※この作品はR-18です。

東方色贄録   作:猫毛布

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27 マボロシと幻影

 くしゃり、と草を踏んで、僕は瞼を上げた。

 まず見えたのが黄色の花弁、そして茶色の顔。一面に広がるソレらは、ゆっくりと顔を上げる途中で、顔を上げるのと同時に僕は瞼を細めた。

 

 雑多に生え揃ってしまった草を少し掘り下げて掬う。片手で持てる程度の数を向日葵達とは関係の無い茂みへと置いた。そして僕はもう一度、あの時と同じように草に手を伸ばす。

 

 何度もソレを繰り返し、ようやく土を整え終わった僕はじんわりと出た汗を手で拭った。

 ようやく、僕は鳥籠と呼ばれたソレを見上げる。

 中空に浮いている訳ではなく、家を囲う様に出来た緑の檻。太い蔦に細い蔓が巻き付き、そして自宅を覆い、閉じ込めている。

 いつもだった時の様に井戸に立ち寄る訳もなく、僕は力を入れて扉を開く。

 幸い、容易く開いた扉から見えたのは白い花弁だった。一面に広がる白い世界。まるでこの中だけが別世界に変わってしまったと思う程の一色の世界。

 

 その中で唯一の異物とも言える緑色はゆっくりと動き出した。白に映える二つの赤色がコチラに向けられる。

 

 ぼんやりとコチラを見ている彼女を目の前にして、僕は口を開いた。

 

「……ただいま」

 

 すんなりと吐き出された言葉を戻すことは無い。吐きだした言葉の意味を自分で理解して、思わず苦笑してしまう。

 

 僕は一歩踏み出して、幽香へと歩く。白い花弁を踏んで、一歩づつ、確かに進んだ。

 赤色が細くなり、持ち主の口が開いた。

 

「ダレ? 私とレンの邪魔よ」

「…………」

 

 僕は息を飲み込んだ。止まってしまった足は、動かなかった。

 飲み込んだ息をどうにか吐き出して、僕は呼吸を再開した。何を驚く必要があった。

 僕は髪紐を外した。

 ソレを花弁で出来た絨毯に捨て、僕は僕へと成り下がる。白い花弁の中に一本の赤が混ざり、僕はもう一度同じ言葉を吐き出す。

 

「ただいま、幽香」

 

 僕は再度足を踏み出し、幽香に近づく。

 ようやく、触れることの出来る位置に辿りついた。唖然としている幽香に、触れる。

 

「……レン……?」

「……何?」

 

 彼女の問いかけに、僕は促すように応える。

 彼女は確かめる様に自身の頬に触れている僕の手を触り、大きく息を吸い込んだ。

 僕の腕を引き、僕を抱きしめて、更に大きく息を吸い込む。存在を確かめるように、虚像を消すように。

 

「……幽香」

「あぁ、レン……! レン!」

 

 痛い程に抱きしめられた僕は幽香に為すがままにされる。何度も確かめる様に僕の名前を呟く彼女。

 

 

 

 

 何度も呟いていた名前が、突然止まった。抱きしめていた力が弱まる。

 

「……幽香?」

 

 僕は問いかける。幽香は僕から手を離し、突き飛ばした。

 白い花弁が突然視界を埋め尽くし、花弁の絨毯に擦れる。

 

「くふ、あはは……くひ、アッハハッハハハハッハッハハ!! そう、やっぱり、そうなのね!!」

「……幽香?」

 

 まるで狂った様に嗤う幽香を見上げながら、僕は凍りつく。幽香の瞳がコチラを向いている。背筋に何かが走った。

 幽香の口が開かれる。

 

「――黙りなさい、幻影がッ!」

「……何を、」

 

 理解出来ない。けれどソレも一瞬の事で、文の言葉を思い出した。

 幻に捕らわれている。

 僕は紡ごうと思った言葉を留めた。きっと、何を言っても意味が無いのだ。だからこそ、初めてあった時よりも暗く虚ろな瞳の幽香を改めて見つめた。

 

「…………」

「幻影風情が、殺してやるッ。殺して、喰らって、潰して、飲み込んでやるッ」

 

