「……なるほど、同人誌」
「はい」
「私たちの世界でアトラスがデュエルモンスターズという作品に登場するキャラクターのモチーフだったように、私たちはこの世界では戦姫絶唱シンフォギアという作品に登場するヒロインのモチーフであり、この同人誌はそれらキャラクターファンの個人雑誌であると」
「はい」
「そしてアトラスはイチャラブが好きだけど、世に出ている同人誌はイチャラブでなかったり同性愛物が多く、特に私や暁、月読はその傾向が強いため数が変わったのだと。決して、巨、乳、好き、のせいではない。決、し、て、それが、原因ではない、と」
「いやそれはその…はい」
反射的に否定しそうになるが、ギロリと睨み付けられて彼は慌てて目を逸らして首を縦に振った。
キャラクターの好みで言えば、どちらかと言えばマリア、クリス寄りなのは事実。実際のところ、この手の本やDVD、VHSという物はあくまでも自分が使えるかどうかに焦点が置かれる為、この手の物で数が多いということはその物の性癖に直結する。
実際のところクリスやマリアの同人誌の数が多いのは彼が巨乳好きという性癖の持ち主であるが故であるが、この場でそれを素直に話した場合、きっと彼のレッド・デーモンが/バスターになること間違いなしの為、つっかえながらもブンブンと頷く。
「あの、そろそろ正座を崩しても――」
「まだこちらの質問が終わっていないぞ!!」
「はい!!」
翼の一喝で背筋をピンッと伸ばす遊吾。
「その、だな…」
「はい」
「その……」
突然しおらしくなってしまう翼。
先程までの勢いはどこへ消えてしまったのか、背筋を正して彼女をジッと見つめる遊吾の視線から逃げるように視線をさ迷わせて、あー、うー、と頬を赤く染めて小さく唸る。
「えーっと、言いづらいことならその、別に言わなくてもいいんだが…」
「そうはいかないっ! こ、これは後学のためにも絶対に聞かなければならないのだ…ッ」
一体何が彼女をそこまで動かすのか。キュッと口元を結んだ彼女は目をつむると大きく深呼吸を繰り返す。
尋常ではない彼女の姿に彼も改めて姿勢をただしてしまう。
じっとりとした嫌にまとわりつく雰囲気が二人を包み込む。一体何を言われるのか。もしや絶交…と浮かび上がる絶望を生唾と共に胸に下ろす遊吾。
五秒、十秒、二十秒、壁にかけられた時計の秒針が耳元で鳴り響き、彼の額を汗が流れる。
早くッ! 早くこの拷問を止めてくれッ!! 重すぎる状況と沈黙が彼の精神を掻きむしり、よもや叫んでしまおうかとすら考え始めたとき、彼女が動いた。
カッと目を見開いた翼は迷い無い足取りで机の前に立つと、三冊の本を持って彼の前に座り直す。そして徐に五冊の本を開いたかと思えば彼の前に叩き付けた。
「お前はこういうのが好きなのかッ!!」
「うげっ!? ごほっ、あがっ、いや、まっ」
「どうなんだ!!」
――なんだこの羞恥プレイはッッ!? 死ねと、死ねと申すか!? 俺はマゾヒストじゃねえんだぞ!?
