「ふむ…………」
雷雲が轟き、雨が全てを貫かんとする勢いで降り注ぎ、風が全てを吹き飛ばさんとする勢いで吹き荒れているだけの平和な日常、そしてガブリエルを味方につけて幾日か経過した頃。俺はある事実に気付いていた。
「天使どもが来ない…………」
女達では無く、男達だけなのだがそれでも来ない。別に今日の悪天候が原因という訳では無く快晴だった昨日も来ていない。何が原因かは分かってないがとりあえず来ていなかった。
折角何本も傘を無駄にしたのにこれじゃあ傘の骨折り損じゃないか…………にしても今日は天気が大荒れだねぇ…………気のせいか向こう側はかなり晴れてる気がするのに。
「よっす」
そしていつものグリゼルダの教会に入るとそこには見知らぬ青年が一人で立っていた。
ふと気付くが外はあんなに天気が荒れているのにこいつは傘を持って無いどころか服が微塵も濡れていない、いやいや何時間いるんだよと思ったね。まぁ…………どう考えても人間じゃないけど。
「あんたはーーー」
この大荒れに荒れた天気、看板とか瓦とか軽くて硬いものが飛び交うくらいになってるから危ないって特別警報になるくらいだしな。知らない間にウチのオカンはどっか行ってたし。そんな天気で無傷でここに来られるのはどう考えても人間じゃない。もしくは人外の力を持った武器を有している…………それのどっちかだ。
故に例えどっちであろうとも時を止めてコントローラーで洗脳して味方につける。しかし俺はそんなやつの顔をどっかで見た記憶がある…………見たというか…………なんだろう。えーっとーーー
「っ!」
「ちぃっ!! 外した!!」
いつも通りの直感で危険を感じ取りその場を離れる。俺が直前まだ居た場所は黒い鎧を着込んでいる男がその黒い炎に燃えている腕を振り下ろしていた。あの炎は触れたらやばいやつだって事がよく分かるな。
「絶対に許さねぇ!! 会長を…………俺の仲間を…………てめぇはぁ!!」
「……ん? 会長? それにこの声…………お前匙か」
匙元士郎、確か呪いの龍王ヴリトラを体内に宿してる会長の眷属…………それがなんでこんなところにいるんだ? というか教会にいるって事は…………今時止めで止まっているこいつの味方って事か。というかなんで天龍でも無いこいつが動ける様になってんだ。
「てめぇの力は一切効かねぇ!! 俺とヴリトラの呪いの炎が全部燃やすからだ!! 覚悟しやがれ!!」
うっわ…………ブチ切れてるよ…………ってか呪いの炎なんでもありかよ。よく見たら確かにお前めっちゃ黒い炎上げて燃えてるから黒いモヤみたいになってるけどさ。
「能力効かないは言い過ぎ…………って訳でも無いのかね? 事実お前には俺の時止めが通用して無いんだからな」
あの炎…………触れると燃やし尽くす迄消えない呪いの炎だっけか? それにあの鎧から出ている触手は触れるだけで存在そのものを呪殺されかねんすげぇ危険なものって言うのも知っている。全部聞いているからな。
さて、確かに効かないのは厄介だが今のこいつは頭に血が上っているせいでまともな判断が出来ていない状態にある。ならせめてもっと煽って暴走してもらおうかね。
「…………ま、けどお前の事も知ってるんだぜ? お前の能力、癖、どうやって戦うかなんて全部教えられてんだ…………お前の愛する会長サマにベッドの上でな」
「ーーーっぶっ殺す!」
うわぁ…………すげぇな。会長って言っただけで怒気が滲み出てんだけど。
こいつどんだけ会長のこと好きなんだよ。本人に聞いても弟程度にしか思われてない時点でチャンスなど微塵もなかっただろうに。
「くそがっ!! 当たれぇ!! 当たれってんだよぉ!!」
がむしゃらに腕を振り回し、触手も振り回しで怒りに身を任せた戦いをしている。そんな攻撃じゃあ当たるものも当たらない。攻撃の仕方を本能に任せているとその動き方を知っている俺にとっては避け易い事この上無い。元々悪魔となった俺の体のポテンシャルは人間から見たら余裕で上の方に入れるほどだ。さらに最近動ける様に訓練もしているので今の匙の動きは余裕で避けれる。だが掠るだけでもアウトなのには変わりがないし、俺があいつに触れられないのも変わっていない。という事はこの前奪い取った白龍皇の力を俺流にアレンジしたのがあるからそれを使わざるを得ない状況なのかもしれん。だが今この状況では呼ぶのは隙があり過ぎるな。触れられたらアウトだなんてこいつ下手したら白龍皇や赤龍帝より強いんじゃないか?
