「…………誰もいない。そして襲ってもこない。かと言って大声を出して呼ぶ気にもなれない」
とりあえず状況把握だけ簡単におさらいしていこう。まずさっきギャスパーと木場祐斗に襲われるがこれを見事撃退、今頃彼等は部室でゆっくりお茶でも飲んでいることだろう。
そしてそれらが行われたのは屋上であり、二人が下に降りたのを確認してから少しだけ待って俺も階下に降りてみる。ここまでがさっき起こった事だ。
そして今、恐らく今日を決戦として続けて襲ってくるかと思っていたがあの後誰も全く襲って来ずに10分程経過していた。その間に教室をいくらか見て回ってたが何故か誰もいなかったのである。おかしいな、朝来たときは生徒で賑わっていたはずなんだけど………半ドンなのは知っているが流石にそうそうすぐに全員が素早く帰れる訳じゃ無いだろう。
生徒は全員誰もいない、外を確認したが運動部がいる訳でもなくそこには誰もいないグラウンドが広がってるだけだった。
「………考えられるのは、全員転移させられたか俺が転移させられたか………この二択だと後者が当たり前だよな」
多分転移させられたのはギャスパーのバロールの闇に捕らわれた前後……もしくは光を発したどこかのタイミングだ。かといっても分からない事を考察していてもしょうがない。特にそこは重要じゃないからな。
木場達がいたという事は俺が転移させられたとしたら戻って来れる場所である。しかし俺を倒せなかった時の為に何かしらの準備が…………まさかと思うけど━━━
「…………1回旧校舎まで全力疾走で逃げてみるか。このままだと確実に下手したら俺の命が危ない」
死なないけど封印される可能性はあるからな………時止めても無駄だろうし………ここは白濁の鎧着て全力疾走だよっ!!
「って何かスゲぇ嫌な音が……っ!? あかん! あれはあかん奴だ!!」
何やらものスゴい破壊音が聞こえてきたと思って走りながら後ろを振り返ってみたらビームに薙ぎ払われる校舎の姿がそこにあった。つまり俺の後ろからビームが迫ってきてるって事だよ!!
「兵藤かっ!! 確か馬鹿デカいビーム砲みたいなの撃てるって聞いてたからなっ!!」
正体が分かれば簡単だ!! 逃げるが勝ちっていうか死ぬっ!! あのビームは兵藤が発射してるものだから時を止めても止まらない! ヤベェ追いつかれそうだ!!
猛ダッシュしながらも迫り来るビーム、その距離は段々と縮まっていく。そして廊下は当然無限では無く有限なので…………
「げっ!? 行き止まり!? あぁもうこのまま特攻してやる!!」
壁に向かって更に速度を上げていく俺。流石にあのビームの出力だとどれだけ重装甲にしても一瞬で貫かれる可能性があるぞ。だから壁をブッ壊して外に出る!!
そう考えた俺は魔力弾をひたすら走りながら壁に撃ち込んでいく。強度もそのままなのか案外すぐにヒビが入る。かなりヒビが入る頃にはもう既に眼前に壁が迫っていた為…………
「うぉるぁ!!」
勢いをつけてジャンプ、無意識だったが腕を顔の前でクロスさせて頭にダメージがいかない様にしてそのまま空中に身を投げ出す。そのまま重力に従って落下するが鎧を纏っていたため地面に激突しても特にダメージは入らなかった。普通重い鎧着てたら余計にダメージ入りそうな気がするんだけどその法則は当てはまらないみたいだ。
「けど…………うん」
「…………」
目の前に……というか空中に浮いてるけど完全に光の槍を飛ばす準備万端なミカエルがいるんだよな。それが視界のド真ん中に入ってる訳で……これまずくね?
