「よく、頑張ったな。おつかれ」
試合が終わって箒達のところの戻るといきなり千冬姉に抱きつかれる。箒も山田先生も慣れたのか何も言ってこない。・・・・・・頼むからツッコンで下さい。
「しかし、もしシールドエネルギーの残量が少なかったらお前は負けていたんだぞ」
「そうだね・・・・・・」
そうなのだ、勝ったとはいえ残り残量数が1であったのだ。もし、どこかであれ以上ダメージを食らっていたのだとしたら私は効果を発揮した瞬間負けていたのだ。
「雪片の特性は自身のシールドエネルギーを転換して威力を上げるものだ。今のISの機体の中で最も攻撃力があるやつだといっても過言じゃない」
「なるほどね。でも・・・・・・」
「ああ、シールドエネルギーの残量数を見ていつ使うかを見極めなければただの燃費の悪い機体になってしまうからな」
つまり、戦闘中にいつの場面で使いきれるのかが勝負の鍵を握ることになる。
「なんにしてもお前はよく頑張った。今日はゆっくり休め」
「うん、ありがとう。千冬姉」
言葉を交わした後、一夏は箒に一緒に帰ろうとする。
「それじゃ、箒部屋に戻ろうか」
「ああ、そうだな」
二人は部屋に戻っていく。
しばらく沈黙の状態で箒と一緒に帰っていたら声をかけられた。
「一夏・・・・・・」
「なに?」
「さっきは言いそびれてしまったが、よく頑張ったな」
「ありがとう。箒」
「まさか、本当に勝ってくるとは思わなかったぞ」
「まあ、私自身が一番驚いているんだけどね」
勝ってくるとは言ったものの本当になるとは微塵も思っていなかったのだ。
「これからはどうするのだ」
「どうするって・・・・・・何が?」
「剣道の稽古だ。これからも続けるのか?」
「う~ん。やって損はしないしやろうかなぁと思ってたりする」
「そ、そうか・・・・・・そうなのか」
なんかやけに嬉しそうな顔をする箒。もし、私が男だったらきっとときめいていたかもしれない。
それほど今の箒の顔がいいと思ってしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ん?一夏、どうかしたのか」
「え、あぁ、気にしないで少し疲れたのかもしれない」
「そうか、なら早く休もう」
「そうだね」
「そ、それとだな」
「うん」
「わ、私がISの操縦についてお、教えてやろうか?」
「え、いいの?」
それはありがたい話だと思った。
「う、うむ。多少のことは教えてやれると思うがどうだ?」
箒は私に期待の眼差しをしてくる。
「箒が迷惑じゃなければお願いできるか?」
「迷惑ではない!そうか、私がいいのだな」
私が箒にお願いするとさっきよりも嬉しそうな顔をしている。というか行き過ぎてにやけまくっててちょっと怖い。
「ま、まあこれからもよろしくお願い」
「ああ!」
そうして私たちは部屋に戻っていった。
サアアアアアアア・・・・・・・・。
シャワーノズルから熱めのお湯が噴き出す。水滴には肌に当たっては弾け、またボディラインをなぞるように流れていく。白人にしては珍しく均整の取れたからだと、そこから生まれる流線美はちょっとしたセシリアの自慢だ。しゅっと伸びた脚は艶めかしくもスタイリッシュで、そこいらのアイドルには引けをとらないどころか勝っているくらいである。
胸は同い年に白人女子に比べると幾分慎ましやかではあるが、それが、全体のシルエットラインを整えている要因でもあるので本人としては複雑な心境らしい。
しかしそれも白人女子と限定すればの話であって、日本女子と比較すれば十分どころか大きいくらいだ。
その胸にシャワーを浴びながら、セシリアは物思いに耽っていた。
(今日の試合―――)
どうしてISを数時間としか動かしていない人に負けてしまったのだろう。代表候補生だから素人には負けるはずが無いと慢心していたからなのだろうか。
確かにそれもあるだろう。事実、教室であんなことをみんなの前で自分が一番強いのだからと言ったのだから。
けれど何かが引っかかった。
(―――織斑、一夏―――)
彼のことを思い出す。あの、強い意志を宿った瞳を。
他社に媚びることのない眼差し。それは、不意にセシリアの父とは逆連想させる。
(父は、母の顔色ばかりうかがう人だった・・・・・・)
名家に婿入りした父。母には多くの引け目を感じていたのだろう。幼少の頃からそんな父を見て、セシリアは『将来、父のような人とは結婚しない』という思いを幼いがらに抱かずにはいられなかった。
そして、ISが発表されてから父の態度はますます弱いものになった。母は、どこかそれが鬱陶しそうで、父との会話自体を拒んでいる嫌いがあった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
母は強い人だった。女尊男卑社会以前から女でありながらいくつもの会社を経営し、成功を収めた人だった。厳しい人だった。けれど、憧れの人だった。
そんな人が三年前に、事故で他界した。
いつも別々に過ごしていた両親が、どうしてその日に限って一緒にいたのか、それは未だにわからない。
一度は陰謀説がささやかれたが、事故の状況はとてもあっさりとそれを否定した。越境鉄道の横転事故。死傷者が百人を超える大規模な事故だった。
とてもあっさりと、両親は帰らぬ人になった。
それからはあっという間に時間が過ぎた。
