※この作品はR-18です。

東方色贄録   作:猫毛布

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12 ヒトと贄

 結局、あのまま僕も寝てしまい、気がつけば早苗に抱きつかれながら目が覚めていた。

 耳元に早苗の寝息を吹きかけられ、時折むにゃむにゃと耳元で囁かれている。

 

 性的なモノではなく、無意識下で行われているであろう行動。こそばゆい。

 ゾクゾクとしたいつもの感覚ではなくて、ただただゾワゾワとする背筋。けれども、嫌悪感は一切無い。

 どうしてだろうか、なんて考える暇もなく、ゾワゾワがまた背筋を這う。

 ゾワゾワとしているのに、ソレが心地良いと感じてしまう。

 いつもならば起きているだろう日の高さだというのに、この心地良いゾワゾワと温かさから抜け出せない。

 またむにゃむにゃと耳元で聞こえ、抱かれた身体がまた強く抱きしめられる。

 

「うぅん……えへへぇ…おねーちゃんってよんでもいいんですよぉ……うへへ……」

 

 またむにゃむにゃと耳元で聞こえて、すーすーと寝息が耳に掛かる。

 早苗が起きたら呼んでみようか。きっと喜んでくれるはずだ。

 

「ぐへへぇ……この巫女服はここからも手が入るんですよぉ……お姉さんに任してください……ぐへへ、じゅるり」

 

 ……。

 やっぱり、呼ぶのはまた今度にしよう。うん。ゾワゾワが一気に違うものに変わってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、どうしてか昨日の事が思い出せません」

「呑み過ぎ」

「そうなんですかね……起きたらレンさんが目の前に居てビックリしましたし」

「……」

「んー……レンさん」

「……何?」

「私の気のせいかも知れないんですが、いつもよりも距離が遠いような気がするんですけど?気のせいじゃないですよね?引かれてますよね、私」

「……別に」

「もしかして昨日、私が何かしちゃったんですか!?なんて勿体無い!!」

「……」

 

 こうしていつもより二歩程離れているのは昨日のことでは無くて、今朝が原因なのだけど、眠っていた早苗は知らなくていい事だ。絶対、知らなくていい。

 頭を抱えて『頑張れ私の脳内!!きっと昨日には「アーレー」とか言ってるレンさんとか、過度なセクハラで赤くなってるレンさんとか!!夢の様な事があったはずです!!ぐへ、ぐへ、ぐへへ』と言っている早苗。頭を抱えていた手は中空をわきわきと揉みしだいている。一体何を揉んでいるのか、僕はわからないけれど、本能的に危機感を感じてきた。

 そんな僕の視線を感じたのか、早苗がコチラを向いて、コホン、とわざとらしく咳を一つ。

 真剣な瞳で彼女はコチラを向く。

 

「いいですか、レンさん。萌えは世界を変えるんです。いえ、買えるんです」

「……」

 

 意味がわからなかった。

 ただ、真剣な瞳をしているから、きっと、とても大事なことなのだろう。

 たぶん。

 

「何を言ってるんだい、全く……」

「神奈子様。頭、どうかしたんですか?」

「ちょっとした二日酔いみたいなモノさ。あと、その聞き方はやめて」

 

 痛いらしい頭を抑えて神奈子は溜め息を吐いた。

 眉間に皺を寄せた神奈子は僕らを見ながら、少しだけキョトンとする。

 

「アンタら、どっかへ行くのかい?」

「はい!ちょっと人里へデートに!!」

「……人里、ねぇ……」

「……ダメ?」

 

 まるで忌避するように呟いた神奈子に確認する。ダメならば、ソレはそれで早苗に別の何かを考えてもらおう。

 

「ダメってワケじゃないんだけど」

「まぁ、大丈夫なんじゃない?」

 

 楽観するように言ったのは諏訪子だった。こちらはいつもの帽子は被っておらず、少しだけボサついた髪を撫でている。

 

「ふぁ、ふ。レンも行きたいんでしょ?」

「……うん」

「なら、行った方がいいよ。絶対」

「そうは言ってもなぁ……」

「一生ここに幽閉してもいいけど、それは嫌なんでしょ?」

「そうだけど……」

「娘が嫁に行くのが嫌なの?お父さん」

「誰がお父さんだ……まったく」

 