彼女が叩き付けた五冊の本、そのシチュエーションと体位はバラバラであるが、一つの共通点があった。
雪のような白い肌が眩しい爆乳に己の肉棒を挟み込まれ、がんばれ、がんばれ、と優しく射精に導かれている男に、聖母の胸に赤子のように甘え吸い付き、優しく肉棒をしごかれて射精する男。黒髪の少女の手の中に射精して、いっぱいでましたね、と褒められる男。茶髪の女の子の胸に顔を埋めてよしよしと頭を撫でられながら射精する男。そして歌姫の胸に抱かれながら肉付きの良い太腿に思い切り射精しながら褒められる男。
どれもが女性上位のシチュエーションであり、男性が女性に甘やかされ蕩けさせられていた。
「やっぱり、そうなのか?」
「いや、その、これはですね、えっと…」
年上の女性に性癖を曝される。その筋の者からすればご褒美のような状況なのかもしれないが、特別被虐趣味というわけではない遊吾からすればこの状況は、永続魔法拷問部屋の効果によって小さなバーンダメージが蓄積されていくような、そんな苦しみ高揚してしまうような状況なのである。
しかし、実際のところ彼はこうした女性に甘えるシチュエーションが大好きである。無論、SMやTSFなども問題なくいけるが、一番好きなはは甘々トロトロなイチャㇻブであったり、先の同人誌のような女性に思い切り甘えてお世話してもらうようなシチュエーションである。
言葉にして認めるだけならばこれほど簡単なことは無い。開き直ってしまって、そうだ! 俺はこういう赤ちゃんプレイみたいなのが好きなんだ! 好きで何が悪い!! と叫んでしまえばいいのだ。だが、彼は仮にも齢十何歳。思春期真っ盛りの少年であり、一端の男としてのプライドだってある。流石に好意的な女性に対して自ら進んで性癖を曝していくなんて出来るはずもなかった。
――絶対に開き直らない。こうなったら全力で抵抗してやるッ!!
「…ならお前は好きでも無いものを何度も何度も執拗に、嬲るように見るのか」
「どんな見方だよ!? 確かに好きだから何度も見てるけどそんなに変な感じに見てな――あ」
「ほう? つまりお前はこういうものが好きだと?」
うぉぉ…と唸り声をあげて頭を抱えてしまう遊吾。
まさか自分で決意した瞬間に言質を取られてしまうとは。迂闊すぎる自分の口に頭を抱えつつ、彼は耳まで真っ赤にして悶える。
頭を抱えて蹲る遊吾。そんな彼を見て翼は言いようのない昂揚感を覚えていた。
思えば、彼と出会ってからもう数年ほど経つが、それだけ関わってきても彼がこうして羞恥で悶えるような状況は中々無かった。ほとんどの場合はクリスが悶えるか、クリスが恥ずかしがるか、クリスが悶絶するだけで、彼は誰かを恥ずかしがらせる原因を作ることはあってもこうして矛先となることを上手く避けていたように思う。
いや、避けていた、というより普段あまり羞恥心と言うものを意識していないのだろう。彼にとって自分の発言は常に本心であり、決闘とは心と心をぶつけあうモノ。対して自分たちは心を曝すことに戸惑いと羞恥を覚えてしまう。そうした文化の違いが
だが、今現在彼は羞恥で耳まで真っ赤にし、穴があったら入りたいと言わんばかりに蹲っている。身体を震わせながら何かをブツブツと呟くその姿はどこか小動物を思わせる。
大胆不敵、猪突猛進を地で行く彼のそんな姿に、翼は言い得ぬ感覚を覚えてブルリと背筋を震わせた。
「遊吾?」
「ぉぉぉ…殺せぇ…サレンダーは恥、一思いにやれぇ…」
ゆっくりと彼に近づいて声をかけるが、彼は頭を抱えて悶えるばかりで彼女の方を見ようともしない。
口元を柔らかく緩めた彼女は肌が触れるくらいまで彼に近づくと、彼の頭にそっと手を置いた。
「遊吾」
「つ、つば、さ?」
頭に置かれた温もりに顔を上げる遊吾。
