橘万里花は1人自室にこもっていた。
先日、一条楽が自らを助けに来たことを知ったがそれが失敗に終わったことを知った。
元より覚悟の上での行動であったにもかかわらず想い人が助けに来たという事実に胸躍らせてしまった自分がいた。
私は何と弱いのだろうかと万里花は苦笑する。
だが事態は急変する。
当主である橘千花の誘拐劇である。
これには万里花も驚愕した。楽がそのような行動ととるはずがないということを彼を知り尽くしていた彼女は確信していた。
ゆえに分からなかった。いったい誰がどのような目的でそんなことを行ったのか。
これによって結婚式は取りやめとなり、結果的に彼女は救われた。
だが問題はその後、突然その時は訪れた。
万里花の自室に現れた2人の人物。
1人は真里花の母親、橘千花だ。
そしてもう一人は―――
「あなたは―――確かうちのクラスの―――」
見覚えのある顔ではあった。
いつもクラスの中心であった楽や万里花と比べれば影の薄い存在ではあったが千棘や鶫と仲がいいためその顔を彼女は知っていた。
だがいつもと違うのはその面相だ。
いつもは下ろしていた髪の毛をかきあげている。
万里花にはピンとこなかったもののその風体からは強い暴の匂いを漂わせていた。
「万里花、待たせたわね」
「何の用ですか」
親子の情など全く見えない返事を投げやりに返す万里花。
だが彼女も母親の変化を感じていた。
ほんのわずかだが表情が緩んでいるように彼女には思えた。
親子でなければ分からないほどのわずかな違いだったが。
だが以前の母親とは何かが違う。
「結婚式の件は延期してごめんなさい、式は来週行うことになったわ。相手は彼よ」
千花の言葉を受けて男が頭を下げる。
「なっ!?」
「急な話だし、式は身内だけで行うわ」
淡々と話す母親に万里香は絶句する。
とともにある違和感が確信に変わった。
(利にかなっていない―――)
以前の結婚相手は某企業の社長、橘家にも十分な利がある結婚相手だった。
だが今回の相手は何の利もない一般人である。
万里花は自分の母親がそのような利のない行動をとる人物ではないことを知っている。
「あら、今回は大人しいのね、後は若い2人に任せるわ」
そういって母親は出て行ってしまう。
残されたのは2人の若者だった。
「ほとんど話したこともありませんでしたわね」
「いや、アンタの事はよく知ってるし感謝もしてるよ」
「感謝―――?」
万里花は男が何を言っているのか分からなかった。
「一条楽」
その人物の名前を聞いた瞬間、万里花の眼が見開かれる。一言も聞き逃さないように。
「アンタのお蔭だよ、これで集英組の力をかなり削ぐことができたしな」
「何を―――」
「滑稽だったよ、橘万里花を助けるなんてほざいてよぉ―――まぁそのせいであげくの果てには誘拐犯だからなァ」
にやにやと笑う男を見て万里花は震える声でしぼりだすように男に事実を確認する。
「まさか―――すべてあなたが―――」
「そうだよ。いい働きをしてくれたぜ楽は、おかげでアンタみたいな上玉を嫁にできるんだからよォ」
「っ!!」
飛んできた平手をこともなく男は掴む。
華奢な万里花の手では男の手を振りほどくこともできない。
「心配するなよ、俺は女は幸せにする主義だぜ」
「ふざけないでください」
睨む万里花だがそれを見て喜色をにじませる男を見てそれが逆効果だと悟る。
「放すばい!!!」
必死につかまれた腕を振りほどこうとするが男の指はびくともしない。
「とはいえ俺も無理やり女を犯すのは趣味じゃねーなー」
(白々しい!)
