【レディコンバット】
メルティナ州国家警察の中でもナイティンイレブンを下げている警官は少ない。
骨董品だからだ、設計は名称通り1911年、百と数十年前のシロモノだ。
如何にかつては世界中で愛用された銃といえど、今やずっと高品質化した樹脂製フレームに火器のマーケットは覆せない。
それでもまだ使っている頑固者が二名いる、一人がこのハゲ頭、刑事課の部長。
部長の腰のパンケーキホルスターに黒い一丁が入っている。
二丁目の白銀のナイティンイレブンも彼の手にあった、持つべき一人は空のホルスターを脇に下げていた。
檻に入れられ、冷たいコンクリ床の上で膝を抱えている女。
「頭は冷めたか」
「……」
女は無言。
輝く長いブロンドも今はどこか鈍く見える、グロリア・カラハン。
あの血気盛んな男勝りの女刑事が、まるで捨てられた子犬。
しかし彼女の拳が10人の同僚を病院送りにした事実はあまりに猛犬。
前々から、グロリアがレズビアンなのは署内でも多少知られていたし、同棲している恋人がこそ泥というのも知る人間はいた。
モルグで冷たくなった恋人の亡骸を前に、いつまでもその手を離さないグロリアに、一人の同僚が心ない一言を呟いてしまった。
はっきり言って導火線を切り詰めた爆薬に火種を押し付けるようなものだ。
キレたグロリアの暴れぶりは凄まじかった、軽サイボーグから重サイボーグまで、百戦錬磨の男達を10人まとめて叩きのめした。
もし途中で荒れ狂う彼女にスタン高圧電気警棒と非殺傷ガス圧ゴム弾を使わなければ、30人まで増加しただろう。
鎮静剤を投与され留置所の檻にぶち込まれ、数時間、ようやく落ち着いた彼女へ部長は近づいた。
暴れる事もなくなった、叫ぶ事もなくなった、しかしその目の奥に輝く暗い炎はどうだろう。
分かる。
刑事であるがゆえに、今ミシェルの、愛する女がどうなっているか。
冷たいモルグで保存され、ごつい解剖刀を体のあちこちに入れられ、裂かれている。
いつもキスをした柔らかい白い肌が、激しく愛した最奥が。
彼女が撃たれた弾痕から、着衣の乱れからレイプされてから殺されたのは明白だった。
怒りのあまり気が狂わないのが不思議なくらいだった。
憎い、何もかも憎い、ぶっ壊して殺してやりたい。
今もミシェルを犯して殺した連中が肺で酸素を吸収し生きて飯を食い、生命活動をしている。
この街中の人間を片っ端から殺して駆除したかった。
「落ち着け」
無言のまま静かに体内で怒りを燻らせるグロリアに、部長が言う。
いつの間にか彼は電子キーで留置所の鍵を解除して中に入ってきた。
手には一丁の、彼女の愛用のナインティンイレブンと、いつも首から下げている警官ID身分証。
ギラつく眼差しが見つめた。
「欲しいか」
それがあれば捜査ができる、敵を探して法の名のもとに報仇の銃火を放てる。
自然とグロリアの呼吸が荒くなった。
部長は鼻息を鳴らす。
「それじゃダメだ」
「あいつは私の女だった。けど、家族じゃないですよ部長」
原則的に身内の死んだ警官は捜査に参加させられない、鉄則だ。
しかし恋人の場合は? 厳格な規定はない。
例えば一夜限りの恋人、買った娼婦の捜査まで含めるとあまりに締め付けがきつい。
婚姻届も出してない同棲相手はどうだろう。
部長のハゲ頭は左右に振られた。
「もしお前がもっとクールになれてれば参加させてやっても良かったけどな。今のお前じゃだめだ」
「……」
「しばらくこいつは預かっておく。家に帰れ」
黙ってグロリアは立ち上がった。
内容物を失い虚しい軽さのホルスター、穴の空いた心のまま、グロリアは長いブロンドをたなびかせて署を出た。