彼の顔はリンゴのように赤くなり、勝気な眉はハの字に下がっていつも強い輝きを放つ瞳はほんの少し涙に濡れていた。
そんな彼の情けない表情にゾクゾクと背筋を稲妻が奔り、口の中に唾が溢れる。
ごくりっ、と唾を呑み込んだ翼は、ふふっ、と穏やかに微笑むと彼の身体をそっと包み込んだ。
「何も虐めようという訳ではない。ただ私はアトラスのことが知りたいのだ」
「翼…」
だから話してほしい。耳元で囁かれ、彼の心が一気に緩む。
「…その、俺って母親居ないだろ?」
「ああ」
「で、親父は親父だし、俺もずっと決闘ばかりで休む間もなくてさ」
サテライトという過酷な環境で生き残ってきた彼。そんな彼にとって生きてきた日々は戦いそのものであり、義父であるジャック・アトラスに引き取られてからは決闘者という辛く厳しい世界に身を置くこととなる。
そんな彼にとって母性というものは憧れのようなものであり、包み込むような優しさは夢なのだ。
「だから優しくできるなら甘やかしたいし甘えたいとも思ってるんだ」
「そうか」
ある意味、その体現が彼と立花響、小日向未来の三人の関係なのだろう。
友人と呼ぶには近すぎるし、家族と呼ぶには遠い。共に依存する形ではあるが甘え、甘やかすものの締めるところはしっかりと締める。
「その中に、私は入ってるのか?」
「中って、甘やかす? そりゃまあ、別に誰が誰とか際限儲けてるわけじゃないしな」
寧ろ翼には甘えさせてもらってばかりなんだけど、と彼は渋い顔をする。
こうして色々付き合ってもらっていることもあるし、家の家事を任せてもらうし物を置かせてもらっている。彼女の実家からは戸籍や自宅を提供してもらっているし、あっちの世界での自由な行動を約束されている。
果ては、関係各所から彼女やマリアのライヴイベントのチケットを優遇してもらうことだってある。
それに対して自分が行えることは、災害救助の支援であったり、デュエルモンスターズや仮想立体映像の普及程度。
「そうだろうか。それなら私の方がずっとアトラスに甘えているのだがな」
「そうか?」
「そうだ」
家に帰れば彼が居てくれる。暗く冷たい部屋の中、一人冷たい弁当を食べるわけではなく、暖かい光の中で二人で食卓を囲む喜び。それはマンションへ戻ってからも同じだ。
部屋の掃除すら任せっきりで、ここのところ家事というものをしたことが無い。
そう考えると、彼に甘えるのを止めるために彼の家から帰ってきたというのに、ほんの数ヵ月で彼の家に居るときと同じような生活になってしまっているではないか。
「少し情けないな…」
「情けないくらいで丁度よくないか?」
だって、翼格好良すぎだし、と彼女に笑いかける遊吾。
彼の言葉に、そうだろうか? と首を傾げると、彼はうんうんと頷きながら言った。
「ステージに立ってる翼がどんくらい凄いか分かるか? 親父みたいだぞ?」
人差し指を天高く掲げ、己こそが王者であると高らかに宣言する義父と、マイクを高らかに掲げて会場に呼びかける翼。
ステージに立つ彼女の輝きは、彼が憧れてやまない彼の義父と同じか、それ以上に光輝いて見える。
人々を魅了して止まない光。何よりもその輝きは誰かを笑顔にし、勇気づけることのできる魔法のようなものだ。
決闘王者のように分かりやすい称号は存在していないが、音楽評論家などの話の中で歴史に名を残す歌姫たちと並んで評価されていることを考えると、このままいけばいずれ○○の歌姫などと呼ばれる日もそう遠くは無いだろう。
「ふふ、一人の女子としては複雑だな」
「あくまでも親父みたいってだけであって、むしろ凄さだけなら翼の方が――」
凄い、そう形作りそうになった唇を彼女の柔らかな指がそっと抑える。