万里花は目の前の男が嘘を言っていることなどすぐにわかった。
この男はどんな理由があろうと犯したければすぐにでも自分を手籠めにするのだろう。
「で、だ、勝負をしないか?」
「勝負ですって?」
男は万里花の顎を掴むと上に持ち上げて自らの目線と交差させる。
「もしお前が勝ったならば、この結婚はナシだ。以後はお前と楽が結婚できるように取り計らってやろう」
万里花にとっては願ってもない好条件だ。
だがそれは逆に言えば男が絶対に勝たせる気がないともいえる。
「負ければ―――?」
「その時はお前のすべてを貰う。以後は俺の妻として死ぬまで生きてもらうことになるな」
奥歯から音が鳴るほどに万里花は歯ぎしりをする。
想い人のために磨いてきた自分の体をこのような低俗な輩に捧げることになるなど許せなかった。
(ですが―――)
選択の余地はなかった。勝負を受けない選択肢をとったとしても男は自分を逃がさないだろう。
「勝負の方法は?」
「1週間後に俺達の結婚式がある。そこでお前の指名した人物が花嫁を助けることができれば勝ちというのはどうだ?」
「それは―――」
危険すぎる。確かに漫画などではよくある展開だが現実世界ではあまりに危険すぎる犯罪行為だ。
しかし―――
(私はなんて弱いのでしょう、こんな状況でも―――楽様が助けに来てくれると信じてしまう)
「受けましょう」
「お相手は一条楽―――か?あんなボンボンのどこがいいのかねぇ」
「少なくともあなたよりは良い殿方ですよ」
「じゃあ、招待状を書かないとな」
男はそう言って笑いながら一台のビデオカメラを取り出した。
万里花はその笑顔の意味をこの後身を持って知ることになる。
集英組では幹部たちを集めた会議が開かれていた。
先日のビーハイブの一件はなんとか手打ちにしたものの一条楽による不法侵入と誘拐劇は大事件となった。
何しろ侵入したのは九州の超名門橘家、攫ったのは警視総監の妻である。
「オレはやってねぇ!」
楽は大声で叫ぶ。
「坊ちゃん!落ち着いてくだせぇ!俺達も坊ちゃんがやったとは思ってません!」
「だが―――すでに橘家がそう結論を出してしまった以上我々に反論の余地はない。幸い、橘巌に便宜を図って集英組への処罰は最小限に抑えてもらうことになっている」
家長である一征が苦い顔で告げる。
ビーハイブとの一件で力の削がれた集英組には死活問題であった。
元々売春や薬に手を出さない信条がゆえに大規模な収入はないのだ。
「だが楽、今回のお前の行為は浅はかだったと言わざるをえまい」
その言葉を聞いて楽は立ち上がる。
「友達を―――橘を助けるってのが悪いことなのかよ!!!」
「そうはいわん―――だがそれはお前が責任を取れる問題なのか?」
「それは―――」
「しばらく頭を冷やしておけ、この件はわし等でなんとかするように試みる」
ハッと一条楽は顔を上げた。気絶する直前の会話を思い出したのだ。
「なぁ、芹沢――――総司って知ってるか?」
その名を聞いた瞬間、若頭の竜が、一征の目が見開かれる。
「若、どうしてその名を―――」
「聞かせてくれ、頼む」
一条楽は深く頭を下げた。
戸惑う竜だったが一征がそれを制して語り始める。
「同業者じゃよ、いや、だったが正しいか。儂ら集英組との抗争は激しさを増した。奴らはいずれも武闘派で知られておった、こちらは数で上回っていたがゆえに勝つことができたが―――
抗争の果てに芹沢組は壊滅した。父親、母親ともに死に、組員も――――そうか――――息子が生き残っておったのか」
場に暗い空気が満ちる。
「芹沢の倅の目的は我々への復讐でしょうか」
「おそらくな――――楽に近づいたのもそれが目的であろう」
「そんな―――――」
一条楽は絶句する。
彼は総司の事情はおろか集英組のことすらまるで知らなかったのだ。
ヤクザの家に生まれながら目をそらし続けて来たツケだと言える。
「頭、坊ちゃんの安全を考えるとその芹沢総司という男――――殺した方がいいのでは」
「無理だ――――やつはビーハイブに近すぎる。いやこうなることを見越していたのだろう。
やつは迂闊に手出しがされないようにビーハイブの娘に近づいたのだ」
すべては布石。
巨大な集英組の力を削り、不和をもたらし、自らの安全を確保する。
そしてビーハイブという巨石を操って集英組の壊滅を狙う。
「後手に回りすぎた」
一征は噛んだ唇から血を流しつつも自らの見通しの甘さを憂う。
会議は続くも有効的な対策案は出ず、お開きとなった。
「坊ちゃん!!」
祖父から謹慎を言い渡された楽の部屋に下っ端の一人が襖を開けて飛び込んできた。
「ど、どうしたんだ!」
「ハァ、ハァ!これを!」