じろじろと無遠慮に彼女を見つめる同僚達にケダモノの視線で睨み返しながら。
外へ出る、摩天楼の放つネオンの輝きと空中に幾重にも刻まれるエアカーの誘導軌道、そして燦々と輝きナノコーティング天蓋越しに注ぐ陽光。
明るい乾いた日和だった、胸糞が悪くなる。
こんな良い気持ちの日に愛する女が死んだなんて。
□
グロリアはまず酒場で10杯のビールを求めた。
とてもアルコールなしでやれなかった、紫煙に手を伸ばしかけ、ミシェルの顔が脳裏を掠めて買った箱をそのままダストボックスへ叩き込んだ。
家に付く前に年間契約で借りている貸し金庫へ行った。
小さな金属ケースの中にはもしもの時の為に預けておいた現金と銃。
いつもの愛用品のナインティンイレブンではない、ザウアーの45、シングルアクションオンリーだ。
使い勝手は変わらないしこっちの方が高価で品質が良いのだが、コルトには愛着がある。
後ろの腰ベルトへ挿し、グロリアは自分のマンションへと向かった。
一歩一歩の足取りが果てしなく重い、エレベーターの中のたった2分が長い。
そしてドアの前についた時、グロリアの中の獣性と刑事の勘が内部の侵入者の存在を感知した。
たとえ最先端セキュリティを黙らせようと、ドアの表面に一切の変化がなかろうと、気性の荒い猛犬の鼻を逃れる事はできない。
「……」
脳裏に去来するミシェルの笑顔。
ドアの向こうにいる相手がもしかしたら、彼女の仇でないかと認識した時、グロリアの長い美しい脚はドアをぶちやぶり、美影身は闇の中へと飛び込んだ。
応じたのは軍服の女だ。
美しい女であったが、怒れるグロリアの気迫と美貌を前にはいささか見劣りする事は否めない。
突然の敵襲に対し、サイバネ化された手足の駆動打撃術、銃ではなく拳で迎え撃つ。
遅い、あまりに遅い、牙を剥く血に餓えた犬はこの腕を噛み付いた。
強化樹脂とカーボン骨格の義肢を引き千切る事ができる生命体が、遺伝子改造ライオンや絶滅危惧種のシベリアタイガー以外にいた、ブロンドの豊満な美女だ。
腕を千切ながら掌底、黒い軍服女が吹っ飛ぶ。
慌てた様子で他の女達が二人左右から警棒を振りかざす、手の先が霞むほどの速さで振られたパンチでその二人は崩折れた。
もう一人の女がグロリアの前に立った。
ブロンドの猛犬に負けぬ圧倒的美しさと気品、鋼のような硬質な気配、ナチスのような完璧な装いの軍服。
グロリアの前蹴り、喰らえば恥骨まで砕けて死にそうだ。
旋風の打撃をひらりと躱す、まるで奥手なパートナーを妖艶にいざなう貴婦人。
脳髄まで抉る気概の目突き、細くしなやかな指が華麗な動作であしらった。
そして次にようやく二人は銃を抜いた。
時間、ゼロコンマ以下、ファストドロウ大会に出れば伝説に刻まれそうな速度。
ぴたりと互いの眉間、必殺距離と位置を狙う昏い銃口。
「ナチス女」
グロリアはセイフティを解除したザウアーを向け銀髪の女を呼ぶ。
「こんばんは。また会ったねグロリア警部」
果てしなく美しく、果てしなく妖艶に、優雅に、イライザは愛銃ファブリックナショナル・ファイブセブンカスタムの銃口で返礼する。
ほんの数ミリ以下のトリッガー移動があれば両者は相手を死の奈落へ落とせる。
それをしないのはギリギリの境界線で保たれた理性だ。
グロリアは左右から立ち上がった女軍人共、イライザの部下、傭兵団グレタの面々が腰に下げていたサブマシーンガンで己を狙うのを意識するが、恐怖などなかった。
自分が死ぬ事より仇を突き止め殺す事の方が大事だった。
「てめえか、てめえがミシェルをやったのか。答えろ」
