もうこのままでいいんじゃないかな、とか諦め気味なのは作者だけの秘密です。
「おーい、れいむー!!」
「……」
箒から降りて石畳を歩く。この服と一緒に借りた革製の靴で石畳を叩く。コツコツとした音と霧雨魔理沙の声が大きく境内に響いた。
「ったく、またサボってるのか?」
「…………また?」
「いつもの事なんだぜ」
まるで悪戯をしたようにクックッと笑う霧雨魔理沙。そんな霧雨魔理沙は立ち止まり、箒をクルリと回して肩に乗せた。
「な、霊夢」
「サボってないわ。仕事がないだけ」
「そんなんだから文屋に貧乏巫女とか書かれるんだぜ」
「その文屋から聞いた話だと白黒魔法使いがネタを流したそうだけど?」
「見て分かる事はネタとは言わないんだぜ」
目の前に気怠そうな雰囲気を隠すこともせず、紅白の巫女服を着た、黒髪の女の子がのっそりと現れた。
話を聞く限りは、彼女が博麗霊夢なのだろう。そんな彼女は霧雨魔理沙からその隣にいた僕へと視線をズラした。
「……で、窃盗犯が誘拐犯にいつ変わったの?」
「おいおい冗談きついぜ。パチュリーの所にあった人形っぽい人間だぜ」
「それは、また随分精巧な人間ね。拾った所に返しなさい」
「まぁ落ち着けよ、霊夢。私だってまさか誘拐だなんて思わなかったんだぜ」
「ウチの神社は託児所じゃないの。さっさと返してこい」
「…………」
そんな意味もない言い合いを眺めていると、博麗霊夢の視線がコチラにもう一度向いて、溜め息を吐いた。至極面倒そうに、頭を少しだけ掻いてから、もう一度溜め息。
「紫モヤシの子……ねぇ」
「ん?何か違うのか?」
「いいえ……というか、戻せる場所がわかってるんだから、戻しなさいよ」
「だってコッチの方が面白そうだろ?」
「面白そう、って感情で厄介事に巻き込まれるのは嫌よ」
「それと」
「それと?」
霧雨魔理沙が少しだけ言い淀んで、三角帽の上から頭を掻く。博麗霊夢は眉間を寄せ、霧雨魔理沙の言葉を待つ。
「なんて言うか。コイツはあそこに在っちゃいけない気がしたんだよ」
「…………何よ、その理由」
「直感だから私にもさっぱりわからないんだぜ」
「……あっそ。人形だと思われたり、在ってはいけないと思われたり、随分と面倒そうねアナタ」
細められた瞳が僕を射抜く。正確には、僕の少し上を見ていた。
細めた瞳は直ぐに気怠そうな瞳に戻り、溜め息を吐いた。
「まぁいいわ。どうせ咲夜か誰かが来るでしょうから、それまでゆっくりしてなさい」
「……ん」
「こういう時はありがとう、って言うのよ」
「……ありが、とう」
「ええ、それでいいわ」
「さっすが霊夢だぜ」
「魔理沙。あんたは帰れ」
「まったく、霊夢も頑固なやつなんだぜ」
「…………」
「うっさいわね。あんたに出すお茶菓子は無いわよ」
「お茶ぐらい淹れてくれるだろ?」
「自分でどうぞ」
僕の隣に置かれた湯呑から立ち上る湯気。中には緑色に濁ったお茶が入っている。縁側に座った僕は、守矢神社の時の様に空を見つめてお茶を飲み込む。熱いお茶が喉を通り胃に落ちた。
帰れ、と言われながらも縁側にどっしり腰掛けた霧雨魔理沙を見ながら、帰れと言った本人である博麗霊夢は結局霧雨魔理沙を受け入れている。
無作法とも呼ぶべき霧雨魔理沙の所業に何も言わない辺り、二人の付き合いの長さか深さを伺える。長さか深さを曖昧にしている時点で知りもしないのだが。
「それにしても、お前は無口だな」
「…………」
「魔理沙、本人を前にソレを言うのはいけないわ」
「居ない所で言うよりはいいだろ?」
