「い、一夏・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「い、一夏、まだ怒っているのか?」
「・・・・・・別に、怒ってなんてないから」
「か、顔が怖いぞ」
「もともとだ」
今は入学式翌日の朝八時。一年生寮の食堂だ。辺りを見回していても右を見ても左を見ても女子だ。職員まで全員女性なのだ(当然なわけだが)。
そして私は昨日から同室になった織斑一夏と一緒に同じテーブルで朝食を取っているのだが、朝からまともに会話が成立していない。
ちなみに私のメニューはご飯に納豆、鮭の切り身と味噌汁。ついでに浅漬けだ。結構おいしい。
一夏も私と同じメニューだ。やはり日本人なら朝食は白米に限る。パンはあれば食べるがどちらかというと米のほうがいい。しかしこの鮭はおいしい。塩見が程よく箸が進む。ご飯もふんわりほかほかだ。すばらしいと思う。
「一夏、この鮭はおいしいな」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
む、無視か。が、賛同するように一夏も鮭をつまんでいる。
まあ、原因は私なのだから仕方があるまい。
朝、私と一夏は同じ時間に起床した。一夏は始めは寝ぼけていたせいか最初はポケーとしていたが、時間が経つにつれ昨日のことを思い出したのか枕に顔を突っ込み足をバタバタして悶えていた。女々しいやつめ、お前はそれでも男なのか?・・・・・・今は女だったな、すまない。
そうして、今に至る。
「あ、あのときはすまなかった。ゆ、許してくれないか?」
「・・・・・・もういいよ。それに箒のせいじゃないことぐらいわかっているから」
「・・・・・・?どいうことだ」
「箒は私の首元から何か匂いがしなかった?」
「・・・・・・ああ、した。それがどうした?」
「それのせいなんだよ。箒がおかしな行動をしたのは」
「おかしなとは失礼な。とはいえそれはどういう意味だ?」
「ああ、それは・・・・・・」
簡単に説明すると誘拐されたときに打たれた薬の副作用で本来男性であった男性フェロモンが女性になっても出ていた。今は女性なので女性フェロモンのほうが強いがまじかで嗅がれたりすると私のようになったりする。
私以外にも千冬さんもなったりするらしい。一夏によるとくっつくことが頻繁だからということらしい。
「どう?納得した?」
「わかった。が、今後はどうするつもりだ?」
「箒が私の首元で嗅がなければ特には大丈夫なはずだよ」
「ああ、気をつける」
そんなことを話していると昨日の廊下のようにひそひそ話が聞こえてくる。
「ねえねえ、彼が噂の男の子だって~」
「何でも千冬お姉様の弟らしいわよ」
「えー、姉弟揃ってもIS操縦者かぁ。やっぱり彼も強いのかな?」
周りでは女子が一定の距離を保ちつつも『興味心身ですよ。でもがっつきませんよ』というむず痒い気配の包囲網。ちょっと困る。
「まあ、事情はわかったがそのふてくされた顔をするのは何とかならないのか」
「誰のせいだ、誰の」
「そんな顔をするな。みんな気にするであろうが」
「・・・・・・別に、もともとだ」
確か一夏は私より頑固だったような気がする。どうすればいいだろうか。
そう思っていたら朝食トレーを持った女子三名、一夏の反応を待ちわびるかの如く立っていた。
「お、織斑君、隣いいかな?」
「ん?ああ、いいよ」
一夏がそう言うと三人のうち声をかけてきた女子は安堵のため息を漏らし、後ろの二人は小さくガッツポーズをしている。周囲から何か妙なざわめきが聞こえた。
「ああ~っ、私も早く声をかけおけばよかった・・・・・・」
「昨日のうちに部屋に押しかけた子もいるって話だよ!」
「なんですって!?」
・・・・・・ああ、そういえばそうだったな。一年生が八名、二年生が十五名、三年が二十一名といった大人数が一夏に会いにきていたな。生憎一夏は寝ていたためお引取り願ったがな。
結構面倒だったな。
ちなみに三人組みはすでにどう座るのか手打ち済みなのか、非常にスムーズに席に着いた。六人掛けのテーブル。その窓側に私と一夏。空いている席が三つ埋まる。残り一つ。私としては埋まらないで欲しい。
「うわ、織斑君って以外に小食派なんだね」
「だからそんなに細いんだ」
「私は少しだけでもたくさん動けるから」
何故お前は女子の敵みたいな身体の作りをしているんだ。嫌味か、嫌味なのか!?
「そういうみんなも朝はそれだけしか食べないのか?」
三人組は、それぞれトレーの上のメニューこそ違うが、飲み物いっぱいにパン一枚、おかずが一皿(しかも少なめ)だった。
「わ、私たちは、ねえ?」
「う、うん。平気かなっ?」
まあ、至極当然の反応だろう。一夏は感心そうに聞いている。・・・・・・お前はやっぱり女の敵だ。
「お菓子はよく食べるしー」
・・・・・・ダメではないかそれでは?
