クルエルを倒したことにより、分かれていた世界は一つとなったが、中途半端のまま世界は至る場所に傷痕を残していた。
アウラが解放されたことでマナの光を使える者は誰もいなくなり、彼らの住む地上は次元融合における天災と泥の機体によって既に蹂躙されている。
このマナのない世界で未来を生きていく為には、なすべきことを考えるだけでも山積みだった。アウラが解放されだと同時にマナが使えなくなったことで機械の大半が使用不能になり、同時にエンジニアの人材が必要になっていく。
元々アルゼナルのエンジニアで働いていたメイが新人を指導し、レイゼルのデバイスであるレヴェンがフォローしている。
革命の成功により、世界は大きく変わっていく。時空融合を防ぐ事はできたが、それでも大勢の人間が死に絶えた。
革命は簡単に起こせても、どんな結果になろうと後始末は容易ではない。
ーーマナの光が無くなった今、この世界に生きる人達が今後どう生きていくか。
*****
アンジュは宣言通り、ノーマとアウラの民が協力して国を作っていった。その一方でかつてマナの光で富んでいた国は衰退へ進み、欲しいがままに満ち足りていた人達は、渇望のままに互いを殺し奪うといった秩序無き状況に追いやられている。
彼女自身、以前アルゼナルを抜け出して故郷に帰り、祖国と家族に騙され、裏切られて死刑にさせられたのだから一時期は知ったことじゃないと見限っていた。
それでも、クルエルに夢を見せられた影響もあってか僅かながら心残りはあった。彼女は混乱を収める為の組織を編成し、賛同した者達は世界中を旅して各地の状況を調査させるようにしている。
アンジュが妹の様子を伺っていると彼女は独り立ちしているのを隠れて確認し、勇敢に戦っているのを見た彼女は瞳を閉じつつ安堵する。
(もう私が言わなくても、一人で生きていけるのね)
立てない足を自力で立ち上がることもでき、彼女の側近達と共に動いている。立ち直ろうが、そうでなかろうがこれ以上妹のシルヴィアに干渉する気はもうない。
「…戦いなさい、もう二度と会うこともないわ」
「アンジュリーゼ、姉様…⁉︎」
彼女は姿を現すことなく、別れを告げて立ち去っていく。助けてもらったシルヴィア達は声の方に振り向きつつ近づいたが、既にアンジュの姿はない。
アンジュはヴィルキスに乗って、アルゼナルへと帰っていくが、向かった先は施設ではなく海辺の方に向かっている。
その近くに店が建てられており、看板には【天使の喫茶店アンジュ】と表記されていた。
「…ふぅ、ただいま。タスク、モモカ」
「あ、おかえりなさいませアンジュリーゼ様!」
「随分帰るの早かったみたいだね。
妹さんのことは?」
「生きていたわ…心配する必要がないくらいにピンピンしてる」
ジャスミンモールにはタキシードやメイドの服が揃えており、夢だった『喫茶アンジュ』を立ち上げ、店内の奥にはカラオケを設けている。
世界が変わる前まではアルゼナルを統治していたアレクトラだったが、今となってはアンジュとサラマンディーネがドラゴンの国とアルゼナルを統治し、手を取り合って生きていた。
「あと、タスク。
大事な話があるのだけど…これっ」
タスクに、妊娠検査薬を見せる。
ラストリベルタス前に二人が行為し、国を作っていた最中に確認し、無事にアンジュが妊娠していることが発覚した。
「アンジュリーゼ様っ…結婚の上に、いよいよ子供までも」
「責任は取るよ。俺はアンジュを守る覚悟だったから、元気な子供を産もう」
「ば、馬鹿っ…当たり前よっ」
アンジュはお腹をさすり、モモカは感動している。アンジュとタスクの二人は、赤面になりつつも見つめ合っている。
『あー…御三方、良い雰囲気の最中大変申し訳ないのですが。