 きっと、それは彼女の中で何度も繰り返された事なのだろう。

 それ程、僕を求めてくれた。それ程、僕を必要とした。いや、きっとコレは自惚れと呼ばれるモノだ。けれど、それでもよかった。そう思う事で、僕は再度決心することが出来た。

 

 幽香の姿が消えて、視界の下に緑色が映り込んだ。僕は両腕を広げて、ソレを受け入れた。

 

 衝撃は一瞬だった。そこから先は何も感じる事は出来なかった。

 ただ、貫かれたという意識と、幽香の顔が近くにある事だけを理解できた。

 

「ごふっ」

 

 溢れた血が口から吐き出される。

 苦しい。苦しい。けれど、それでもいいのだ。

 朦朧とした意識の中、僕はゆっくりと、確かに、しっかりと、幽香の両頬に手を当てる。

 幽香は少しだけキョトンとしたけれど、僕は構わずに唇を唇に合わせた。

 きっと一秒よりも短い口付けを終わらせて、幽香の口が少しだけ赤く濡れていた。口端(くちは)から更に赤が垂れ落ちた。

 僕はソレに満足した。

 だから、次は誰かを皮肉ってではなくて、僕と彼女の為に、口を開いた。

 

「アナタが……僕、、べる……よう、いさん?」

 

 きっとちゃんと言えなかった言葉に僕は苦笑した。同時に受け入れる事が出来た。

 胸から広がる違和感と瞼の重さも受け入れた。

 力が抜けて、錘をぶら下がったように身体が重くなる。

 重い。

 オモイ。

 おもい……。

 

 出来る事なら、来世と呼ばれる場所でも……幽香に会えますように。

 

 

 

 

 

~~

 

 扉が開かれた。

 私とレンだけの閉じられた世界の扉が開かれた。

 

 開いた存在はレン達(・)の死体(・・)を踏んでコチラに近づく。

 

『ただいま』

 

 あろうことか、そんな言葉を吐きだした。しかも嗤ってだ。

 ここは私とレンの居場所だ。オマエなんて、イラナイ。

 

「誰? 私とレンの邪魔よ」

 

 私の威圧で存在は足を止めた。レン達を踏んで。歯を鳴らし、私は更にイライラを募らせる。

 

「――殺しちゃおうよ」

 

 レンが私に囁いた。そうだ、こんな存在、殺してしまえば早い。

 私はしっかりと存在を睨んだ。存在は手を頭に当てて、そして何かを引き抜いた。

 

 瞬間、世界がレンの絨毯から、白い花畑に変わった。

 その中心にいたのは、黒い髪が肩よりも伸びてしまった、無表情が苦笑に変わってしまった、けれど、変わらぬ、求めていた存在だった。

 

「……ただいま、幽香」

 

 レンは白い花を踏んで、コチラに寄る。

 私の頬を触って、その感触に私は確かめるように彼の手を撫でた。もしかしたら、消えるかもしれない。だから、とても優しく、壊れないように、撫でた。

 戸惑いながら、何度か出そうになった言葉を飲み込んで、けれど言葉は口から出てしまった。

 

「……レン?」

「……何?」

 

 あの日よりも、幾分も優しくなったと感じる声が鼓膜を揺らした。

 手にとった腕を引き寄せ、私の中に彼を埋める。黒い髪を何度も撫でて、強く、強く抱きしめた。

 確かめる様に、大きく息を吸い込んだ。彼の匂いだ。肺を支配した匂いを受け入れて、私は何度も彼を確かめる様に彼を呼んだ。

 

 許してほしい。私が悪かったのだと。もう離す事はないだろう。絶対に離さない。

 

 

 

 

 

「――――許すと思ってるの?」

 

 彼の声が鼓膜に響いた。

 私は息を飲み込んで、抱きしめた彼ではなく、扉にいる彼を見た。

 ぼんやりと扉の彼は消えて、そして新しく別の彼が出てきた。

 

「――これだけの僕を殺して」

「――どうして許してもらえると思っているの?」

「――どうしてソレが幻影だと思わないの?」

「――ねぇ、幽香」

「――抱きしめているソレは、なんだろうねぇ」

 