「アトラス、そう言ってくれるのは嬉しいがジャック・アトラスはお前の憧れなのだろう? なら、そんなことを言うな」
「…ごめん」
自分がどれだけジャック・アトラスに憧れているか、それは普段の格好や決闘者の魂であるデッキを彼をモチーフにしている時点で察せられる。
正しく彼の人生と言っても過言ではなかった決闘王者。そんな彼と自分を同じように想ってくれるのは嬉しいが、だからと言って自分を励ますために憧れをわざと悪く言う必要は無い。
「でも、ありがとう。凄く嬉しい」
頬を桃に染め、ふわりと微笑む翼。彼女の微笑みを至近距離で見た彼は、恥ずかしさと嬉しさでついつい視線を下に下げてしまう。
「ところでアトラス。少しいいか?」
「なんだ」
視線を下げたまま顔を見ようとしない彼を見て、彼女は仕方がないと言うようにわざと大きく身を揺らして姿勢を正した。
「先程から胸に穴が開きそうなほど熱い視線を感じるのだが、何か知らないか?」
「わりぃ、今大和撫子は本当に着物の下に何も着ないのかってのを真剣に考察中だから良く分かんねぇわ」
やはりそうか。彼の頭頂部に手刀を叩き落す翼。その攻撃を受けて、いてっ!? と頭を擦りながら彼は抗議するように視線をあげた。
「何しやがる!?」
「何しやがる、じゃないだろう」
まったく、と頬を染めつつ呟く翼。
帯を緩く締めていたせいで彼女の胸元は今や大きく肌蹴ており、鎖骨や薄らと浮かぶ胸骨に、ツンと上を向いた胸が頂点ギリギリまで見えてしまっている状態であった。
「この変態め」
「着物を直そうともしない痴女が言えることじゃねえだろ」
着物の影となって微かに見えない胸の頂点についつい視線が吸い寄せられてしまう遊吾。
二人して悪態吐きながらくすくすと笑い合っていると、翼がその身をゆっくりと彼にしなだれかからせた。
「ところでアトラス、日本には据え膳食わぬは男の恥、という言葉があってな?」
「うわぁ、本格的に変態だよこの人。流石の俺もドン引きですわ」
猫のように胸元に頬を擦り付け着物を崩しながら上目遣いに彼を見る翼。そんな彼女に視線を吸い寄せられながらも彼は理性を失うこと無く、うわーうわー、と煽るように言葉を放つ。
そんな彼に対して彼女がとった行動は――
「うぁ!?」
「ほう? ここをこんなに大きくしてる奴がよく言えたものだな?」
彼女のしなやかな指先が膨らんだ股間を的確に擦る。
ズボンとパンツ、二つの布越しでありながら彼女の指使いは的確に彼の急所を突き、彼は股間と身体をビクッと跳ねさせる。
「ふふっ、なんだ? 気持ちいいのか?」
「翼おまっ」
「どうした? お前なら私を退けることなんて容易いはずだぞ?」
人差し指と中指で同じ箇所をくすぐってやれば、彼は面白いように顔を歪ませて呻き声をあげる。
情けない表情を晒す彼に彼女は言い得ぬ快感を覚え表情を蕩けさせる。気づけば指先だけだったはずの手遣いは彼の肉棒をズボン越しにがっしりと鷲掴みにして本格的な愛撫に変化していた。
「ガチガチだ…どうしたんだ? 雪音やマリアのような巨乳が好みじゃなかったのか?」
「いや、それ、はっ…」
彼女が股間を握っていないほうの手で胸元をゆらゆらと揺らす。そうすれば当然着物の影が揺らぎ、隠された頂の微かな肌色が見え隠れする。
彼の視線は自然とそこに固定されてしまい、その見えるのに見えないと言う状況は興奮となって彼の股間は更に硬度を増していく。
ビクビクと股間を震わせて情けない声をあげる遊吾。そんな彼の姿を見て翼は、身体が芯からポッと熱くなるのを感じた。
その熱量はそのまま衝動となり彼女の身体を突き動かす。
「こんな、服越しでも分かるくらい熱い…ビクビクさせて…とんだ暴れん棒だな」
「つ、つば、マジで……」
「ん、なんだもう出そうなのか。この聞かん棒め…」