そろそろ報告してもよろしいですかー』
「うわあぁっそうだった⁉︎」
「先に済ましてたんじゃなかったの?」
『…どうやら私の存在を忘れてたみたいですね』
エクシアから、レヴェンの音声が発する。
今のレヴェンは取り込んでいるエクシアの他にパソコンを行き来できるようになっていた。
二人に呆れつつも、解読させた内容をアンジュ達に見せていく。発見した当初はダブルオーライザーの中にあるデバイスは文書を表示して二人に通じているが、書いた文章が一体どこの言語なのか分からないものだった。
『以前は修理で預かってましたけど、デバイスの解析については細かくできませんでしたし』
「今はもう、俺達と敵対する気は無い。
アンジュを助ける時にも手を貸してくれたんだ」
アンジュが子供を産んで一、二年後の頃にはエクシアに埋め込まれていたデバイスの解析が全て終え、今度は意思疎通が可能なデバイスとしてアンジュ達を助けることになる。
『まぁ、二人がマスターと妹さんよりしっかりしてて良かったです』
「…どうしたのよ、急に。
タスクみたいにあの兄妹二人が変態だったとか?」
「ちょっとアンジュ、失礼だって…⁉︎」
『まぁ変態とゆうよりは、愛撫も度を越していると言いますか…幼い頃は結構自制心で抑えてたんですけど、成長するにつれて色々と揉めに揉めて、二人揃って一気に舵を振り切りつつ暴走して。
二人ともかなりイチャイチャしてましたし、下手したら若気の至りで一線を越えそうでしたし』
タスクの股間ダイブがレイゼルの兄妹のエチエチと比較するなら一緒にするなと即答しているが、今では兄妹が互いにタスク以上の変態行為をシていることもあったからアンジュの問いに否定できない。
「そんなことだろうとは思ってたわ」
「ハハッ…なんか、今まで気を使うの凄く大変だったんだね」
『本当に全くです』
特に長いこと二人の成長を眺めていたレヴェンがエッチな時だけ遠い目をしているのをアンジュは話を聞きつつ察していた。
「それで、そんなにイチャイチャしてるなら私達と同じことになってるんでしょ。
貴方達は何人子供作る気なの?」
『まぁアンジュ達よりかは二人とも行動が早かったですね。
検査薬も既にして、兄妹は安静にしてます。
ライラさんはまだ幼いんでやってませんよ。
まぁ今のところは、姉妹と合わせて子供は3人の予定ですよ』
「ねぇ…それ、お兄さんの身体が保つの?
しかもライラって妹とも約束してるなら、衰えるわけにはいけないのよね?」
『私もマスターに聞きましたが、なにが何でも妹の為なら全力を尽くすと即答できました』
「あぁそう…まぁそう言うだろうなと少し思ったけど。
そう返事したのなら心配する必要はなさそうね」
アンジュは心配していたが、尽くすと言い返したレイゼルなら絶対にやりそうだと思い、もう何も言わなかった。
『ではアンジュとタスクの二人は何人子供を』
「よ、四人…」
「『……え?』」
恥ずかしげに答えるアンジュに、レヴェンとタスクが拍子抜けた声をする。
二人の関係を良く知らないレヴェンが驚くのは無理もなかったが、夫になったタスクまでレヴェンと同じ反応をし、空いた口が塞がってないことにアンジュは不満げになる。
「タスク、貴方が言ったんじゃない。
ドラゴンと一緒に偽りの地球に行って…あの時はヴィヴィアンも含めて四人で戦いが終わった後のこと話してたでしょ。
子供は四人って」
「もしかして…いや、あれは冗談だって⁉︎
俺はただ穏やかな日常を過ごせば良いって返しただけで…本気なの?アンジュ」
アンジュはタスクの手を掴み、その手を彼女のお腹に当てた。
「貴方は私の騎士で、その上股間ダイブまでしたんだから、私のお願い聞いてくれるわよね…?」