「貴方は……死よりも恐ろしい地獄を味わうべきだ。『彼』の為にも貴方は冥府で生きて奴隷の様に働かせないといけないでしょう」
何いってんのこいつ、頭湧いてるんじゃねぇのか? んな事する訳無いしやりたくも無い。時止めに対応してない様なやつが俺に逆らおうったって無駄な話だからさっさと時を止めさせてもらうわ。
「だからこそ今からあなたをここで━━━」
何を言おうとしたんだろうなこいつ。まぁ例え何を言う気であっても俺はそれに従う気は━━━
「てめぇぇぇぇぇえええええええ!!」
「いでぇ!?」
腹に強い一撃が入る。腹パンって普通はその場で崩れ落ちるもんじゃん? じゃ無くて吹き飛ぶんだよね、笑っちゃうわ。え? お前痛み感じないだろうって? ほら、あれだよ。なんか痛くないのについ痛って言っちゃう感じで反射的に言っちゃったんだよ。後痛くなくても腹パンされると割と内容物がこみ上げてくるぞ! って待て今俺殴ったの誰だよ。
「殺す! 絶対にっ!!」
見上げたら目の前には自分も使ってたから見慣れた赤い鎧を纏った男が一人。声にも聞き覚えあるしそうか、こいつ兵藤か。まぁミカエルがあんな声荒らげて俺をブン殴る訳も無いし考えてみれば選択肢は一つしか無い訳か。
「……なぁーにが殺す、だよ。お前が途中で気付きさえすれば全部防げた事を責任転嫁するんじゃねぇよ。へぶっ!」
喋り終わった後にいきなり顔に一発いいのを貰ってしまった。まぁ全く痛くないけど口潰されたら喋れないからせめて俺がこれ以上喋らないかどうか確認してから殴って欲しいんだよね。
「あぁそうさ!!」
『Boost!』
倍加の力を付けて間髪入れずにもう一発。俺の気持ち全く汲み取ってくれないもんだな、殴られてるんじゃ喋れるものも喋れなくなるんだけどその辺り理解して欲しいところだ。
「俺が皆の異常に気付いてさえいれば!!」
『Boost!』
殴られ続けながら更に倍加。そういえばどんだけ殴られても痛くないし怪我しても即再生してしまうんだよな。オーフィスの無限の力もあるせいか回復がどんな傷でも一瞬で無かった事に出来るくらい成長してしまっている。だからどれだけ殴られてもほぼ無傷って事だ。リリスとヤるまでこんなこと無かったんだけどな……馴染んできた、ってところか。
「こんな事にならずに済んだんだ!!」
『Boost!』
最後にアッパーを貰うが…………全然痛くなかったので崩れたバランスをそのままなんとか戻す。顎砕けたけどすぐ再生したわ。顎砕ける感覚って初めて味わったけど一瞬過ぎてよく分からんかった。
「………けどそんなこと関係無しに俺がいなかったらこんな事にはならなかった。みんながおかしくなった原因の全ての元凶はこの俺にある……そう言いたいんだろ? お前はさ」
「よく分かってるじゃねぇか!! だったら今すぐここで……!!」
「お前、ハーレム王目指してるんだってな?」
この一言でピタッと兵藤の動きが止まる。そろそろ喋れないとミカエルに封印されてしまうよ。ってよく考えたらさっき時止めてミカエルの動き止めてたな俺………まぁいいや、このまま話し続けてやろう。
「ハーレム王を目指すってんならそれに向けての目標に初めから進むべきだったんだよ。まぁ、後から知った事だが眷属を得る為には上級悪魔になるしか無いらしいな。
まぁ…………眷属じゃなくてもハーレぶっ!!」
「何が言いたいのか知らねぇが……グダグダ言ってねぇでさっさと殴られてろ…………俺はもう、お前を殺す以外の選択肢が見付からねぇんだよ……!!」
全く、ドラゴンってのはみんなこんな感じでなんで喧嘩腰なんだよ……ヴァーリもそうだったし匙もそうだったもんな。オーフィスもそうだった様な気がするけど可愛いので許す。
「まったく…………最後まで話を聞け。俺はそのハーレムの一例を見せてやっただけだ」
「…………なんだと?」
「ハーレムってのは自分の好みの女を周りに侍らせる事だぞ? そこに方法と過程なんてものは関係無い……自分の事を好きな女を侍らせるだけじゃあ血を見るのは火を見るより明らかだ。
今じゃなくても…………いつか、な」
鎧ごしだから表情がどうなってんのかよく分からないが俺の説明を黙って聞いてるであろう兵藤に対して俺は説明を続ける。時間稼ぎとかじゃ無くて、ただこれだけは言っておきたいってだけだけどな。
「もし『自分の事が好きな女で固めて』血を見るんだったら逆の考えをすればいい。『自分が好きな女で固める』んだ。
快楽堕ちさせて自分に依存させてしまえばいいだけになる。そうすれば血を見る事は無くなるし仮にそうなったとしても切り捨てるなり罰を与えて楽しめばいい。簡単に言えば…………『自分と同列に扱うな』『ペットもしくは道具として見ろ』だ。まぁあくまでもそう言ってるだけだがな……案外、こうした方がいざこざは起きないもんだってよく分かったよ」
「…………言いたい事はそれだけか?」
あれ? 意外と反応が薄かったな。もしかして言葉が足りなかったか? それとももうちょい簡単に言った方が良かったか?