「違う」
返答は明瞭に迅速、逡巡絶無。
イライザはグロリアが撃たない事に確信でもあるのか、肩をすくめた芝居っぽい仕草と共に拳銃を腰のホルスターへ戻し、視線で部下をいさめる。
切れ長の瞳の流し目、色香たっぷりの一撫で女達は静かに頷きセイフティをかけた。
一人、まだ息を荒げるグロリアだけが強く、くろがねの銃口を白い肌へ押し付ける。
「本当か! 嘘を言いやがったら」
「不法侵入に関しては謝罪する。だが我々は君の親しい人間の死傷に一切感知はしていない。ただし、調査はさせていただいている」
イライザは額を小突く銃をまるきり無視し、腕時計型コントロールパネルを操作した。
三次元投影された資料、おそらく署で漁ったものを見せる。
そこには繊細な調査で浮き彫りになった買い物リスト、ネットワークアクセス履歴と、予測されるサカマキトランスビルへの侵入経路。
簡潔に言えば、ミシェルがあの事件の犯人であるという証拠であった。
「彼女はマイクロインク社の経営に関して極めて重要な物品を違法に入手した可能性が高い。よって我々警備部、グレタ小隊は市長と警察署長の限定的承認の元、強制捜査を行っている。プライバシーの侵害に対して異議申し立てがある場合はマイクロインク社の顧問弁護士に話を通してくれたまえ」
美しく澄んだ、儀礼的な、一切の感情のこもらない声で言い放つ。
もはや殺意さえ失せ、ただただ虚しく疲れ、グロリアは震える手で銃のセイフティをかけ、腰ベルトに突っ込む。
そしてずかずかと冷蔵庫に寄り、冷えたビールを喉へ流しこむ、気分のせいで糞不味い。
「あったのか」
何が、などと聞く馬鹿はいない。
銀髪の美女は首を振る。
「いいや。何もなかったよ。だが私は彼女こそ盗んだ犯人だと思っている。何か心当たりはないか? 気が立っているのは承知の上だ、非礼はいずれ詫びよう。だができるだけ任務を完遂したい」
芝居がかった諸々の所作が嘘のように、イライザの言葉は適切で冷たく、それゆえに心地良かった。
下手な気遣いで藪蛇をつつく事もない、どこまでも直截である。
グロリアは瞬く間に殻になった空き缶を床に投げ、言いつけた。
「知らない。出てけ、じゃないと殺す」
「そうか。では失敬する」
優雅にコートの裾を翻し、イライザは片腕を千切られた娘を抱きかかえつつ、部屋を後にする。
最後に一言だけ「遅れたが、お悔やみ申し上げる」と残していった。
グロリアはもう何もかもどうでも良くなってベッドへ倒れこんだ。
銃が腰に食い込んで痛い、それもどうでもいい。
目を瞑り、いつまでも訪れない眠りを待った。
乾いた空のむかつく晴天、汗ばむ暑さ、メロウ、どこまでもメロウ。
誰か優しい人がこの脳髄に慈悲深い銃弾をくれる事を妄想しながら、いつまでも横になる。
□
全ての資料を整理し、深い思索の顔を浮かべるイライザの表情は、哲人の趣きを湛えた典雅な死人じみていた。
硬く冷たい美貌はその気のない女でも見ているだけで何かこみ上げてきそうだ。
当然、その筋の娘であればなおのこと。
「隊長、どうでしょう」
ささやかに声をかけたのは、あの片腕を失った娘だ。
既に新しい義肢を装着していたが、まだ代用ナノスキンは被せておらず、剥き出しの内部構造が可憐な美しさにどこか奇形めいた造形を添えている。
哲人の美しき横顔は振り向き、軍服に詰め込んだ巨大な胸を強調するように腕を組む。
「ああ、ターニャか。見ての通りだ、メールに改ざんした様子があると、私は睨んでるよ」
「そうですか」
投影ディスプレイにはイライザなりの推理と、諸々の情報のメモが陳列している。
