【女二人】
部屋は凄まじい有様だった。
机の上にも床の上にもソファの上にも、酒瓶とビール缶が散乱している。
ベッドの上にはだらしない格好をした女が一匹いた。
乱れた黄金の髪、美貌には弛緩した表情。
グロリア・カラハン、元女刑事。
部屋の参上に、買い物から帰ったイライザは溜息をついた。
「君は一体いつまでそうしているつもりだね?」
「……」
グロリアは何も言わず、ちらと一瞥したきり、またベッドの上で横になり、Tシャツとパンツだけの姿でごろ寝する。
あの銃撃戦より、今日で10日だった。
二人はメルティナ州国を出て、隣の州のギルギアンまで来た。
州超えの逃亡だった。
当たり前だが、残った証拠では何一つ彼女らの正当性など立証できない、法の名の下で復讐を正当化する事は現代社会では不可能だ。
ゆえに、二人は捜査線上に自分達が浮上する前に消えた。
というより、逃げるイライザが虚脱状態のグロリアを無理矢理つれて来た形である。
全てを終えたグロリアは、また魂の抜けた肉の塊になった。
復讐を遂げた復讐者ほど虚しいものは居ない。
残ったのは、大切な者を失ったという空虚さだけ、生きる気力など微塵も沸かない。
あんな事をしでかした後、メルティナの警察に残る事も不可能だった。
一生あの国へは戻れない、彼女はまた流浪の身に落ちたのだ。
もう何もかもどうでも良かった、アルコール漬けになって死ねるなら死にたい。
「いっそ殺してくれ」
投げやりにそう言った。
本気だ、冗談ではない、もし頭に突きつけられる銃口があれば笑って受け入れる。
イライザは軍服のコートを翻しベッドの上の無様な女へと近づく。
この期に及んでイライザはまだ軍服のままだ。
彼女の肌には一番馴染む服なのだろう。
巨大なバストを反らせ、胸元をきつく張り詰めさせながら、腰に手を当て見下ろす。
「君はそうして時の果てまで酒浸りの日々を過ごすか?」
「ああ……」
憫笑を浮かべ、女軍人はベッドの上で膝をつく。
グロリアの手にしていた最後のコニャック瓶を奪うと、残酷に中身を自分で飲み干した。
「おい!」
「私だって大切な者を失っている」
微かな音を立て、胸元のボタンを外していくイライザ。
黒い軍服から覗く眩い白い肌。
「死んだ部下は全員私が育てた、可愛い子達だった。彼女達は私の下僕であり、同時に娘で、恋人だった。私にとって部隊は全てだった、それがとうとう全員死んでしまった」
「……」
静かな、淡々とした口調だったが、その分余計にイライザの悲嘆のほどを知らしめた。
戦場こそが我が家、部隊こそ家族、血と硝煙の中でしか生きられなくなった歪で美しい銀狼の垣間見せる孤独。
涙はとうに枯れている、鳴き叫ぶほどの気力さえない、だが悲しみはどこまでも魂を凍てつかせる。
淋しくて淋しくて、悶えたくなるほどに。
寝そべるグロリアのシャツの裾を割り、イライザの白くなめらかな手が滑りこむ。
「やめろ……」
「君も恋人を失って、誰かに癒されたがってる、淋しいだろ? 誰かに優しくして欲しいだろ?」
「そんなの嫌だ」
目元を前腕で隠し、グロリアは掠れた声を上げる。
まるで、それはまるで、虚ろな心に与える代替物ではないか。
亡くした大切な人の代わりにたまたま目の前に居た相手をあてがう。
裏切るような心地に余計いたたまれなくなる。
それでも、ないよりはマシだった。
確かに、グロリアもぬくもりが欲しかった。
人肌の柔らかさに包まれたかった。
上向きになってもつんと張りのあるグロリアの乳房が現れた。
イライザの手が、絶妙な愛撫でまさぐる。
揉みしだき、先端を摘み、捏ねて。
意思とは裏腹に気持ち良くて身震いする。
「抱いて欲しい、だめか? 私の体を好きにしてくれ……できれば、前とは別の形で」
前に、復讐の殺戮の前にしたのは、猛り狂うケダモノの交尾だった。
今度はお互いに癒やしを求めて体を開く。
拒もうと思った、しかし、グロリアの乾いた心は目の前の媚肉へ抗えない。
気付けば、自分も手を伸ばし、イライザの軍服の合わせ目を掻き開く。
真っ白な肌が目に焼き付いた。
「んッ。胸、どうだ……改造されてない、自前なんだ……あッ♡」