 観念したように、頭を掻いて大きく息を吐いた神奈子は一言、「行っておいで」と言った。

 その言葉に少しだけ嬉しくなる。尤も、隣で拳を高らかにあげている早苗ほどの喜びは表せれないが。

 

「ただし!里へは私が送っていくよ!!」

「ソレは大丈夫です!!ね、レンさん」

「…うん」

 

 コクリと頷いて、神奈子の条件に了承する。

 よほど嬉しいのか、早苗は僕の両手を握って、一緒に持ち上げる。

 

「やったー!!」

 

 満面の笑みを浮かべる早苗を見て、少しだけソレが可笑しくて、僕の顔も自然と緩んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先に言っておくけれど、危険だと思ったら直ぐに逃げなさい」

「うん」

 

 ゴウゴウと鳴る風切り音を聞きながら、神奈子に抱き上げられて空を飛んでいく。

 神奈子の心配していることもわかるし、僕の状態も自覚しているつもりだ。それでも神奈子や諏訪子が僕が人里に行くことを許したのは髪紐の式が大きな理由だと思う。

 コレがあるから、僕は僕として認識されることはない。僕を僕と知っているモノ以外には。

 

「何かあったら、」

「……大丈夫」

 

 神奈子の腕を少しだけ強く握って、応える。

 それ以上は言ってはいけない事だと思う。神様という存在がヒトを以て在るのならば、余計に先の言葉は言ってはいけない。

 崇められる、畏れられる、神様はいつでも受動しなくてはいけない。ヒトに何かをするのは、神様の仕事ではないのだ。

 少しだけ、いつもより息を吸って、もう一度呟く。

 

「大丈夫……」

 

 それは神奈子に言った言葉なのか、それとも、別の誰かに言った言葉なのか。僕には分からない。

 

 

 

 それから神奈子との会話もなく、地面に降りたのは里に近い林の中だった。

 

「それじゃあ、私はここで戻るけど、レンを任せたわよ」

「はい!私に任してください!!」

「レン、何かされそうになったら直ぐに逃げるのよ?」

「やだなぁ、神奈子様。いくら私だって人目がある所でナニなんてしませんよ」

「……」

 

 何故か照れるように少しだけ顔を赤くして言う早苗に神奈子はやっぱり呆れた様に息を吐いた。

 神奈子が言っている事は早苗に何かされる事では無くて、別。早苗になら、何をされても別段構わない。

 フワリと神奈子の身体が浮いて、空へと昇っていく。しっかりと神奈子が見えなくなるまで見送って、雲がくっきりと浮かんだ空を眺める。

 

「それでは、行きましょうか!」

「……うん」

 

 早苗から伸ばされた手を少しだけ躊躇して握る。早苗が何度か確かめるように握って、結局指を絡めるように握ることで納得したらしい。

 その手を眺めてから早苗を見れば、少しだけ顔を赤くした早苗がクシャリと笑っていた。

 

「さぁ!行きますよ!!」

「……おー」

 

 明るい早苗の声が林に響いて、僕の小さな声はたぶん、早苗に響いた……と思う。

 

 

 

 

~~

 

 私の隣で無表情で目を輝かせている男の娘がいる。

 普通に歩いているだけだと言うのに、彼にはどれもが物珍しいように、視線があっちに向いたり、そう思えば別の場所に向いたり。

 横目で見ている私に気付いたのか、彼は私の方を見て、あっ、という顔をして、まるでなかったかのように前を向いた。

 前を向いている、と思えば、また視線がアッチに行ったりコッチに行ったり、とやはり見るもの全てに興味があるようで。

 ソレがとても可愛いいんです。繋いでいる手を少し引いてみれば、気まずそうに私との距離を詰めてくれる。

 不意に止まってみれば、勝手に歩いてしまう彼がクイッと手を引く形になり、少し不満そうに私の方を向いて、その表情も『しまった』と言わんばかりに気まずそうな顔に早変わりしてまた近くに寄ってくれる。

 

 あぁ、可愛い。小動物チックで可愛い。

 

 そんな小動物的な男の娘は前から人が歩いてくると、私の影に隠れてしまう。

 本当に可愛いことながら、絡めた指を更にしっかりと絡められる。あぁ、萌えってリアルにもあるんですねぇ……。

 