下っ端が差し出したのは一枚のDVDだった。
差出人は―――九州の住所――――橘万里花。
「橘!?」
すぐさま楽はDVDを再生した。
そこには悪夢が写っているとは知らずに。
「なんだ―――これは」
映し出されたのはベッドの上で2人の男女がいる映像だった。
顔は見えなかったが2人とも若者であることは見て取れた。
「た、橘?」
女性の方、それは橘万里花に違いなかった。楽は何度も見直すが確かにその体つき、髪の色、間違いなかった。
それだけなら問題はなかった。
だが問題は―――映し出される橘万里花の姿だった。
楽は自らの眼を抉りたいと思った。この光景は楽の脳裏に焼き付いて後々まで彼を苦しめるに違いない。
自らを好いていた少女は、文字通り娼婦が着用するような透き通ったネグリジェに身を包んでいた。
白い肌が透けて見えるほど薄いそれは胸も、秘所も万里花のすべてをさらけ出していた。
その顔は蒼白になっており、唇と肩は震えている。
そして横に座る男は―――
「芹沢――-!!」
自らを陥れた男に違いなかった。
男は下卑た笑みを浮かべながら裸ともいえる万里花を腕に抱きよせている。
楽は拳を固く握りしめるとともに怒りがあふれてきていた。
男が万里花の体を撫で回すと彼女は体を固めて必死に耐えていた。
「許せねぇっ!あいつ橘をなんだと思ってやがる!!!」
映像の中の男は語る。
「つーわけで、お前がコイツを助けることができるかというゲームだ、もし失敗すれば―――コイツは俺のものだ、分かりやすいだろう?」
提示されたのは結婚式の日時、そして橘万里花を救うか否か――
「助けて―――楽様」
一条楽は「善人」である。
だが善人が善行だけを成すわけではない。
たとえ罠だと心の奥底で感づいていても楽の正義感がそれに蓋をする。
一条楽はとった答えは救出一択だった。
九州の郊外、小さな教会。
本日行われる橘家の結婚式は関係者のみで行われると通達されており、警備は手薄だった。
「あそこが―――みんなは俺が合図したら乱入してきてくれ、後は俺が橘を連れて逃げる」
「坊ちゃん―――芹沢には気をつけてくだせぇ」
竜の真剣な表情、楽としては見る機会のない本気のヤクザの表情である。
「ああ、いざとなったらこれに頼るよ」
取り出されたのは拳銃。
もちろん一条楽は実際に撃ったことなど皆無である。
むしろこういう荒事を敬遠してきた男なのだから。
「じゃあ、行ってくる!」
楽は1人教会へと近づいて行った。
巨大な正面扉を、映画の主人公のように開き、姿を現す一条楽。
中は静寂に満ちていた。
いるのはたった2人の人間。
芹沢総司と橘万里花だけだった。
「橘を放せ!!」
「楽様!!」
万里花が叫ぶ。
銃を、死を突きつけられた総司は楽の前で笑った。
満願成就したかのように。
そして大手を振りつつ語り始める。
「ああ、一条楽。お前がようやく同じテーブルに立ったと実感したよ。
そうだ、これが血と硝煙、死の距離だ、互いが互いの心臓を刺せる距離」
楽はそんな男の奇行を銃を突きつけながら、警戒しながら見ていた。
何をいっているのかは理解できない。
「はじめは参ったよ、修羅場も殺しも経験をしないで血と硝煙の匂いだぁ?おかしくてたまらなかったよ≪童貞≫アマチュア」
一条楽と芹沢総司
2人とも組織の大小は異なりつつも同じ境遇に生まれた。
一条楽は自らの境遇から目をそらし続けてきたのだ。
だがヤクザを抜けるのであればソレと向き合わなければいけない、対峙しなくてはいけない。
なぁなぁでどうにかなる世界ではないのだ。
だが今宵、彼は初めて自らの意思でソレと対峙した。
いままでの一条楽は安全地帯から綺麗事を垂れ流していただけだ。
だが初めて彼はテーブルについた。
そこには死がある。
死ぬかもしれない、それを覚悟して勝負の場に赴いた。
「さぁ役者はテーブルに着いた、札≪カード≫は互いの手にある―――勝負≪コール≫と行こう」
扉が開き、なだれ込んでくる暴力の群れ。
無数の銃口が、切っ先が芹沢総司へと突きつけられる。
「竜――――!」
「坊ちゃん!」
集英組の組員たちが一条楽を守るように輪形陣をとる。
「おっと、迂闊に撃つとあたっちまうぞ?」
総司は万里花を盾にするように身を守る。
「くっ!芹沢!!橘を放せ!」
「いい顔になったなぁ一条楽」
そういって総司は丸い鉄のような物体を一条楽へと投げつける。
最も早く反応したのは若頭の竜。
それが手榴弾の類だと判断すると密集していたことがあだとなり逃げる時間がないことを悟った彼は一条楽に覆いかぶさった。
次の瞬間、轟音とともに閃光があたりを包む。
(スタングレネード!?くそっ!)
