「そのまま奈落の底へと堕ちて、消えろ。
「な、何を馬鹿な事を言ってるんだい!!」
小野塚小町は叫んだ。
そんな叫びもまるで嗤う様にケヒッケヒッと男の口からは嗤いが漏れた。
「別にしなくてもいいぞ? その時は、そうなるだけだ」
「ッ」
僕と閻魔を交互に見る小野塚小町。
僕は溜め息を吐きだした。ふぅ、と息が吐き出されて、真っ直ぐに男を見た。
相変わらず、下卑た嗤いを浮かべていた。
僕は瞼を落とす。
右手を顔に置いて、左目の場所を確認した。
中指をゆっくりと左目の上に差し込む。そのまま更に力を込める。
隣にいた小野塚小町の声が聞こえた。男がソレを制止させた声が聞こえた。
中指の爪が何かをこそぎながら進み、指先に何かが触れた。
ソレを切らない様に、引っ掛けて手を引く。
視界に手のひらが見えた。
頬に液体が滴る。
小野塚小町の息を呑む声が聞こえた。
僕は右手で掴んだソレから伸びる線を、目元から伸びるソレを左手で抓んだ。
息を吐き出して、歯を食いしばった。
右手を力の限り引けば、手の平の視界は消えた。
「――――――――――ッッッ!!」
熱い、熱い! 熱い!!
必然的に荒くなった息。右目を開き、右手に持ったソレを確認した。コロリと、球体のソレはしっかりと僕の左目から右手へと移動していた。
「ケヒッ!! 叫びが聞こえないというのは残念だ!! あぁ!! 滑稽! 素晴らしい!!」
「―――ッ」
「その顔だ! ケヒッ! 私が望んだ物は!! 兄も! 義姉も! オマエも! 実に清々しい!!」
叔父の嗤い声が響く。
思わず片膝を付いてしまった僕。ソレを支えるように小野塚小町が僕を支えた。
「大丈夫かい!? こんな無茶しやがって!」
「――――…………ふぅ」
驚いた顔をしている小野塚小町を黙らせるように、僕は人差し指を口に置いた。
別段、バレたところでという話なのだけど、少しぐらいは驚いてもらわないと困る。
僕はコロリと右手に収まった瞳を小野塚小町に見せて、視線を閻魔へと向かわせた。
小野塚小町は何かに思い至ったのか、盛大に、叔父にバレないように溜め息を吐いた。そして面倒そうに髪を乱暴に掻いて、僕の髪を撫でて立ち上がった。
同時に僕も立ち上がる。
魂と成った。けれども何かが欠けていた。欠けていたから声を出すことが出来なかった。
仮定。
贄である。贄だから、贄の力を使うことは出来ない。けれど、何かが欠けたてしまった僕は?
僕はもう一度血を飲み込んだ。
既に満たされている。胃の中から何かが広がる事は無い。
「クヒッ! さぁ、次は喉だったか? もう片方の瞳は最期にしてやろう! もちろん、涙するオマエが見たいからだがなぁ!! あぁ! オマエの叫びが聞こえなくて残念だよ!!」
「…………
―――――――そう」
僕は一歩目を踏み出した。
僕の歩幅を考えると、叔父との距離は十歩。叔父の隣にいる閻魔の距離も同じ程度。
右手を口に当て、瞳を口に含む。
僕の後ろで、パチンと指を鳴らす音が聞こえた。
僕の目の前に閻魔の顔が見えた。
目と鼻の先にある閻魔の顔。虚ろな瞳、無表情な顔。その両頬を支えて僕は飛びかかるように閻魔に口付けをした。
幸い、力など入れられてなかった下顎を頬に添えた手で下げる事が出来たので、口の中に含んでいた眼球を閻魔の口内へと押し出した。
吐き出さない様に、奥へ、奥へと押し込めば、腹部に衝撃が広がった。
眼前にあった閻魔の顔が遠ざかり、胃の中にあった血液と胃液を吐き出しながら僕は滑空する。
長い滑空をしてから、背中に柔らかい感触が広がり、肩に置かれた手を確認できた。
「大丈夫かい?」
「……うん」
彼女の咄嗟の判断で壁に叩きつけられる事はなかった僕。心の中で感謝をしながら、僕は息を整えた。
「あぁ、なんだ、喋る事が出来たのか?」
「…………お陰様で」
