四月二十九日 祝日(昭和の日・みどりの日)
今日は気分を変えて、麻帆良学園の外へと踏み出した。
麻帆良学園の外には学園内にはないショッピングモールや飲食店、娯楽施設などが多く店を構えている。
今日は休日と言うこともあってか人混みは普段よりも多く感じ、気を抜けば迷子になってしまうくらいだ。まぁ、平日の人混みを見たことは数えるほどしかないのだが。
そんな雑多の中を、あわあわとしながら進む一人の少女がいた。名は和泉 亜子。麻帆良学園女子中等部の三年生で保健委員、男子中等部サッカー部のマネージャーを担当している。気が弱く普通にお人好しで異色の3-Aの中では常識人ではあるものの、彼女はおいそれと簡単に人に言えない秘密を持つ。それは背中に左背部から右腰部にかけて大きな傷痕があること。何故そのような傷痕が出来たのかは本人すら知りえないことだが、そのせいか彼女は血を見ると失神してしまう特徴がある。
そんな彼女が本日学園を抜け出し赴いた場所は東京都渋谷区、通称若者の街。
目的はサッカー部のマネージャーとして買い物を頼まれたというもので、それ自体は既に終わっている。仲の良いまき絵・裕奈・アキラも誘ったのだが、見事に全員用事があり一緒に行くことが出来なかった。何人かで一緒に来ていればショッピングモールを回れたものの、亜子一人でそんなことは出来ない。もし絡まれたら怖いし。絡まれないよう一人で外出(学園外)する時は出来るだけ地味な格好をしているが、絡まれるときは絡まれてしまう。
不安を抱きながら人混みの中を掻い潜り、駅を目指す。いそいそと階段を上る亜子だったが、足元を見ずに上がっていたため段を踏み外し階段が目の前に迫ってきた。
「(コケ―――姿勢直さな―――もう無理間に合―――アカンこれ絶対痛い)」
様々な考えが浮かび、亜子は来るであろう衝撃(主に顔面)に備えぎゅっと目を瞑る。
しかし痛みも衝撃も来ず、何かに支えられているというのは目を開け振り向いてから分かった。額に手を当てられ胴に腕を回し亜子を支えていたのは、茶髪に澄んだ青色の目をした青年。額に当てられた手は、恐らく頭部への衝撃を和らげるためだろう。
「危なかったね」
「えぅ、あ、えっと、すすすいません!」
あまりにも顔が近く一瞬で緊張してしまった亜子は、顔を赤くしながら慌てて青年の腕の中から抜け出す。彼は人懐っこい笑顔を浮かべ亜子を気遣う。
「怪我、無くてよかったよ。今度から気を付けてね」
「は、はいっ。あの、ありがとうございます!」
「うん。それじゃ、またね」
「はい、また! …また?」
また、という言葉に疑問を持ち下げていた頭を上げるが、そこにはもう彼の姿は無い。不思議に思いながらも、亜子はしっかりと下も見て電車に乗り込み麻帆良学園へと戻る。
その後、彼のことを想う度に身体が火照るのは恋なのであろうか。
☆
日曜日 午前0時 世界樹の広場。
テスト時間が変更されたが、問題無く弟子入りテストは実施された。変更理由は至極くだらないので省略する。相対するのはエヴァンジェリンの従者である茶々丸と、3-A担任のネギ・スプリングフィールド。ギャラリーは多数。
「何であんなぞろぞろとギャラリーがいるんだ」
「すいません、ついて来ちゃって…」
「御主人ヨリ人望アルヨナ」
「余計なお世話だ」
自前の高級感漂う椅子に座りながら、エヴァンジェリンは浮いているチャチャゼロを一瞥。エヴァンジェリン側とネギ側に分かれ、ギャラリーは階段から弟子入りテストを見守る。そして明日菜の隣には、いつの間にかラントの姿があった。
「あれ、ラントさんはエヴァちゃん側じゃないんですか?」