手元には莫大な遺産が残った。それを金の亡者から守るためにあらゆる勉強をした。その一環で受けたIS適正テストでA+が出た。政府から国籍保持のためにさまざまな好条件が出された。両親の遺産を守るため、即断した。第三世代装備ブルー・ティアーズノ第一次運用試験に選抜された。稼動データと戦闘経験値を得るため日本にやってきた。
そして出会ってしまった。織斑一夏という強い瞳を持った男に。
「織斑、一夏・・・・・・」
その名を口にしてみる。不思議と、胸が熱くなるのが自分でもわかった。
どうしようもなくドキドキとして、セシリアはそっと自分の唇を撫でてみる。水滴に濡れた形にいい唇は、触れられることを望んでいたかのように不思議な興奮を生み出す。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
熱いのに甘く、切ないのに嬉しい。
―――なんだろう、この気持ちは。
意識すると途端に胸をいっぱいにする、この感情の奔流は。
―――知りたい。
その正体を。その向こう側にあるものを。
―――知りたい。織斑一夏という男のことを。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
浴室にはただただ水の流れる音だけが響いていた。
「くしゅんっ!」
「ん?どうした一夏。風でも引いたのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど」
「じゃあ何だ」
「箒、私は男としてここに居るよね」
「まぁ、そうだな」
「なんだろう、何故か嫌な予感がしてくる」
「気のせいだろ。今日は疲れているからだろう」
「そうかな・・・・・・。まぁ、いいか」
そして一夏達は就寝につくのであった。
翌日の朝、SHRでありえないことが起きていた。
「では、一年代表は織斑一夏君に決定です。あ、一繋がりでいい感じですね~」
山田先生は嬉々として喋っている。そしてクラスの女子も大いに盛り上がっている。そんな状況に私だけがついていけなかった。何故って?そりゃ・・・・・・。
「あの、先生」
「はい、織斑君!」
「確かに私が勝ちましたがやるとは言ってませんが・・・・・・」
「それは無理な話だ、一夏」
千冬姉が教室に入ってくるなり告げる。だから公私を分けなくっていいのかい。
「何故ですか?」
「一夏お前はどういう目的でオルコットと戦ったのか?」
「確かクラス代表を決めるとかそうゆうことだったような」
「つまりそういうことだ」
イマイチ話が理解できない。
「つまりどちらかが代表になるかという戦いの結果お前が勝ちクラスの代表になったという訳だ」
「織斑先生、質問です」
「何だ」
「拒否権は」
「あるわけないだろ、馬鹿者」
あんなことを言っているけどそんな勝ち誇ったような顔で言わないでくれ。
「それに私なんかよりもセシリアさんがなりたいって言ってたんだし」
「わたくしは一夏さんが相応しいと思います」
セシリアは席を立って私に言う。昨日とはずいぶんと様子が変わったように見える。
「確かにわたくしの方が経験があると思います。けれど、そんなこと関係なくわたくしに立ち向かって戦って勝ちましたわ」
「だが、あれはほとんどまぐれだと思うんだが」
「まぐれで勝ったのならば次は確実に勝つように練習すればいいと思いますわ。それに、わたくしはあなたに謝らなくてはいけませんわ」
「謝るって?」
「わたくしがあなたに対して酷い言葉を言ってしまいました。申し訳ありません」
セシリアはクラスの人たちがいるのにもかかわらず深く謝罪している。誠意があったとしてもなかなかみんなのいる目の前で謝ることができるのはすごいと思った。
「いいよ、わかってくれるなら」
「はい、ありがとうございます」
セシリアは頬少し赤らめて言う。
「も、もし良ければわたくしがIS操縦について教えてもよろしいのですがどうですか?」
「それは本当か?もし、よければ」
バン!机を叩く音が響く。立ち上がったのは箒であった。
「あいにくだが一夏は私にIS操縦について頼んできたのだ。貴様には用はないぞ」
「あら、それを決めるのは一夏さんですわ。ISランクCの篠ノ之さん」
いかにも私が上なんだ的なオーラを出しつつ箒に言うセシリア。
「ら、ランクなど関係ない!頼まれたのは私だ。一夏がどうしても私がいいと言ってきたのだ」
え?そうだっけ。
「あなたが無理やり言わせたのではなくてランクCの篠 ノ 之 さん」
「何だと!?」
いかにも喧嘩が始まりそうな雰囲気が漂っていたがそんなことお構いなしに千冬姉が出席簿を持ってセシリアと箒のほうに歩いていって。
「座れ、馬鹿ども」
バシン!バシン!セシリアと箒の頭を叩いた千冬姉が低い声で告げる。
「お前たちのランクなどゴミだ。私からしたらどれも平等にひよっこだ。まだ殻も破れてない段階で優劣をつけようとするな」
さすがのセシリアも千冬姉に言われては反論の余地がないらしい。何か言いたそうな顔をしていたが、結局言葉を飲み込んだ。
「代表候補生でも一から勉強してもらうと前に言っただろう。下らん揉め事は十代の特権だが、生憎今は私の管理時間だ。自重しろ」
それは千冬姉もじゃないかな。
「どうした、一夏」
「いえ、別に何でもありません」
「そうか」
危ない危ない。
「では、クラス代表は織斑一夏でいいな」
こうして私は一組クラス代表となった。
そしてこれから私のもう一人の幼馴染が来ることをまだ知らなかったのである。
修正 完 了 !!