普段では考えられない翼の様子に戸惑う遊吾だが、彼もまた彼女のようにこの状況に異常なまでの興奮を覚えていた。
憎からず思っている年上の女性に責められズボン越しに肉棒を扱かれる。服越しに感じる彼女の手の柔らかさと熱量は彼の全身の血液を沸騰させ、稲妻が背中を通り抜ける。
だが、そんな狂ってしまいそうな快楽の中で尚、今の状況を良しとせずどうにか射精せまいとする理性が彼にはあった。
歯を食いしばり目を瞑り、身体の至るところに力を入れてこみあげてくる衝動を抑え込む遊吾。彼の姿を見た翼は口元を三日月のように釣り上げると抱き付くように姿勢を変えて、グッと肉棒を握る力を強め上下に激しく扱き始める。
これは堪ったモノではない。服越しでありながらまるで実際に肉棒を扱かれているような感触に彼の肉棒から透明な液体が迸る。腰の上までせり上がってきた熱量。脳内で熱を解き放とうと誰かが叫ぶ。だが、耐える。口の端から涎が垂れることすら構わず彼は歯を食いしばって必死に耐える。
全身を岩のようにして必死に耐える彼だが、その身体にふわりと柔らかい物が覆い被さり、甘く芳しい香りと共に耳元に生暖かい吐息が吹きかけられる。
「出して」
たった三文字。たった三文字の言葉で彼の理性が決壊した。
うあぁぁぁ…。一気に身体がし、身体の奥底で眠っていたマグマが開放を求めて荒れ狂う。
全身を狂ったように跳ねさせながらパンツの中に白濁液を吐きだす彼。今まで我慢してきた分が全て放出されているのだろう。数十回と肉棒が跳ね、彼が力尽きて倒れる頃にはズボンの中には言いようのないねっとりとした感触と、表現しようのない独特な臭いが漂っていた。
「一杯出たね」
倒れた遊吾の頭をそっと太腿に置いた翼が微笑みながら彼の頭を撫でる。
枝毛と言うには強すぎる彼のツンツンした髪の感触を楽しんでいると、ようやく意識を取り戻したらしい彼が息も絶え絶えに彼女に尋ねた。
「なん、で…こんなこと」
「…なんで、か」
少し泣きそうな彼の表情に翼は目を瞑って考える。
どうして自分がこのような行動をしたのか。それは性欲に物を言わせたわけではない。確かに衝動的ではあるが彼女には彼と共にありたいと考える想いがあった。
彼女の中にこの感情が芽生えたのがいつだったかは自身でも定かではない。だが、それでも彼と共にありたいと思うようになるにつれ、彼女の心には一つの不安が芽生えていた。
それが、彼と絆を育んでいる立花響と小日向未来の存在。そして、共に戦う仲間である、雪音クリスやマリア・カデンツァヴナ・イヴ。彼女たちは翼には無い絆を持っていて、彼はその絆から離れることが出来ない。しかも、彼女たちは皆同性の自分から見てもとても魅力的であった。
ちらり、と彼女は床に散らばった同人誌を見る。そこにあるのは決して彼女たちではない。だが、確かに翼は彼女たちのそういう姿を幻視してしまったのだ。
そう、この感情を言い表すのであれば――
「嫉妬、か」
「…しっと? いや、いくらなんでも――」
彼の唇をそっと抑えて彼女は囁く。
「剣であり、歌姫。だけど、私だって女なのよ?」
「…そう、か」
目を瞑り大きく息を吐く遊吾。とりあえず服を着替えて風呂に入りなおそう。追い炊きをすればまだ使えるはずだ。そう思い起き上がろうとした彼の頭を彼女が抑える。
「ところでアトラス。風呂に入ってきた方がいいと思うんだ」
「そりゃパンツの中グチョグチョだし――って、え?」
ほら、立って立って。急かす翼に背中を押され彼は彼女に勧められるまま一階に降りていくのであった。
※※※※※※
「ん、ふぅ…どうだ?」
「ど、どうて、なにが?」
「気持ちいい?」
「あ、はい…その、結構なお手前で…」
「ふふっ、そうか」
俺は今どこに居るのだろうか?