 彼らは嗤い。鼓膜を揺らした声が哂っている。

 あぁ、コレも、どれも、ソレも、かれも、彼も、幻なのだ。

 彼が私を求めて戻ってくるワケが無い。それだけの事をしたのだ。

 私は幻影を突き飛ばす。

 幻影は死体達を吹き飛ばし地面を擦った。まるで現実のようだ。幻影のクセに。

 

「――許さない」

「くふ、あはは……くひ、アッハハッハハハハッハッハハ!! そう、やっぱり、そうなのね!!」

 

 そうなのだ、どうせ私は許されてはいないのだ。許される筈がない。

 自嘲してしまう。何処かで許されると思ってしまったから、こんな幻影を見てしまうのだ。

 

『……幽香?』

 

 幻影がまた口を開いた。だからこそ、私の琴線に触れた。その声で喋るな。その姿で囀るな。

 

「黙りなさい、幻影がッ!」

 

 幻影はその顔を歪めて、私を見た。そして私の瞳をしっかりと見つめているのだ。深い、いいえ、不快な瞳で真っ直ぐに。

 私は歯ぎしりをした。

 不快だ。不快すぎる。幻影のクセに、幻のクセに。

 

「幻影風情が、殺してやるッ。殺して、喰らって、潰して、飲み込んでやるッ」

 

 何度も繰り返したように、何度もそうしたように。

 私は足に力を込めて、幻影に向かった。一瞬で詰めた距離、速度をそのままに、右腕で幻を貫いた。

 骨の間から指先を刺し、そして皮を引き裂き、肉を貫いて、薄い膜を破って、容易く幻を穿つ事が出来た。

 勢いの付き過ぎで幻の顔がとても近い。

 幻は血を吐き出して、けれども私に笑んだ。

 両手を私の両頬に当て、ゆっくりと顔を寄せてくる。唇に柔らかい感触と舌に僅かな鉄の味が広がった。

 三秒に満たないキスで、彼は顔を離して微笑んだ。

 まるで全部が終わったように。全てを受け入れた様に。私の事を安心させるように。

 

「アナタが、僕を……食べる、ようか、いさん?」

 

 最初に会った時の様に。自嘲じみた嗤いではなくて、まるで私を許すように微笑んだ彼。

 そんな彼の両手が、私の頬から落ちる。

 ダラリと力が抜けてしまった彼。穿っている腕から冷たくなる。

 私は声を出すことなく、ガタガタと震えた。震えて、腕を引き抜いた。彼の後ろをしっかりと覗くことの出来る孔。私は息を飲んでしまった。

 どうすればいい? どうすれば、彼を助ける事が出来る?

 無我夢中、それこそ最善策なんて考えられず、私はポケットの中の種を取り出した。

 ソレを、彼に植えた。

 花を操り、彼に根付き、止血をした。皮肉にも咲いた花が白色だという事以外は最善では無くても、最悪ではなかっただろう。

 

『――ねえ、僕をどうするのさ』

「五月蝿いわ、黙りなさい、幻影め」

 

 数ヶ月という月日を共に過ごした幻。それを見ても、幻だと分かるのは、きっと罪悪感とか、そういう想いがあるからだろう。

 幻影は呆れた様に溜め息を吐いた。花の咲いた彼では決して見られないような呆れ顔とわざとらしい肩の竦め方をして、口を開いた。

 

『――永遠亭には薬師がいるね』

「……生意気ね、幻のクセに。私もそう思ってたところよ」

『――当然じゃないか。僕らは幽香から出来てるんだから』

 

 やはりケタケタと笑った幻影はその姿を消して、私は溜め息を吐きだした。

 なるべくレンを動かさないように、抱き上げる。

 白い花を踏みながら、私はやけに重いドアを蹴破った。




あれ? これってエロ小説な筈だよね?
なんでエロじゃなくてグロになってんですかね……。エ、とグじゃかなり違うってのに。
まったく、ゆうかりんでエロ小説書くっていったヤツ出てこいよ。私がぶん殴ってやる!!

>>白い花
 幻覚作用のある忘れられた花。現実世界では忘れられたので幻想郷には在る。




 中毒性があり、長く吸えば強力な妖怪もこの通り!
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 すいません。
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