「殺す! 呪い殺す!! てめぇの魂の欠片全てを永遠に呪いの業火で呪い殺してやる!!」
「おー怖い怖い、そんなにあの会長サマの事が好きだなんて思いもよらなかったぜ。でもよ、本当に俺が洗脳したと思ってるのか?」
「………………は?」
うっわめっちゃ声してるこいつ。鎧つけてるのに『は?』に威圧込め過ぎだろうってのがよく分かるわ。っていうかもうちょっと人の話を聞く時の喋り方とか知っとけよ面接する時にそんな威圧感込めて行くつもりなの? 馬鹿なの?
内心若干ビビリながら話を続ける。
「確かに俺の力だとどんな奴でも俺の支配下におく事は可能だよ? けど本当にそれだけで全て可能なら時を止めないでもそこの好青年をさっさと洗脳してお前にぶつけるなりなんなりの事をしてやるわ。
それ以前に本当にお前俺が全員洗脳したとでも思ってんのか? もしかしたら全員俺に惚れてて俺が全員に答えをOKを出したとはーーー」
「そんなことはどうでもいい!! てめぇは会長の意識を無理やり従わせた!! そこが全部でお前を殺す全てだ!!」
話聞いてくれない!! この子俺の意見を全部聞いてくれない!! 何!? 呪いの業火で燃やしちゃったの!? ってか危なっ!! さっきよりも触手が多い!! 俺の触手プレイとか誰得だよ!! いや触れたら死ぬけどね!? 魂まで呪いで燃やされちゃたまらん!!
「お前先生に話聞けとかよく言われてるだろ!! 例え憎い相手でもちゃんと話を聞くのが常識だろうが!! 馬鹿か!!」
「知るかぁ!!」
ちっくしょう!! 説得で諭すのもダメか!! こうなったら倒すしか手は無いがその手段が無い!! いやあるけどなるべく白龍皇の力を使う為にはこいつを止めないといけない!!
「っ! しょうがねぇ…………来いよ!! 外で勝負だ!!」
逃げ続けている内に教会のドアに背中が当たる。仕方が無いからそのまま外に出て雨に打たれながら逃げていく。流石にあそこだと狭過ぎてかなわん!! どこか広い場所にまで逃げ続けてやらぁ!!
「待ちやがれ!! このゲス野郎!!」
そして案の定匙もドアをブチ破りながら俺に向かって走ってくる。俺達は時の止まった空間で同じ様に走っているが決定的な違いが存在していた。時が止まってる間俺に触れているものは俺と同じ様に動く事が出来る。だから豪雨の場合は雨粒が俺の顔を濡らしたり服を濡らしたりしていく訳だが…………匙の場合触れたものが片っ端から燃えている。雨粒が燃えるところとか初めて見たわ。写真に撮りたいけど今そんな事している場合でも無いしな。さて、広い所ってどこがあるかなーーー
「ここなら…………何とかなりそうかな」
「てめぇ何を……!? ここは…………!?」
俺が最初に思い付いた広い場所、そこまで教会から離れてなくてなお且つ近所である意味では一番見知っている場所。
「駒王学園…………!?」
そう、駒王学園である。まぁ匙にとっても見知った場所なのは少しリスキーだが……今の俺にとって必要なのは能力を発動する為に必要な場所だったから問題無い。あとは今のこいつをどうやって止めるかだな…………
「…………教師と部活中の生徒を人質に取ろうってのか!! んな事はさせねぇぞ!!」
「はっ? えっ? ちょあぶなっ!!」
何かいきなり因縁付けられて殴ってきた。こいつちょっと被害妄想が過ぎるんじゃねぇの!? 人質とか全く考えてなかったわ!! 確かにいるな! 今気付いたわ!!