「あ、アンジュっ…」
『ワーオ。マジですか』
そう言って、また空気がピンク色に染まっている。レヴェンがタスクのデバイスを解析し終えると、データをエクシアに残す。
『…では、私はこれで』
「あ、はいっ…お二人に手伝っていただきありがとうございます」
音量を小さくしつつモモカに挨拶だけし、侍女も赤らめつつ返事を返す。レヴェンは、空気を読んでその場からすぐに去る。
二人とも国作りも落ち着き、今度は子作りに励むことになる。レヴェンとしては結婚したのだからそういうことをするだろうと思っていたが、まさかアンジュが4人も子供を作るつもりだと思ってもない。
しかし、
『子供を四人、ですか…まぁマスターならそれくらいシそうですね。
なんだか…アンジュ達も、マスターのところも慌ただしくなりすかねー。マスターが私にお願いする前まではサリアの仕事か、或いは趣味の手伝いにでも向かうとしますか』
アンジュ含めて彼女の家族に3人の子供達がいるのだから、そう考えても不自然なことじゃないとも考えた。子供の出産前と後にも任せられることも多々あるが、その時が来るまでにはサリアの負担を軽くさせるように尽くすようにしていた。
*****
「ナオミ、そろそろメシ食おうぜ」
「もうそんな時間なんだ」
ナオミの方は、様々な世界の調査をしていた。
ずっとアンジュと付きっきりだったわけでもなく、アウローラ側に長いこともあってか同期のミランダやココだけではなくヴィヴィアン、ゾーラとロザリーの三人はかなり仲がいい。
今はロザリーと共に外に出て、世界の調査をしながら旅をしている。
たまに帰還した際にメイに弟子入りしたクリスとも会ったり、ロザリーと一緒に遊んだりもしている。
ミランダとココには世界に何があったか話をし、エルシャ達にもたまに顔を出したりもしている。レイゼルもナオミ達の調査には協力し、現場調査を行う前にはリィアンで下見に向かい、事前に必要な物を予め渡しておく。
空気汚染やら、低温地帯のような地域ごとに生存可能なのかを調べ、その地域を現場に向かいどうなっているのかを事細かく調べるのがナオミ達の仕事だった。
二人は食べながら、今日調査したことを話していく。
「レイゼルの連絡通り、どの町も壊滅状態か。
あれだけいた人間様はいねーし、まさか全員石の中ってわけじゃないよな?」
「ドラゴンやノーマに見つけたら殺されるって思っているのかな」
二人は食事をしながらも、町の被害を話し合っていた。
実際に調査して分かったことは、崩落した街で辛うじて生きている人達の殆どが酷く挙動不審だったことだ。
話せば分かる人もいるが、二人の話を信じきれない人も少なくない。マナを使ったことで秩序が崩落した以上、資源を襲うような人達も出ており、徒党を組んで襲われるなんてことも実際にあった。
「ドラゴン達の方がまだ冷静だぜ」
「人間の気持ちって難しいね…」
今までの調査報告書にも、人間がノーマ達とドラゴンに対して未だに酷く怯えている。崩壊が起きる前まではマナを扱えない人種を化け物だと敵視し、除け者にしている。
今となってはノーマ管理法どころか全ての国にある政府は責任放棄し、報復や略奪にひどく怯える日々を強いられている。
因果応報とはいえ、その影響で家族を失った子供も少なくはない。完全に独り身となった幼児や子供達に対して強く生きろというのは余りに酷な話だ。
「私達が小さい時にはアルゼナルにある程度の教育や支援をしてもらっていたから、幼くして死ぬことは無かったんだよね。
大人はともかく、子供達は次元融合の影響でいろんな国が荒廃してて、誰の手も助けてくれるなんてこともないだろうし」
