翌週、月曜日。セシリアとの対決の日がやってきた。
「―――――なあ、箒」
「なんだ、一夏」
同居生活から一週間、私と箒は昔よりも仲がよくなった。六年間の溝が段々縮まっていった。それはとても喜ばしいことだ。
「気のせいかもしれないんだが」
「そうか。気のせいだろう」
そう。一つ、問題が解決していない。
「そういえば私たちは剣道の鍛錬しかしていないような」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
そう、あれから六日、箒と一緒に感動の稽古をしていた。問題はIS関連のことを全く対策していないということだった。
「私全くISの知識とか基本的なことをしていないんだが・・・・・・大丈夫なのだろうか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ちょ、箒。目をそらさないでよ!?」
つまりはこうだ。私専用のISとやらは何かごたついていたらしく、結局来ていない。
そう、今もまだ来ていない。
「そういえば一夏。お前は何故男用ISのスーツを着ているのにも拘らず胸が男のように見えるのだ?」
「ああ・・・・・・。これは千冬姉が私のために用意した特注のやつらしい」
「しかし・・・・・・胸とその長い髪を切ったりすればそこらの男と違いがないのではないか?」
「まあ、そうかもね」
「どのような仕掛けになっているのだ?」
「ああ、実は・・・・・・」
千冬姉によると胸を極限に引き込ませることができるのと光の屈折や反射を利用したスーツらしい。
だからもし、触られてもあまりわからないのと見た目は男の胸板のようにペッタンコに見えるらしい。
だけどまじかで見られたりじっと凝らして見られたりするとすぐに変だってことがわかっちゃうらしい。気をつけないと。
しかし・・・・・・胸がかなり窮屈で少し苦しい。
「まあ、なんにしてもよかったな一夏」
「そうだね箒」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
私と箒、沈黙。早く来ないかな・・・・・・。
「お、織斑君、織斑君、織斑君っ!」
三回も私の名前を呼んでくる山田先生。
「山田先生落ち着いてください」
「え?は、はい、そうですね。ってそうじゃなくて!来ました!織斑君の専用のIS!」
「・・・・・・え?」
「一夏、すぐ準備しろ。アリーナを使用できる時間は限られているからな。ぶっつけ本番で物にしろ」
いつの間にか来ていた千冬姉に声をかけられる。
「お前ならこの程度の障害乗り越えられるだろう。一夏」
「え?え?あの・・・・・・」
「「「早く!」」」
山田先生、千冬姉、箒の声が重なる。
私の周りには落ち着いた人はいないのかな・・・・・・。
ごごんっ、と鈍い音がして、ピット搬入口が開く。斜めに噛み合うタイプの防御壁は、重い稼動音を響かせながらゆっくりとその向こう側を晒していく。
――――そこに、『白』が、いた。
白。真っ白。飾り気のない、無色の色。眩しいほどの純白をまとったISが、その装甲を解放して操縦者を待っていた。
「これが」
「はい!織斑君の専用IS 『白式』です!」
真っ白のそれ。無機質なそれは、けれど私を待っていたかのように見えた。
そう、こうなることをずっと待ち望んでいたかのようだった。
「時間がないからフォーマットとフィッティングは実践でやれ。大丈夫、お前ならやれるさ」
「ああ、がんばってくるよ」
そして私は白式に触れる。すると自動的に身体に合わせていってくれる。
「一夏、気分はどうだ?」
「ああ、なんていうか馴染んだ感じが出ているっていうか」
「そうか、よかった」
ほっとしたような声。心底心配している感じが伝わってくる。
そして私は箒に告げる。
「箒」
「ん?なんだ、一夏」
「行ってくる。そして、勝ってくる」
「ああ・・・・・・行ってこい。それで、勝ってこい」
勝利を宣言を箒にした私はピット・ゲートに出る。
ゲートから出るとそこには私の『敵』がそこにいた。
「あら、逃げずに来ましたのね」
セシリアがふんと鼻を鳴らす。また腰に手を当てたポーズがさまになっている。
鮮やかな青色の機体『ブルー・ティアーズ』。その外見は、特徴的なフィン・アーマーを四枚背に従え、どこか王国騎士のような気高さを感じさせる。
「最後のチャンスをあげますわ」
「チャンスって?」
「私が一方的な勝利を得るのは明白。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るのなら、許してあげないこともなくってよ」
「あーそーですね、私が悪かったです。ごめんなさいでした」
棒読みでセシリアに告げると、いかにも不愉快そうな表情を浮かべるセシリア。
「・・・・・・あなたって言う人はどこまでわたくしのことをコケにすれば気が済むのですか」
「大体謝るぐらいなら最初っからこんなことはしない」
まあ、半分は勝手に決まっていたからなんだけどな。
「私はISを動かした時間はお前より短いがそれでも負けるつもりはない。第一そういうのはチャンスとは言わない」
「そう?残念ですわ。それなら―――」
セシリアは私の方向に『スターライトmkⅢ』の銃口を向ける。そして、試合開始の合図とともに。
「お別れですわね!」
キュイン!