「俺は常に楽しくなるような方に賭けるから」
「あ、ラントさんや。茶々丸さんの応援はせんでええの?」
「ネギが勝った方が盛り上がるじゃん?」
三人の会話を隣で聞いていた刹那はやれやれと首を振りながら、エヴァンジェリンに少し同情する。毎日大変だろうなーと、こんな程度だが。
「(負けられん、絶対に負けられんぞ。ぺ、ペロペロプレイなど…。いや、嫌いではないがやはりその、恥ずかしい…) 茶々丸、負けるなよ! 絶対に負けるなよ!? 掠らせもするなよ!!」
「(フリ…なのでしょうか?) 分かりました」
「デモヨー、アノガキ中国拳法ッテノ使ウンダロ? カウンターデ一撃入ルカモナ。ケケケ」
「茶々丸に限ってそんな…ないよな?」
「状況によります」
茶々丸の一言にうぐっと怯んでしまうエヴァンジェリン。そして多くのギャラリーが見守る中、遂に弟子入りテストが開始された。
「失礼します」
「契約執行 90秒間 ネギ・スプリングフィールド!」
エヴァンジェリンの合図と同時に茶々丸が距を詰め、ネギに殴り掛かる。ネギは自身に魔法で魔力供給を行い、パワーとスピードを増幅して初撃を左腕で逸らし、追撃のブースターで加速した右拳は身体を回転させながら茶々丸に密着して避け、がら空きになった右脇腹に八極拳の
茶々丸の蹴りを受け切れず後ろに大きく飛ばされたネギは、苦しい声を出しながら着地と同時に片膝を曲げる。しかしそれは茶々丸を誘い込むためで、ネギは弾丸のように繰り出されたパンチを右手で逸らして左手で手首を掴み取り、自身の方に引っ張って八極拳の
「…まぁ、そんな所だろうな。追い詰める程度にはと、多少期待はしていたんだが。残念だったな坊や、だがそれが貴様の器だ。顔を洗って出直して来い」
冷たく言い放つエヴァンジェリン。倒れこんだままのネギに明日菜とまき絵は駆け寄るが、ネギはふらふらとしながらも自力で起き上がる。
「まだ、まだです…。まだ僕は一発も入れてないですよ、エヴァンジェリンさん」
「はぁ? 何を言っている、もう勝負はついた。ガキはさっさと帰って寝ろ」
「ヒット直前、障壁ニ魔力ヲ集中シテタゼ。アノガキ」
しっしっと手を振るが、ネギは再び構え直し茶々丸を見据えた。
「条件は一撃入れること。それに時間制限も僕が一撃もらったらなんて決まりはないはずですよ?」
「呆れた…分かったよ、それなら存分に殴られれば良いさ。茶々丸、手加減するなよ」
「ありがとうございます。…茶々丸さん、続きをお願いします!」
「すみません、先生」
掛け声と共に突っ込んで来たネギを避け、肘打ちを首に叩き込む。自身への魔力供給が切れたことでパワーとスピードはガタ落ちし、今までの勢いは見る影も無い。
いなされ、弾かれ、防がれ、殴られ、蹴られ、吹き飛ばされ…手も足も出ず、ネギは一時間近く受けに回っていた。
受けに回っていた(意味深)
「はぁ、はぁ…はぁ…」
「ネギ先生…」
「本当に呆れた。いくら障壁に魔力を回しても限界がある。そろそろ止めとかないと死ぬかも知れんぞ?」
「アイツ根性アンナ」
ボロボロになっても、ネギは挑戦を止めない。茶々丸も心配はするものの、手は抜かない。
しかしここで、まき絵が声を上げた。見ていられないと言って止めに入ろうとする明日菜を引きとめ、涙目になりながら明日菜を説得する。
ネギは目的を達する為に覚悟を決め自分の全部を出し切って頑張っていると。
そして、大どんでん返し。
真剣に語るまき絵に気を取られた茶々丸は、その隙にネギは一発茶々丸の頬にぺちんと、拳を当てた。
「…あっ」
