姿が見えない、と言うのはかくも恐ろしいものであるとここに宣言しておこう。
人間……とりわけ子供たちが霊やお化けのオカルトの類が苦手なのはそこにある、と俺は考えている。事実、人間が恐ろしいと感じるものは『今まで見えなかったものが見える』事である。もしオカルトの類いが全人類平等に見えていたのならばこんなにも恐れられる事は無かったはずだろう。
ん? 突然何を言い出してるのかって? まぁならば簡単に、一言で済ませてしまおうーーー
「例え
貴様は周りを挑発し過ぎた…………セラフォルーの分も加えると貴様の血族全てでは足りないだろうが…………だが、それでも今の私には
ーーーあいつぶち切れてて全然恐れてくれません、助けて。
とは言っても全く助けが来る事のないこの状況ではホント一人で何とかするしかないのが最悪である。
「けど…………そうやっていられるのも今の内さ…………」
倍加はしない、未だに俺が改造したりして作った能力以外は使いこなせていない。というかやはりコピーしただけでは『使いこなせないもの』扱いになるんだろうな。
正直この鎧は腕さえ使える様になればそれ以外は問題ない代物さ、普通に俺の意思で義手(?)として動作する事は確認出来たしあとはどうやってこの滅びの魔力を俺が使える様にするかだが…………あいつの滅びを相殺するにはあいつの滅びそのものをぶつけないといけない、けどどうぶつけるかが問題だ。俺の目的はあいつにコントローラーを効く様にして支配下に置く事、今のあいつは激昂していながらもこの屋敷ごと消すという判断はしていない。俺をただ消したいならメイド達を逃がしてこの屋敷諸共俺を消し飛ばせば良かった。だが俺をサーゼクス自身の手で消したいという怨恨で俺をこの部屋に招き入れて単独撃破を狙っている。そこが狙い目、狙い目なのだが…………
「辛いねぇ…………銃弾作り出す能力とかあったかな」
生憎銃弾を作り出す能力は持ってな…………いや、銃弾は無くても
木場の能力で魔剣を創り出してあいつに刺せばいいんだ。目立たない様に針の様な小ささの魔剣を作ってしまえば刺した後すぐにコントローラーを使えば抜かれる心配も無いな。滅びを魔剣にまとわせてあいつの滅びを一部無効化にしつつあいつの肉体に魔剣を差し込む。うん、これなら完璧だな。後はどうやって針を打ち込むか…………弓矢形式だと貫通する可能性もあるしな…………やっぱり近付いて……そんなリスキーな真似あんまりしたくないんだけどな。
「ふんっ!!」
あ、やべ、手当り次第に消していってやがる。魔力弾出すと危ないから手で纏ってる部分で削り取ってるだけだけれども。準備してたり悩んでる時間ねぇな……一か八か弓で打つか? あいつの魔力を0にする為には俺のコピーして改造を加えた俺の滅び、『撃ち込んだ相手の異能力の発動を無効化し続ける』というものだ。
ま、これははっきりいわせてもらえば意志を持っている神器以外の相手ならば大抵無効化出来てしまうものだ。あくまで無効化だけなのだが。それにこいつは相手の体内に無いと意味を成さないものでもある。今回専用の様な気もするけど問題無い。撃ち込んでこの魔力が入った瞬間に俺の勝ち決定だ…………刺さってから入るまでに最低でも1秒以上掛かるけど。
「また腕が無くなるけど…………刺さるならマシかな」
腕を振り下ろすのを恐ろしく速くしないと差し込む事は出来なさそうだけど…………やらないよりマシだろう。
『Boost!』
「そっちか!!」
相変わらずビビらせてくれるけど今回ばかりは俺の運がいい事を祈るしかないな…………なるべく腕の力を上げて思いっきり刺さる様にしなければ。
「あぶねっ!!」
『Boost!』
「外したか…………!!」
倍加は順調に進んでいっている。今のところ四倍になってるのか、できれば8倍くらいまで増したいところだけどその為にはこの音声をせめて後1回は聞かないといけない。はっきり言って面倒臭い事この上無いがしょうがないだろう。
どうやら神器が発する音はあいつにも聞こえているみたいだな。かなりリスキーだが……やるしかない、成功したらこいつを使いっ走りにしてやる。フラグなんて建ててやらないからな!!
