必要なのですよ。どれも、コレも。
グロ注意。という程グロではないと思うけれど一応、念のため。
尚、お先は真っ暗の模様。
竹林を抜けて瓦屋根の家を見つけた。
背負ったレンをなるべく揺らさないように着地して、ガンガンと扉を叩く。あと三回で開かなかったら蹴破る。
「はいはい、こんな早朝からいったい何用よ」
扉を開いたのは銀色の髪を垂れ流した女だった。
確か、名前を
「この子を助けてほしい」
単刀直入に、私は言った。私に背負われた彼を見て、薬師は思いっきり眉間を顰めて、そして溜め息を吐いて髪を乱暴に撫でた。
「あのね、ここは診療所よ。火葬場じゃないわ」
「知っているわよ」
「ならその死体をさっさとあるべき場所へと届けなさいな」
そうして引き戸を閉めようとした薬師に顔を寄せる。今すぐにでも目の前の存在を引き裂きたい気持ちを必死で押し殺す。
薬師は面倒そうに、もう一度溜め息を吐いて、引き戸を開ける。
「わかったわよ……まったく早起きは三文の得なんて嘘ね」
「向日葵が起きた後に早起きだなんて、笑わせるわ」
「…………」
薬師が眉間を寄せて半目でコチラを見てくるが私にそんな事関係無い。
軽く指さされた診療台へと彼を横たえて、頬を撫でる。
「生きてはいるけど、死に体ね。いっそ永眠させたほうがいいんじゃないかしら?」
「……」
「はいはい、睨まないでよ」
私の睨みなどどこ吹く風という風に薬師はレンを見ながら顎に手を置く。
「…………拙いわね」
そう一言漏らした後に薬師は花に触れて、息を吐いた。
「この花はアナタが?」
「え、ええ」
「そう……先に言っておくわ、彼が生きる可能性は半々といったところよ」
「――ッ」
「更に言えば、意識を戻す可能性がその半分、記憶に異常がない場合が更に半分」
「どうにか、ならない?」
「放っておけば可能性もなく死ぬだけよ」
薬師は真剣な瞳でコチラを見抜いく。私の選択肢など、ないに決まっている。あったなら、きっと花を咲かせる事はなかったのだ。
「……頼むわ」
「頼まれたわ」
ニッコリと笑った薬師に少しだけ安心してしまう。
これで、たぶん、きっと、半分の確率で彼は生きる。更に半分の確率で目を開き、更に半分の確率で私の名前を呼んでくれる。
「あとは、アナタね」
「私は至って正常よ」
「よくここまで辿り着いたわね、と言いたいぐらいに瞳が動いているわよ」
「…………」
私は自身の手を眺める。
ソコには皮が爛れ、肉が腐り落ち、骨が見える手があった。幻覚である。
「大丈夫よ」
「大丈夫ではないから言っているの」
「私が大丈夫と言っているのだから」
「救ったこの子を次の日には殺されてる、なんて面倒なのよ」
「……」
薬師は非常にいい笑顔で言ってのけた。目は笑っていなかったが。
~~
花の妖怪を追い出して数秒。私は息を吐きだした。
「随分、予防線を張ったのね」
「姫様、起きてたのですか……」
「いいえ、今から寝るところよ。レアドロップが中々出なくてね」
コロコロと笑う主人に思わず目を細めてしまう。そんな事も関係無いように笑っている主人は彼の花を見ながらやはり笑った。
「アナタなら十全に、完璧に彼を治せるでしょう?」
「当然です」
確率など無い。あるのは確立されている結果だけだ。ソレを求めれば容易いのだ。
私だけしか助ける事は出来ない。つまり、彼を助けるに至っての私の言葉は絶対だ。だからこそ、あの妖怪に嘘を吐いた。
「早起きは三文の得、なんて言うけれど。三文以上は確実に得をしているわ」
私は思わず口角を歪めてしまう。
まさかこんな所でコレが手に入るとは思わなかった。何にせよ、生体で在る事に意味はあるので、薬の制作を始めよう。
コレに効果のある薬は少し特殊で、作成は面倒なのだから。
「あぁ、また永琳が悪人顔に……ショタに興奮するお姉さんなんて二次元だけで十分よ」
「何か言ったかしら?」
「さてどうかしら」
主人はクスクスと悪戯をしたように嗤い、屋敷に奥へと姿を消した。
私は一度溜め息を吐き出して、目の前で無防備に
~~
目を開いた。
視界には雲一つない空、そして赤色の花が咲いていた。
視界を埋めるように咲いた花を潰すことなく、僕は地面に手を付いて半身を押し上げる。
赤い花が咲き乱れ、その空間が先へと広がりる。更にその先には川があった。
僕は息を吐いた。
立ち上がり、変わらぬ白い着流しの崩れを直して河原へ向かう。