本来戦闘部隊である彼女達グレタのメンバーに、今回の任務は勝手が違い過ぎた、それでも愛する隊長はこなそうとしている。
昨年の任務で、仲間の大半を裏切りで失った、雇われ先の政府の仕業だった。
生き残った10人は、是が非でも今回の任務を成功させようとしている。
まともな市井の生活が、もうできると思えなかった、出来ることは銃の扱いと淫事だけだ。
しかし男の相手など、イライザの寵愛を受けた身では既に不可能だった。
「しかし、疲れたな」
イライザは肩を鳴らし、おもむろに軍服の前のボタンを外しにかかる。
ふつりふつりと分厚い生地が剥がされ、下のブラウスを見せる。
ブラウスのボタンも外した。
真っ白な乳が現れた。
彼女は、下着をつけていなかった。
つんと尖った乳首、黒い軍服と対比になる真っ白な肌。
とろけるような媚香がターニャの鼻先をくすぐった。
生唾を飲む。
セックス機能を特化したサイボーグなら体臭を変える事もできる、しかしイライザはそんな改造をしていない。
なんと、彼女は戦闘改造処置を受けながら、胸は一切弄っていなかった、雪のような肌も銀糸を紡いだような髪も自前だ。
きめ細かい黒髪とプロポーションを義体化で得たターニャは妬ましくて羨ましくて死にたくなる事がある。
サイボーグになる前は凡庸な娘だった。
しかしそれでも、彼女や他の隊員に対するイライザの愛情は微塵の揺らぎもなく、全員に平等だ。
体がカーボン繊維だろうと生肉だろうと彼女は等しく愛し、嬲る。
それが堪らない、狂おしい恋情に身も心も爛れた。
「隊長……ご主人様ぁ」
ターニャは長い黒髪を乱しながら、こちらを向いたイライザの胸に顔を埋め、小さくついばむようにキスを繰り返す。
乳首に唇がつき、ちゅう、と吸う。
「んぅっ」
イライザの唇が歪み、喘いだ。
嗚呼……その一声を聞くだけで、どんな過酷な戦場でも地獄の働きができる。
ターニャはもう、そこだけはまだ生来のままの、子宮が疼きの疼くのを感じた。
チロチロと舌先で、100センチを優に超えるイライザのバストをまんべんなく舐め回し唾液をなめくじみたいに塗りたくる。
乳首を甘噛みする、カリッ、と歯をほんの少しだけ立てると、椅子の上に腰掛けたイライザの体が跳ねた。
「あんっ♡」
絶対に戦場でも、男の前でも出さないイライザの、雌の声。
我慢できなくなった、ターニャはゆるゆると腰を上げ、軍服のズボンを慌てた様子で下ろす。
タイツを突き破る勢いで、ペニスが勃起していた。
肉ではないが、血を通わせた人工の性感器官であった。
サイバネ化技術の当然の恩恵として、人類の性生活は既にかつての正常な男女間行為のみにとどまるものでなかった。
女同士だって犯し犯される関係を築ける。
グレタ小隊に仕え、イライザの寵愛を受ける全ての女達はこの機能を有していた。
「ふふ、カチカチだな。そんなに上司を犯したいか」
「は、はい……お、犯したいです……ご主人様、犯させて……挿れたいぃ」
「良いよ、おいで」
イライザは立ち上がる。
身長176の長身が、下半身のズボンも脱いだ。
ブラはつけていなかったが、下はあった、黒いガーターストッキングと色を合わせた瀟洒なパンティという極めてインモラルなものが。
結っていた銀髪を乱し、イライザは机に手を突き、可愛い部下に尻を差し出す。
さあ、いつでも好きにしろ、と言うように、張り詰めた肉の双丘が揺れた。
人工ペニスを生やしたサイボーグの美女は目の前の豊かな肉を掴むと、一気に腰を沈めた。
濡れた粘膜の中に、ちゅるん、と剛直が飲み込まれる。
