次の日、集英組は緊迫した空気に包まれていた。
今朝発覚したビーハイブ幹部の暗殺事件。
集英組の幹部たち、そして次期組長の一条楽らが集まって会合を開いていた。
「俺たちはやってません!」
「竜――――」
警察の調べで犯行現場に残されていたのが集英組のバッジと日本刀。
ビーハイブは非常事態を宣言し、現状にらみ合いが続いている。
「ああ、ウチ≪集英組≫じゃない」
集英組の組長は沈痛な面持ちでそういった。
「ですが―――」
若頭の竜はなおも食い下がる。
「じゃが、状況証拠からいってビーハイブはこちらを疑わずにはいられまい」
「いったい、どこのどいつがこんなことを!」
楽が畳に拳をたたきつける。
彼はまだ一線を超えていない一般人であり、殺人や暗殺などというもには免疫がない。
「集英組を陥ようとしているのは確かなようじゃな。アーデルトもバカじゃない、漁夫の利の可能性には当然気づいているだろう」
「しかし殺られたのはビーハイブ最強のヒットマンですよ?」
「そう、それこそが証拠よ。犯行は単独犯、ウチにはあの男とタイマンを張って殺しきれる人物はおらん。いずれにせよ―――しばらくは間をあけるしかあるまい」
「うわああああああん!」
大声で泣き叫んでいるのは千棘。
幼いころから側にいた人物が殺されたことは彼女にとってあまりに大きい喪失だった。
「―――――」
ビーハイブの邸宅の中は物々しい雰囲気に包まれている。
長の一言で全面抗争に発展しかねないほどに。
「みんな落ち着いてほしい」
ビーハイブのドン、アーデルトは皆に自制を求めた。
中には我先に集英組を攻撃しようとする輩さえいる。
「まだ調査中だが、あれが集英組の手によるものとは決まったわけじゃない」
「しかし―――」
千棘は涙を流しながら言い争いが続く広間を後にして外へと飛び出していった。
本来彼女は厳重にガードがつくのだが手が回っていない。
クロードが死に、彼女のボディーガードにつける予定の人物はまだ来日していない。
「バカ。死ぬなんて―――――」
1人街を彷徨う千棘。そんな彼女の前に数人の人間が立ちふさがる。
「ッチ!あんたたち」
先日、彼女をナンパした男たちだった。
内一人はギプスをつけていたが。
「よう嬢ちゃん、今日は一人らしいな」
「私は今機嫌が悪いの、邪魔するしないで」
凄まじい眼光に僅かに怖気ずく不良たちだが数にものをいわせて千棘を取り囲んでいく。
「このっ!」
耐え切れなくなった千棘が殴りかかるがすぐさま数人が抑えにかかる
「やめ!触らないでよ!むぐっ!ん――――!!」
「おい、早く乗せろ!」
少女を乗せたワゴン車は走り去っていった。
ビーハイブも集英組も大きく揺れていた。
この瞬間を狙っているものがいることには気づかずに。
「彼らは上手くやったようですね」
「後処理は頼んだぞ虎」
人気のない廃工場に連れてこられた千棘は手足を鉄棒に縛られていた。
男たちの目には狂気と欲望の色がありありと見てとれ、この後彼女がどういった運命をたどるかは想像にがたくない。
(家の名前を出すのは好きじゃないけど)
「ちょっと!あんたたち私はビーハイブの人間よ!こんなことして―――」
「うるせぇ!知らねぇんだよそんなことはよ!」
ギプスをした男がドラム缶を蹴飛ばして大声を上げる。
その暴の前に千棘は口を噤んでしまう。
「安心しな、大人しくしてれば命は助けてやるからよ」
「兄貴、さ、最初は俺にやらせてくれよ!俺もう我慢の限界だぜ!」
「いや、ここは俺だぜ。金髪のマンコなんて初めてだからな!たっぷりと種付けしてやる!」
「ハハハッ!じゃあ誰が最初に孕ませるか勝負しようぜ!」
男たちの会話を聞くにつれて千棘の顔が青ざめていく。
「いやぁああああ」
千棘の服が剥ぎ取られ、その下の下着が、艶のある肌が露わになっていく。