河原には風もなく、まるで川と先程までいた花畑との境界線にただ河原を置いただけのようだった。
平たい石をワザと敷き詰められたような河原。膝を折って、石を積み上げる。
大きな物を一番下に。先に進む毎に石は小さくなり、十を積み重ねた所で、石の塔は崩れた。
「あぁあ、崩れちまったねぇ」
「――――」
いつの間にか隣にいた女性が心底残念そうに声を出した。面倒だ、と言わんばかりに溜め息を吐いて眉をハの字に落とした。
周りに咲いている花よりも少しだけ暗い色の髪が揺れる。
立ち上がった彼女を見上げれば、青い着物に腰巻き、そして着物を押し上げている乳房。腰巻きをしているからか、余計に大きく見えてしまう。
更に目を引いたのは、巨大とも言うべき鎌。鈍色のソレを石に押し当てて、杖の様にして顎を乗せている。
何も言う事のない彼女を数秒見つめて、僕は石を積み重ねるのを再開する。次はなるべく崩れない様に。
積み上げた石の数が十二に差し掛かり「あぁ」、と思い出したように口を開いた女性。
「そういえば自己紹介がまだだったね。私は
三途の川。死者を送るための川。三途の川で、ここは河原なのだ。僕は積み上げた石の塔を自分で潰した。なんせ、意味がないのだから。
ガラガラと音を叫んだ石達に、「ありゃりゃ」と声を出した小野塚小町。
重く感じる身体を上げて、僕は口を開いた。喉を震わせた。
「…………――」
そして、声は出なかった。
相変わらずの自己紹介すら出来ない喉の抑えて、再度声を出そうとする。
結果は、変わらない。
息は出来る、喉を震わせる事も出来る。目の前の存在の御蔭で耳も正常に動いている。けれど、声は出ない。
「あぁ、御前さんは声が出ないんだねぇ」
「…………」
「御前さん、贄だろう?」
その言葉に少しだけゾクリとした。
ソレに気がついたのか、小野塚小町は軽快に笑ってみせて、大丈夫と続けた。
「私は御前さんを食おうだとか思ってないよ」
「…………」
「もちろん、よしんば許可が下りればそうするだろうけど」
ケラケラと軽快に笑ってみせる小野塚小町を見ながら、僕は溜め息を吐いた。
本当に、よく笑う存在だ。そこで、僕は改めて周りを見渡す。
彼岸花の花畑。石の塔が疎らにある河原、そして先の見えない河。名を三途の川。
僕は、死ねたのだ。ようやく、死ねた。
「死んだってのに、随分朗らかな顔になるもんだねぇ」
「…………」
「いんや、責めてる訳じゃぁないんだよ? それこそ、贄ってのはみーんな、自分が死んだってわかった瞬間にそういう顔をしやがるのさ。 やっとこさ死ねた、なんて冗談じゃない」
小野塚小町は嫌になるね、と続けて肩を竦めて首を横に振った。そうして彼女は鎌を持ち上げて肩に背負う。
積まれる石達を踏んで、河原にあった船に乗り込んだ。
「まぁ、贄だから、なんて事は言わないよ。少年は可愛らしい顔をしてるんだから、そういう顔の方がいいさ」
「…………」
「きっと声もイイんだろうねぇ。まぁ魂にそういう事を問うのも野暮ってもんだけどね」
河原に着いた船の安全をしっかりと確認した小野塚小町はコチラに手を向ける。
僕は、なんの迷いもなく、その手を取り、舟へと乗り込んだ。
「何にしても、私がサボってた、なんて事……誰にも言うんじゃないよ」
「…………」
それさえなければ言われる事もないのだろうに。尤も、僕には出せない音なのだけど。
そう思えば、クツクツと笑う小野塚小町が隣にいた。
所謂、舟という物体に初めて乗った。
スイスイと進む景色と進行方向から来る風が頬を撫でる。
相変わらずクツクツと笑う小野塚小町が声を出す。
「あー……大丈夫かい?」
「…………」
僕は声を出せても無言だったと思う。
僕の目の前には水面に浮かんだ僕の顔があって、真っ青な顔をしていた。
つまるところ、酔ったのだ。あぁ、コレが酔うという感覚なんだな、勉強になった、なんて感想も抱けない程、気持ちが悪い。
胃の中には何も入っていないらしく、ただただ気分の悪い時間が舟と一緒に流れていった。
僕は横目で小野塚小町を見た。
「生憎、舟に乗る時間を短くする、なんて事私にはできないよ」
「……」
少しだけ恨めしく思いながら、喉に何かが競り上がる感覚を感じてまた水面に向く。もちろん、感覚だけであり、吐かれるモノなど感覚を耐え切ったあとの荒い息だけなのだ。
水面に映る自分の目は少しだけ涙目で、余計に僕の心を荒ぶんだ。