「……何を言われようと、どう正論を言われようと、俺がお前をツブす事には変わりない。俺が出来る事はただ一つ、殴り飛ばしてお前を倒す。それでお前が死のうと俺は一向に構わない」
「………おい、お前本当に兵藤か? いくら何でも考えが変わり過ぎだろ」
『そこの男よ、お前は触れてしまったんだ。兵藤一誠というドラゴンの…………無限と夢幻の力を得たこのドラゴンの逆鱗にお前は触れてしまったんだ』
兵藤の篭手の宝玉が光り声を発する。中にいるドライグが俺に語ってきているのだろう。なるほど、逆鱗か。逆さになった鱗を触ると龍は激高して全てを壊していく……俺はそれに触れてしまったって訳か。テンションが下がった様に見えるのはその逆鱗に触れた中さらに追加でその逆鱗をひたすら触り続けた結果という事なのかもしれないな。つまり例えるなら怒りが通り越してただの殺意に変わったって事。怒りはないけど殺す事しか頭に無いんだろうね。
「なるほどね……三体分の龍の力があるんじゃ二体分である俺は勝ち目が無いという事になる訳か」
といってもオーフィスとリリスを別として考えるなら三体になるが……同じ無限の力だから多分一緒だよなぁ。
なんて呑気に考えていたんだがどうにも兵藤の様子がおかしい。もしかして俺が浮いてるのか? シリアスな雰囲気でギャグやりまくってるキャラみたいな。確かに別の意味でヤリまくってるけどさ。
「……ドライグ、全力だ。
技とかどんなのがあるかは知らないが全力……いや、俺の命を賭けてでもこいつは倒さなきゃならない。
だから……」
なんかブツブツ言ってる…………となるとドライグとの会話が気になるところだけどドライグがこっちに聞こえない様にしてるからなぁ……ひそひそ話を目の前でするとは随分と余裕があるじゃないの。
『刮目して聴け、畜生の身に落ちた男よ。お前には少し勿体無いが……これから聴かせるのは龍神が作りし無二の
「━━━我に宿りし紅蓮の赤龍よ、覇から醒めよ」
兵藤が放つ言霊に従っているのか、右腕の篭手の宝玉から真紅の輝きが発せられる。
『━━━我が宿りし真紅の天龍よ、王と成り啼け』
次に聞こえてくるのはオーフィスの声。オーフィスは向こうについた……いや、どちらかというと
そしてその声と共に左腕の宝玉からは漆黒のオーラが解き放たれる。
「━━━濡羽色の無限の神よ」
真紅のオーラが兵藤の体を包み込んでいく。
『
さらにその上から漆黒のオーラが覆っていく。
「『際涯を超越する我らが禁を見届けよ』」
兵藤の鎧は真紅に漆黒の色合いを乗せて更なる変化をもたらしていく。
鎧のあらゆるパーツが真紅と漆黒で混じり合いながらその形を有機的なそれへと変貌させていく。
そしてあいつら2人の声が同時にその一節を謳った。
「『汝、
「『《D∞D!!D∞DD∞D!!D∞DD∞DD∞D!!!!D∞DD∞DD∞DD∞DD∞DD∞D!!!!!!D∞DD∞DD∞DD∞DD∞D∞DD∞DD∞DD∞DD∞DD∞DD∞D!!!!!!!!》』」
宝玉から喧しいくらいの声が鳴り響き、その全てに∞のマークが描かれている。そういや、こんな事も出来るって言ってたっけな……今その弊害が出てるって話だが二度目使ったらヤバいんじゃねぇの?
「『《
さっき聞いたドライグとオーフィスの声が混じった様な声。それが宝玉から飛び出して詠唱は終わる。普通にうるさかった。
「……こりゃ、随分と姿が変わったな?」
「━━━龍神化。オーフィスが俺にくれた力さ…………!」
黒と赤が混じった様な鎧。背中に付いてる四枚の翼にはキャノンが装備されており、生物兵器の様なイメージを持ってしまう。無限と夢幻が織り成す最強といえる装備。これが兵藤の最強の力という事だろう。
だから、だからこそ思えるのだろう━━━
「この力で……てめぇをぶっ倒す!!」
コイツが俺の道の最大の壁だと…………!
途中の『紊』という漢字ですがライトノベル版では非常に似ている漢字を使用していました。
しかし候補に出ないことと元の漢字の読み方がわからないため似た漢字と同じ読みである方を使わせてもらいました。申し訳ございません。
追記
とうやら書体で漢字が変わるだけで同じ漢字だそうです。ご指摘して下さった人に御礼申し上げます。