「「ふぁあああ!!!」」
重なり合う甲高い嬌声。
一気に腰は弾み、前後し、必死の様相で犯す。
イライザは胸も自前だが膣も子宮も自前だ、どれだけテクノロジーが進歩しても、生の肉がもたらすぬくもりと繊細さは変わらない。
ターニャの中で、内戦で失った大好きな母と姉への喪失感と、自分を鍛え上げ愛してくれたイライザへの依存心が重なる。
「隊長! 隊長、ごしゅじんさまぁ!!」
泣き叫びながら、女は、少女は歪みながらも繊細で純粋な愛情で以って絶世の女軍人を犯す。
イライザもまた、頬を紅潮させ、むき出しになった爆乳をたぷたぷを揺らしながら、自分の育んだ相手との激しい姦通に目尻に涙を浮かべる。
「そうだ、良いぞ! その、腰使いだ……あ、ひゃふううっ♡ 奥を、もっとえぐってくれ、そう、そこ……ん゛ぅううっ♡ すばらしぃ……私の性感帯は全部わかってるな♡ くううっ♡」
快楽でくしゃくしゃに歪む顔も、弾む乳と尻も、何もかもが天上のもの。
耳朶を打つ声音さえ甘美だ。
床に散る汗と愛蜜、雌の香り、白い肉の揺れ。
黒い軍服が堪らないコケティッシュな淫靡を演出する。
やがて規則的な速度と強烈な腰振りになり、奥へ奥へと叩きつける。
爆発の時は唐突に。
粘った液が子宮口に注がれる。
といっても精液ではない、愛液の一種だ。
「う、あぁ……はあっ」
ぶるぶると身を震わせ、イライザも絶頂した。
心地良い甘いさざなみ総身を焼かれる快感。
アクメの余韻を噛み締めていると、まるでイライザの髪から漂う蕩ける甘い香りに誘われた蝶の群の如く、残る娘達が現れた。
皆それぞれ、豊満な肢体を掻き抱き、軍服の合わせ目から白磁の肌を、あるいは良く日焼けした褐色の肌をまろび出している。
イライザはにっこりと、妖艶に笑った。
「おいで」
両手を広げ、彼女は夢魔の如く手招きをし、特別広い特注のベッドへと向かった。
□
女数人がまぐわい尽くした室内は凄まじい。
呼吸するのも息苦しい濃密な淫臭に満ち満ちた中、大きく腕を広げ、寝そべったままでも形の崩れない乳房を堂々と晒したイライザはけだるい倦怠感の中にあった。
さんざん彼女を突き回し、四方八方から硬くなったペニスを押し付け、何度も絶頂し、愛液の精液をぶち撒けた。
常に新鮮な酸素を供給する人工筋肉を移植した比率で言えば部下達の方が勝る筈なのだが、どういうわけかいつもベッドの上での体力勝負はイライザが圧勝した。
犯させつつもセックスの主導権は絶対に彼女のしなやかな指の上で転がされているのだ。
恐るべきサキュバス、夜の女王。
そんな彼女に弄ばれる恍惚、支配されながら犯す幸せに酔い、部下の女達はう腕枕され、あるいは乳房に顔を埋めて深呼吸し、甘やかな体臭を肺いっぱいに吸い込む。
イライザは可愛い子猫達を戯れさせつつ、耳裏のダイレクトジャックイン端子から引いたソフトウェアから軽度のサイバードラッグをインストールし、半ばトリップ状態でアクメの後味と過去の追想の混ざった幻視の世界をたゆたう。
子供時代、大気汚染と家の没落、教会のキューポラ屋根へ舞い降りる氷雪と火の粉。
実父からの抑圧と暴力、性的虐待、精神の根本にある男性不信は、生来の少女愛と結びつく。
怒りと悲しみ、寒さと屈辱の幼年期。
人形遊びが好きだった、それが原点だ、憎い者を殺す兵隊ごっこと可愛い女の子を侍らせる妄想の世界。
結実は12歳の頃、銃の暴発事故に見せかけ父を殺し、なけなしの遺産を手に故郷を去る。
義体化、闇ストリートファイトの賭け試合、詐欺、盗み。
軍に入り全てが変わる。