遊吾は背中に感じる柔らかい温もりに、生涯十数年の歴史の中で最も幸福感を覚えながらも同時にあまりにも現実味の無いふわふわした感覚に少し頭をボーっとさせてそう考えていた。
パンツの中での盛大な射精の後、言われるがままされるがままに服を脱がされ浴室に押し込まれた彼は、同じように裸になった翼の手によって、いつの間にか準備されていたエアマットに押し倒されて背中を丹念に洗われていた。
「これ親父が買ってたエアマットだよな…」
「ああ、倉庫に置いてあったから使えるかなととっておいたんだ。他にも色々使えそうなものがあったぞ」
「いつの間にか俺ん家の物が持ってかれてる!?」
「今後もお世話になるんだったら家具の配置くらい覚えておかなくてはな」
「え、今後もあるんですか」
「ないと思っていたのか?」
柔らかい胸が背中で潰れ、しなやかな筋肉が表皮を滑る。その艶めかしい感触に身を固めてしまう。そんな彼の反応を見て唇をちろっと舐めた翼が器用に彼の腰に手を回し、硬くそそり立った彼の肉棒を鷲掴みにする。
「ぐっ!?」
「ここはしっかりと洗ってやらないとな?」
マットがギュムギュムと音をたて、彼女の泡立てた五指がクチュクチュと膨らんだ亀頭を丁寧に擦る。
耳から入り込む脳が蕩けそうな声に無意識のうちに腰を浮かしてしまう遊吾。
腰が浮かされたことでマットと密着していた肉棒が自由になり、彼女は亀頭だけでなく彼の肉棒全体を擦り始めた。
その手つきは恐ろしく正確だ。柔らかくもしっかりと、敏感な肉棒が痛くないように優しくもしっかりと彼が感じるような絶妙な力加減でじっくりと手を馴染ませる。
「痒いところはない?」
「あ、くっ…い、いや…」
「そうか」
裏筋を爪で擦られ腰がビクンと跳ねる。
クスクスと彼の耳を擽る彼女の声。甘い吐息が彼の耳を侵し徐々に彼の呼吸が浅くなる。
「ん、もう出そうなのか? いいよ、私の手でイッて、ね…」
「ぐぅっ……ま、それは――」
彼の限界を察した翼が一気に手の動きを変える。
洗うような上下運動から搾り取るような螺旋運動に。蛇のように肉棒に絡み付く五指が竿を搾るように捻りを加えた上下運動を繰り返し、亀頭に絡み付いた手が鈴口を擦りカリに絡み付く。
敏感な亀頭を中心にした快感は稲妻となって脊髄を駆け抜け、彼の視界で火花が散った。
「はっ、あっ!」
「すごい熱いっ、出すの? いいよ、私の手の中にいっぱいっ!!」
「ぐっ、あっ…っ……」
腰に溜まった熱量が噴き出す。
肉棒が跳ねる度に膨大な量の白濁液が勢いよく吐き出され続け、鈴口を抑えていた彼女の手を染め上げてマットに水溜まりをつくりあげる。
「くっ…ふぅ……」
「すごい…あついのが、こんなに……」
射精が収まってなおビクビクと痙攣する肉棒。彼は大きく呼吸を整えて気持ちの整理をしようとする。
「また汚れてしまったな…」
「誰のせいだと思ってんだ…」
どこか嬉しそうに手にへばりついた白濁液を弄ぶ彼女にうらめしそうな視線を向ける彼。
そんな視線に目を細めた彼女はシャワーを使って自分の手とマットを浄めながら彼に尋ねた。
「アトラス、どうだった?」
「…なにが」
マットに胡座をかいた彼は不貞腐れたように視線を下に向ける。
だが、彼の視線と違って彼の逸物は今だ硬度を保っており、まるでもっといじってほしいと言わんばかりにビクビクと勃起を保っている。
それを見た翼は好奇心の赴くがままに無造作に彼の肉棒に手をのばした。
「うぉ!?」
「一度出したのにまだ元気だな。…男には賢者たいむ、というのがあるのではないのか?」
気づけばまた搾り取るようにぬちょぬちょと手を動かし始めた翼の腕を慌てて止めつつ彼は視線をあらぬ方向に動かしながら言う。
