理解しようと思うのがまず間違いなんです。
「…エヴァンジェリンの知り合いらしいが」
「私は知らんぞ!? だいたい、貴様が呼び出し―――んぁっ、ちょ、止め」
「何だよ何だよー、こんな学生みたいな服着ちゃって…ってここ学校だったな。にしても全然変わってないなー! 身長も器の大きさも!」
強く抱きついて離れようとしない少年に対し、エヴァンジェリンは強引に引き剥がそうとするも脇腹を甘噛みされ一気に引き剥がすことが出来ないでいた。
まるで遊び盛りの犬に遊んで! 遊んで! と、押し倒されてじゃれ合っている飼い主と犬のようだ。
そんな二人を見守っていた(あまり関わりたくなかったので放置)高畑と学園長だったが、話が進まないので恐る恐る声を掛けようとして。
「いい加減に鬱陶しいわぁーーーー!!!」ズドンッ
「ほげぇっ!」
堪忍袋の緒が切れたエヴァンジェリンは密着する少年の頭を殴り、僅かに緩んだだいしゅきホールド(腕ver)からするりと抜け出す。
「な、何もそこまでせんでも」
「はぁ、はぁ…私のことを知っているんだ、一般人でないことは確かだろう。それに加減はしておいた、寧ろこの程度で済んで良かったと思うべきだ。というかジジイ、何故止めなかった!?」
「まぁまぁエヴァ、落ち着いて…」
「貴様もだタカミチ! 暢気に笑ってないで助けたらどうなんだ!」
見守っていた二人に怒鳴り声を上げるエヴァンジェリン。見ているのが面白かったなんて言えるわけもない。
「うぅ、中々の横殴り。角度はまぁまぁだったけど力の込め具合が大雑把だなぁ。てか俺じゃなかったら気絶してたぞ…手加減しなさいよ手加減を!」
地面に倒れ込んでいた少年は殴られた米神部分を擦りながら起き上がり、エヴァンジェリンに文句を言う。
その時、エヴァンジェリンは違和感を感じた。確かに加減はしたし、死なない程度に力を込めて殴った。エヴァンジェリンは少年を気絶させる勢いで殴りつけたのだが、ほぼ何もなかったように起き上がる少年。しかもコメント付き。
「ほっ、エヴァンジェリンに頭を殴られても起き上がれるとは…。少年よ、お主はエヴァンジェリンの知り合いか何かか?」
「知り合いでもあり尻合いでもある。いやー、暫く会ってなかったから愛おしくてね」
「おい待て、私は変態小僧のことなぞ知らん。それにここ十五年程この学園外の人間と知り合った覚えもないし、それ以前でも変態小僧のような奇行に走る人間は記憶に無いな」
「と、言っておるが?」
「んまぁっ、失礼しちゃうわね! そこそこ強くなったら会いに行ってあげるって約束したのに。あと変態小僧言うな」
少年の言葉にピクッと反応するエヴァンジェリン。
―――こんな変態小僧と約束? 今初めて顔合わせしたにも拘らず? そもそも強くなったらってどういうことだってばよ。
強くなったら、ということはつまり、エヴァンジェリンがまだ不老不死の吸血鬼になってまだ間もない頃に知り合っている可能性がある。しかし少年の顔に見覚えは無い。
―――いや待て、そうなるとこの変態小僧の年齢は私と同等かそれ以上なのか? つまりそれは不老…、!?
そこまで考え、エヴァンジェリンの脳裏に一人の人物が挙がる。少年と見比べても、共通点など一切―――いや、一つだけあった。
変態だ。
似たような経験が無かったわけではない。昔…それこそ数百年前に、ここまで直接的ではないがある人物に似たようなことはされた記憶がある。
「お前、まさか…」
「あ、分かってくれた? この姿でも分かってくれるなんて、やっぱ愛の成せることだよな!」
「エヴァ、結局この子は知り合いなのかい?」
「…ただの知り合いであれば良かったんだがな」
「とすると、友達かい?」
「…違う。私が吸血鬼になって間もない頃、共に旅をしていた生き物だ」
「因みに魔法の初歩を教えたのも俺。あと生き物言うな」
「ま、待てエヴァンジェリン。お主と一緒に旅をしていたということは…」
「あ、生き物ってコメントは無視ですか」
「こいつも私と同じ不老不死だ。歳は知らん」
「今年で云歳になったよ」
エヴァンジェリンの発言に開いた口が閉じない状態の学園長と高畑。エヴァンジェリンが言うからには嘘ではないのだろう。だが信じられない。見た目小学生の少年が自分達よりも遥に歳を食っていて、尚且つあのエヴァンジェリンと共に旅をしていたなど。
魔力も一切感じず、エヴァンジェリンのような風格や威厳は微塵も感じない。そこに居るのは、変態行動をとるやんちゃな少年。
「そ、それで…お主は一体何故この学園に?」
恐る恐るこの学園に来た理由を聞く学園長。学園長も魔法関係の世界では名を馳せた人物だが、未知の生き物には慎重に為らざる得ない。
「エヴァに会いに来たの。何でこんな所に居るかは知らないけどね。あ、あとどのくらい強くなったか確認しないと」
「待て待て、やるなら別の所で頼む!」
エヴァンジェリンの方に向き直った少年に、学園長は慌てて止めに入る。
不思議そうな顔をする少年だが、学園長や高畑にとっては気が気ではない。エヴァンジェリン以外の不老不死という未知の存在がどれ程の力を持っているのかは分からないが、ここで暴れられれば隠蔽もクソもない。下手をすればこの麻帆良学園そのものが消し飛ぶかもしれないのだ。
「あ、ここではやんないから。エヴァ、まだ別荘持ってる?」
「あるぞ」
「別荘で強さは確認するから、安心していいよ。それじゃ行こうか」
「ま、待っとくれ!」
エヴァンジェリンの手を掴み取り、少年は学園長室を出ようとする。学園長は声を掛けて足を止め、一つ質問する。
「お主の、名は…?」
「俺の名は、猿飛佐す」
「ラント。私と旅をしていた時の名だ」
「バラすの早いよ」
そんなコントを最後に、二人は学園長室を後にした。
最強設定の難しさを知った高校三年の春。
厨ニ思考が出来なくなってきた高校三年の夏。
そんな自分に、一言言いたい。
何故最強設定にしたし。