「このクズ野郎が! 会長を無理やり自分のものにして…………それだけじゃ飽き足らずシトリー眷属やオカ研まで無理やり自分のものにするっていうのはただの屑だ! てめぇには許される余地はねぇ! てめぇは俺の炎で焼き殺してやる!! 天国にも地獄にも行けると思うなよ!! てめぇが唯一行けるのは『無』だけだ!!」
「…………何、お前人の命運を自分で決めれるほど偉いの? お前は運命の神様かなんか? もしそうだとしたら普通に尊敬するかもしれないけど呪いの龍が他人の運命決めれると思ってんの?」
無に行くっていう表現はかっこいいから好みだ、今度から覚えていたら使ってみるとしよう。だが今はそんな事はどうでもいい、ちょっとこいつがあまりにもしつこいのでイライラし始めてきた。
まぁあいつからしてみれば悪いのは俺なんだろうけど。
「なんだと?」
「天龍でも無いとはいわれているが俺にしてみればどっちもどっち、強過ぎて分かんねぇんだわ。けどよ、正義の味方として働いてるお前に聞くけどよ…………なんで俺が悪いって決めつける? 聞いたぜ? 兵藤ってちょっと前にライザーって悪魔からリアスを横取りしたんだろ? 俺が糾弾されてどうしてあいつはやっている事を崇められている? リアスという女をライザーから無理やり奪い取ったあいつは、正々堂々と言っておきながら聖水なり十字架なりの悪魔の弱点をドラゴンの腕を使って搦め手で倒したんだろ? なのにどうして同じ様に策で嵌めた俺が糾弾される?」
とりあえずそれっぽい事を適当に並べていく。
この並べられて作られた言葉に初めて匙が困惑を見せ始める。その困惑がいきなり喋り出した俺に対する困惑なのかそれとも俺が言っている事への内容に対しての困惑なのかは分からない。
「っ…………だ、だからどうしたってんだ!! それでもお前のやっている事はこの人間界においても犯罪そのものだ! その犯罪をーーー」
「人間界関係無いだろ? 事が起こったのは冥界での話だ。兵藤は不死のライザーを倒す為に悪魔の弱点とされる聖水を使って倒した。その結果ライザーはドラゴンがトラウマとなった…………無論これは克服したらしいが。
俺はリアスを倒した…………そして手篭めにしてやった、勝者が敗者を従わせるのは世の
「っ…………リアス先輩を道具扱いにする気か!!」
「うん。だって俺が勝ったしね…………まぁ愛情はあるぜ? ペット的なあれだけど」
「てめぇ!! 会長もか!! 会長もそんな風にしてお前は同じ事が言えるのか!! 答えてみろ!!」
しつこいなぁ…………多分俺は余り見せない呆れとイライラが混じった様な表情が顔に出ている事だろう。だが、表情に出さない様に出来るほど俺は器用ではない。正直言ってそろそろ本気を出してやってもよさそうだな…………
「勝ってから…………俺に答えさせてみろよ、きっと負ける事が無いだろうけどな…………まぁとりあえず今はお前倒すわ。
『我目覚めるはーーー』」
「っ!! だらぁ!」
俺が何をしようとしているのか分かったのかそれとも咄嗟の判断なのかは分からないが匙は飛び出し恐らく今までで一番多い触手を振るいながら拳も使う。だが先程までより冷静になったからなのか動きが少し読みづらくなっている。だからひたすらなまでに後ろに避け続けていく。偶に下がった直後に触手が飛んでくるがそこは更に短くバックステップで避ける。
「『覇の理と破の理を一つに纏めんとする者なりーーー』」
「くそっ!! それはお前が唱えちゃいけないものだ!!」
「『無限を従え夢幻を探すーーー』」
「止めろ止めろ止めろぉ!!」
何を叫んでいるのか、俺には分からないな。恐らくヴァーリの様な不敵な笑みを浮かべながら俺はまだ言霊を紡いでいく。
「『我、圧倒的な影の内の白き覇者となりてーーー』」
「くそおぉぉぉぉおおおおおおお!!」
言霊が終わりを迎えるその瞬間痺れを切らしたかの様に飛び込んでくる。たしかに前に突っ込めばよほど後ろに下がらない限り絶対に掠るだろう。だがもう俺は避けなくてもいい。
この言霊は終わりを迎える。
「『汝を黒を超える白へと成り下がらせようーーー』」
『
ーーー瞬間、世界が白く汚れだすーーー
「くっ…………はっ!?」
「…………なるほど、こんな感じか。とりあえず見た目が化物っぽくなる事を想定してたが全くそんな事が無い様で良かった」
奪い取る時に使った言霊と今の言霊は別物だ。今の言葉は俺流のアレンジといったところだ。
見た目としては…………触った感じと見た感じだと対してヴァーリの極覇龍と変わらないが…………何というか、鎧の輝きが殆ど無い。汚い白、と言うべきだろうか。まぁ別にいいんだけど。
「…………やっぱり、偽物が使えば白龍皇の輝きは無くなるんだな。俺が見た限りじゃあそんなのとは比較にならないくらい輝いていたぞ」
「いやそんなの知ってるし…………問題は能力だから」
話を聞いてる限り極覇龍はとんでもなく消費が多いらしいが…………そんな事は無い。やはり別物という事だろうか?
「それにディジェネレーション…………退化って意味だ。つまりお前は退化した鎧を身に纏ってるって事なんだよ!! 下手に力を使おうとして失敗に回る!! 策士策に溺れる!」
何かペチャクチャ横から喋ってるけど今は能力把握の為に忙しい。
…………ふむふむ、もうちょっと時間が経てば体が慣れてきてもうちょっと多めに能力が使えそうだ。
んじゃ、とりあえずーーー
「そこの龍王で能力を試させてもらおうか」
能力解明は次回に続きます。