「いいや、しかし、なんだ。私を驚かせるとは、中々。 けれどオマエがしたのは閻魔との接吻だけだろう?」
「…………」
僕は息を吐きだした。
ゆっくりと、大きく息を吸い込んで、肺に空気を入れた。
「……叔父上には難しい」
「ほぉ、私を前に驕るか。 閻魔ですら操った私を前に」
「……自身の兄夫婦を殺し、僕を消し、何を望む」
叔父の呼吸に合わせる様に、息を吐き出して、息を吸い込む。
息を吸い込み、息を吐きだした。
「……幻想へと追い込んだ僕を追い、何を求める」
「それだ、そう、ソレが原因だ!!」
叔父はまるで狂った様に叫ぶ。
僕を指差し、相変わらず見下した瞳で僕を見つめる。
「全てを悟った様な瞳は兄の様だ!! 諭す口調は義姉に似過ぎている!! けれど、それでも、私は勝ったのだ!! 義姉に!! そして兄に!! 私を長く苦しめ続けた存在に! まだ私を諭すか! まだ私に語るか! 穢れめ!! もうオマエの苦しむ姿も見たくない!! さっさと私の目の前から消えろ!!」
叔父は閻魔に命令を下す。
僕は閻魔に向いた。隣にいた小野塚小町の溜め息が嫌に耳に響いた。
「――アナタの御高説はここまでですか?」
響いたのは無機質な声などではなく、しっかりとした意識を感じれる閻魔の声だった。
その声に叔父は目を見開き、そして改めて口を開く。
「『さぁ深呼吸を――」
「続けても構いませんよ。もう落ちませんが」
溜め息を吐き出して、額に手を置いた閻魔は頭をゆっくりと振った。
「まったく、向こうの閻魔も面倒な者を押し付けてくれたモノです……催し物としては悪くはありませんでしたが」
「な、なぜだ!? 私の催眠は完璧だった筈だ!!」
「そうですね。それこそ閻魔を落とすには出来すぎた力です。 言ってしまえば『催眠に陥れる程度の能力』と名付けれる程」
「なら、」
「けれど、実際私は起きてしまいました。所詮は人間の業でしかありませんから。……しかし、大層な高説でした」
閻魔が笏を持つ手を上げれば、虚空から鎖が伸び、叔父の四肢を縛り上げる。
宙へと浮いた叔父が暴れる度にジャラジャラと鳴る鎖達。
「丁度、アナタの罪の深さがどの程度かも判りました」
「えっと……映姫様?」
「なんですか? 小町。 仕事をサボっていた事に関しては後で説教です」
「うわぁーい……本当に映姫様だぁ……あぁ……」
僕の隣で喜びながら落ち込むという器用な事をしている小野塚小町。その肩に思わず手を置いてしまった。抱きしめられた。
「さて……判決を下しましょう」
「ま、待て!! 私より、あそこにいる穢れの方が……!!」
「アナタの判決を言い渡します。もう一度言いますよ? 黙って従いなさい。
アナタの、判決を、下します。
わかりましたか?」
ニッコリと擬音が付きそうな程笑顔な閻魔。僕を抱きしめている小野塚小町がガタガタと震えている。
「さて、アナタは恨みの為に全てを利用しました。
自身の父を、母を。
利用できない兄は殺し、その妻も殺した。
更にその息子である彼を陥れました。
神との契約を偽り、彼を贄へと落としました。
償うべき罪も、積まなければならない善行も、死んでいるアナタには手遅れです。
判決を下しましょう
黒。地獄へと、落ちなさい」
「……―――クヒッ!! そうか! コレがオマエの催眠か! レン!!」
「――……」
僕は一度開いた口を、閉じた。
きっと、その方があの人にとっていいのだろう。相変わらず狂った様に嗤う叔父。
鎖ごと何処か虚空の扉へ消えていく叔父を見送る。
さようなら、父と母を殺した人。
さようなら、僕を育ててくれた人。
さようなら、僕の叔父。
さようなら。
「…………さて、酷い目覚めでしたよ」
「…………」
一段落という風に閻魔は口を開いた。
贄の血液が力だというなら、きっと器官の一部である眼球はとても力を含んだ物なのだろう。
少しだけ頭を下げる。