「そもそも全部の人間様を救うなんて土台無理だな。こうなった世界を受け入れつつ生きる為に戦うにしろ、アンジュのような強さを誰もが持っているわけじゃねぇからな。
仮に状況認識を持てたとしても、殆どが何をするにもマナの力に依存してたんだから、いたとしてもごく一握りの人間だけだ。
ましてや幼年部と同じ年頃だったら、尚更な。
アタシらもガキだった頃は教育係の人達とか色々と勉強を教えてもらったからこうして生きている。それに、子供の保護ことで提案したのってレイゼルとエルシャの二人だったし」
(アルゼナルに送られるはずだったレイゼルさんのような兄妹にも、幼い時にノーマだってバレてずっと深い闇を抱えてたんだ。
お兄さんがミスルギ皇国に滞在してた時に、妹のヒルダだけじゃなく幼年部の子供達にも優しく接していたからその子達の面倒も見て、助けてくれたってエルシャに凄い感謝されてたかな)
巻き込まれた人間を救うことは出来ないが、せめて誰にも頼れる人が誰もいなくなった子供だけでも目に入る範囲で保護するのも仕事の内になっている。
「そう言えばサリアも調子が良くなってきてるって話を聞いたよ」
「アタシも聞いた。アルゼナルを復興しようとする前はほとんど無気力だったけど。今はアンジュの国を収める仕事をやっているみたいだぜ。
ウチらの報告書も、今後はサリアに確認されるみたいだし、下手に報告書を盛ったらサリアだけじゃなくレヴェンにもツッコマれそうだよなぁ。
ま、相棒なら何とかなるだろ」
「ロザリーも書くように指摘されるかもしれないよ。どの報告書も殆どナオミの筆跡だけだって」
「わ、わーってるって…苦手だけど、アタシだってちゃんと頑張るさ」
ロザリーは、苦笑ながらも返事する。
当初のサリアは、アレクトラの死と自分の暴走で未だに落ち込み気味ではあったが、第一中隊の仲間が励ましに来たりと少しずつ立ち直っている。
亡くなったジルが彼女の背中を押しているようで、ナオミと同様に再起している。
「アレクトラはサリアに生きてもらいたかったのもあるけど。私にもサリアみたいに背中を押してくれたのかな」
「違いねぇ。サリアは新しい生き方を見つけられたんだからな。サリアだけじゃない、私達を含めてもう別の道を歩いている」
第一中隊の他にいたメイルライダー達はドラゴンを殺すこともなくなってからは別の道で生活している。
「腹が減ったら自分で魚を釣れば良い。
レイゼルんとこみたいに農園作ったり、エルシャが幼稚園を作って子供を教育するのも、何だって自由なんだ。
現実から目を逸らして、ただ責任をなすりつけ合いを続けようってんならそれもまた、人間の選択だ。
なんて…偉そうなこと言えないもんな。
昔の私こそ、流れるまま生きてきたアホの代表みたいなもんだ。
でもお前と一緒に戦って、こうやって世界を巡って、今初めて、生きるって意味が分かった気がするんだ。
死にたくないじゃない、生きたいって気持ちがね。
ノーマだから死んでもいい、ドラゴンだから殺してもいいなんて狂っている。
そもそもの話、元々の世界が歪んでたんだ。
要するに、何が言いたいかっつーとだ…私達は誰かを不幸にしたんじゃない。こんな世界になっちまって、お前が責任を感じてるのは知ってるよ。
でも、生きるってのは戦いなんだ。
アンジュの受け売りだけどさ。
こんなことを考えるのもナオミ、お前のおかげなんだぜ。
だからその…ありがとよ」
「ロザリー、でも私…クリスの救出に参加できなくて。
それにアウローラから離れたことも」
「まぁ無理ねーって。仮にアタシとゾーラがクリスを助けれても、アウローラが沈んだら元も子もなかったんだ。
結果的に他の連中も死なずに生きて帰ってこれた。
終わったことで気負う必要はないだろ?」
「う、うん…ありがと」