「あ…あたり、まふぃた…」
そのままドサッと倒れるネギ。
「ちゃ、茶々丸ーッ!!」
「すすす、すみませんマスター」
「残念ダッタナ、御主人。素直ニ陵辱ヲ受ケルコッタ」
「ぐぬぬ…」
エヴァンジェリンは茶々丸を睨み付けるが、赤面しているせいで全然怖くない。寧ろ愛らしい。
ギャラリーはテストが終わったことでネギに近寄り、労いの言葉を言う。ラントは笑顔でエヴァンジェリンに近付き、堂々と言い放った。
「今日もお楽しみですね」
「うっさいわ! てか、本当にやるのか? 冗談ならまだ笑って許されるぞ?」
「茶々丸がここまで頑張ってくれたんだから、俺もそれに答えないと」
「ラント様…」
「お疲れ様、茶々丸」
「おい、なに良い雰囲気作ってるんだ。茶々丸も器用に頬を赤らめるんじゃない!」
ゲラゲラと笑うラントを叩き、エヴァンジェリンは介抱されているネギを見る。
「負けは負けだ、稽古はつけてやる。いつでも小屋に来い。…ああそれとな、そのカンフーの修行は続けておけ。どのみち体力は必要だし、理屈っぽいお前に中国拳法はお似合いだよ。さっさと帰って寝ろよ」
「あ、ありがとうございます。エヴァンジェリンさん…」
エヴァンジェリンはそそくさとその場を後にし、茶々丸は礼儀良くお辞儀しエヴァンジェリンについて行く。ラントがチャチャゼロを頭に乗せながら手を振ると、亜子が近付いてきた。
「あ、あの。先日はありがとうございました! まさかこの学園で会うとは…別れ際のまたっていうのは、このことを言ってたんですか?」
「見たことあったからね。にしても良く覚えててくれたね、嬉しいよ」
「い、いえ、そんな…。…あのっ」
「何?」
「(イツノ間ニ知リ合ッタンダヨ。マタ御主人ノ機嫌ガ悪クナルジャネーカ)」
「学園内に居るなら、お会いしに行ってもいいですか?」
「うん、いいよ。エヴァの家に居るから」
「(イヤ駄目ダロ)」
「楽しみにしてるよ。あ、これネギに飲ませといてくれる? 全快するはずだから」
「はい、分かりました!」
薄緑色の粉が入った十円玉ほどの小さな袋を亜子に手渡し、ラントもチャチャゼロと共にその場を去った。
「亜子、ラントさんと知り合いなん?」
「え? えと、知り合いと言うか何と言うか、この間怪我する所を助けてもろてな。あ、これネギ君にって」
亜子は木乃香に袋を渡し、木乃香は持参していた水と共にそれをネギに飲ませる。すると全身の切り傷・腫れ・疲労・魔力の全てが完治した。
「す、凄い。木乃香さん、これは?」
「なんや、亜子がラントさんに渡された言うて。にしても凄いなぁ、すぐに元通りや」
「何者なのよ、あの人は…」
「エヴァンジェリンさんとあれほど仲が良いのですから、恐らく只者ではないかと。それに今の薬、あれだけの量で即効性・効き目共に抜群…どれだけ貴重な材料を使っているのやら」
これにて弟子入りテストは終了。結果は合格。
ラントに対する疑問は、増えるばかりであった。
☆
「じゃあ茶々丸、学校始まるくらいに戻ってくるから」
「畏まりました」
「楽シンデコイヨ。ケケケ」
「ちょっと待て、仮に八時だとしても六時間だぞ!? 六日間もヤるつもりなのか!?」
「1にペロペロ2ペロペロ、3・4にペロペロ5にペロペロ、そして最後にいただきますだろ!」
「しっぽりむふふと楽しんでくださいね」
「茶々まっ、おい担ぐな! 自分で歩けるから、ちゃんと行くから!」
どんなプレイだったのかは二人しか知らない。
何というごり押し。終わり方雑っ。
亜子の背中の傷痕は、絶対に敏感。間違いない。
なんかゾクゾクするシチュエーションとかないかなー。