「ん…………? あれ…………?」
おかしい、鳴らなくなった。やっぱり使いこなせないとダメかな。こういう不具合が起こるのは少し面倒だ。音鳴らないからバレる心配は無いものの…………
「…………すぅー………………はぁー………………!!」
え、あれ、なんか深呼吸してる。凄い大きな深呼吸してる。そして地鳴りし始める、なにこれ、今ここに何が起こってるの!?
よく見るとあいつの鎧のようなオーラよりさらに外側から赤いオーラが漏れだしてきてる。やばい、あのオーラの質はやばい。
「…………これを、使うのは少々…………力を使い過ぎてしまうが…………これは異能力の発動を滅ぼす技…………消えはしないから安心しろ、私が一時的にお前の神器を消すだけだからな………………!!」
アカンやつや!! それを食らったら針飛ばせない可能性がある!! というか鎧が消えて義手が無くなる!! クソっ!! なんとかギリギリまで持たないか!?
俺が焦ってそうやっている間にもオーラはジリジリと近寄ってくる。速くはないけどこの部屋から出る訳にもいかないから何にも出来なくなる!! あと1回なんだよ!!
「お前は…………自分の能力を使いこなせて…………ない様だな…………! それが…………お前の…………敗、因…………だ!!」
…………いやいや、能力の使い過ぎで顔面蒼白で息切れしてるあんたに言われてもなんも敗北感なんて沸かねぇよ。せめてもっと顔色良くしてから言いやがれ。どうやらあいつのあの技は制御が難しいらしいな。まぁぶつけた対象は消さずに能力を一時的に無効化するなんてアホみたいな制限を掛けたもんだ。触れたものを消すという代物を無茶苦茶な力で押し殺して殺さない様にする。
んで姿を見付けた瞬間俺を直接殺す、自分で殺したという明確な証拠が欲しかった訳か…………まぁ、今回はそれが理由で助かった訳だが。
けれど今の俺の腕力は最大4倍まで引き上がっている、最悪今のままでもいいが…………いや、待とう。
さっきまで焦ってたがサーゼクスが勝利宣言してくれたおかげで落ち着いたんだ。ギリギリまで待とう。針はある。魔力も帯びさせてある。
あとは投げるだけ。ジリジリと迫ってきているから俺も壁際に追い詰められる、せめて投げれるスペースくらいは確保したいなぁ…………
「…………部屋から出たか? いや、そんな気配は無かった…………」
まぁ始めから出られないのに逃げる訳無いよな。逃げられないの分かってるからこの部屋にいるお前をこうやって倒しに来た訳だし。
…………それに、既にアイツ中心に広がっているオーラのせいで部屋から出る事が出来なくなっている。早くお前を倒して家に帰らせてくれ。
『Boost!』
「そこかっ!」
「来たっ!!」
8倍目の倍加が出来たのとやつが気付いて魔力弾を放つのはほぼ同時、だが奴は正確に俺の頭を狙って撃ってきた。それが狙ってなのか偶然なのかは分からないが頭は狙われる事なんて承知の上である。
だから俺はアンダースローでそれを避ける様に針を投げる。目標はさっきからまともに動いて無いしな、距離もそんな馬鹿げた距離でも無い。
8倍の腕力で投げたのなら凄まじい速度で飛んでいくだろうからこれは刺さるだろう。
「くっ!! 外したか…………っ!?」
奴の魔力弾は俺の左肩を抉り、俺の投げた針は奴の足に刺さる。どうやらちゃんと刺さった様で足を抑えている。効果はあるのだろうか。
「くっ…………なん、だ…………!? 魔力が…………減って…………!!」
…………効果あり、の様だ。あいつの魔力の鎧は消えた。だがアイツ自身の魔力量が膨大なのかは知らないが未だに魔力が残っている様だ。
実際、さっきから時止めをしているのだがまだやつは動いている。とんでもないバケモンだな…………自分の魔力がガンガン削られていってるってのにまだ動く事が出来るなんてな…………だが鎧を保てなくなった以上もう終わりだな。
「だが…………せめて奴だけ…………ぐうぅぅぅぅぅぅ…………!!」
…………? 何をしているんだ? あいつの魔力はもう無くなっていてもおかしくはない。いや、むしろ針の魔力が入り込んだ時点で魔力は消え去るはずなのに魔力が残っているのがおかしいのだが。それでもあいつは俺を殺そうという視線で再び立ち上がる。
そして唸り声をあげたかと思えば……
「なっ!?」
咄嗟の回避で頭には直撃しなかったものの脇腹が抉られてしまう。ただでさえ体の殆どが削られているってのにこれ以上削られてたまるか!! って今あいつ魔力弾撃ったのか!? 魔力が削られてる中でか!? 流石に規格外過ぎだろ!!