「涙目ってのも、中々に唆るけど。やっぱり笑ってる方がいいねぇ」
そうは言っても笑えないのだ。笑える筈がない。笑みさえも貼り付けることが出来ない。
無表情ですらなくなった自分に波紋が浮かぶ。
波紋の先で顔が歪み、そして笑みを浮かべている幼い少年の顔に代わった。
満面の笑みを浮かべている、幼いと言える少年。
その手は綺麗な女性に握られていて、その逆の手は厳格そうな男性に握られている。
少年は笑みを浮かべていて、女性と同じ模様の着物を着ていた。
シアワセ、と呼べるモノなのだろう。きっと、シアワセだったに違いない。けれど、彼はこの先に地獄にも似た未来を知らないのだ。
雨が降っていた。その日は、雨が降っていた。
未だ帰らぬ親を待ち、少年は窓を見上げていた。降っていた雨が屋根を叩いていた。
コツコツと屋根は鳴り、そして扉が乱暴に叩かれた。
少年は訝しげに思いながらも、扉を開いた。開いてしまった。
家の中の光が暗闇の外へ漏れる。少年の瞳に映ったのは、白い服と真っ赤な模様。彼の鼻を支配したのは、鉄の匂い。僕は、固まった。
鈍色の刃物が真っ赤な液体を垂れ流し、赤く染まり過ぎて黒ずんでいた手が僕を掴んだ。抵抗した所で意味などなかった。それは今だから分かる事だけれど、僕は抵抗し続けた。
雨に打たれて着物が重くなる。草履も履かなかった足は泥に汚れ、着物の裾を汚した。
掴まれた僕は勢いを付けて投げられた。泥に顔を擦り付けるように倒れ込んだ僕は、立ち上がる為に地面に手を付けた。
グチュリ、と嫌な感触が左手に広がる。
指先には違う何かが当たり、握りつぶしたソレがまだ繋がっている何かだとわかった。
暗闇に慣れた瞳が、前を見た。
それは、赤色だった。赤であり、黄色でもあり、けれど、やはり赤というのが正しかった。
白い肌は破かれ、綺麗な着物は割かれ、腹から飛び出た××や××が、××がそこらに散らばり、そしてワザととっていたかの様な白い手と、ゴツゴツと骨ばった手がソコには落ちていた。
両方共左手で、両方共薬指に指輪をしていて、両方共二の腕が無かった。
理解して、僕は涙を流して叫んだ。
情けなく、信じられなくて、僕は叫んだ。否定したい現実を受け入れれなくて、僕は叫び続けた。
フッと、僕の雨が止んだ。僕の後ろには男がいた。
その男は僕の上に傘を開いていた。
僕は男にすがった。自身の叔父である男にすがりついて、泣いた。
ワンワンと泣き叫ぶ僕を男は抱きしめるでもなく、ただ見下した。
少年は小屋に正座をしていた。
立て付けの悪い扉、穴の開いたボロ壁、そして天井も開いた、そんな小屋に正座をしていた。
汚れた着流しを纏い、虚ろな瞳で何処かを向いていた。
そして、立て付けの悪い扉が開かれれば、少年は意識を戻したように、けれど変わらぬ虚ろな瞳で扉を開けたニンゲンを見て、笑んだ。穢らわしい、笑みを貼り付けてていた。
少年は、ニンゲンから、人形へと変わった。
バシャリと水の中に手を入れたと同時に、映っていた過去は消え、歪んだ僕の顔が見える。
渡し人である小野塚小町は何も言わなかった。
河に映った僕は、人形らしい無表情だった。
「…………」
「過去をみて悔い改める。ここはそう言う所だよ。 悪人は悔いる事なく送られ、善人ってヤツは悔いて送られる」
「……」
「お代は六文で十分さ。払えないなら私がサボってた、だなんて決して言うんじゃないよ」
そうしてニッコリと、茶目っ気たっぷりに小野塚小町はそう言った。
贄の複数存在に関して。
贄という存在が複数存在する事はありません。
例えば、Aという世界とBという世界があります。
Aの世界に贄が存在すると、Aの世界にはもう他の贄は存在出来ません。
Bの世界に贄が存在していても、Aの世界には贄は存在できます。
要は、同じ空間に複数存在出来ない、という事です。
今回の疑問点である、複数存在。小町の言葉である「贄ってのは―」というのは過去にいた贄の話です。もしくは多次元的な世界の三途の川での知り合いからの愚痴みたいなモノです。
こうして説明してればわかるのですが、矛盾点が存在します。
別段、ソレを書きたかった訳ではないのですが、こういう設定にしてしまったから出てきた矛盾点が意外に綺麗な矛盾なので、そのまま流用します。
たぶんこれで私自身が理解できてる矛盾だけが残る筈……。
以上です。何かありましたら、メッセージでも感想にでも書いていただければ反応致します。