竜は周りの状況を確認しようと立ち上がった。
だがその眼前数㎝というところに総司の顔があった。
楽しそうに目と口をゆがめた男の姿が。
竜が「破壊」されるのにものの数秒とかからなかった。
集英組の人間は次々と「破壊」されていく。
彼らとてその道のプロだが相手が悪すぎた。
満願成就の、至福の時を謳歌する暴力の権化はいま空中に舞っている。
人間の骨を硝子細工のようにへし折る怪物が。
どれだけ威勢がよかろうと鉄火場で物をいうのは経験と暴力。
一条楽は状況が理解できずに呆然と回りを見つめることしかできなかった。
見知った人間が一人、また一人と崩れちていく。
だが嵐の中で楽は必死で銃を向けた。
その先には芹沢総司が立っている。
両腕を血に濡らした男が臓物をはじめとした集英組の組員だったものの中に立っている。
「はぁ――――はぁ――――!!てめぇぇぇぇぇ!!!!!」
涙を流しながら楽は総司に引き金を引こうとする――――が
楽の頭部に冷たく、硬い感触が押し付けられた。
それが銃口だと気づくのに時間はかからなかった。
「あら、ごめんなさい元≪・≫ダーリン」
「ち―――と―――げ?」
そこにあったのは自らが知る桐崎千棘とはまるで違った。
纏っているのはいつもの制服ではなく、毛皮のついたコートを羽織っている。
表情も天真爛漫を絵に描いたものではなく、マフィアとしての暴を纏った表情をしていた。
口角を釣り上げ、犬歯をむき出しにしている。
丸い瞳は三白眼染みた凶眼と化している。
一条楽が最後に感じたのは振り下ろされた撃鉄により脳が揺らされる感触だった。
「がっ――――!」
「楽様!!放すばい!!!」
万里花がどれだけ暴れようとも総司の腕は緩まない。
「お楽しみはこれからだよ、お嬢さん」
「うっ――――?」
一条楽が意識を取り戻した時、彼の前に広がっていたのは広いベッドルームだった。
赤を基調とした豪華な壁と巨大なキングサイズのベッドが中央に鎮座する部屋。
(ここはどこだ――――?)
「おお、主賓が起きたぞ」
「やっとなの?」
「お前な、力いっぱい殴りすぎなんだよ、銃ってのは殴っても痛いんだぞ」
「でもダーリンには効かないじゃない」
「まぁそれは俺だからな」
楽の視界に入ってきたのは千棘と総司だった。
千棘は先ほどの服装のまま椅子に座ってワインのように見える飲み物をゆらゆらと揺らしていた。
総司はベッドの上で服をつけずに千棘と談笑していた。
(落ち着け――――これはどういう状況なんだ)
「お目覚めか」
「んん!?」
混乱する楽。。
そしてベッドの奥から現れたのは橘万里花だった。
「っ!」
楽はその姿をみて助けようと動くが―――
(これは鎖?)
