「クソガキ」
白いスーツを着た男が総司に向かってデザートイーグルの銃口を突きつけていた。
「貴様、何者だ?お嬢に近づかないというのなら見逃してやってもいいぞ」
「ああ、あんたは目障りだと思ってたんだよ。毎日毎日ああも監視されてちゃロクに動けやしない」
夜道で銃口を突きつけられながらへらへらと笑う学生にクロードは眉をしかめる。
彼はマフィアビーハイブの大幹部。
今まで幾度となく修羅場に遭遇し、それを踏破してきた。
感じるのだ。この学生服を着た男から自分たちと同じ匂いを。
「ビーハイブの大幹部が暗殺される。犯行現場には集英組の金バッジ。ストーリーとしては上等なもんだとは思わないか?」
「貴様、本当に何者だ?」
「日本の事情に詳しくないあんたらマフィアには分からないだろうが―――集英組の敵とだけいっておこうか」
言い終わると同時に学生服を纏った男が一瞬のうちに距離を詰める。
その距離は拳が十分に届く距離であり、銃の間合いではない。
その人外染みた踏み込みの速度に戦慄しつつも顔色一つ変えずに格闘戦へと移行する。
死地を渡り合いて来たマフィアとしての経験、技術。確かにクロードは総司の数段高みにいるのは確実である。
島国の喧嘩自慢の不良1匹とそう彼は眼前に迫る拳を見下していた。
速さこそあるものの直情的な一撃、彼にとっては蚊も止まるほど見え透いた一撃だ。
当然、クロードは流れるように少年へとクロスカウンター気味に拳を振り下ろす。
骨と骨がぶつかる音とともにクロ―ドの体が後方へと弾かれる。
ありえない。
カウンターを決めた側が一方的に弾き飛ばされるなど。
クロードは冷静に状況を分析していた。
振り下ろした右拳は折れこそしないものの鋼鉄を殴ったように痙攣している。
(重い。そして硬い)
クロードに比べて眼前の少年の背丈は遥かに小柄。だがクロードはその経験から目の前の少年の体重は100㎏を軽く超えていることを確信していた。
本来あるべき巨大な筋肉が全く存在していない。
(超超高密度に圧縮された筋肉・骨・腱――――ホルモン異常による筋細胞の異常成長
俗にいうヒュペリオン体質か。私も見るのは初めてだな)
改めて少年の顔を確認したときそこにいたのは島国の不良ではなかった。
クロードの拳により眼鏡が吹き飛び、鼻血を垂れ流し、汗と血で髪の毛がめくれ上がっている。
クロードが今まで何千何万回と目にしてきた暴力の世界の住人がそこにいた。
確実に、己の四肢を用いて殺人を行った鬼が。
「訂正しよう。確かにお前はあのクソガキ≪一条楽≫とは違うようだ。本当の血と暴力の世界の住人。こちら側の人間だよ」
瞬間、月が雲に隠れ闇の帳が降りたとき2つの影が跳躍する。
すでにクロードは仮面を取り去っていた。
一条楽や桐崎千棘に見せる顔ではない、マフィアとして障害を排除する掃除屋としての顔だ。
クロードが長するのは技術と経験。
それらを使って目の前の嵐を捌いていく。
人外の筋力を持ちうる嵐はひとたび触れればクロードの四肢を砕くに違いない力を持っていた。
圧倒的な暴力をクロードは紙一重のところでその力を逃しながら打ち合っていく。
互いの膂力はあまりにもかけ離れていた。
クロードの鍛え抜かれたマフィアとしての筋力は凡人を優に上回るものだ。
だがこの暴力は違う。本気で踏み出せばコンクリートをガラスのように粉砕し、鉄骨をいともたやすくへし折る。
2人の関係はダンプカーと小型乗用車に近い。
クロードが一瞬でも受け損なえばすぐさまひき潰されかねない。
2人の戦いはクロードが優位に運んでいた。
確かに一撃必殺の拳を持て当たらなければ意味がない。
対してクロードの拳は幾度となく男の体に撃ち込まれていた。
ついに2人の戦いにも終わりの時が訪れる。
僅かづつではあるがよろめいていく男に対してクロードはついに攻勢に出る。
撃ち込まれる拳はいずれも人体の急所に向けて一切のためらいなく突き刺さっていく。
(終わりだな)
幾人もの最後を見てきたクロードは目の前の命を散らすために最後の一撃を叩き込む。
人体最大の急所である脳。
顔面を全力で打ち抜かれればいかなる人間とはいえ継続戦闘はできない。
あとは倒れた男にとどめをさすだけでいい。
クロードの拳が男の顔面をとらえる。
だがそれは致命の一撃とはならなかった。
男は首の筋力だけでその一撃を受け止めたのだ。
そしてその拳の代償である硬直時間を男は許さない。
クロードの右腕が男の左手によって握られる。
以上発達した筋力は握力さえも異常な域へと押し上げていた。
「ぐぁっ!」
初めてクロードから苦悶の声が漏れる。
万力で締め付けられるに等しい圧力がクロードの前腕骨を破砕しにかかっているのだ。
「貴様っ!いったい何が望みだ!」
男は少し笑うとこの上ない邪悪な笑みを浮かべてこういった。
「まぁ心配するなよ、お前が大事に大事に育てた花は俺が摘み取ってやる。なんならお前の墓前で犯してやろうかあのお嬢さんをよ」
クロードは目の前の男を誤解していたことに気付く。
この男は組の復興などという大それたことを行う人間ではない。
金を手に入れる、女を手に入れる―――そういった俗物的な願いしか持たない「小物」だ。
そして経験上、彼は「小物」が強大な力を持ったときにどれほど厄介な存在になるかということを知っていた。
「まぁ天国から見守ってくれよ。自分の親ともいえる存在を殺した相手に手籠めにされる瞬間をよ」
「貴様ァ!!!」
男に向かってデザートイーグルが神がかかり的な早打ちが放たれるが寸前で手首ごとへし折られ、弾丸はあらぬ方向へと放たれてしまう。
「チッ、この国で銃≪チャカ≫なんぞぶっ放すんじゃねぇよ、長居はできねぇな」
「ビーハイブを敵に回すぞ?」
「いっただろお前を殺すのはコイツらだよ」
男が取り出したのは集英組の金バッジと日本刀
「じゃあな」
クロードが最後に見たのは目の前に迫る拳だった。
「終わりましたか、若」
虎が背後から出てくる。
「ああ、さすがに強いもんだな」
負けていてもおかしくなかった。
「これはなかなかひどいですね」
総司の全力での拳を顔面に振りぬかれたのだ、吹き飛んだ男の顔面は見るも無残なことになっている。
「超質量の物体と高速でぶつかると硬組織だけが破壊されるといいますが――――」
「そんな難しいことはいい、じきに警察≪サツ≫が来る」
総司はそういって死体の心臓に日本刀を突き立てた。
「こいつは抗争の時に手に入れた集英組のだからな。さて明日の新聞が楽しみだ。こ」
そういって2つの影は闇にと溶けて行った。
クロードがいるとヒロイン勢に手が出せないためメタ的な事情でご退場
エロはもう少し先です。