カサリ、カサリと歩くたびに草が鳴る。
里から出て、何度も聞くこの音を数える事はしていない。する意味がないからだ。
神奈子達が言っていた言葉をようやく、再度、理解した。
ヒトに拒絶される。
ソレは贄だから、自然に拒絶されるという事。元来、拒絶され続けていた僕と拒絶され続ける贄の僕。
この考えも直ぐにやめた。それこそ草を踏んだ回数を答える事と一緒なのだ。
諏訪子が僕を里へと行かせたのは、これを理解させる為なのだろう。
確実に生まれる綻びを最初に持って来ただけの話である。
もしも早苗が僕の髪紐を解いていなければ。なんて意味のない話だ。僕が里にいかなければ始まることすら無かった話なのだから。
早苗、そう、早苗だ。
あの場では押して倒したけれど、ヒトから恨まれていないだろうか。バケモノらしい僕を里に入れたのだ。
押し倒した事で化けていたバケモノが早苗を使った、とでも思ってもらえれば幸い。考えが浅いけれど、あれ以上の対応は僕には出来ないだろう。
最上でも、最低でも、最悪でも、最善ですらないけれど、僕にとっては最高とも言えない対応だった。つまり、ワルアガキ。
しないよりはマシ、程度の行動だっただろう。これも、早苗にとって、という話なので僕が考えたところで意味はない。
髪紐を解いた僕はバケモノに見えるらしい。
ヒトに畏れられる事もない、恐ろしいだけの存在なのだ。
妖怪には餌、神様には贄、ヒトにとってはバケモノだそうだ。
思わず自嘲してしまう。なんだ、色々と小難しく考えていたけれど前の僕と一片たりとも変わってはないじゃないか。
穢れと罵られ石を投げられて汚された前の僕と。
バケモノと恐れられ石を投げられ、神様と妖怪に食べられる僕。
いったい、何処に違いがあるというのだろう。
いったい、何処から違いを探せばいいんだろう。
少しだけ止まって、息を吐き出す。溜まっていた空気を吐き出して、ゆっくりと、深く、呼吸をする。
少しだけ落ち着いて、首筋が冷たい事に気が行く。
どうやら濡れてしまったらしい。こめかみ辺りから流れていた血がどうやらそこまで垂れた様だ。
未だに水気を保っているソレを拭って、白い着流しの袖が真新しい血で染められる。
そんな血に溜め息を吐き出しす。
「あら、奇遇ね。一人でお出かけかしら?」
「……」
「昨日と違って随分と無表情ね。まぁ……ソッチの方が好感は持てるけれど」
目の前に現れたのは緑色の髪を前で結わえた神様だった。
彼女はゆっくりと近づきながら口を開く。
「そういえば、自己紹介をしてなかったわね。
「……レン」
「そう、レン。というのね」
鍵山雛はにっこりと笑って、僕へと歩みを進める。
シャクシャクと鳴る草が止まり、手を伸ばせば届く距離に鍵山雛が寄る。
「こんな所に何か用事でもあるのかしら?」
「……散歩」
「一人で?贄が?」
「……」
「そう……」
少しだけ、ほんの少しだけ考えるように呟いた鍵山雛は僕の頬に触れる。
ゆっくりと頬を撫でて、その手が上へと移動して傷口に柔らかく触れた。
「……ッ」
「……人にやられたのかしら?」
「違う」
触れられて、顔を少しだけ顰めてしまった。抉るような手付きではなくて、恐る恐る触れる様な手付きで傷が触られる。
そんな状態での問いには、直ぐに応える事は出来た。答える事は出来なかったけれど。
そんな応えに鍵山雛は眉間にシワを寄せて、僕を抱きしめた。
「そう……そうよね」
ヒトがそんな事をする筈がない。と言いたいのか。僕がそう応えるしか無い事を知っているのだろうか。
僕が考えたところで、僕から出てくる応えは一緒なのだから関係は無い。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
