえ、完全に取り戻せた事も確認できる。

 

「サラマンディーネさんが歌い終わった…てことはアウラを」

「取り戻せたのか、ならこれで『いいえ、次元融合は止まっていません!』なんだとっ…⁉︎」

目的を達成し、エネルギーを断ったことで次元融合は止まると思っていた。

しかし、アウラのエネルギーは時空融合の起爆剤であるため、たとえ解放できても融合は止まる事なく無限宇宙の移送エネルギーで勝手に融合が進んでいく。

 

【ソレデ、イイ】

「…は?」

【始まリのドラごンも、聖杯ノ器の一つ。

その存在ヲ、泥と共二取り込んでくレよう】

 

だが、脅威は時空融合だけではない。

アウラを解放したことが、帰って自分達の首を絞める結果になる。

 

『取り込む…?ちょっと待ってください。まさか、クルエルがアウラを放置していたのは…』

【時ハ、満チタ】

 

海から地響きが鳴り響き、空は飛行する音が聞こえる。

海では移動するような音が、上空ではイナゴの大群のように大勢の泥のパラメイルが飛んでいた。

 

「なにが起きているんだ⁉︎

教えてくれレヴェン!」

『なんで私も、サラマンディーネ達も今まで気づかなかったんでしょうか…解放の阻止どころか、すんなりと通らせてくれていることに違和感を抱くべきでした。

 

しかもアンジュのいない時点での解放はむしろ悪手だった…!

 

もし予測した通りのことが起きれば…不味い、幾らなんでもそれは不味い。マスター!全メイルライダーの通信機器に連絡する許可を‼︎この怪物の目的は我々を取り込むだけではない!』

 

海底にあった泥が、泥によって形成された機体とドラゴンも液状化し、一斉にアウラの方へ集まろうとしている。

各国にいた泥の機体達とドラゴンも、ミスルギ皇国に移動していた。

 

「まさか奴は…アウラも取り込むつもりなのか⁉︎」

『その、まさかですよ…取り込めなかったら、我々が来る前にアウラを始末していたはずですからね。もしくは、サリア達を操る前に取り込んでいたか』

 

サラマンディーネのいた世界は穢れた地球を生きていくために、自らの身体を作り替え、環境に適応した。

 

遺伝子操作によって男を大型のドラゴンに変えて、浄化のために働いた。女は姿を変え、男達と共に働いて時がくれば子を宿し、産み育てる。

アウラはその世界の柱でなり、皆にとっての子孫、始まりのドラゴンでもあった。

そのアウラを取り込もうにも収斂時空砲でしか破壊できない保護壁が、クルエルにとって邪魔だった。エンブリヲを始末しても解除される事もなく、アウラ解放のために動いているチームを見逃していた。

 

『皆さん聞こえますかっ!何がなんでも泥からアウラを死守してください!

もしクルエルがアウラを取り込んでしまったら、この大陸全体を覆うほどの泥を生成するほどの力を手に…そうなってしまったら…もう誰の手にも追えなくなるっ‼︎‼︎』

 

サラマンディーネ達のおかげで、目的の一つであるアウラを救うことはできた。

 

ーーそれでも、何でも取り込まんとするクルエルを相手に、アウラの解放を急かすのは余りに危険であることに気付くのが遅すぎた。

 

クルエルにとってアウラの解放も世界を取り込む為の一つの手段に過ぎない。次元融合も、泥から守るのも、他の部隊は自分の身を守るだけで精一杯。

 

「待ってくれ…それじゃあ」

『ええ、我々に残された時間はありません。

限りある時間で、この怪物を倒すしかありません』

「限りある時間って…」

『全員合流は土台無理…今この場にいる我々でどうにかするしかありません。仮にサラマンディーネ達を待っても、手遅れになります。

 

 

今、ここにいる我々のすべきことは、クルエルという怪物を直接叩くしかありません』

 

アンジュは不在、次元融合の時間も刻一刻と迫ってきている。

その上、アウラが泥に取り込まれる前にナオミとタスク、レイゼルとヒルダがクルエルを倒すしかない。

 

【お前達ノ選択肢ハ二つに一つ、聖杯ノ泥と一ツニナルカ、私ノ予測ヲ遥カに超エテ凌駕スルカ】

(アンジュっ…)

 

アンジュの行方は、クルエル以外誰も知る由もない。

彼女は機体ごとクルエルの中で、眠り続けているのだから。

 

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