四肢が鎖で繋がれた虜囚であるためどうすることもできなかった。
そして口に拘束具を噛まされ、言葉を発することすらできない。
「待たせたなぁ万里花」
男は橘万里花の首筋に舌をはわせる。
「私はあなたに抱かれるつもりなどありません」
だが彼女はただただ気丈に前を向いていた。
「へぇ―――――じゃあこれならどうかな?」
突き付けられる銃口。その先にいるのは万里花ではなく一条楽だった。
楽は身動き一つできず、言葉を発して助けを求めることすらできない。
「っ!本当に最低の男ですわね」
「最高の褒め言葉をありがとう」
万里花は唇を噛むが、もはや彼女に道はない。
拒否すればこの男は何のためらいもなく彼女の思い人に発砲するだろう。
「では遠慮なく」
男の手が、彼女が愛した男の前でほかの男の手が橘万里花へと伸びていく。
胸を軽くもむと万里花は体を震わせて反応する。
「処女か」
「あなたには関係ないでしょう――――っ!」
裸で拘束されている楽の頭に千棘が銃を突きつけていた。
「ん~~~どうした、何だって?」
「処女―――――です」
万里花は涙目で男を睨む。
彼女の均整の取れた体型も、手入れされた肌もすべては想い人に捧げるためだ。
だがこの場でそれを口にすれば――――
「んんんんん―――――」
「ちょっとうるさいわよモヤシ」
千棘がうめき声をあげる楽を銃で殴る。
頭部からは軽い血が流れてくる。
「楽様!」
「あんたもバカよね、こんな男のどこがいいのかしら?―――――それともこのペンダントに何かあるのかしらね」
千棘が取り出したのは楽から取り上げた鍵穴のついたペンダント。
「幼いころの約束の女の子ねぇ―――――中々夢のある話ではあるが現実から目を背けるのはどうかと思うね」
「んんんんん!!(返せ!!)」
総司は千棘からペンダントを受け取る。
「なぁ、一条楽よぉ。鍵の女の子が現れたらそいつと一緒になるつもりだったのか?いつまでもうだうだと――――過去ばかり見て現在≪いま≫と未来をないがしろにする――――――」
総司の手に力が入る。
金属のペンダントが悲鳴を上げて軋んでいく。
「そんなんだから貴様は何もかも失うんだよ―――男の風上にも置けん―――――――救えん阿呆が」
まるでプレス機のような怪力がペンダントを木っ端みじんに砕いた。
粉々になった金属片が散らばっていく。
もはや中に何があったかはわからない。
それは総司の手の中で砕け散ってしまった。
「―――――――」
それをただ一条楽は呆然と見ていた。
敗北したボクサーのように肩と頭が垂れ下がる。
「楽様!!起きてください!」
万里花の叫ぶ声にかろうじて意識を取り戻した一条楽だが事態は何も変わらない。
虜囚が2人いるだけだ。
(獣―――私があなたのような不快な存在に――――触られることすら悪寒が走るというのに)
「こんなことをすれば楽様のご実家が黙ってはいないのでは?」
「その心配はない。もうすでに集英組はこの世には存在していないからだ」
「!?」
にやにやと笑う千棘と目を見開く楽。
楽と万里花の前に新聞が投げ渡される。
「今日の朝刊だ」
(凡矢理市内で銃撃戦が発生。場所は指定暴力団集英組の本部。昨夜未明、突如とし銃撃戦が発生し多数の死傷者が出た。
警察では外国マフィアなどによる抗争と見て捜査を続けており近隣住民への注意を呼び掛けている。
この銃撃戦で集英組の組長であった一条一征の死亡か確認され――――――)
「まさかあなた――――!」
万里花は蒼白となった顔で総司を見る。
「あぁ、たまたま組員が少なくてな、よりにもよってそんな日に襲撃があるとは残念な限りだとも」
「んんんんん!!!」
「ん~?貴様はヤクザなどお断りといっていたではないか一条楽。喜べよ、もうお前はヤクザの息子という看板など背負わなくていいのだから」
