※この作品はR-18です。

東方色贄録   作:猫毛布

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コミカル回


17 贄とテガミ

 目が覚めた。

 いつものように縁側で眠っていたらしい僕の目には、いつものように木製の天井板と少しだけ強い日差しが映りこんでいた。

 

 ぼんやりとした頭の中、胸が少しだけ暖かいことに気が付く。

 手で確認すればモフモフとした感触。目で確認すれば、黒い毛玉が赤い瞳でコッチを見ている。

 

「おはよう、レン」

「……おはよう」

 

 にゃー、と鳴くでもなく、言葉を発した猫は僕の胸から降りて背筋を伸ばす。半身を上げた僕もソレに習い、両腕を上げて体を伸ばして、ゆっくりと息を吐いた。

 

「しっかし、アレだね、本が好きなんだねぇ」

「すき?」

「ん?好きじゃないのかい?」

 

 お燐の言葉に思わず首を傾げてしまった。

 すき。そういえば、お風呂と一緒で本を読んでいる間はソレだけしか考えてない。

 ようやく、本当にそれこそお風呂よりも長く回数も多いと言うのに、僕はようやく理解した。

 

「好き」

「だろうねぇ」

 

 知識として、物語として、文字として、墨の匂いも、紙の質感も。

 どうしてか、頬が緩んでしまう。緩んでしまった頬を隠すために本を開く。

 お燐は僕を見上げながら首を傾げた。

 

「今、私を呼びましたね!! いいえ、きっと呼んだに違いありません!!

 

 風が舞い起こり、その中心に黒い影が勢いよく着地した。

 ブワリとここまで届く風と土埃に目を細めて、黒い影を見る。

 黒い影はその翼を大きく広げて、て手を顔の前に置き、体を少し仰け反らして姿勢を維持する。

 

「そう、私こそ幻想郷最速の二つ名を持つ烏天狗!!射命丸文!」

「烏天狗なんてお呼びでないよ」

 

 お燐の言葉に思わず頷いてしまう。

 姿勢を維持したまま停止する文。

 それを冷たい目で見るお燐。土埃で目を細めている僕。

 

「……」

「……」

「沈黙はツライ!!」

 

 そう叫んだ文は地面をバシバシと叩いて、先程の格好良さが台無しになっている。

 お燐が溜め息を吐いて、僕は文をまだ見ている。

 

「あぁ、どうしてこんな登場をしてしまったんでしょう。今更ながら私自身の思考回路がさっぱりわかりません。きっと『格好良い! 抱いて!』みたいな事になるとか思ってたんですかねぇ……思ってたんですがねぇ!!」

「……」

 

 チラチラとコチラを見ながら叫んでいる文。お燐は溜め息を吐いて頭を振り、僕はそんな文をただただ見ているだけになる。

 

「ま、どーでもいいことですけど」

 

 スクッと立ち上がり、服に付いた土埃を払っていつものように笑顔を作った文。

 お燐は……いや、どうでもいい事だったか。

 

「今日も用があって来ましたよ!!」

「……も?」

「え? レンさん、どうしてソコに疑問をもっちゃったんですか。私が毎日意味も無くココに来てる事になるじゃないですか!!」

「違うのかい?」

「違いますよ!! 私はレンさんを盗撮に…………娶りに来てるんです!!」

「レンは変態に好かれる才能でもあるのかい?」

「いらない」

「だよねぇ。あたいだって必要とは思えないよ」

「そんなに冷たい目で見ないでくださいよ、心が痛んできました……うっ…………ふぅ」

「バカと変態を治す薬はないのかねぇ…………はぁ」

 

 もう何度目かになるだろう溜め息を吐きだしたお燐はやはり呆れた顔で僕と文を見ている。

 そんな光景に少しだけ拗ねるように文は頬を膨らませる。

 

「第一、お燐さんは少し私に失礼じゃないですか? 人の事を変態変態と……」

「え? 変態じゃないのかい?」

「私は至って普通の烏天狗ですよ。普通すぎてもうそろそろ表彰されてもいいぐらいです。ミス・普通です……いえ、これでは失敗が多いように聞こえますね」

 