 そんな感動を心の全面でしながら、彼と繋がった手を少し力を入れて握り返してあげる。

 対人恐怖症。というのでは無いのだろう。それなら私と接する事すら無いはずだ。朝はどうしてか距離を置かれていたけれど。

 きっと、彼の過去が彼にこういった行動をさせているのだろう。彼が鳴かされている姿はきっと素晴らしいモノだと思うけれど、ソレが無理やりというのは、やっぱりいただけない。

 こう、やっぱり、ゆっくりと脱がして、いや着流しを半分程脱がしてですね。きっと綺麗だろうレンさんの肌を撫で回して、真っ赤になっちゃうレンさんを見ながら、

 

「ぐへ……ぐへへ」

「……早苗?」

「ハッ!?だ、大丈夫ですよ?」

「……」

 

 あぁ、私を見る目が少し訝しげに……。それでも手はしっかりと握ってくれているのだから、素晴らしい。きっと彼にはツンデレの属性が。

 

「あら、2P(ツーピー)カラーじゃない」

「誰が2Pカラーですか!?」

「ごめんなさい、ちょっとした冗談よ」

「毎回その冗談を言われているような気もするんですが?」

「大丈夫よ、きっと誰かにとっては始めての事だから」

 

 そう言って、ニッコリと邪気のなさそうな笑みを浮かべるサド、いや、メイドさん。

 メイド、という西洋の出自の服だと言うのに、昔の日本を思えるこの場所に存在していてもまったく浮かないのは、私が見慣れてしまったからなのだろうか。

 そんな一切存在が浮いていない彼女は私の隣を見る。

 

「あら…………誘拐はいけないわ。直ぐに自首しなさい」

「違います!!家の子です!!」

「それにしては、いえ、不毛な言い争いね」

 

 不毛な言い争いの元凶は呆れた様に息を吐いて肩を竦める。原因だと言うのに。

 そして、彼女は私の隣にいる彼に視線を合わせるように膝を少しだけ折る。

 

「初めまして。私は紅魔館(コウマカン)でメイド長をしている、十六夜(イザヨイ) 咲夜(サクヤ)よ」

「いざよい……さくや…」

 

 レンさんは何かを思い出すように咲夜さんの名前を呟いて、三回程繰り返した後ようやく気付いたように。

 

「レン」

 

 とだけ返した。

 その対応に少し不満だったのか、咲夜さんはコチラを少し睨む。

 

「人見知りを直した方がいいんじゃないかしら?」

「人見知り、という程ではないんですけど。何しろ外出が初めてで」

「そう……」

「紅魔館に、大きな書庫があるって聞いた」

「えぇ、あるわよ」

 

 私を睨んだ顔はすぐに笑顔になって彼に向く。

 というか、レンさん。その情報はいったい何処から仕入れたんですか?私、ものすっごく気になります。

 

「司書さんに、行ってもいいか」

「わかったわ。聞いてあげましょう」

 

 咲夜さんのその一言でパァ、っと明るい顔……というか雰囲気に変わるレンさん。よく本を読んでますもんね…好きなんですね、本。

 それにしても珍しく饒舌なレンさんだ。どれだけ読みたいんだ。

 まぁ、言いたくはないけれど、あの動かない図書館がこんな子供を書庫に入れる事を了承するとは思えない。一見は普通の子供なのだから、あの騒がしいモノが嫌いそうな彼女が了承する筈がない。

 それは言わない。言ったらレンさんが悲しむから。尤も、断られてションボリするレンさんを慰めるのは私の役目だけれど。

 

 

 

 それから世間話もほどほどに、レンさんとのデートを楽しむ事に。

 咲夜さんに会ってからテンションが上がっているのか、表情がどこか柔らかいレンさん。

 表情が柔らかいのは嬉しいけれど、ソレが私では無くて咲夜さんに出会って、という理由が不満だ。おくびにも出さないけれど。

 

 歩いていると、ふと店頭に並ぶ紐を見つけた。

 綺麗な赤い色の髪を結わえる紐だ。

 

「レンさん、こういうのとかどうですか?」

「……」

「お!巫女様!なんだい、今日は妹と買い物かい?」

「えへへ、そうなんです」

 

 店主の人と話しながら、髪紐を持ち上げる。

 鮮やかな赤色が私の目を引いて、きっとレンさんの黒い髪によく映えるだろう。

 時には気分を変える事も大事だろう。

 

「じゃぁ、レンさん。外しますね?」

「……うん」

 

 レンさんの髪紐を掴んで、ゆっくりと引いていく。パサリ、とレンさんの髪が降りる。

 

「ヒィッ!?」

 

 ガタガタと物音を鳴らして、店主が尻餅を付いた。

 いったいどうしたと言うのだろうか。まさか、最終家庭害虫Gでも出現したというのか!!