「くっ…………グレイフィア…………母上…………申し訳…………ありません………………!!」
だが最後の抵抗だったみたいでそれを最後に倒れる、どうやら完全に魔力切れみたいだ。んじゃま…………終わらせるか。
「…………ん?」
気づいたら目の前にコントローラーがあった。てっきり融合したとかそんな感じかと思ってたんだが………………だがその代わりに今まであったコントローラー自身の能力を使えなくなっていた。つまりは頭の中にコマンドを思い浮かべてそれを使う事が出来なくなっていた。
まぁそこは別に対して気にしないからいいんだけど…………さっき肩抉られたせいで片腕吹っ飛んじゃったから片手で操作しないといけないのは面倒臭いな。
「記憶操作…………のコマンド…………よしっ、入ったかな」
弾かれた感じがしなかったし多分大丈夫だろう…………試しに起こすコマンド使うか。滅多に使わないけど相手が気絶した時とか無理やりこれで起こせるし…………
「あぐっ! ……………う、わ、私はここで一体何を………………っ!? なぜ部屋がこんな事になっている!?」
あ、大丈夫っぽいな。これなら安心してヴェネラナを探しに行けるかもな…………あ、時止めて試しておけばよかった。さっきから発動させてると思っていたがコントローラーが(多分)体の中から飛び出した事で一部の能力が強制的にストップ掛けられたみたいだな。
…………うん、時止めたらこいつ動かなくなったわ…………んじゃまこの部屋をいろいろ漁ってみるか。
「タンスの下とか時計の針を動かせばこういうのは大体隠し通路が出てくるもんだよな………………まぁ鉄板ネタって話なだけなんだけど」
しかしタンスも時計もこの部屋には無かった。どうやって時間確認するんだこの部屋……
と、部屋を見渡していてふと気付いた事がある。先程戦っている時に床に開けられた穴、その下には大理石の床が広がっていた。いや、これだけなら別段おかしな点は無いのだが…………この穴は深めに出来ていて大体2m近い深さはあるはずなのに未だに床が存在する事に違和感を覚えた。
単純にこんだけでかい屋敷だから下の階との天井と上の階の床との面積は高い方がいいのかもしれないけれど…………妙な違和感を覚えた俺は残った片腕で軽く滅びの魔力を貯めて床に放ってみる、ここに集中した撃ち方ならもともとの深さも相まって3mくらいになるだろうと思っていた。
だがその3mの深さでも
だが床が存在していたと言ってもこれにはトリックがあるとすぐに理解出来た。
消し飛ばした床、ちらりと横を見れば30cmほどの厚い板が入るくらいの隙間が存在していた。要するに大量の板の様なものを何枚も重ねあげた何かしらの入口の様なものがここにあるのだろう。
本来は魔力か何かで開くのだろうが…………サーゼクスが吹き飛ばしてくれたお陰で正常に動作しなくなった訳だ。偶然だと思いたいが……俺にヴェネラナを追わせる気は無いって事がよく分かったぜ。だがこうやってバレた以上…………最早意味をなさない。それじゃあ……ヴェネラナを奪いに行くか。
「お、いたいた」
床を何100枚と消していっているとようやくゴールが見えた。そこからどうやら一方通行に道が通じている様でそのまま真っ直ぐ歩いていくとヴェネラナとある男の姿、恐らく夫なのだろう。息子が強過ぎたせいで全く話題に上がってこなくなった哀れな父親って訳だ。
そしてこうやって時を止めているが二人とも止まっている時点で俺には勝てない。さて、父親は放置してヴェネラナを持って帰ろう。消滅した腕とか脇腹とか何とか修復してからだけどな。
えーっと持って帰るのは…………あとグレイフィアも連れて帰らないと。
…………片腕しかないけどなんとかなると信じて今は帰ろう。肉体を修復しなければ。
ヴェネラナは次話です。
この時点で主人公は鎧をつけているとはいえ両腕と脇腹が削り取られています。普通に死んでてもおかしくないケガですねこれ。
鎧で片腕なんとか義手替わりにしてますけど。