そこから人生には鉄の規律と知性が寄り添った、地獄のような訓練と実戦、初めて心から愛した恋人。
おお、コフィー、我が麗しき黒き女豹よ。
アメリカ人、ニグロイド30%、アングロサクソン系70%の血を引き、ゴミ溜めに舞い降りた美と死の神のようだった。
様々な戦闘と上司との軋轢を経て、イライザは何人かの同僚を引き抜き、除隊。
施設の民間軍事会社を作り、中東に生活の場を移す。
喪失の記憶が実際の肉体的痛みまで伴って浮上した。
ドラッグのオーヴァードーズの見せる幻視、それまで生身だった左上と内臓と骨格の幾らかを失うほどの手傷を負った、アフガニスタンでの無残な敗北。
部下の多くが死に、その中にコフィーもいた。
半年間の心神喪失状態の虚脱から立ち上がり、大枚をはたいて上質の義肢を組み込み、この数年間をイライザは雌伏の時として過ごした。
今回の仕事が上手くいけば、もう少しマシな部隊の、会社の運営ができる。
だが本能のどこかで、今回の仕事につきまとう不安感も意識していた。
虫の知らせ、非論理的な思考回路の疼き、何故我々のような野良犬を使うのか。
たしかに自分達の黄金時代、10年前の中東での実績を買われた部分は、あるかもしれない。
自分につけられたチャンというお目付け役、副社長の美男子。
冷酷な雰囲気を目を見ただけで察した、男は嫌いだ、薄汚い。
罠、死、嫌な連想が目の前に暗い影を落とす。
「隊長」
荒く呼吸していた娘が、声をかけた。
イライザは意識を現世へ戻し、それまでの無限の追想の泥沼から、まるでそれを感じさせない自然さで顔を向ける。
「なんだい」
「何をお考えになられてるんです」
「今後の事さ。女怪盗はどこへお宝を隠したのか、ね」
「本当に殺された彼女が盗んだのですか?」
「確実だ」
それまで獲物を追い詰めた経験による、断言。
犯され殺されたあの黒猫のような娘は、確実に盗みを行った。
事前にサカマキトランスビルを調査した形跡があるし、金に困っていたようだ。
愛する者と共に人生をやり直すチャンスを求めていたのだ。
ふっと目に浮かぶ、あのブロンドの女警部。
素晴らしい女だと一目で分かった、良い女だった。
スーツを突き破りそうなくらい盛り上がる乳房と尻。
自分と同じくらい美しい女をイライザは初めて見た。
黄金の髪はさながらたてがみ、中東の摩天楼に巣食う、荒々しい雌ライオン。
あの凛としたスーツを引き毟って白い肌を暴きたい妄想が止めどなく溢れる。
「隊長?」
「いや、なんでもない」
長い銀髪を乱すように首を振る。
いけないな、こんな可愛い子らに囲まれて浮気の想像など。
やがてほどなく通信コールが脳裏に響く。
物理的には無音だが、電脳化神経にだけ届く隊内通信だ。
身を起こすとイライザは新しい軍服を纏い、各種装備を整えて、借りているモーテルの一室を出た。
□
『ではできるだけ早く戻ってくださいね。では』
小柄な小役人風東洋人、チャン・シンシンの念押しに、イライザは青い氷のような目を細める。
どういうわけだ。
まったく理解の外であった。
チャン=マイクロインク社副社長=本社、命令系統はこうだ、チャンはこの街のボスともいえる副社長の端末だ。
その小男から、昨日今日であまり進展がないようなら契約内容を変更検討をしたい、すぐ会社へ来てくれという。
それは、まあ、金をもらって商う仕事だ、進捗具合によっては、契約変更もありうるのはわかる。
だからといってたった2日でそれはないだろう。
イライザは直感ではあるが今回の事件を、死した黒猫の痕跡をたどる事で解決できる気がしている。
その彼女をなぜ止めたい? 意図は?