ただただ呆然とする一条楽。
彼はこの日、帰る家も何もかもを失ったのだから無理もない話ではあるが。
「では始めようか」
男の手が万里花の身体へと伸びてくる。
不快な感触に万里花の身体がびくっと震える。
「離せ!離すばい!」
万里花の力では到底総司の力には及ばない。
だが必死になって抵抗する。
「なぁ万里花」
「私の名前を気安く呼ばないでくださいませんこと?」
「忘れたのか?」
撃鉄が起こされる音。
万里花が振り返ると千棘がにやにやとしながら銃をちらつかせていた。
一条楽に向けて。
「ぅ―――」
「じゃあさっそく服を――――」
「自分で脱ぎますから、いやらしい手を引っ込めてくれませんこと?」
ついに生まれたままの姿を晒すことになる。
ただ一人、一条楽のために努力してきた彼女の体。
千棘ほどではないにしろ絶世の美女と言える美貌、女性らしさを十二分にアピールする豊満な胸。
この体に迫られて堕ちない男はそうはいないだろう。
「じゃあ自分で股開いて見せてくれよ、娼婦みたいなァ」
「―――ッ」
万里花の肩が震える。
手を握りしめ、唇を噛み、顔を羞恥で赤く染めながら男の指示に従う。
白い美脚がM字に開かれ誰にもさらしたことのない万里花の陰部が好きでもない男に晒される。
「ひっ―――やめっ―――」
万里花が動く隙もなく男が襲い掛かる。
ためらいなくソコに顔を押し付け、すすりあげる。
「気持ち悪いですわね、下手くそ―――っん!」
嫌味に動じた様子もなく男は笑みをやめない。
経験がなければそれだけ刺激に感じて鈍くなる。
「はいダーリン、これ」
千棘から小瓶に入った粘度の高い液体が渡される。
「ウチが開発した興奮剤」
「さてさて好きな男の前でどれだけ我慢できるかな?」
どろりとした無色の液体が男の手の平へと伝わっていく。
男の悪魔染みた笑みの前に万里花は自らの血の気が引いていくのが鮮明に感じられた。
「やめっ」
拒否の声と抵抗の腕は軽くいなされ万里花の胸に液体が擦り付けられる。
「いやっ!んんっ!」
「こんな液体で私が――――――っ!?)
その効果はすぐに現れた。
万里花は驚いて胸を隠す。
そこにはぷっくりと自己主張する乳首があった。
(そんな――さっきまでと全然違っ)
男が少し刺激を与えるだけど舌が震えるほどの快感が万里花の脳髄を駆け抜ける。
「なぁ見せてやれよ―――――ほかの男の手で乳首が勃ってしまいましたってな」
「そんなこと言えるわけが―――うぐぅ!そこはやめ――――――」
抵抗むなしく液体は全身に塗りこめられる。
(体が熱く――――興奮剤といっていましたが成程、こういうことですか)
万里花は唇をかむ。
自分の体が自分ではないように熱い。
「ふっ――ふ―――ふ―――」
「そんなに睨むなよ」
男は万里花に覆いかぶさるとその髪をなで、顔を近づける。
ガリッ
「ぺっ」
鮮血がベッドの上に一筋の跡を作る。
「この程度で私を支配した気分にならないでくださる?」
「あぁ―――――素晴らしい。
どれだけ汚されようと折れない心。実に素晴らしい。
いかなる障害に合おうとも曲がるこのない芯、惜しむべきはそれがダメ男に注がれてしまっていることだが―――
まぁ、尊ければ尊いほどに汚し、堕ちたときの征服感も一押しだよ」
そういってついに万里花のそこに男の象徴があてがわれる。
「ひっ!」
「いただきますっと」
「―――――!!!!」
男の腰が突き出されると同時に万里花の神経に電撃が走る。
うまく呼吸ができない、手足の感覚がしびれていく。
一突きされるたびに世界が歪む。
まるで底のない落とし穴に堕ちていくかのような浮遊感。
(だめですわ、こんな、こんな卑劣な男に抱かれて――――――どうにかなってしまうけんっ!!)