「そもそも、言うなという話」
「次からはそうするぜ」
悪びれも無く放った霧雨魔理沙の言葉に博麗霊夢が溜め息を吐いた。無口と呼ばれた僕はその名に相応しく沈黙を守っている。
「あとは、アレだ。表情が少ない」
「魔理沙」
「次に会う時、今は次じゃないんだぜ」
「…………はぁ」
どうやら博麗霊夢でも霧雨魔理沙を止める事は出来ないようだ。もしくは止める気がないのか。表情が少ないと呼ばれた僕は、その仏頂面を顔に貼り付けてお茶を啜った。
そんな僕の様子にしびれを切らしたのか霧雨魔理沙は僕に手を伸ばし、頬をそれ程痛くもせずに抓りあげた。
「こういう時は表情筋をマッサージすればいいんだぜ」
「その情報誰に聞いたのよ」
「紫」
「よし、今すぐやめてあげなさい」
「待てよ、ちゃんと実験もしたんだぜ?」
「誰で実験したのよ……」
「チルノ」
「あの氷妖精は表情しかないでしょ」
「でも抓ったら表情豊かになったぜ?」
「怒ってるって言うのよ。ソレ」
霧雨魔理沙の腕を呆れながら見ている博麗霊夢がまた溜め息を吐きだした。面倒そうにお茶を啜り、お煎餅を噛み砕いた。
「じゃぁ、あれだ。髪を切ればいいんだぜ」
「失恋した訳じゃないのよ」
「あとは……髪型を変えるとか?」
霧雨魔理沙の手が僕の頭に向かい、髪紐を目指した。一瞬の間が僕の中に生まれ、その生まれた間でお煎餅の欠片が霧雨魔理沙の腕に当たった。
イテッ、という声と共に床板に落ちた欠片。ソレを投げたであろう博麗霊夢は霧雨魔理沙を睨んでいる。
「魔理沙、いい加減にしなさいよ」
「おいおい、何を怒ってるんだぜ?」
「……お煎餅を無駄にしたじゃない」
「お前が投げたのが原因だろ……」
と目を細めて唇を尖らせた霧雨魔理沙。そんな抗議も物ともせずに博麗霊夢は新しくお煎餅を齧りだす。
霧雨魔理沙は顎に手を当てて、おぉ、っと何かを思いついた様に掌に拳を置いた。
「こういう時は弾幕だぜ」
「…………だん、まく?」
「アッと驚く、素敵弾幕だぜ」
「魔理沙、境内に被害があったら」
「大丈夫だぜ。何かあれば全力で帰るから」
「帰すわけないでしょ」
「帰れって言ったり、帰すわけないって言ったり、忙しいヤツだぜ」
霧雨魔理沙はやれやれ、と肩を竦めてそう言いながら、箒に跨り空へと浮かぶ。次の瞬間、彼女の手から色取り取りの星が溢れ出た。空が星に覆い尽くされ、箒の軌跡が光、そして星が舞い落ちた。
空いてしまった口が塞がらない。
「……綺麗」
思わず出てしまった言葉と、伸ばした手を止める人間は何処にも居なかった。
~~
「居た!!」
飛ぶスピードを上げて私は博麗神社へと降り立った。遠くの方から魔理沙さんの弾幕が見えたから余計に急いだ訳だが。
「――え?」
「ん、おぉ、早苗じゃんか。どうかしたのか?」
「いえ、少し待ってください」
「どうしたのよ、上から降りてきて上を向くなんて」
どうして、どうしてレンさんがメイド服を着ているんですか!! ソレにどうしてかテンションが高いのか目が輝かしいレンさん。思わず鼻から吹き出た……そう、家族愛。その家族愛を見せない様に後ろを向いて、顔を上に向ける。喉の奥に鉄の味が広がった。
慣れていると思っていたけれど、ダメだ。和装から洋装になるだけで人は変わるモノなんだなぁ。とか冷静に考えれる程落ち着いてからもう一度レンさんの方を向く。
エプロンのない黒色のメイド服。丈の長いスカート。素晴らしい。エクセレンと。つい先程まで理想と妄想の狭間で揺れていた姿がソコには在った!!
