※この作品はR-18です。

東方色贄録   作:猫毛布

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24 トモダチと黒猫

~~

 

 ――早く起きて

 

 コレは夢。私は瞼を上げて声に反応する。私を揺らす腕を取り、ベッドへと連れ込む。

 カレは私に苦笑して、綺麗に微笑んでいる。

 

 ――ご飯、できてるよ?

 

 カレの言葉を無視して抱きしめてみる。手応えはない。幻だ。そうわかっている筈なのに、私はこの腕を解くことが出来ない。

 あの時、握れなかった手をしっかりと握り、私から離れないようにする。探してもいなくて、少量の血と種を仕込んだ着流しの切れ端が枝に引っ掛かっていた。

 それだけで、予想する事は出来た。

 まるで、最悪を形作るように。現実に叩きつけられた。

 

 虚無感が私の心を支配して。ただ求める為に私は逃げ出した。

 もう少しだけ、もう少しだけ、とまるで熱病に魘される様に。私は溺れた。

 

 部屋の中には白い花が敷き詰められた。幻覚作用のある花粉を飛ばす、白い花。

 

 カレを抱きしめる力を強くする。容易く潰れてしまったカレ。

 

 自ら生んだ幻影。

 愛おしい程、狂おしい程、望んだ影。

 

 邪魔さえされなければいい。それだけで私は満足した。故に私は鳥籠を作った。家を蔦で覆い、全てを拒絶するよう。

 

 中にイるのは、カレとわタし。

 

 もう顔も思い出せない。

 口調も残っていない。

 表情は消えてしまった。

 

 けれど、肺に残る程に芳しい彼。鼓膜に刻まれる程艷やかな彼。心が求めた程に心地いい彼。

 

 

 あぁ、いっその事。

 

 このテで、臓腑を引き摺りだして、滴る血を啜り、少しずつ四肢を食み、悲鳴と嬌声を鼓膜にすり込んで、最期に心臓を食べればよかった。

 

 ごめんなさい、■■。

 ごめんなさい、■■。

 

 貴方を食べてあげれなくて、ごメンなサい……。

 

 

~~

 

 ゾクリとした感覚が背中を這い後ろを向いてしまう。そこには鳥居と夕日がある。

 ソレ以外には何もない。

 

「どうかしたんですか? レンさん」

「…………別に」

 

 前から聞こえた早苗の言葉を返して、僕は改めて後ろを向いた。やはりそこには夕日と鳥居しかなかった。

 何かが僕に忍び寄る。形のないモノ。心臓が締め付けられるように、焦ることなどないのに、急がなければいけないと感じる……。

 不安。

 心の中でそう言った感情に当てはめれば、意図も簡単に自分の感情を理解出来た。不安なのだ。何かが、何かが違うのだ。

 鳥居の横でそっぽ向く向日葵と顔が会うことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、よかった! レン! ようやく解放される!」

 

 尻尾を巻いて、という表現が合いそうな程足早にコチラに駆けて来た猫を抱き上げる。真っ直ぐな尻尾が揺れている。

 首元を撫でながら、廊下を歩く。目の前には神奈子と諏訪子がいた。

 

「おかえり、レン」

「おかえり、レン」

 

 二人の言葉にどう返していいか解らない。本当に僕はココにいていいのだろうか。贄として、僕はここにいなくてはいけないのだろうけど。

 

「レン?」

「…………ん」

 

 胸元から呼びかけられて、僕はソレに反応するように猫の頭を撫でた。そして、誤魔化すように口を開く。

 

「…………夕飯の準備」

 

 まるでソレが当然の様に言ってのけた僕は歩みを進めて二柱の間をするりと抜ける。

 その時に見た二柱の横顔はやはり苦笑を浮かべていた。

 

 

 

 

 

「レンさん! レンさん! レンさん! レンさんぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!! あぁクンカクンカ! クンカクンカ! スーハースーハー! スーハースーハー!」

「…………」

 

 夕食、僕は隣にいる烏天狗に羽交い絞めにされ首元に顔を押し付けられていた。目の前には素知らぬ顔でご飯を咀嚼している神が二柱と巫女が赤い袴を掲げながらゲヘゲヘと笑っている。