私に撃ってくる。
「くっ!?」
かわしたのはいいが少しダメージを食らってしまった。しかし今みたいなことをやっていると確実に負ける。
(くそっ、私が白式の反応に追いついていない!)
まだ動かしたばかりなのかうまく操縦をすることができていない。
「さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる
射撃、射撃射撃射撃。まさに弾雨のごとき攻撃が降り注ぐ。しかも、それらすべてが正確にこちらを狙ってくる。何とか回避しているがそれでも食らってしまう。
「くっ!装備は!?」
すぐさま現在展開可能な装備一覧を表示すると。
「まさか・・・・・・」
『近接ブレード』と書かれた装備しか表示されていなかった。
「どのみち私は銃は使えないからな。それに、私にぴったりの武器じゃないか」
私は白式に近接ブレードを呼び出し、展開する。
「中距離射撃型のわたくしに、近距離格闘装備で挑もうなんて・・・・・・笑止ですわ!」
すぐさまセシリアの射撃。それを紙一重で避ける。
「確かにこれでは私の勝ち目はないかもしれない。けれど・・・・・・」
私は箒に言ったんだ。
『行ってくる。そして、勝ってくる』
そんな私を信じて箒が言ってくれた。
『ああ・・・・・・行ってこい。それで、勝ってこい』
約束したんだ、もう守られているだけじゃなく誰かを守りたいとそう誓ったんだ!
「あきらめるわけにはいかない!最後まで!」
そう告げ、激戦が始まった。
「―――――二十七分。持ったほうですわね。誉めて差し上げますわ」
「それはどうも」
あの射撃の弾雨のなかを必死によけたからまだシールドエネルギーの残量は半分切るか切らないかの背戸際だった。
そして私はある瞬間を待っている。
「このブルー・ティアーズを前にして、初見でこうまで耐えたのはあなたが初めてですわね」
そういってセシリアは自分の周りに浮いている四つの
「なかなか面白かったですわ。それでは、閉幕と参りましょうか」
セシリアは笑みとともに右腕を横にかざす。すぐさま、命令を受けたブルー・ティアーズが接近してくる。
「このときを待っていた!!」
そういって私はセシリアのブルー・ティアーズの一気に向かっていく。
穿たれるレーザーを潜り抜け、一閃。真っ二つにされたブルー・ティアーズは断面に青い稲妻を走らせ、爆散した。
「なんですって!?」
驚愕するセシリアに向けて、私は上段打突に構えで斬り込む。
「くっ・・・・・・!」
後方に回避するセシリア、そしてまた右手を振るう。そして二機、三機目が飛んでくる。
「この兵器は毎回お前が命令を送らないと動かない!しかも――――」
軌道を先読み、二機目の
「その時、お前はそれ以外の攻撃をできない。制御に意識を集中させているからだ。違うか?」
「・・・・・・・・・!」
引くくっとセシリアの右目尻が引きつる。図星だな。残りは二機。もう相手のパターンは読めた。
(いける。あとは私が油断をせずいつもどおりにやれば)
右腕の刀を握り返す。一週間箒との稽古の成果と今まで培ってきた集中力の効果が発揮されている。
あの弾雨を避けつつも相手の弱点を見極めることができたのは今までやってきたことが生かすことができたからだと思う。
だが、油断はできない。まだ、その時ではないから。
相手はきっと何か隠しているとそう訴えている。
それに、私はある瞬間を狙っていた。それまでは気を引き締めようと思った。
「はぁぁ・・・・・・。すごいですねぇ、織斑君」
ピットでリアルタイムモニターを見ていた山田真耶がため息混じりに呟く。それもそうだ一夏はISの起動が二回目とは思えないほどの健闘ぶりだった。
そんな山田真耶の言葉を聞き千冬はドヤ顔をする。
「それはそうだ。なんだって私の自慢の妹だからな」
「妹?織斑先生、織斑君は男の子ですよね?」
「あっ」
しまったという顔をする千冬。
「あ、ああ・・・・・・。そうだったな。つい間違えてしまった」
「普通、姉弟の性別って間違えますか?」
千冬が戸惑っているところに箒がフォローをする。
「山田先生。織斑先生は嬉しくて『つい』間違えてしまったんだと思います」
「『つい』間違えるものなのですか?」
「た、たまに興奮して言いたいことを間違えることがありませんか」
「そうでしょうか・・・・・・」
かなり苦し紛れな言い訳だったので箒は千冬に別の話題を振る。
「そ、そういえば一夏の奴あの癖は直ったのですか?」
「ん?ああ・・・・・・。あれか」
「あれってなんですか?」
二人の会話についていけず聞いてみる真耶。
「一夏は昔から浮かれている時は左手を閉じたり開いたりして簡単なミスをするんだが、最近はその癖を直しているらしい」
「あ、そうなんですか」
「へぇぇぇ・・・・・・。さすが姉弟ですねー。そんな細かいことまでわかるなんて」
まんとなくそう言った真耶に、千冬は照れた顔をする。
「ま、まあな。あれでも私のいも、・・・・・・弟だからな」
「あー、照れてるんですかー?照れてるんですねー?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ぎりりりりりりりっ。ヘッドロックが炸裂した。
「いたたたたたたたっ!!」
「何度言えばいいんですか。私はからかわれるのが嫌いだ」
「は、はいっ!わかりました!わかりましたから、離し―――――痛い痛い痛いっ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ真耶を気にかけていない様子で、モニターを見つめている箒であった。その表情は真剣な顔であった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
箒は両手を合わせて無事を祈るようなまねはしない。そういう性格ではない。それにさっき一夏は勝ってくると言ったのだ。
だったら信じて待つしかないとそう思ったとき、試合は大きく動いた。
――――――獲った!