宴会の時の様に、何度も何度も耳元で囁かれて、頭が撫でられる。
ギュッと抱きしめられて、身動きが取れない僕はなされるがまま撫でられて、謝罪の言葉を耳にするしかない。
まるで罪を償う様に何度も撫でられて、罪を自覚するように僕をキツク抱きしめている鍵山雛。
スンスンと泣いている声が聞こえ、顔が当てられている肩に湿っぽさと温かさが広がる。
客観的にこの状況を考えていると早苗が持っていた物語を思い出してしまう。尤も、ソレは女性同士のモノであったり、男性同士のモノだったりと実に普通な物だったけれど。
数少ない普通ではない男女の恋愛を描いた物でも僕と鍵山雛の立場は逆だった筈だ。
少しだけ時間が経過したと思う。
少なからず、泣いていた声は既に聞こえなくなった。
「スー……ハー……スー……ハァ……」
代わりに今ではとても深い呼吸音が聞こえ、腰に添えるだけだった手が迷い迷いで僕の横腹を撫でたり、背筋を摩ったりしている。
先ほどまでの子供を撫でるようなソレではなくて、僕がよく経験をしていたソレによく似た手付きが僕をゆっくりと這う。
「……ゴクリ」
生唾を飲み込む音が鮮明に聞こえた。
脇腹を彷徨っていた手が明確な目標をもって下に向かう。
まるで気づかれない様に、非常に遅い速度で。
ようやく手が臀部に到達して、力強く握る訳でもなく、やんわりと触る程度に、揉まれる。
「……ンッ」
鼻に掛かった様な声が出てしまった。
その声が聞こえたのか、臀部まで降りてきた手がまた脇腹へと戻っていく。
もどかしい。
少しだけ高ぶってきた気持ちをなんとか押さえつけながら、鍵山雛の手の感触を辿る。
背筋を辿たどしく撫でていた手がまた下に向かう。それも、恐る恐る。
こういう行為なのだろうか、それともまだバレてない、とでも思っているのだろうか。
僕がする事は声を抑える事なのだろう。どちらにしても。
ようやくお尻に辿りついた手が背筋をなでていた時よりも力を入れて、けれども余計に強ばったように、触る程度に揉む。
「…ッ……」
ようやく待ちわびた快楽が広がる。けれども声を出すことは出来ない。声を出すとこの快感が消えてしまう。
我慢。
僅かに揺れる体も、鍵山雛の服を掴んで耐える。
徐々に慣れてきたのか、はたまた気分が高揚しているのだろうか。そんなことはどうでもいいけれど、手の動きが大胆に変わっていく。
ゆっくりと撫でているか揉んでいるか分からない手つきが明確に揉んでいるとわかる。
「ハァ……ハァ……ンッ」
荒くなって熱い息が僕の耳に当たり、首筋に湿った生暖かい感触が這う。
「――ひぁッ」
いきなり舐められた事で声が裏返って出てしまう。出てしまった声は消すことはできない。
次は僕が生唾を飲む番だった。もしかして、またあのモドカシサを味わうことになるのではないのだろうか。
そんな思いも、思案も、思慮も、まったく気にすることはないように僕の耳の裏を何度も撫でるように舐める鍵山雛。
その度に、なるべく抑えた声が溢れ出す僕。
「ん?」
鍵山雛は自身の下腹部に当たる熱をようやく気付いたらしい。当てていたわけでもなく当たってしまったのだけど。
鍵山雛は僕の前で膝を付いて僕の着流しを捲る。
「おぉ……」
年相応、と言うべきか。幾人のソレを見てきた僕にとっては小さな存在が空気に曝されて、鍵山雛の瞳に映る。
少しだけ、顔が熱い。そんな僕の顔を下から見上げた鍵山雛はお尻を触ったときの様に恐る恐る手を伸ばす。
冷たい手が僕に触れて、反応してしまう。動いた棒を逃がさない様にしっかりと握った鍵山雛は棒を凝視しながら上下に手を動かす。
優しく擦られるだの行為。