周りは泥まみれの敵が無限に増えて、ミランダとココの他にマリカとメアリーとノンナを守ってくれていたことに感謝され、ロザリーの励ましにナオミの顔が少し赤くなる。
「それで、リベルタス終わっても借金の返済はまだあったのか?」
「その心配はないよ。
もう少しで借金が完済するから」
「なら帰国したら、アタシらとクリスに後輩も連れて何処か食べにでも行こうぜ」
彼女の抱えている借金についてはもう少しで返済間近になっており、次帰る時にはお土産だけではなくジャスミンに一括で返済するつもりだった。
ロザリーが時計を確認すると、時計は夜の11時を指している。
「っと、喋ってる間にもうこんなに時間が経っちまった…明日は川の調査と遠くの街に行くから、いい加減早く寝よう」
「ちょっと報告書も書き終えた所だし、もう寝よっか」
「…これからも一緒に行こう。
私達が力を合わせれば、怖いものなしだ」
二人が仰向けに寝て、見上げた空には流れ星が落ちている。
その流れ星にロザリーはナオミとずっといられることを願い、ナオミはみんなが手を取り合って共に生きられる世界が訪れるように願った。
(アレクトラ。貴方が守ってくれたこの命、サリアも私も大事にしてるよ)
*****
レイゼルはドラゴンの場所へ出向きつつ、サラマンディーネ達の技術に貢献し、エルシャの幼稚園へ手伝いに出向いていた。時空融合による甚大な被害と、その後始末で忙しくしている。
やるべき事を終え、レイゼルはある場所へ向かった。
「久しぶりだな、三人とも。
元気そうで何よりだ」
「あぁ」
アルゼナルには新設されたマンションが建てられており、キューエルとマリーカ、アーニャは三人暮らしで生活することにしている。もう生前みたいに機体に乗って殺し合う事もなくなり、平穏に暮らしている。
いまの三人の仕事は事務作業とエルシャの幼稚園が困っている時に助けたりと携わっていた。
レイゼルの農園へ手伝いに行ったりすることもあれば、遊びに行くこともある。
「…また母親の方に行くつもりなのか?」
「見て見ぬ振りは…もうできない。万が一ヒルダが心残りで祖国へ確認しに行くことになったら」
「…お前達の家族絡みのことは、私達からは何も言えん。
好きにすれば良い」
キューエルは何とも言えない顔のまま、病院に 向かうレイゼルの背中をじっと眺めていた。
孤島にはレイゼルの自費で設けている小さい病院があった。仕事の早帰りの日に病院へ向かい、そこには一室のみ用意されている。
「久しぶり、母さん」
「…」
ベッドに寝かせている母親は、心ここに在らずといったような状態だった。
生きてはいるものの、心が壊れている。ただ天井呆然と眺めて、死んでいるかのような表情のままでいる。
食事もままならず、栄養剤入りの点滴を打っている。
「気になって実家を確認したんだけどさ…時空融合で、家が崩壊してたんだ。
もう修復するのも難しいくらいに」
革命を終えた後の諸々の始末や、国づくりの為の規律を一から作らないといけず、そのための時間にかなりかかっていた。
なるべく時間を作れるよう試行錯誤し、数ヶ月後でようやっと落ち着いた頃にレイゼルが家を確認しようと確認へ向かったが、既に幼少期に暮らしていた実家は修復不可能にまで壊されていた。
「家も、家族も未だに壊れたままだ。
根本的な原因はエンブリヲの統治だけど…俺もまたこうなった原因の一端だったのかな」
母が妹を否定された時でも感情に流されるままだったが、母親もある意味では被害者だったのかもしれなかった。
「前の頃に戻ることなんて、今後一切ないのかもしれない。笑顔で迎えてくれるなんてそんな都合の良いことも望みも薄い…特に俺のしたことを考えれば、嫌われて当然のことをした。