 珍しく僕の両隣は誰も居らず、膝には黒猫が丸くなって眠っている。

 

「そういえば、レン。その包帯はどうかしたのかい?」

「…………本で切った」

 

 本を借りるためにナイフで切った。間違いでは無い。正確でもないけれど。

 僕の言葉に神奈子は眉間を寄せたが、そこから先を追求する事は無かった。左手を全て隠すように巻かれた包帯なのに、理由が本で切った、というモノなのだ。

 思わず少し笑ってしまい、ソレを見たであろう神奈子の眉尻が下がる。

 

「あんまり無茶な事をするんじゃないよ」

「…………うん」

「さて、と。そろそろ離れようか、烏天狗」

「――――よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんですねっ! いやっほぉおおおおおおお!!! 私にはレンさんがいる!! やったね椛(モミジ)!! ひとりでできるもん!!!」

「はいはーい、ちょーっと黙ろうか? 教育に悪すぎる」

「ノォ!? レンさんが私から離れていく!! 待って、待ってください! レンさぁぁぁあ、」

 

 ピシャっと閉められた襖。どうしてだか途中で途切れた文の声は一切聞こえない。あと、僕が離れている訳ではなく、文が神奈子に連れ去られたのだ。僕は常に待っている存在である。

 

「あぁ、レン。 洗い物は私と早苗がやっとくから、今日は早くお眠り」

「…………うん」

「ちょっと待ってください! 私も一緒に入りますよ!!」

「早苗は、コッチ」

「後生です、諏訪子様!! 私にはやるべき事が……やらなければいけない事があるんです!!」

「はいはい、それはレンと一緒にお風呂に入る事じゃないし、ましてやレンに巫女服を着せる事じゃないからねー。私と一緒に洗い物を片付けましょうねー」

 

 諏訪子の言葉を聞いて、僕は立ち上がる。しっかりと襟首を掴まれた早苗を振り返ることはせずに僕は襖を閉じた。

 襖の向こうから嘆きにも似た声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ふぅ」

 

 鼻に水滴が落ちる。縁に顎を置いて、黒猫をぼんやりと見つめる。色々とあったから、というべきか。吐いた息が少しだけ重い。

 

「その……レン」

「……ん」

「守ってやれなくて、ごめん」

「…………」

 

 黒猫は垂れ下がった僕の左手を見ながら、申し訳なさそうに呟く。

 どうして謝るのだろうか。どうしてこうも的はずれな事で謝っているのだろうか。

 神奈子や諏訪子との契約を守れなかった事など、僕に謝らなくていい。それは神奈子達に言うべき言葉である。

 

「本当に、ごめんよ」

「…………許せない」

「ッ……だよね……」

 

 お燐は下を向いて、尻尾を地面に付ける。

 僕が許せる内容ではないのだ。許す事も出来なければ、許さない事も出来ない。それだけの話。

 僕はお燐の頭を撫でる。お燐は顔を僕の左手に擦り付ける。瘡蓋になっている傷痕が擦れてヒリヒリとする。

 

「例え許されないって分かってても、言う事だけはしたかったんだ」

「……神奈子に?」

「どうして神様が出てきたんだい……ん?」

「……?」

 

 何かを考えるようにお燐が止まる。止まって、少し唸ってから、溜め息を吐きだした。

 

「あー……レン。あたいが守れなかった事を恨んでるかい?」

「……別に」

「…………ハぁ、つまり、あれかい、全部あたいの勘違いってことかい、馬鹿らしい」

「……?」

「まぁいいさ……良くはないけど、よかったと言っておこうか」

 

 お燐がまた溜め息を吐いてから、人型に変わる。真っ赤な瞳がコチラを写し込んでいる。

 ニッと笑ったお燐。

 

「あたいはさ、地底に帰るよ。そろそろさとり様がお空の相手でてんやわんやしてそうだからね」

「…………ん」

「うーん、反応が薄いねぇ」

「…………」

「どんな所に居ようと、どんな事になろうと、どんなモノになろうとも、あたいはレンの事を友達だと思ってる」

「……とも、だち」

「あー……レンがあたいの事をどう思ってようと、あたいはそう思ってるってだけの話なんだ」

 

 ともだち。

 よくわからない。

 