荒くなった、湿っぽい熱い吐息が何度も先端に触れて快楽の段階が押し上げられていく。
「ん……ッ、ふぃ、」
指を噛んで快楽が声から出て行くのを抑える。
そんな僕を見上げた鍵山雛はどこか熱っぽい瞳で微笑む。そして肉棒に向き直り、口を軽くあけて目の前にあるソレを舐める。
息よりも熱く柔らかい舌が先端をチロチロと舐めて、反応を見るように熱っぽく少しだけ垂れた瞳が僕を見上げる。
腰を離そうとしても、優しく、しかししっかりと握っている手がソレを許してくれない。
先端をある程度唾液まみれにして満足したのか、先端を下り、根元から先端に向かって舐められる。
先端に到達した舌は一度口の中へ消えて、代わりにチュッと先端が少しだけ吸われて口が離される。
「これだけ濡らせば……」
鍵山雛が手を動かす。唾液塗れになった肉棒を手が行き来する度にクチュクチュと鳴る。
単調な行動だけれど、僕の限界は近い。
鍵山雛はこちらを向いて、また微笑む。
「いいよ、出しても。出して」
「――――ッッッ」
棒を行き来していた手が先端を撫でるように回され、頭の中がチカチカと光る。
歯を食いしばり、声を抑える。噛んでいた指から血の味が溢れ出す。
白濁とした液が鍵山雛の手から溢れて、彼女の顔を汚す。
数秒、というほど短い時間で出た白濁液が掛かった彼女の顔は恍惚としていて、手に付いた白濁液を見つめている。
「これが……すごい匂い、フフ」
自分の手を綺麗にするように舌で白濁液をすくって喉を鳴らす。
手が綺麗になってから、顔に付着した液体を指で拭い、その指を口の中に入れてチュッと少し濡れた音を鳴らして指を口から引き抜いた。
そして何かを思い出すようにコチラを向いた。真っ赤な顔で。
「こ、これは、その違うのよ!?べ、別に精液が好きとかそんなんじゃなくて!!ええっと、だから、違うの!!断じて、決して、そんな趣味はないのよ!?」
とわけのわからない弁護をしだした。
当然、僕が贄なのだからそういった行為をしているだけであって、顔を真っ赤にする理由が一切見当たらない訳だ。
むしろ森の中でこういう事をしている時点で、という話になるのだけど、ソレは言わないでおこう。
ある程度の言い訳でようやく慌しい状態から舞い戻ってきた鍵山雛は相変わらず真っ赤な顔でため息を吐いた。
「えっと、その、つ、続きをしてもいいかしら?」
と確認のように言いながら、僕を押し倒しているのは、確認すべきところなのだろうか。
僕にとって是も非もない問い。
彼女は腰から自分の下着を抜き取り、服の裾を少したくし上げて僕に跨る。
ゆっくりと腰を下ろして、僕の下腹部に柔らかい感触と濡れた感触が伝わる。
鍵山雛を見れば、冷静だった数秒前とは違い、また熱病にかかったようにトロンとした瞳で僕を映している。
裾の中に自身の手を入れて、肉棒を握り締める。少しだけ腰を浮かして、見えない狙いを定めるように、けれど瞳は僕の方を向いている。
クチュリと先端に濡れたナニかが触れる。
そのまま鍵山雛は腰を落とし、僕をナカに納めた。
「ゥぅ、はい、ったぁ……」
キュ、キュ、と僕を締め付ける肉壁の感触。満足するように、けれどどこか飢えたように、彼女は僕を見て微笑む。
腰を浮かして、肉棒が出そうになると、ストンと落とす。落としてから数秒ほど、自分が感触を楽しむように止まり、そしてまた腰を浮かす。
「いい、コレ、すごい……!!」
何度も繰り返すように腰を動かす鍵山雛は僕を見つめて、熱っぽく笑う。
頬を撫でて、まるで僕を慰めるように。
「あなたも、気持ちいい?」
僕は答えない。応えることも出来ない。気持ちいい?コレが気持ちいいという感情なら、きっとそうなのだろう。
キモチイイとは、何?