エンブリヲだけじゃない、俺も家族を崩壊させてしまった。
このまま一生、母さんは壊れた心なのかもな」
母親は天井をずっと眺めている。
レイゼルの言葉に全く反応しない、ただの屍のように生気のない目と、呆然としながら口をずっと開けたままだった。
「……今日は、お礼を言いに来たんだ。
本当に、凄く今更だけど。
俺はさ、この世界に転生するまで何も知らないただの子供だった。
父も母もいない、俺の手元にあったのはデバイスのレヴェンとスタンド能力を神から授かった力だけだ。
そのデバイスのレヴェンから世界のことを教えくれたからのもあるけど、ヒルダの母さんが幼い俺を拾って色々と育ててくれたりしてくれたからこうして生きている。
ヒルダと出会って、仲良くなったことも。
だから…そのことだけでも母さんには本当に感謝している。ありがとう」
手に持っていた花束を、花瓶に入ってある枯れた花と入れ替える。母の顔をもう一度見るが、無反応のままだった。
「…それじゃあ、家の中の用事が残っているから。そろそろ行くね」
レイゼルが帰ろうと出入口のドアに手をかけようとしたその時、
「…レイゼル、ヒルダ?」
「⁉︎母さ…」
「あらあら、こんなところにいたのねヒルダ。
アップルパイ焼けたわよ?
あとレイゼルも見つけたら、呼んできて貰いたいのだけど」
名前を呼んだ母親は、何もないところに話しかけて幻覚を見ていた。彼女は兄妹の名前を言っても、レイゼルの方に顔を向けていない。
精神疾患の影響で、幼かった頃の思い出に囚われていたままだった。
(…ヒルダには、まだこのことは言えないな)
「また、会いに行くよ」
母親は疲れ果てるまで、独り言をずっと呟いていく。レイゼルは、これ以上迷惑にならないよう大きな音を立てずにゆっくりとドアを閉めた。
「…新しくできた子供にまで手篭めにして、恨まれて当然のことをした」
ヒルダだけでなく、幼いライラにまでエンブリヲが元凶だったとはいえ強姦まがいの事になり、性行為による影響でレイゼルの事が好きになっていた。
二人にとってレイゼルは欠かせない大きな存在になっている。
「…責任は取るよ。
俺が必ず、二人を幸せにするから」
*****
ーーそして、最終決戦から7年後が流れる。
ある島に、二階建ての家が建てられていた。
机の上にはオルゴールが置いており、子供の一人がネジを回しつつ鳴らしている。
玄関には写真立てが置かれており、3人組の赤い髪をした新郎新婦が立っている。結婚の指輪をはめており、ヒルダから先に子供を産んでいた。
その近くには赤い林檎が二つ、金の林檎が一つ置いている。
レヴェンの手によってかつて住んでいた家を派生しつつ3Dを用いて再現させていた。違うところがあるとしたら、家の近くには小規模の農園があること。
「うん。見事な林檎とトマトが実ってる」
「わぁ…おっきいって、虫やぁぁっ⁉︎」
その農園を、元気そうな子供達の声が飛び交って見ている。二人とも赤い髪をしているが、容姿の特徴は似て非なるものだった。
髪は父親似で赤黒く、黒い瞳でポニーテールの活発な長女のリコル。
勝気で、しっかり者のお姉ちゃん気質であり、農園の野菜を収穫している。
もう片方は髪と瞳も母親似で明るく黒いツインテールの内気な次女のノエル。
母親似の声と引っ込み気味で臆病であり、虫が出てくると怯えるている。
「そんなに驚く事ないでしょ。植物も生き物も大きく育つんだから」
「で、でででも初めてだよね…こんなに育つのって」
長女は小さな農園にあるトマトと林檎を収穫し、持っている籠に入れていく。農園にある食べ物を母親と子供が育てて、静かに暮らしていた。
「おとーさん、早く帰ってくれるかなぁ…」