「いえ、責めている訳ではありません。むしろ、私の責任で片目を失わせてしまいましたね」
「……気にしない」
「そう言ってもらえるとありがたいですが、責任は責任です」
本当に気にしていないというのに。
どうせこのまま死ぬ身だ。
「アナタの罪を消す事以外は叶えられますよ?」
「生き返らせるとかは出来ないんですか?映姫様」
「彼に関しては不可能です」
「……つまり、贄とイチャイチャできるって寸法ですね!」
「いいえ、彼は厳密に死んではいませんから。蘇らせるも何もありません」
「えー……」
「なんですか、その態度は」
肩を落とした小野塚小町に呆れたように息を吐いた閻魔。
僕が死んでない、というのが非常に気になるのだけど。
「アレ……まぁ先程送ったアナタの叔父に狂わされた死です。私が判決を下すまでは白黒はっきり分けれない、そんな状態だったんですよ」
「ん? えっと、そういう死亡関係の書類って簡単に狂う物でしたっけ?」
「……いいですか、小町。昨今の神様事情というのがありましてね。非常に重要な死亡関係、生存関係の書類でも容易くミスを起こし、挙句の果てに別世界へと放り出すおもしろ可笑しい企画が流行ってるのです」
「……映姫様、今のは聞かなかった事にします」
「そうしてください」
さっぱりわからない会話。けれども小野塚小町と閻魔の両者が溜め息を吐きだした。
ともあれ、という風に閻魔が僕に向き直る。
「何か願いはありませんか?」
「……」
「私の説教を消すってのもありますよね? そうしないかい? 今ならオネーサンご奉仕するよ」
「ハァ……いいですか、小町。アナタという死神はどれ程説教が好きなのでしょう。
いいですか、小町。アナタは―――」
「……一つだけ」
始まりそうだった何かを遮って僕は口を開いた。
言葉を続けると、小野塚小町は困ったように僕を抱きしめて、閻魔は溜め息混じりに笑んだ。
「ソレがアナタというのなら、叶えましょう」
「……お願い」
「えぇ、承りました」
「じゃぁ、帰りも送るよ」
「……うん」
小町に抱き上げられて僕は扉へと向かう。
「あぁ、そうです。 よければコチラにも遊びに来てくださいね。 贄なら歓迎です」
「死んでから来るところに遊びにってのも怖い話だけどねぇ」
「小町!!」
「ひゃい! さぁ逃げようか、アッハッハッハ」
「帰ってきたら説教ですよ!!」
そんな愉快な閻魔の声がする部屋をあとにして僕は舟に乗った。船頭は行きと変わらない。
過去を映し出す河は今は何も写っていない。
「けど、本当に良かったのかい?」
「……?」
「アンタの願いだよ。……その、あんな奴放っておけばいいだろう」
「…………いい」
「……そうかい」
やはり呆れ気味に笑った船頭は黙って舟を漕いだ。
水面に映った僕の顔は、無表情で、けれども何処か少しだけ笑っていたかもしれない。
小物(叔父様
常に兄と比べられる。兄よりも優れたけど人間的にブッ飛んでたので村の長には兄が就任。兄を恨みながらも兄を蹴落とす為に村の為に行動を開始、そんな時に兄が村の外で女を作り結婚。村内以外の婚姻は重罪だったけど、兄は押し通した。
叔父上激怒。
レン君が生まれ、仲睦まじい家族を妬ましく思う。兄と義姉を殺害。レン君に惨殺現場を見せて抵抗をなくす。殺すことは出来ずに男娼へと落とした。
レン君を贄に送り出した後に、災害にあい死亡。
自身の世界の閻魔に会う。催眠→幻想郷の映姫様の元へ移送→催眠。
レン君をコチラに送って恨みをぶつけた。反撃された。オワタ
大体こんな感じ。
かませ犬って言うにも程があるぞ!!
レン君のお・ね・が・い(はぁと
各自想像してください。まぁ、嫌いであっても、彼はたった一人の育ての親なので。レン君だから恨む事もしないんでしょうね。
エロい事はお願いしてないから、そこのとこ注意な。