まさか最初から真相究明するつもりがないのか。
なら金の無駄遣いではないのか。
ともかく今はとっとと目的のものを見つけよう、契約打ち切りなんて言われたらまた飼い主探しだ。
死んだミシェルが何者かとコンタクトを取ろうとしていた件を別行動させた部下2人に探させつつ、自分を含めた8人は総出で装備を固めた。
ミシェルは手に入れたものをまず調べた、と踏んでいる。
ソレは情報に関する物品だった筈だ。
もし即換金できるものなら彼女は恋人と共に街を出ようとしたはずだ。
そうしなかった、何故だ? 手に入れたものがすぐ金にできなかった、しかし金になりうるものだった。
そんな彼女が品物を調べるのに使えるつて、娼婦仲間から芋づる式に行く。
候補は上がっていた、闇サイバープラットフォームメーカー、ナノ製品売買人。
襲撃は疾風迅雷、ブリッツリーク、あらゆる反撃の暇を与えず。
壁を粉砕しドアを蹴破り窓を割って突入する黒き制服の乙女達。
優雅に素早く指揮を取る女王、ナチの女神のような銀の美貌、イライザ・コッホ。
金切り声をあげるライフル、ファブリックナショナルF2000、旧式ではあるが堅実な作りの小銃は過剰装飾の如く各種光学センサー照準器の赤い輝きを闇夜に刻み、脳との無線連動で、完璧な射線をつむぐ。
一切の反撃を許さずイライザと彼女の可愛い悪魔達はならず者を組み伏せ、尋問へと移行。
いささか法に触れつつも、構わず気にせず、実利的に冷酷に自白ソフトをダイレクト直結で電脳に流し、洗いざらいしゃべらせる。
やはり彼らはミシェルと取引をしている事が判明、しかし、ブツは持っていない。
さらに別に取引相手に話を持ちかけたという。
どこにあるか厳しく問う、より強める自白ソフト、ミシェルから受け取りはしなかった、と言った。
なるほど、用心深い女だ、調べさせより高い値段で売れる相手を探させつつ、肝心のものは結局自分のふところにしまって隠したのだ。
「でも隠し場所の検討くらいつくだろう?」
甘やかな声と凍てつく瞳で、イライザは男の首根をつかみ、ナイフの刃を抜いた。
拷問に必要なのは単純に苦痛の数値だけではに、絶望と連想だ、例えば男なら股の下にぶら下がった生殖袋への喪失は生命維持に不必要でも、尊厳となけなしの誇りの為に死守したがる。
秘め事のように、男の掠れた声からイライザは聞き出した。
小さな小さな声、電脳回線を通さぬ肉声で真実を全て吐き出させた。
チップの場所の予測、記録された情報の内容。
瞬間、死と暴虐の襲撃。
炸裂。
超遠距離からの大口径ライフル弾が傍らの愛しい娘をうがった。
手塩にかけて育て、銃の扱いとイライザの性感帯を教えこみ、大切に大切に愛でたエリーゼよ。
飛び出した自分の人工心臓と肺を見ながら絶命。
外部からの狙撃、なぜ探査モジュールのセンサーが稼働しないのか。
恐怖と絶望と利発な知性の憶測。
装備類は全てチャンを介して支給されたものだ。
背筋が凍る。
イライザはライフルを放り投げた、部下にそれを告げる余裕がなかった。
遅れて続いたのは3人、残る4人は弾倉の暴発で目と脳髄を吹き飛ばされる。
あらかじめのトラップ、生け贄に差し出された山羊の心胆。
冷徹に状況を判断する脳髄の中で狂おしい憎悪と怒気。
既にわかりきっていた事だが何もかも遅く全てが奪われ踏みにじられる。
盗聴でイライザの捜査を観察していた連中はあらかじめのトラップで存分に美しい女兵士達を無力化し、無尽ドロイドの投入を行う。
できるだけ人間は使いたくないのだ、秘密を知る者は可能な限り死の淵へ旅立ってもらう必要がある。
突入してくる鋼の魂なきコッペリアを前に、イライザの奮戦は凄まじかった。
たった一丁の拳銃と機械化された四肢、地獄をくぐり抜けてきた戦闘経験。
1時間、良く保った方だ。
部下の美しい死の天使達は真の死へと直面する中、幸運か、不運か、イライザだけは手足を撃ちぬかれ這いずる。
血まみれの凄絶な美を湛えた銀髪の顔を、小柄な小役人風の男、チャン・シンシンと、マイクロインク副社長へインリー・オドネルがつまらなそうに見下ろしていた。
これから自分の身に起こる事を思いつつ、イライザは微笑して中指を立てた。
「ファック、ユーだね」
続く