「…あ、噂をすれば」
飛行する機械音が聞こえている。二人が空を見上げると巨大で目立つ黄金の機体ことアルヴァトーレが浮いている。
「あ!あの機体、おとーさんのだ!」
機体は着地し、レイゼルは機体から降りていく。父親の顔を見ると、咄嗟に父の元へ駆けつけていった。
「おかえり!おとーさん!」
「ただいま、みんな。
元気にしてたか?」
ノエルが元気良くレイゼルの足に飛び付き、にこやかな笑顔で顔を見ている。
ドアの強く閉めた音が聞こえ、音の鳴る方に顔を向けるとエプロン姿のヒルダがそこにいた。
「ヒルダも遅くなってごめん。
今ちょうど帰っ」
不満げな表情をしていたヒルダが頬を膨れつつ走り、彼が言い切る前に身体を抱きしめる。家の窓から機体が到着していたのを眺め、居ても立っても居られずに彼の元へ駆けつけた。
「遅せーよ…しばらくこーさせて」
「おかーさん。お父さんと会える日が少ないから寂しかったんだよ」
ヒルダもレイゼルを抱きしめ、レイゼルは二人の頭を撫でていく。若かった頃にツインテールだった髪型は下ろされ、ストレートパーマにしている。
「あーうん、本当にごめんな。
国の復興に手を貸した時や、子育ての時も本気で大変だったからな…俺も早帰りするようにはかなり努力してたしな」
「今まで遅帰りだったもんね」
「あぁ。ちょっとサラマンディーネさんやアンジュとかエルシャにも色々と頼まれて…出張で助けに行ったりとかもしてたんだ」
『無茶しないで下さないね。一家の大黒柱になっているんですから、倒れたりでもしたら元も子もないですよ』
「分かっているよ。
お前も故障しない程度にな」
今のレイゼルとレヴェンは関係者含めて他の人達にも仕事を頼まれている。産んだ子供達との時間も作らないといけないことから、
「…もうそろそろ、待ち合わせの時間通りにライラも来てると思うんだが」
『あ、来ましたよマスター。
上を見上げて下さい』
別の方向から赤い機体ことリィアンが向かってきている。アーニャ達が入る段階でプトレマイオスに変更し、使う機会は減っていった。
今、その機体を代わりに操縦しているのは
「今度はライラおかーさんも帰ってきた!」
「ただいまー。3人とも元気にしてたー?」
「うん!」
もう一人の母親であるライラが操縦し、リィアンをアルヴァトーレの横に止める。今では立派な大人に成長し、機体を操縦できるようになっている。
「…二人のお母さんって本当ならあり得ないことなんだろうなって思ってなかったし。
それを知った時は驚いたけど」
「私もそれが普通なんだなーって」
「二人ともごめんね。以前、レイゼルお兄さんとヒルダお姉さんとは複雑な関係だったから」
二人が生まれる前の結婚の手続きもかなり大変で、色々と慌ただしこともあった。
アンジュとタスクの二人は兎も角、レイゼルの方は事情があったとはいえ二人の女、しかも家族の姉妹と結婚するなんてことが許される国か初期の発展途上だったから見当がつかなかった。
しかし、アルゼナルの国を統治しているアンジュとサハマンディーネ達が法を決め、元々ノーマでの隔離もあった事から女の人口が極端に多いこともあってか新しい法案が作られ、一夫多妻でも各々の合意があれば結婚を認められるようになった。
その第一人組として、レイゼルこと義理兄と妹二人の一夫多妻となって結婚していている。
「まぁ女の子同士で結婚する法律も作られてあるから…」
「長女のリコルには…苦労をかけてごめんな」
「お父さんとお母さん達も少しは手伝ってね」
リコルが父母達にジト目をしつつ、諸々の事情で気を遣っていたことを指摘する。最初は母親が二人いる事が普通なのだと思い、娘はそれが当たり前だと考えて生きていた。