彼女は縋るように想い人の姿を見る。
目が合う。ああ、楽様、どうかこんな私の姿を―――――
「楽様――――――私を―――――見ないでください―――――」
そういって万里花の頬に一筋の涙が流れる。
それが彼女にできる抵抗の最後だった。
今まで続けていた抵抗が止み、彼女の腰が落ちる。
嫌悪すべき男根を守るべき子宮まで受け入れる。
「―――――――!!」
全身の筋肉が緊張したように震え、男の腰の上で万里花の肢体が痙攣する。
表情の見えなくなった顔からは舌だけが伸びている。
「あっ―――――――ぁあああああああ!!!」
橘万里花は 堕ちた。
もはや彼女に快感に抗うすべは残されていなかった。
押し付けられる欲望に否応なく体が反応し、嬌声を上げてしまう。
先ほどまで男を喜ばせさせなどさせないと気丈に耐えていた表情も快楽に歪み、舌を突きだして蕩けきっている。
「あぎぃっ―――ああっ!!!」
理性もなにもかもが崩れ落ちる。
想い人の顔すら消えていく。
(すごいっ!気持ちいい!もっと――――――もっと!!)
もはや先ほどまでの彼女の姿はない。
甘えた声を上げて男にしがみつき、ねだるように腰を突きだす。
「っぱぁ―――んっんっ―――――」
嫌悪していたはずのキスも、互いに舌を絡ませ恋人のように唇を重ね合わせる。
「っ――――――」
一条楽はそれを見ていた。
口は相変わらず封じられているがその顔からは絶望の色が色濃く見える。
あの自らに向けられていた天真爛漫な顔はもはやない。
雄に蹂躙され、快楽に跳ねる牝の姿。
そんな中、なぜか彼の口の拘束が外される。
「ぁ――――ァ―――」
口は動くのに、舌は動くのにうまく言葉が出ない。
目の前で、男の腰の上で跳ねる少女は自らが知っている橘万里花なのか。
「ん?何ィモヤシ~あんたアイツが犯されてるの見ておっ勃ててんの?」
千棘のハイヒールが盛り上がった楽のズボンを小突く。
「っ――うるせぇ!それより今すぐ止めさせろ!」
「はぁ?一応、母親の許可も得てる正式な夫婦よ?まぁ正妻は私だけど」
「橘の気持ちを考えろ!強姦だぞ!」
それを聞き、千棘は半ばあきれながら答える。
「あんたね―――私やあんたの世界が個人の意思を尊重すると思ってんの?
この世界で無理を押し通すならそれ相応の無茶が必要なのよ
ぴーぴーとうるさいわねーこのモヤシ」
「うぐっ―――や、やめろっ!」
ぐにぐにと踏まれる度に楽のソレは形を変える。
「うっ!」
びくんと震えると同時に染みが股間付近に広がっていく。
「――――汚らしいわね、ダーリン以外のが私の体に触れるんじゃないわよ!」
強烈な蹴りが楽を打ち抜き軽く吹き飛ぶ。
「うぐっ」
なんとか目を開けると橘万里花と目が合う、合ってしまう。
「橘っ!?」
万里花は涙を流しながら歓喜に身を任せていた。
そんな彼女の耳元で男がささやく。
「~~~」
それを聞くと同時に万里花の眼に生気が蘇る。
「いやっ!!それだけは―――――それだけはだめやけん!!ほかのことならいいけんそれだけは―――――!!!!」
手足を動かして必死の抵抗を試みる。
だが無駄だった。
男はそれらを押さえつけて体を密着させる。
万里花の奥に、奥に押し込むように。
奥へと出すために。
「あっ――――――!」
一層奥へと押し込まれると万里花の体が浮く。
それと同時に彼女は悟った。
もう自分に抗う術はないのだと、もはやこの男の種を子宮に受け入れるしかないのだと。
万里花は首を後ろに傾け、想い人へと目を向ける。
「ら――く――――――さ――――ぁ~~~~~~っ!!!!ひぁ――――はぁぁ――――――ぁ」
ドクンドクンと胎内へ流し込まれる白濁液。
「孕むといいけどなぁ」
そういって男が万里花の腹部を撫でる。
陰部から流れ出る白濁液
万里花はただただ快楽の余韻の中で呆然とするしかなかった。
なんでわいのるりちゃんがメガネと結ばれてるんですかね