 

「お、おい!!巫女様!!ソイツを、ソイツを」

「え?あぁ、かわい」

「そのバケモノを早く退治してくれ!!」

 

 え?バケ、モノ?

 私は店主の指差す方を向く。ソコには化け物は居ない。

 居るのは、レンさんだけだ。姿の見えない化け物にしても、私には何も感じない。

 そんな緊張している中、レンさんだけは溜め息を吐いて、まるでソレが当然のように私をドンッと押した。

 

「え?」

 

 次は声に出てしまった。

 レンさんはもう一度溜め息を吐いて、まるで落胆したように、ツカエナイ何かを見るように、私に瞳を向けた。

 けれど、その顔は、雰囲気は、何かを謝っている様で。

 

「で、出て行け!!バケモノ!!」

 

 店主の絶叫にも似た怒鳴り声でようやく意識を戻した私は、踵を返したレンさんに手を伸ばす。

 けれど、その伸ばした手は、先ほどまで彼の手を握っていた手は、簡単に空振りをした。

 まるで、髪紐を掴むように、いとも容易く、空を掴んだ。

 

~~

 

 僕はゆっくりと、けれどしっかりと歩く。

 髪紐が解かれた瞬間に受ける視線が変わってしまった。いや、違う。戻ってしまった、という方が正しいのだろう。

 

「―――ッ!!」

「――ッ!!」

「―――――」

 

 まるで、それだけしか出来ないように、ヒトは僕を睨み、そして道を開ける。

 僕に決して近づかないように。

 神奈子から言われていた事。元々の僕が知っていた事。

 贄は、ヒトから拒絶される。それこそ、先ほどみたいにヒト以外に見えるらしい。

 贄になる前は、穢れとして拒絶されていたから、僕はソレに対して大丈夫だと、知っていたと言った。

 こうして、石を投げられても、ソレが頭に当たっても毅然と、背筋を伸ばして歩くことが出来るのは、慣れによるものが大きい。

 

「おいっ、何をしているんだ!?」

 

 何処かでそんな声が聞こえ、そして人の壁を縫って一人のヒトが出てくる。

 長い銀色の髪に烏帽子の様な物を被った、女性。それがまるで僕に石を投げているのがオカシイ様に声を上げる。

 

「こんな子供に、この子が何をしたと言うんだ!!」

「先生ッ!?何を言ってるんだ!!」

「どいてください!!」

 

 僕を守るように、前に出てきた女性は声を出して、否定する。

 肯定しなくてはいけない事を否定する、という事は、彼女はヒトではないのだろう。けれど、ヒトの中で生きている。

 早苗にしたように、彼女を押して、彼女を見下す。

 

「邪魔」

 

 そう言って、僕は足を前に進める。

 少しだけ、早苗が心配になってきた。僕を連れてきた、という事でヒトから何かを言われなければいいけれど。

 ようやく、里の出入り口に到着する。

 門を守護するヒトは引き攣りながらも、槍をコチラに構えている。

 

「どいて、出て行ってあげるから」

 

 まるで僕が上であるかのような言い方だ。と内心で笑ってしまう。

 怯えたように道を開けるヒトも、怖いから石を投げたヒトも、尻餅をついたヒトも、震えながらも門を開けたヒトも。ヒトは全て僕よりも立場が上だというのに。

 

 そして、僕は里を出ていく。ソレが、僕にとって当然の事だから。

 

 

 




贄に関して
・人に否定され続けられます。存在ごと
 レン君の場合は昔から否定され続けているので、慣れてしまってます。過去での否定と今の否定は理由は違いますが……。

 以前書いた二つとコレで贄に関しては終わりです。
 人以外に好かれる、というのはこういう事です。
 人の理から掛け離れた人達からは、至って普通の男の娘に見えるんですけどね。
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