セシリアの間合いに入った私は、振り下ろした刀で三機目を撃墜。それに続いて四機目を狙い落とす。
相手はライフルだけしかなく警戒しつつ間合いをつめ一撃を入れようとしたとき。
「―――――かかりましたわね!」
にやり、と。セシリアが笑うのが見えた。―――――やっぱり!と思いつつ回避に専念するが間合いが近すぎた。
「おあいにく様、ブルー・ティアーズは六機あってよ!」
回避が間に合わない。しかも、さっきまでのレーザー射撃を行うビットではなくミサイルだった。
ドカァァァァァンッ!!
赤を超えて白い、その爆発とともに私は包まれた。
「一夏っ・・・・・・!」
モニターを見つめていた箒は、思わず声をあげた。
さっきまで騒いでいた千冬と真耶も、爆発の黒幕に埋まった画面を真剣な面持ちで注視する。
「―――――ふん」
黒幕が晴れたとき、千冬は鼻を鳴らした。けれど、どこかその顔には安堵の色がある。
「やっときたか。待ちわびたぞ、馬鹿者め」
まだかすかに漂っていた煙が弾けるように吹き飛ばされる。
そしてその中心には、あの純白の機体があった。
そう、真の姿で―――――。
『フォーマットとフィッテングが終了しました。確認ボタンを押してください』
(ようやくか!)
このときを待っていたかのように目の前に現れる「確認」と書かれたボタンを瞬時に押す。
さきほど千冬姉に言われたことを実行した。
『時間がないからフォーマットとフィッティングは実践でやれ。大丈夫、お前ならやれるさ』
この言葉を信じながら私は時間稼ぎをしていた。
ボタンを押すと白式は光の粒子を放ち機体の形を変えていく。
「これは・・・・・・」
新しく形成されたIS装甲はまだぼんやりと光を放っている。それはさっきまでの実態ダメージがすべて消え、それどころかより洗練された形へと変化していった。
「ま、まさか・・・・・・一次移行(ファースト・シフト)!?あ、あなた、今まで初期設定だけの機体で戦っていたって言うの!?」
そう、私は今まで初期設定だけで戦っていた。そして、私はこの瞬間をただひたすら待ち続けた。
改めて機体を見ると、最初の工業的な凹凸は消え、滑らかな曲線とシャープなラインが特徴的でどこかの中世の鎧を思わせるデザインへと変わっている。
そして何より変わったのが武器だった。
―――――――近接特化ブレード・《雪片弐型(ゆきひらにがた)》。
そう、この刀はかつて千冬姉が振るっていた刀だった。
「まったく、私は世界で最高の姉さんを持ったよ」
今まで私はいろんなところで千冬姉に守ってもらっていたんだな。だからこれからは―――――。
「私も、私の家族を守る」
「・・・・・・は?あなた、何を言って―――――」
「そして、大事な人たちを守ってみせる!」
そうして私はセシリアに向かっていく。
「くっ!これで終わりですわ!」
再装填したミサイルを放つが一夏は難儀なく避ける。通り過ぎたミサイルは背後で爆発する。
一夏は手にある雪片弐型の刃にエネルギーを送り込みセシリアの懐に飛び込みなぎ払うように切る。
そして決着のブザーが鳴り響く。
『試合終了。勝者――――織斑一夏』
修正完了だ!!