男たちはそれをみると息を荒くしてその肌へと触れていくのだった。
「おっと写真写真」
男が千棘の写真を何枚もとっていく。
おそらく脅しにでも使う気なのだろうと千棘は思った。
仮にそうしたとしてもビーハイブにばれれば彼らは地球上には存在できないだろうに。
「はぁ~嬢ちゃんきれいな肌だなぁ」
千棘の足に頬を擦り付けながら不良の一人がその肌をなめまわす。
あまりの不快感に暴れるが手足の拘束は緩んではくれない。
「もしかして処女じゃねぇの?」
「まじかよ!たまんねぇな!」
いつも助けてくれていた。見守ってくれていたあの人はいない。
(助けて―――助けてよクロード―――)
「おっ、学生証はっけーん!千棘ちゃんかかわいいねー」
「おいっ、カメラ回ってるか?」
「じゃあこれから千棘ちゃんの処女喪失式をはじめまーす!」
そういって一人の男は下半身を露わにして千棘に覆いかぶさってきた。
涙を流し光を失う千棘の瞳。
「助けて――――」
瞬間、不良の体がくの字に曲がって吹き飛ぶ。
突如視界が開けた千棘はそこに立った一人の男を見た。
「大丈夫かよ千棘」
「どうして―――?」
「だってって、おまえ、ほら、あれだ、友達だろう?」
そういわれると千棘の目から涙がこぼれ落ちてくる。
「だから泣くなよ、すぐ終わる」
そういって男は不良たちへと向き直る。
1人はすでに息も絶え絶えであり、残りは4人。
「なんであんたが!あんたがこの情―――――」
先日、男に腕をへし折られた男が弁解をしようとした矢先、首を180度逆向きに回されてて崩れ落ちる。
彼らはクロードのような強者でもないただの雑食獣だ。
肉食を気取っているただの草食獣。
ゆえにこのような殺意にまみれた本当の暴力は知らない。
残りの3人は言葉すら残せずに四肢を砕かれて床へ這いつくばることになった。
(後始末は虎に任せているし問題はないな)
そういって地面に落ちたカメラから男はメモリーカードを抜き取る。
地面に這いつくばり、まだ意識のあった不良の一人はそのときの彼の顔を見て悪鬼という言葉を連想した。
「千棘大丈夫か!」
そんな表情を消し去り、善人の皮を被りなおして千棘の拘束を外す。
「ううっぐすっ!」
「あとその恰好は目に毒だ」
半裸ともいえる千棘に向かって男は上着を渡す。
「クロードがいればこんなことなかったのに―――私は許さない―――絶対に」
(腐ってもマフィアの娘だねぇ)
「千棘、クロードさんがいなくなっても俺が君を守るよ。ボディーガードになる。だから君からもお父さんに話してくれないかな」
頷く千棘に満足そうな笑みを浮かべる男。
「でも私、誰にも言わずに外に出たのに―――どうしてわかったの?」
一瞬だけ、ほんの一瞬、男の表情が硬直する。
そして男は恥ずかしそうに頬を掻きながら言った。
「ずっと見てたからだよ千棘のことを」
これは毒なのだ。
喪失という隙間をついて入ってくる猛毒。
彼女がもし、恋愛経験豊富ならばそれに毒されることはなかっかもしれない。
だが彼女はそんな蜘蛛の巣にまんまと捕まってしまった。
「千棘が好きだから」
突然の告白に呆然とする千棘。
「なっ!」
茹蛸のように顔が真っ赤に染まりうつむいてしまう。
だが男からは耳までもが紅潮しているのが見て取れた。
そんな彼女を男は強引に抱きしめる。
「ふにゃ――――!!!」
猫のような声をだす千棘だがお構いなしに密着する。
「千棘?返事は?」
「いや、でも、パパが―――」
「君の家のことは知ってる。僕は君がどこの誰であろうと構わない。千棘の返事が聞きたいんだ」
「お―――ね―――ガイシマス」
そういって少女は男の胸元に顔をうずめた。
限界を超えたのか少女はそのまま寝息を立ててしまった。
そんな彼女の感触をを舌なめずりしながら堪能している男の本性には気づかぬまま。