 言葉の意味はわかるけれど、僕にはさっぱりわからない。けれど、お燐は僕の事をそう呼ぶらしい。

 贄でもなく、餌でもなく、器でもなく、トモダチと呼ぶらしい。

 

 お燐は少しだけ眉尻を下げながら笑って、僕の頭を撫でた。

 

「難しく考えなくてもいいんだよ」

「…………お燐」

「ん?」

「…………」

 

 言葉が出てこない。

 好きよりも、好き。という感情をどう言えばいいのかが僕にはわからない。

 詰まった言葉は喉奥に消えて、僕は黙ってしまう。

 そんな僕にお燐は苦笑して、僕の頭を撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お燐が僕の前から去って数時間。

 月が昇り始め、星が空に散っている。

 秋の向日葵、と随分と珍しいモノを見つめながら、まるで何かに訴えられている様に考える。

 

 僕は、溜め息を吐いた。お燐の代わりという訳では無いけれど。

 頭の中に湧いた、まるで誰かが囁いたような言葉を払拭するように。

 

『もしかして、風見幽香の身に何か起こったのではないのかしら?』

 

 そんな言葉を消すように、溜め息を吐き出す。

 けれど、嫌な予感は消しきれず、もしかして、という言葉が僕を支配する。

 

 もしも、ソレが僕の責任ならば。

 もしも、僕が原因のソレならば。

 

 風がふわりと向日葵の匂いを乗せて僕に辿りついた。

 肩の力を抜いて、僕は普段眠っている部屋の襖を開く。

 

「ん……くふぅ、…あぁ……んぃ…」

 

 枕に顔を埋めて、自身の手をスカートに潜りこませ、グチュグチュと水音を立てる黒い翼の彼女がいた。

 服の上から自身の乳房を揉んで、声がいっそう大きくなる。

 コチラに向いている臀部がフリフリと揺れて、太ももに液体を垂らし、敷布団を濡らしている。

 そんな彼女が気が付くように、態と音を立てて襖を閉める。

 その音にビクンと反応した烏天狗は、そのまま何かを我慢したように、ビクビクと痙攣し、数秒の間を置いてだらしなく乱した着衣もそのままにコチラを向いた。

 

「…………見られてましたか」

「……文、頼みがある」

「あやややや、自慰に関してはスルーですか……」

 

 真っ赤な顔とやや焦点の合ってない瞳を何処かへ向けながら文は頬を指で掻いた。

 僕はしっかりと文の顔を見ながら言葉を口から出す。

 

「…………太陽の畑」

「嫌です」

 

 即答だった。

 先程まで焦点の合っていなかった目はしっかりとコチラを向いて、だらしなかった顔は鋭い目つきの真剣な顔になっている。

 わからない、ではなくて、嫌、と応えた文。きっと太陽の畑……幽香の事を知っているのだろう。

 

「コレばっかりは、例えレンさんでも……いいえ、レンさんだから言えません」

「…………そう」

 

 思わず出てきた溜め息。

 頭の中で消そうとしていた事が確信へと変わっていく。仮定から確定に。

 僕は左手から包帯を外す。瘡蓋を無理やり剥がしてにじみ出る血を確認する。

 何度も繰り返した事を思い出す。紅魔館の本で色々と学んだのだ。大きすぎる力は、酔ってしまうことを僕は知っている。そして酔う、という事が自意識を緩くする事を僕は体験している。

 

「いやぁ、私だって。愛しのレンさんの頼みを聞きたいのは山々なんですよ? でもですね、危険すぎるんですよ。それこそ鬼に単騎特攻をかけるようなモノです。大切な物をぐちゃぐちゃに壊されるなんて嫌じゃないですか。だから、わかってくれますよね?」

「…………いい」

「あぁ、それはよかった。私もこれで安心してレンさんを襲えるってモノで」

 

 

 

 

 

「…………喋らせるから、いい」

 

 ゆっくりと紡いだ言葉はどうやら文を驚かすに十分だったらしい。




次回エロ。

ヤンデレ開始→ギャグ(変態→シリアス(友情風味→贄オナ

話の運びが無理やりすぎるって?
スキマ妖怪の仕業じゃ!! 出す予定だった話をスっ飛ばされたスキマバ■■■(汚れていて見えない
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