「さぁ! レンさん! 今こそ犬耳カチューシャをつペッ!?」
「霊夢、スマン。よくわからないけど、これ以上はいけないと思ったんだぜ」
「奇遇ね。私もそう思ったところよ」
「…………」
どうやって飛ばしたのか、煎餅が二枚コチラに飛んできて私に当たった。それも面が顔に当たった。本当にどうやって投げたんだろう。
少し痛くなった鼻を撫でながらどうにか思わず苦笑する。霊夢さんとレンさんがジト目でこっちを見ている。
「で、どうして早苗がくるんだ?」
「どうしてって、レンさんがウチの子だからに決まってるじゃないですか!」
「ん? パチュリーの所じゃないのか?」
「紅魔館にはお泊りで行ってただけです」
「こんな子供を紅魔館へ泊めるだなんて、山の神は何をしてるのよ」
溜め息を吐いた霊夢さんは視線を強くして私を睨む。その睨みも直ぐに解けて、霊夢さんはもう一度溜め息を吐いた。
私としても行かせたくはなかった。当然危険もある。けれど、可愛い姿で猫語も含めて『お願い』されたのだ。私の記憶にはそうある。都合のいい記憶だけを留めて置きたい。
実際、至極無表情で許可を申請された訳だけど……いや、そんな事はなかった。なかったのだ。きっと着流しに猫尻尾と猫耳をつけて『にゃーにゃー』言ってるレンさんが私を篭絡したに違いない!
私は再度上を向いた。
「で? 一応、誘拐犯がここに居るんだけど?」
「おっと霊夢、用事を思い出したんだぜ! いやぁキノコを取りに行くか!」
「で、今しがた消えたわ」
「お、おぉ……」
「…………」
誘拐犯が逃走した時に巻き起こした土埃を払いながら霊夢さんは溜め息を吐いた。私は思わず感嘆してしまう。
そんな霊夢さんの隣にいたレンさんは土埃が目に入ったのか、涙目になりながら目を擦っていた。
「さて、お茶を出すわ。お上がりなさいな」
「あ、いえ、直ぐに帰ろうと」
「お上がりなさいな」
「…………はい」
どうしてだか意思の強い霊夢さんに連れられて敷居を跨ぐ。
居間に座って、お茶を待つ。隣にはレンさんがちょこんと正座をしている。後ろで髪紐に束ねられた髪がちょこっと伸びていた。
……今ならお尻を触っても怒られないかもしれない。
そんな邪念を抱いていると、急須とお湯呑みをお盆に乗せた霊夢さんが到着し、机を挟んで私達と向かい側に座った。
お茶を頂き、礼を述べてから少しだけ飲む。
飛んできた所為か、乾いていた喉に薄いお茶が染み渡る。
コトリ、と霊夢さんがお湯呑みを置いて「さて、」と口を開く。その目は至って真剣に私達……レンさんを射抜いている。
「さて、早苗。正直に言ってもらえると助かるのだけど……ソレは、何?」
「え? レンさんは私の可愛い妹ですけど」
「それはそれで可笑しな気がするけれど……いいえ、聞き方を変えましょう。何を隠しているの?」
私の背筋がゾクリとした。
霊夢さんに向けられたナニかに反応したのだろう。頭の中の警鐘が鳴り響き、袖に隠し持っていた札を手に握った。
出来るだけ、冷静に、それこそ怪しまれない様に私は口を開く。
「やだなぁ、霊夢さん。隠すとかさっぱりわからないんですけど」
「それ、本気で言ってるようなら……その子、殺すしかないわね」
「ッ!」
私は立ち上がってしまう。立ち上がった私を見ることもせず、霊夢さんはお茶を一口飲み、もう一度口を開いて、同じ事を言う。
「ソレは、何?」
自然と力の入った札を握る力。その札を握っていた手から抵抗が伝わる。
そちらを向けば、レンさんが私の袖を掴んでコチラを上目遣いで見ている。相変わらずの無表情だ。
私は深呼吸をして、正座をして霊夢さんに向き直る。
「ウチの可愛い家族です」
はっきりと言い切った言葉に嘘も偽りもない。
霊夢さんはキョトンとして、真面目そうな顔から面倒そうな顔に変わって髪を掻いた。