そんな僕の思考を止めるように鍵山雛は僕に接吻をする。
唇を吸われて、僕は思考を止めて鍵山雛を見る。
悲しそうに笑った彼女は僕にもう一度接吻をした。
少しだけ長い接吻。顔が離れてからは鍵山雛はまた腰の動きを再開する。
ソレは上下だけの運動ではなくて、前後に動いたり、まるで僕の腰に自身の腰を擦り付けるように運動をする。
ナニかに当たる度に鍵山雛は顔を少し歪めて微笑む。
「わたし、に、任せ、て。ね?」
動きが少しずつ早くなり、僕の二度目の限界が近づいてくる。
ソレがわかったのか、鍵山雛は僕を見て、また微笑む。
「いいわ。イくんでしょ?もう少し、もう少しで、私も、」
動きは徐々に速くなり、腰を打ち付ける音が耳にこだまする。
先端に吸い付かれるような感触を受けて、僕の限界は容易く崩壊する。
「イ、ッッッッッッ!?」
「ん、アァァァ!!」
ナニかが僕から吐き出されるのと同時に雛の嬌声が、森に響いた。
荒い息の雛が僕に被さり、接吻を落とす。
やはり、その顔は悲しく微笑んでいた。
~~
情事が終わり、眠った彼を膝の上に置いて今に至る。
八坂の神様の頼みで彼の保護をしているのはよかった。個人的には彼をすぐに帰すつもりであったけれど。
無理でした。本当にありがとうございました。
彼を起こさないように空笑いをして、暖かくなった下腹部を撫でる。撫でてから、恥ずかしさが込みあがり、穴に入りたい気持ちに変わって押さえ込む。
どうして情事になったのだろうか。答えは私が抑えれなかったから。私の所為だった。
彼の額を撫でる。
サラリとした黒髪。その先に傷になってしまった箇所がある。
今は乾いた布で抑えているけれど、その布が少しだけ赤く染まっているのだから深く切ったか、それとも出血が多いだけなのか。
どちらにせよ、この布は帰ってから楽しむ用になることは確実である。コレで楽しまない神はいるのか?いや、居まい。
傷になった原因は、人間にある。どうせ、人間なのだ。
妖怪ならば跡形も残っていない。神様ならば八坂の神様が根回しをしているだろう。第一、あの酒宴だって山の神様達に贄を頼むというのが主題だったのだ。まぁその話は開始五分程度で終わり酒宴へと変わってしまったけれど。
故に、人間が原因である。
こうして考えるだけで、ゾワリと黒い感情が溢れてくる。
わかっていた事でも、人間を恨んでしまう。
彼から力を貰っているから、今しばらくは格を堕とすことはない。ならば、今ならば。
と考えてしまい、息を吐き出す。
ソレは望まれてないのだ。贄の彼に。
彼が望まないならば、私達は動けない。動いてはいけない。
彼が望んだところで、私達が動くかと言われれば絶妙なのだけど。きっと動いてしまう。それだけの力を孕んでいる。
孕む……。彼が孕む?ぐへへ。
おっと。
息を吐いて暴走している思考を止める。
人間がいるからこそ、私達は贄から求められる。求めているだけかも知れないけれど。
寝返りを打った彼が私の腰に抱きついて、大きく息を吸って、落ち着いたようにまた寝息を立てる。
人間に感謝。
こうして彼を独り占めできることはいいことなのだけど、きっとソレを良しとしない神はたくさんいるだろう。
いくら格があがったといっても無理なものは無理だ。
故に、私は今を楽しむしかないのだ。
けれど、夜までには帰さないといけない。
理由は良しとしない神様筆頭がここまでお怒りにくるからだ。長い歴史も持たない、成り上がりに近い私は絶対に勝てない概念の塊がここにくるのだ。勘弁願いたい。
第一、あの目の付いた帽子をしている見た目幼女が来るだけで私は消し飛ばされてしまうかもしれない。怖い。
溜息を吐き出して、私は日の高さを確認して、彼とイチャイチャできる時間を再確認することにした。
雛様は可愛い(断言
~成り上がり雛
文中でチラリと書いたけれど、鍵山雛の経歴を簡単に。
流し雛(厄を雛人形に託し川へ流す行事)の雛人形から神様へと昇格した超経歴の持ち主。成り上がり、というよりは神様として幼い、と言った方が正しいかもしれない。
~エロに関して
一応、エロいと思います。まぁ、拙いです。
雛様は舐めている間、ずっともう片方の手で自分をお慰めになっておられます。描写してはいませんけど。