 そんな事を言い出して悩みだす文。

 お燐はやはり溜め息を吐いて、僕をつつく。首を傾げるとお燐は僕の腕を伝って、耳に寄ってきた。

 耳に息が掛かり、声を耳打ちされる。

 僕はそんな指示に疑問を持ちながら、文の方を向く。

 

「文」

「はい、なんでしょうか?」

「ヘンタイ」

「もっと罵ってもいいんですよ!」

「……」

「……あー、落ち込むと思ったあたいがバカだったよ。薬がほしい」

 

 肉球を額に当てて、深い溜め息を吐きだしたお燐。

 目の前の文は顔を少しだけ赤らめてコチラを見て、何かを期待している。彼女の表彰式はどうやらこないらしい。

 

 

 

 

「あ、用事を思い出しました」

「なんだい、本当に何かあったのかい」

「失礼ですね、私は毎日用事が」

「いや、ソレはもういいよ」

「ふむ、天丼でしたっけ? 滑舌と同じく専門用語だと言うのに、中々どうして伝わりづらいですよね」

「いや、何の話をしているんだい」

「用語を擁護する話ですよ」

 

 肩を竦めてからまたいつものように笑みを貼り付けた文は、懐から封筒を取り出す。真ん中で赤い蝋で封をされている。

 

「それは?」

「招待状らしいですよ。私も詳しくは知りませんが」

「……招待状?」

 

 文から受け取った封筒をよく見る。

 赤い蝋はくっきりと羽を伸ばしたコウモリの様な形で押し込まれている。手紙の右隅にはよくわからない形が書き込まれている。

 

「紅魔館に取材に行った時に偽……、いえ、十六夜咲夜さんから渡されたんですよね」

「にせ?」

「そこから先は言ってはいけませんよ」

「?」

 

 よくわからない事を言っている文を放置して、僕は封を解いて中に入っている羊皮紙を広げる。

 ソコにはよくわからない、図形の羅列。ここまで並んでいるという事はおそらく文字なのだろう。

 

「……」

「……」

「……」

 

 手紙を凝視した僕ら三人、正確には人みたいな物体一つと妖怪二匹は、ひたすらに首を傾げるだけしかなかった。

 

「ん?三人とも固まってどうかしたんですか?」

「あやや、早苗さん」

 

 水を持って歩いてきた早苗が床に置いていた中身の入っていない、封を開けられた封筒を拾う。

 表を見て、裏を見て。

 

「パチュリーさんからの招待状?」

 

 膝を折って、僕の肩ごしに手紙を見ている早苗。

 目はするすると動いて、段々と苦い顔になっている。

 

「ふむふむ、図書館へのお誘いですか。うーん、あの時に言ってた事が現実になっちゃいましたか」

「もしかして、読めるんですか?」

「もしかしてって……これでも英語の成績は良かった方なんですよ?」

「……」

 

 キョトンとして言ってのけた早苗。

 そんな早苗を尊敬の眼差しで見る僕を含めた三人。

 

「巫女さんはただの変態じゃ無かったって事かい」

「ただの変態って……随分と失礼な事を言いますね」

「いや、それだと別の意味にとれるんだけど……」

「変態な訳ないじゃないですか。まったく、とんだ言いがかりです」

「そう言いながらレンに猫耳を付けてるのはどうかと思うんだけど?」

「至って普通です!! ねぇ射命丸さん!」

「えぇ!! もちろん!! 普通すぎて私のカメラが止まりません!!」

「あぁ、こう……もう少し力の強いツッコミ役が欲しい。あたしはもう駄目かも知らんね」

「大丈夫ですか!? お燐さん。頭を抑えて……もしや頭痛!?」

「ちょいと黙っといてくれないかい?主な頭痛の原因(コチヤサナエ)さん」

 

 非常に含みのある言い方をしたお燐はやはり溜め息を吐いていた。

 早苗は笑顔で文と悪手を交わしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 所、時、変わり夕食時となり、手紙を読んだ諏訪子と神奈子は思いっきり顔を顰めた。

 

「紅魔館……ねぇ」

「図書館、って言っても吸血鬼の住まう館だからね」

「レンさん、ダメですよ。言ったら死ぬまで血を吸われちゃうんですから」

「別に大丈夫だと思いますけどねぇ」

「部外者の射命丸さんは黙っててください」

「部外者とは随分な」

「黙っててくださいね?」

「……はい」

 