たぷたぷを持ち上げて捏ねる。
乳首を摘んで扱くと、イライザの声は高く掠れた。
体を起こしたグロリアは顔を寄せ、彼女の唇を奪った。
甘美な口付け、悲しみに暮れる心へ、空虚な癒やしをもたらす。
二人の間で、巨大な乳房と乳房が押し潰された。
乳首が擦れる、堪らない喜悦が走り抜ける。
押し倒した。
ベッドの上に寝そべるイライザは、全てを彼女に差し出すように両腕を開いた。
「さあ」
腕を広げ、何もかもをグロリアへ捧げる。
目の前で揺れる爆発的ボリュームの乳房の谷間へ、彼女は顔を埋めた。
深呼吸する、甘やかな体臭を肺腑へ満たす。
グロリアもかなり胸は大きい方だが、イライザはその上を行く爆乳の持ち主だった。
舌を這わせ、ちろちろと舐め上げた。
弄うように、戯れるように、性感を少しずつ高める。
「あ、んぅ……ふぅッ」
蕩けるような声が耳朶を打つ。
手を伸ばし、探り、女軍人のズボンを脱がせる。
腰を浮かせて手助けしたイライザは、魅惑的なる下半身を見せつけた。
くびれた腰の下で急激なカーブを描く巨大な尻、むっちりとした肉感的な太腿を包む、黒いガーターベルトとストッキング。
ゾクゾクとこみ上げる性欲、グロリアはパンツの中から反り返った肉棒を取り出す。
くちゅ、と入り口に添えるが、すぐにがっついて挿れたりはしない。
入り口をわざと逸れて上を撫で、エラの張ったカリで陰核を撫でた。
イライザの腰が跳ねる。
「ひゃん!」
冷たい女軍人の顔は蕩け、可愛い声でグロリアの耳を愉しませた。
乳房へ吸い付く。
口に含んだ乳頭を、口の中で舌と歯を使ってコロコロと弄った。
しなやかな体躯が何度もベッドの上で痙攣する。
すぐに膣口はびっしょりと愛液まみれになり、グロリアのものを濡らした。
満を持して、肉棒は蜜壺の口へぴたりと先端を押し付ける。
二人の目が空中でぶつかった。
見下ろす金髪の女の、翠緑の瞳。
見上げる銀髪の女の、蒼氷の瞳。
言葉もなく、無意識のうちに、二人の手は伸ばされ、重ねてしっかりと互いを握り締める。
これが虚しい代替行為と知りながら、失った者の穴埋めと知りながら、愛を交わす。
「きてくれ……いれて、中に……」
甘えた声が、普段の怜悧で洒脱な、斜に構えた口調とはまるで別人となって誘う。
グロリアは小さく頷き、腰を沈めた。
粘膜と粘膜の擦過は背筋を凍えさせるほどの快感を生んだ。
ゾクゾクと腰を戦慄かせ、グロリアは歯を噛みしめて、イライザの中へ侵入する。
最奥を小突いた時、銀髪の美しい女は叫んだ。
「あああぁぁぁッ♡」
イッた、ほんの一突きで、ただの一往復もなく。
なんという敏感さと愛らしさ。
どこかサディスティックな雰囲気を持っていたイライザだが、その性根はマゾヒストで、甘えん坊だ。
イライザはこみ上げる愛情を意識しつつ、腰を振る。
力は入れ過ぎないよう、優しく優しく、恋人にするように、ミシェルとしたように。
ベッドの上で金髪と銀髪を振り乱し、女と女は睦み合う。
「もっと、もっとして! 奥を、突いて……そう、そこ……んくぅうッ!」
身をよじり、腰をくねらせ、脚を絡ませ求めるイライザ。
グロリアは息を弾ませて突き上げた。
喪失感と痛みを埋めていく新たな快感。
代わりで良い、仮初で構わない、何もないよりは、誰か傍にいてくれる事が嬉しい。
体を傾け、グロリアはイライザへ身を寄せた。
二人の体の間で豊満な乳房と乳房が押し潰れ合い、卑猥に形を変える。
乳首が擦れ合う快感がぴりりと走った。
「くう!」
顔を歪めるイライザ。
その美貌へ、グロリアの美貌が被さった。
細められた目にはいっぱいに涙が浮かび、とろんと霞む。
「ん、んぅ……んんッ」
ぴちゃぴちゃと、まるで子猫がミルクを飲むように互いの唾液を飲んだ。
豊満なる極上の美女と美女が愛し合い求め合う様は、この世のものとも思えぬほど淫らで麗しい。
生白い玉の肌に浮かぶ汗の雫、立ち込める雌の淫臭。
くねり、弾む腰、波打つ尻と乳房。
次第にグロリアの動きは素早く規則的になり、イライザも求めて自分から動いた。
ついに、破滅の時、終局。