レイゼル達に関してだけ、例外として一夫多妻がすぐに認められている。エンブリヲの策略とはいえ
ライラはエンブリヲの影響によってレイゼルに依存するような身体にさせられ、生涯二人を愛し続けることになる。
「私達が生まれる前までは、おとーさんとおかーさん達。すっごいラーブラブだったよねー」
「両方の結婚するまでの予定も考えてたってアンジュさん達やエルシャさんに教えて貰った時は驚いたわ」
姉妹と仲良くイチャイチャする時もあるが、レイゼルとレヴェンが積極的に彼女と深く繋がっている関係者達に対して協力しようと奮闘していた。
今でも、子育てと仕事で大変になっている。
「改めて…1ヶ月ぶりに、ただいま。
ヒルダとライラ、んっ…」
「あぁおかえり。あに…んんっ。
レイゼルパパ」
「おかえりなさい、お父さん」
レイゼルは、ヒルダとライラの唇に軽くキスをする。恥ずかしげに咳払いしたヒルダは、7年経っても兄貴、お兄ちゃん、お兄さんと呼ぶ癖がまだ治っていない。
「二人とも家族の時だけは兄貴って言ってもいいんだぞ?怒らないから」
「すぐに直しとかねーと、また癖で言ってしまいそうだから。
他の奴に笑われちまうだろ」
ヒルダが恥ずかしげに不貞腐れてる一方、ライラは頬を赤くしつつ照れていた。
彼女が照れている理由は、
「そ、そのっ…つ、次は私だからねっ…」
「アタシにも、物足りなかったんだから沢山愛してよ…」
「うん、分かってる。
ヒルダもライラも相手する。
だから子供が寝てる時間…二人で一緒に、な?」
近日に約束してたことを果たすのを、二人はずっと待ち望んでいた。彼の平等に愛することから性的行為はライラだけではなく、二人の子供を産んだヒルダにも参加するようになっていた。
子供達に聞かせないように小声で話していく。
二人の性行為は、必ず一緒の時にするよ取り決めていた。7年前にヒルダを、そして今日の真夜中に大きく成長したライラを和姦していく。
「ねーねー。何の話をしてるのー?」
「な、ななな、何でもねーからっ…!
ノエルとリコルの二人は家に戻って皿と箸、あと水を用意して。もう昼飯できてるから」
「「はーい!」」
ヒルダは近くに寄ってきた娘達に慌て、昼食の準備を指示する。そのまま娘達が近くにいない事を確認し、今夜の段取りを長々と話していく。
もうレイゼル達は狭い世界で細々と生きることもない。彼らはノーマという自由を勝ち取る者達と本来の人類(ドラゴン)と共に世界を救った。
その過程で、胸が締めつけられて辛いことは多々あった。
世界中の人達が敵にしか認識できなくなっていること、エンブリヲの配下になったエルシャを敵視できなかったの事、アルゼナルにいた子供達を見殺しにしようとした事、そしてかけがえのない妹二人の事。
心が折れかけそうになっても、彼は途中で挫折しようとはしなかった。
革命を終えて以来、広い場所で家を建てて、レイゼル達はあの革命以来もう戦うこともない。
アンジュ達の仕事も手伝ってから慌ただしい日々も過ごしていたが、今ではだいぶ片付いたことで落ち着きつつある。3人とも余裕がある時、こうして家に集まったことも二人一緒に心が壊れた母親の見舞いにも行っている。
『それで話は終わりましたでしょうか?
娘達がお待ちしております』
「分かってるよ、レヴェン。
大事な話はもうこれで済んだ、二人とも行こうか。
ヒルダはこのまま引っ付いてもいいよ」
「ったりめーだ…バカ兄貴」
「は、はい…レイゼル兄さん」
二人は頬を赤くして照れつつ、家へ帰っていく。
本当に遠い回り道だったが、それでも兄妹が望んでいた幸福はようやっと叶った。
ーーー紅い姫達と娘達に祝福され、黄金を司る者は彼女達と共に幸せに暮らしましたとさ。
Fin