そんなことを考えつつどうしたら一夏が機嫌がよくなるか考え出した。今後とも必要だと思ったからである。
そうしたらふと、思い出したことがある。
あれは中学の時、姉さんがいきなり電話してきて(特に用事はない)一夏について話していた。
『あのね、わたしがいっくん。って呼ぶと喜ぶんだ』
そのときにはあまり深く考えなかったが、よく考えてみればそうだった気がする。
引っ越す前に姉さんが一夏のことをよくそうやって呼んでいた事を思い出した。ならば、試しに言ってみるか。どんな反応か知りたいからな。
「・・・・・・い、『いっくん』」
「「「へ・・・・・・?」」」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
私がそう呟くと先ほどの三人組が間抜けな声を出し一夏は箸を止め顔を赤くする。
「・・・・・・ねえ、ねえ。篠ノ之さん?」
「ん?なんだ」
「『いっくん』・・・・・・って誰のこといっているの?」
「無論、一夏のことに決まっているだろう」
当然のように箒は言った。
「織斑君って、『いっくん』って呼ばれているの?」
「そうなの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
一夏は答えない。そのかわり耳まで真っ赤になっていた。
「・・・・・・ほ、箒?」
「なんだ、『いっくん』?」
「何で私のことを『いっくん』、って呼ぶんだ?」
「いやなに、私たちは幼馴染同士なんだから別によいではないか」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
そのことが聞こえたのか、周囲は大きくどよめいた。
「ねえねえ、織斑君って『いっくん』って呼ぶらしいよ」
「本当に?なんかかわいいね、その呼び名」
「私も呼ぼうかな~」
ざわざわ、と周囲の声が大きくなる。
それと同時に突然手を叩く音が食堂に響き渡る。
「いつまで食べている!食事は迅速に効率よく取れ!遅刻したらグランド十週させるぞ!」
千冬さんがそういった途端、食堂にいた全員が慌てて朝食の続きに戻った。それはそうだ。なにせ、このIS学園のグランド、一周が五キロもある。
しかし、一夏だけは箸を止めたままだった。
「全く、なんなんだ朝っぱらからうるさい。・・・・・・一夏、どうかしたのか?」
「い、いや、べつになにもな『織斑先生!』い」
一夏の声を遮り、三人組の一人が千冬さんに声をかける。
「なんだ、聞きたいことがあるなら迅速に言え」
「織斑君が『いっくん』って呼ばれているのは本当ですか!?」
シ―――――――ン。
食堂が静寂に包まれる。
「・・・・・・一夏」
「・・・・・・何、千冬姉」
ぽんっ。千冬は満面な笑みを浮かべながら一夏の肩に手を置く。
「よかったじゃないか『いっくん』」
「・・・・・・うっ・・・・・・」
「『うっ』?」
「ぅ、うわああああああああああああっ!もういやだこんな生活ーーーーーーっ!!」
いきなり一夏は立ち上がりトレーを持って食器返却場所に行き、片付けて教室まで走っていった。
「ああ、可愛いやつめ一夏は」
「ち、千冬さん・・・・・・」
今の千冬の顔は弄ったオモチャの反応が良かったという顔をしていた。
そして数日間、一夏は女子たちから『いっくん』と呼ばれ続けた。
今日、授業が始まる前にセシリア・オルコットとの試合について発表された。期限は一週間後の月曜日の放課後、第三アリーナで行われるということらしい。
あちらは専用機があるがこちらの専用機はまだ届いていないということらしい。なので実際に乗って戦うのはぶっつけ本番ということになる。
ただ、待っているだけではダメだと思い私は箒に稽古を付けてほしいと頼み放課後することになる。
そして、放課後になり私たちは道場で稽古をしている。
「はあっ、はあっ、はあっ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
箒が肩で息をしているのとは逆に一夏は涼しげな顔をしている。
「はあっ、はあっ、はあっ・・・・・・相変わらず強いな、一夏」
「まあ、箒と別れた後にも剣道は続けていたからね」
「では何故中学の大会ではお前の名前が出てこなかったのだ」
「それはまず私が男として通していたからということと大会には一切出なかったことだからだ」
「なるほどな」
確かに大会に出てしまえば男か女かすぐわかってしまうからな。
「着替えの時も隠れてやってたし、みんなが帰るまで待ってから帰っていたよ」
「ばれたことがあるか?」
「ない。けど、ばれそうになったことが何度かあった」
私が実は女ではないのかという疑惑を立てられ何度かその被害にあったことがある。そのたんびにもう一人の幼馴染や五反田に助けてもらったことがある。
感謝しきれないくらいだ。ちなみに五反田は私の男友達の中の一人であり親友とも言える存在だ。あいつのおかげで助けてもらった借りがある奴だ。
・・・・・・まあ、最初に助けてやったのは私なんだがな。
「しかし、本当に学校の部活だけでそんなに強くなったのか?」
「いやまあ、部活と千冬姉に教わっていたから。学校では一番強かったと思うぞ」
「それはわかったが・・・・・・私なんかと一緒に稽古なんてしていてよいのか」
「何でそんなことを聞くの?」
「私はお前よりも弱いのに意味などあるのかと思ってな」
「そんなことはないっ!」
「い、一夏?」
「私は箒のことをそんな風に思ったことはない。それに感謝しているんだよ、私は」
「か、感謝?何故だ」
「もし、私が箒に過去のことを話さなかったらきっと不安を抱えながら学園生活を送っていたと思う」
「一夏・・・・・・」
「今の私でいられるのは箒のおかげなんだよ」
心のそこから思う。
もし、私は箒に話さず過去のことを引きずったまま生活していたら不安で押しつぶされていたかもしれない。
「だから、そんなことは言わないで」
「・・・・・・わかった。私もできる限りのことをしよう」
「ありがとう。箒」
一夏の言葉で頬を赤く染める箒。
「ふ、ふん。なら、もう一回やるぞ」
「ああ!」
二人は日が暮れるまで竹刀を打ち合ったのである。
そしてこの一週間、箒と一夏は放課後は剣道をで鍛錬を励んでいた。
そして一週間後、セシリア・オルコットと織斑一夏による試合が始まる。