爆ぜる白濁がイライザの子宮を征服する。
「「ああああぁぁッ!」」
重なり合う嬌声とアクメ。
びくびくと上下し、二人はお互いへの愛に溺れた。
それがその場しのぎだろうと、それが傷の舐め合いだろうと、構わない。
満たし合う喜悦。
息を荒げながら、両者はぐったりと寝そべる。
イライザの上になりながら、グロリアは手で探った。
白い大きな枕の下へと滑りこんで、何かを掴んだ。
硬い鋼鉄と木のグリップの感触。
そして抜いた。
同時に窓ガラスがぶち破られる、ドアが蹴破られる、突入してくるサイボーグ。
銃声が吠えた。
二丁の拳銃、敬愛する恩人の形見、二丁の45口径=ナインティンイレブン。
装填された対サイボーグ用高速タングステンコア弾が次々に猛然たる銃声と銃口炎で狂乱する。
彼女の反撃と同じくして、イライザも濡れた銀髪を振り乱して身を起こす。
下半身は繋がったまま、自分の上にいるグロリアの腰に絡めた脚で体を固定し、枕下に隠していた愛用拳銃、FNファイブセブンカスタムを敵へ。
グロリアの背後をカバーするように彼女の脇下から伸ばした手で撃ちまくる。
小口径高速弾が、強化人工筋肉に支えられた腕で見事な連射を決め、防弾プレートに一点集中の火力を叩き込み貫通。
二人の女は合体した状態で銃を撃ちまくり、奇襲をしかけた相手を皆殺した。
饐えた雌と雌の淫臭の中へ、さらに立ち込める血と硝煙の香り。
エクスタシーに加わる殺しの味に、イライザは凄まじい淫虐の顔を浮かべた。
「はぁぁ♡ 堪らないな、これは……セックスと殺しの味を両方とは、癖になりそうだ」
「なるな変態」
にべもなく言いつけると、グロリアはさっさと体を起こして彼女から離れる。
「あん♡」
イライザはどこかふざけた感じで、太く硬いグロリアの幹が抜けてしまうのを残念がるが、冷徹な戦闘頭脳ではきちんと理解しているのでがっついたりはしない。
お互いに軽く身を清め、弾を消費した銃へ装填。
グロリアの拳銃はシングルカアラムマガジン、装弾数は二丁合わせてたった16発、空になった弾倉を新しいものへ変える。
「どうしてそんな不便な古い銃を使うんだい?」
「趣味だよ」
いつものスーツに着替え腰の後ろの皮ホルスターへ銃をぶちこむ。
完璧な均整の取れた長身が麗しい気品と端正な気配を讃える。
「便利なものだな、あんなに大きかったものが影も形もない」
両性具有者が普段は性器を体内の肉鞘へ収納できる事を讃えるイライザ。
正常時ではグロリアの体は女性体として本来の美を整えている。
一方、イライザも軍服を纏う。
こちらも見た目だけはなめらかでしなやかで、豊満な完璧な女体美。
それを凛々しい軍服に包み、肩から皮コートを羽織る。
四肢は人工筋肉を詰め込んだ軍用義体、骨格もカーボンだ。
二人の女はベッドサイドに隠していたガンケースからそれぞれにライフルとショットガンを抜いて残弾を確認する。
「こいつら何だと想う」
「たぶんあの副社長の関係者かな。黒社会的報復では? この街のマフィアだと想うね」
死体を検分しつつ憶測。
殺されても良かったかもしれない、とグロリアは想う。
しかし、ただ殺されるだけは、やはりつまらない。
どうせならむかつく連中をみんなこの牙で引き裂いてやるのも悪く無い。
「居場所の検討はついてる。この街に入る前に多少調べておいたんだ。どうする?」
「決まってんだろ」
ショットガンのフォアエンドを引いて薬室に弾丸を送る。
チューブマガジンにその一発分を新たに補填した。
「こいつらの仲間を片付けたらどうするね」
「さあな、考えてねえ」
「私はまた傭兵部隊、民間軍事企業を立ち上げるつもりだ。優秀なスタッフを探しているんだが」
「お前それしかできないのか?」
「できないよ。君は?」
「……」
「失職中だろ」
「給料による」
「勉強させてもらうさ」
二人は互いの顔を見た。
にやりと笑う、獰猛で美しい笑み。
行く先には常に血の荒野、そこが住処。
手には銃、心には傷と痛み、喪失の過去。
メロウな旅路、二人旅。
とにかく今は再び開いた血路を突き進み、屍の山を作る為にドアを開けた。
終幕