「はぁ……面倒だけど私には博麗の巫女としての役目があるの。だから力を持ちすぎる事は許せないし、対処しなくちゃいけない。面倒だけど。だから、その子が……山の神様がひた隠しにしてるソレを確認しなくてはいけないの……本当に面倒だけど」
その言葉を言い切った後に、もう一度面倒臭いと言い放った博麗の巫女。
けれども、私も折れる訳にはいかない。レンさんの髪紐を解いたら、きっと霊夢さんはレンさんを討つだろう。なんせ贄と呼ばれる存在だ。幻想郷において、危険は大きい。
だからこそ、明かせない。
「スイマセンが、ダメです」
「そう……」
「でも! レンさんは危険なんかじゃないですよ!」
「私にとって、彼が危険とか関係ないわ。山の神様が隠している、あと人にしては強すぎる式が気がかりすぎるのよ」
再度、面倒だけど、と合わせた霊夢さんに内心舌打ちしてしまう。チラリと隣を見た私をジッとレンさんが見ているのに気がついた。
レンさんは少しだけ息を吐いて、手を頭に伸ばす。その先には髪紐が、
「だ、ダメです!!」
「…………」
「そんな事したら……またレンさんが泣いちゃいますよ……」
レンさんの手を抑えて、出てしまう声。泣いてないのに泣いているレンさんを見るのはもう嫌だった。
そんな私の気持ちも露知らず、レンさんは私の手をやんわりと退けて、髪紐を掴んだ。スルリと抵抗も無く解けた髪紐を机の上に置いて、レンさんは真っ直ぐ霊夢さんを見つめた。
「…………驚いた……」
心底驚いたように、キョトンとした顔で霊夢さんが呟いた。
私は力無さに思わず下を向いてしまう。逃げる算段を立てなくてはいけない。危険なレンさんを連れ出す事を目的にしなくてはいけない。
「なるほど、贄だったのね……」
「え? 知ってるんですか?」
「本物を見るのは始めて。先代から少し聞いただけよ」
やっぱり面倒だった、と呟いた口から溜め息が溢れ出た。本当に義務だけで知ったレンさんの正体に嫌気が差しているのだろう。
「魔理沙を帰して正解だったわ」
「どうして魔理沙さんが出てくるんですか?」
「贄は外気からも力を吸収しているのよ。よくわからないけど、魔法使いにとってそれは魅力的だと思わない?」
「……あぁ、なるほど」
「式は隠蔽なのね……隠しきれない、か」
髪紐を摘んで見ていた霊夢さんの手からレンさんに髪紐が渡される。レンさんは慣れたように髪を後ろで結わえて、先ほどと同じ髪型に戻った。
「で、レンさんは」
「どうもしないわよ。面倒臭い」
「へ?」
「贄だったら、殺す方が問題なのよ。それこそ神様の所にいるなら私の仕事も減るし、私の面倒も激減。イイ事尽くめね」
カラカラと笑った目の前の巫女。それこそまるで先ほどまでの空気が嘘の様に弛緩している。
ふぅ、と隣で息を吐いた音が聞こえた。チラリと隣を見れば表情は変わっていないレンさんが居る。安堵した様な息を出したのに、相変わらず表情は変わっていない。
そんなレンさんを見て、大事な事を思い出した。
「そういえば霊夢さん。頼みがあるんです」
「この子の隠蔽とかは勝手にしなさいよ」
「いいえ、そんな事はどうでもいいんですけど」
「いいのかよ」
「巫女服を一着頂ければなぁ、と思いまして」
「……どうしてよ。ついに2Pから卒業?」
「いいえ、レンさんに着せようかと思って」
「…………」
「え? 私何か可笑しい事言いました?」
「もういいわ。あんたも帰りなさいよ」
本当に面倒そうに、言ってしまえば先程よりも面倒そうに眉間までシワを寄せた霊夢さんがシッシッと手を振った。
隣にいたレンさんが少しだけ私から遠ざかった様に感じた。確認はしなかった。きっとジト目でコチラを見ているだろうから。
シリアス→ギャグ
早苗さんの
エロは早くて一話二話程先です。許してください。