無機質な音が鳴り響く。
病室には心拍音を示す音が、呼吸器からは今にも絶えそうな彼細った声が流れていた。
病床の老人はすでに死を前にしていることは明白であり、すでに医師も看護師も家族との最後の時間を過ごせるように退室していた。
「総司…すまねぇ。俺がふがいねぇがために組は…組は…」
芹沢組。この一帯に縄張りをしいていたヤクザである。
違法カジノや武器売買などで隆盛するも、対立していた集英組との抗争で壊滅。
いまや残っているのは病床の組長、若頭。
そしてその傍らで祖父の手を握る一人息子、総司だけだった。
ヤクザの息子とは思えない、真面目そうな眼鏡をかけた少年。
「いいんだよ爺ちゃん」
総司は祖父の後悔の告白を受けつつもただひたすらにその手を握り続けた。
「すまねぇ。総司…お前は組長の器だった。お前ならもっと大物になれた!なのに!なのに!」
「俺が前に出てれば」
「若。若のような未来ある若者を鉄火場に出しちゃ我々の恥です。この敗戦は我々、いや私の責任です。腹を斬れとおっしゃるなら―――」
サングラスをかけた。現代風。いかにもインテリヤクザというのが似合う男が総司を諭した。
「これからどうすんだ総司」
帰るべき家はすでにない。芹沢組は消滅した。
「虎が当面の場所を確保してくれてる。これから高校に通うつもりだよ」
虎が一礼したのを見て、ようやく安心したのか老人はベッドに背を預ける。
「そうか―――」
「だが爺ちゃん、逝っちまう前に約束しとくよ。組の敵はきっと取る。必ず―――な」
「なぁ爺ちゃん、覚えてるか―――――――」
そこからは何気ない、家族2人の昔話が続くだけだった。
そしてその夜。総司の祖父は静かに亡くなった。
翌日、病室から離れた場所、禁煙化が進む中ただ一つ残った喫煙所に虎と総司はいた。
医師や看護師もいるが、近寄ってはこない。
明らかに未成年な総司が煙草を吸っているのに対し、虎は吸わない。
白いストライプスーツを着た虎はインテリヤクザ、ホスト、そういえば誰もが頷くだろう。
まだ年齢も29。若頭という地位も上の人間がすべて墓の下に行ってしまったからであった。
総司にとっては父親代わりでもあり、虎にとっても総司は息子替わりのような関係であった。
「若、高校ではお煙草は吸えませんぜ」
「時代は禁煙か」
「いやそもそも若は未成年でしょう」
「薬はやっとらんぞ」
煙を吐き出す総司。
煙草を投げ捨てるとポケットからチョコレートバーを取り出して食べ始める。
「で、これから高校に通われるということですが」
「凡矢理高校―――集英組の倅がいるところだ」
「若、殺るつもりですか?」
虎という男は冷静で、頭も回るというのに直情的なのがたまに傷だ。
いまも腹の底では集英組への恨みで腹が煮えくり返っているのだろう。
「阿呆。今殺してどうするよ。」
「ですが若なら―――」
「今、集英組の倅を殺したところで俺たちも集英組に数の暴力で踏みつぶされるだけだ。俺たち芹沢組がされたのと同じようにな。そんなものは負けと同じだ」
「どうされるおつもりで?」
「戦争だよ」
「芹沢組とですか?」
総司はにたりと笑うとベンチにファイルを放り投げる。
そこにはこう書かれていた。
マフィア「ビーハイブ」