「まあその、それはそうなんだけど翼が、その…」
「ん、私がなんだ?」
「その……すっげぇエロくて気持ちよくて治まらないと言うか、もう一度――いやいやいや、違う違うちょっと待ってくれ!」
「ほう?」
ついうっかり本音を漏らしてしまったらしく慌てて手と首を振って言葉を否定しようとするが、それを聞いた翼はニヤリと笑みを浮かべると彼の首に腕を回して耳元で囁いた。
「また汚れてしまったからもっと綺麗にしないと、そう思わない?」
もっと綺麗に、その言葉は耳の中でもっと気持ちいいという言葉に変換され彼の脳全体に浸透していく。
ごくりと生唾を飲むと同時に期待で肉棒がビクッと跳ねる。
期待が表情に出てしまったらしく、彼の顔をみてクスリと妖艶に微笑んだ彼女はゆっくりと彼の胸に体重をかける。
ゆっくりと押し倒された彼の胸に手を置き、腹の上に女の子座りする翼を見上げ彼は思わずため息を吐いた。
すらりと伸びた四肢にツンと上を向き存在感を放つ鐘型の胸。たゆまない鍛練と戦いの中で鍛え上げられた筋肉は彼女の肢体に力強さとしなやかさを与え、胸と彼の腹を圧迫する尻肉と太股が、波紋のように彼女の女性としての柔らかさを際立たせる。
芸術と呼ぶには力強く、他の言葉で言い表すには美しすぎる肉体。それはまるで――
「剣、いや、刀?」
「どうしたんだ、アトラス?」
惚けたように言葉を漏らす遊吾に首をかしげる。
「いや、翼ってやっぱり凄い綺麗だなって」
「そ、そんなことを言うな。恥ずかしいだろう」
本心から言っていることがよく分かるしみじみとした口調に頬を染めて身を捩る翼。
これまで色々致してしまっているが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしいのだろう。擽ったそうに身を捩っていた翼はしかし、ふと何かに気づいたように身体を停止させるとずいっと彼に顔を寄せる。
「そういうこと、皆に言っているのだろう?」
「そういうことって…綺麗だとか何とか?」
こくりと頷く翼に、そりゃまあ、と何を当然のことをと言うような表情で彼が答える。
例えば響や未来などの幼馴染組は綺麗というよりは可愛い、というタイプの容姿をしているし、クリスは綺麗、というよりは可憐。切歌と調はタイプこそ違うがこちらもどちらかと言えば可愛い、というタイプだ。調は将来綺麗のタイプに分類されるかもしれないが。
年長組、奏はどちらかと言えば綺麗、というより格好良い女性で、マリアも綺麗と言うよりは可愛いと言ったほうが良いだろう。セレナは可愛いほうだが、可愛いや綺麗よりもハツラツとした印象の方が大きい。
容姿の属性こそ違うが、彼女たちは皆世間一般的な女性と比べた場合、全員平均を上回る容姿をしている。その時点で容姿を褒めるのは当たり前のことであるし、彼女たちがめかしこんで居たなら褒めるのが普通だろう。
「前から思っていたが、アトラスにはタラシの才能があるな」
「タラシってヒデェなおい」
なぜそんな評価をされなければならないのか。実に遺憾である。憮然とした表情で彼女を見る遊吾に笑いかけながら彼女は腰を後ろにずらした。
「あっ」
「あんっ…ここをこんなにガチガチにして、そんな言葉を…本当に悪い奴だ」
尻の谷間にガチガチになった肉棒が食い込む。身体の一部とは思えないほど硬化し、火傷しそうな熱量を放つそれを谷間に擦り付けるようにゆっくりと腰を前につきだし前後にスライドさせる翼。
彼女の陰毛がジョリジョリと彼の肌を擦り、彼女が身体を前後させる度に適度な柔らかさと固さが彼の肉棒を捕らえて離さない。
「んっ、ふっ、どうだアトラス?」
「いやちょっと待て。凄く良いんだけど頼むから待ってくれ!」