 どうしてだろう、いつもの笑顔だというのに怖く感じた。

 小さくなってしまった文の肩を叩いて慰めようとしたけれど、お燐が僕の手を止めてしまった。文を見るとニヤリと笑っていたのだから、きっとお燐が正しいのだろう。

 

「私はいいと思うけどなぁ」

「諏訪子様!?」

「いや、危険らしい危険もないだろうし。第一、招待状まで作ってくれてるんだから、あっちは歓迎はしてるんでしょ」

「いいですか、諏訪子様。こういう時こそ情に流されてはいけないのです。冷静に、客観的に物事を見つめたらいいんですよ」

「それ、普段の早苗に言いたいなぁ」

「レンはどうなんだい?行きたいのかい?行きたくないのかい?」

 

 神奈子がコチラを向いて口を開く。

 行けるのならば、行きたい。行くことは可能だけれど、一人と二柱に断られるとなると……。

 

「はぁ……わかった。ただし三日間だけだ」

「神奈子様まで……」

「早苗。それこそ客観的に考えてみなさいな。ここで却下なんかしてみな、この子は黙って紅魔館へ行くよ」

「……」

 

 どうやら神奈子には悟られたらしい。溜め息を吐いた神奈子と僕を見ている早苗。

 

「……で、でも、まだ危険が」

「あたいが付いて行こうかね。この子にはここで住むに至って貸しもあることだし」

「う~……はっ!! なら私が」

「早苗はココでの仕事があるでしょうに」

「だ、大丈夫ですよ、三日ぐらいサボっても神様は許してくれます!!」

「へぇ……許すと思うの?」

「いえ! 今考えを改めました!!」

 

 ビシッと敬礼まで込めた早苗を見てご満悦な諏訪子。

 神奈子は相変わらず僕の方を見ている。ジッと、コチラを見て、少しだけ顔を綻ばす。

 

「我侭を言える程度には打ち解けたか……」

「?」

「いんや、なんでもないよ。あぁ、そうそう、烏天狗」

「はい?」

「送るのは任せたよ?」

「……いや、そっちの巫女様がいらっしゃるじゃないですか」

「そのまま紅魔館へ泊まり込むとかなったらアンタにこっちの仕事を任せようかね」

「いやぁ今日も行ったけど、丁度明日に紅魔館へ取材に行くところでしたよ!! ツゴウガイイナァ!! コンチクショー!!」

「うぅ、レンさん。今日は一緒にお風呂に入りましょうね、えっぐ、えっぐ、ぐへへ」

「なんですか、その羨ましい特典は!!」

「射命丸さんはダメですよ。レンさんと一緒になんか入れません。これは家族の特権なのです!!」

「な、なんだってー!! べ、別に私には盗撮という最後の手段が」

「したら、殺すわよ?」

「オォット! 大天狗サマヘノ連絡ヲワスレテタ!! イソイデカエラナケレバ!! それでは失礼!!」

 

 幻想郷最速の名にふさわしい速さで、文字通り姿を消した文。睨んでいた神奈子は溜め息を吐いている。

 その隣では諏訪子が早苗を説教していた。

 僕の膝下でお燐が溜め息を吐き出していて。

 

 僕はどうしてか、頬が緩んでしまった。

 




悪手は誤字に非ず。

アトガキ

主人公がだんだんと柔らかくなってきたので、アトガキ。
私自身がキチンと意識できていれば、主人公の思考の中に英単語はあまり出ていない筈です。
タオルとかが出てるかもしれないですが、早苗さんの言葉を復唱しているだけで、
「この厚手の布は“たおる”なんだ」と納得しているからだと思ってください。思ってください。


守矢神社に来て、色々体験した御蔭で、性格的にかなり柔らかくなってます。
早苗さんが態々大きなリアクションをしてたのは、彼の感情を出すためです。能力まで使って猫耳カチューシャを付けたのは理由があったから、シカタナクナンデスヨー(暴挙)

早苗さんの英語能力に関しては、ある程度喋る事も可能、読み聞きに関しては普通にできると思ってください。
筆記体の個人的な手紙をスラスラと読める早苗さんはスゴイ。いいね?
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