何やら必死な様子に彼女は腰を止めて彼を見る。
「どうしたんだ?」
「その、ちょっと先端が、な?」
先端、といわれ首をかしげるが直ぐに言いたいことに気がついて彼女はなるほどと頷いた。
腰をつきだした状態で前後に動かせば、当然固さを保ち斜めにそそりたつ肉棒は彼女に突き刺さり、肌を滑っていく。
ならばこの場合突き刺さる場所はどこか。彼女は腰をくねらせて考える。
「おっ…こ、こら! 動かすな入ったらどうする!?」
「あ、そういうことか」
「わざとだろ、わざとだろテメェッ」
てへっ、と舌を出され、まあかわいいから許すと引き下がる遊吾。
これ以上冗談言ってても仕方がない。彼は呼吸を整えると腰をうごめかせる彼女の顔を見つめ直して。
「ここまでやっといて何だが、中は止めろ」
「んっ、何故だ? …私のほとは嫌か?」
「お前、こんなに射精させた奴に言う台詞じゃねえだろ」
彼の胸に顔を擦り付ける翼にため息を吐く。
「分かってる。私の身を案じているのだろう?」
「そりゃ翼の一番のファンだからな。仕事も安定してきて、これからもっともっと活躍できるってときに不安要素は持ちたくないだろ」
風鳴翼は歌姫である。
世界に羽ばたき歌を届ける、それが翼の夢のひとつであり、今その夢は叶いつつある状態だ。QueenOfMusic以降様々な仕事が入っているのがその証拠。芸能界という世界は厳しいがそれでも彼女は戦場に立ち日々戦っている。
だがしかし、そこで妊娠をしてしまえば話は別だ。妊娠してしまえば仕事はほとんど受けることは出来ないし、出産したとしてもそこからの復帰がある。
折角のチャンスを不意にさせるわけにはいかない。
「それに、責任もとれない立場でしたくはないし」
「責任?」
「ああ。子供を宿すってことはそれだけ色んな奴に負担を強いる。もちろん、避妊具を使えば気持ちいいことだけ出来るだろうけど今の俺の家にそんなものは無い」
一回や二回でそうなるってのはありえないと思うが絶対は無い。
もちろん、彼女とそういう関係を結ぶってことは彼にとっては嬉しいことだし出来ることなら関係を結んでもっと気持ちよくなりたいという気持ちはある。だが、だからといって彼女の将来を不意にしたくはない。
「そう、か…」
顔を伏く翼にそっと目を逸らす。
ここまでしておいてヘタレてしまうのはいけないかもしれないが、それでもこれだけは譲りたくない。
「ん? …アトラス、少し良いか?」
「んぁ? どうした」
「責任をとれる立場なら良いのか?」
「…………いや、違います」
責任がとれない立場だから、と彼はいったがそれは逆説的に言うならば、責任がとれる立場なら構わないということになる。
それを指摘された彼は物凄い冷や汗をかきながら目を逸らす。
確定だ。
「ん、ふふふ、そうかそうか。そっかぁ…」
「おいこらなにかんちがいしてんだ。べつに俺はその、そういう仲になりたいなんて一言も…」
「そういう仲? なんのことだ?」
「うぐっ……いや、その、それはだなぁ」
悪戯っぽく微笑む翼にボソボソと口の中で言葉を溢す遊吾。
一体いつからこんな意地悪になってしまったのか。先程からずっと上位に立たれてたじたじではあるが、せめてこれくらいは言わせてほしい。
「はぁ……風鳴翼さん」
「はい」
まさか、自分の人生でこんな言葉を言うことになるとは思ってもみなかった。
まるで限界ギリギリの、敗北寸前の状況でカードドローするときのような期待と不安で彼の唇が震える。
「お、俺と結婚を前っ、提に! 付き合ってください!!」
「はい」
クレイジーヤンデレドM決闘者とかいう新ジャンルを切り開いていく遊吾・アトラスとかいう決闘者。
話を書いていく度にどんどん性癖が増えていく遊吾の明日はどっちだ!