※この作品はR-18です。

東方色贄録   作:猫毛布

32 / 68
誤字訂正
腕の→腕に
報告感謝です。


31 左目と薬師

 目が覚めた。

 ゆっくりと瞼を上げて、ぼんやりとした視界を動かす。

 知らない天井。知らない匂い。

 

「ッ――」

 

 息を吸い込めば胸が劈くように痛んだ。

 浅い息を繰り返して、どうにか痛みを和らげていく。

 どうやら、本当に生きているらしい。思わず苦笑いが口から漏れた。

 手を持ち上げて視界に写せば、視界に不備が在る事に気付く。左側の視界が無い。まるで暗闇を見ているかのように。瞳を触れればソコに在る事は確認出来たので、光を失っただけなのだろう。

 アッチで抉った事が原因だろう。と適当な当たりを付けて溜め息を吐きだした。

 

 顔を横に動かせば、水差しと薬、そして……犬耳?

 一度だけ瞼を落として、深呼吸をする。胸が痛んだ。また浅く息を繰り返して、ゆっくりと瞼を上げた。

 見えたのは、黄色い小さな花。確か、水仙だった筈だ。時期的にはもう少し先の季節にならなければ咲かない筈だけれど。きっと幽香が咲かせたのだろう。

 更に視線をズラして見えたのは、首輪と犬耳、メイド服……。頭が痛くなった。たぶん、きっと、胸の痛みからの頭痛だろう。きっとそうだ、そうに違いない。

 

 その頭痛の原因であってほしい胸の傷。しっかりと幽香に貫かれたというのに、埋まってしまったソレ。

 ここまで運んでくれたのが幽香ならば、謝らなくてはいけない。

 きっと迷惑を掛けてしまったのだから。

 会ったら……会えたら謝ろう。

 

 ゆっくりと落ちてきた瞼に従い、僕はもう一度暗闇へと身を投じる。

 

 

 

 

~~

 

 あの日からいつもの様に通う竹林。正確には永遠亭、更に言ってしまえばレンの所。

 永遠亭に泊まる事や、近場で野宿という選択肢も私にはあるのだけれど。

 

『幻覚の花の効力も、花自体の処理も終わってないんでしょ? さっさと処理してこい』

 

 と薬師に言われてやむを得ず、仕方なく花の処理と自分の治癒の為に通う事になった。

 別に怖いとかそういうのじゃない。あの花はレンにとっては毒でしかないので処理を優先しているだけだ。別に笑顔で人を殺せそうな薬師の言葉に従っている訳ではない。

 

 永遠亭、薬師の診療所からは少し離れた部屋に彼は眠っている。

 当然、永遠亭の住人に挨拶に行く意味も無いので、直接レンの所へ向かう。時折、ウサギとすれ違えば挨拶も交わす。行く意味が無いのであって、返す意味はある。

 しっかりと閉められた襖。私はその前で、深呼吸をする。

 目が覚めていたら、私は糾弾されるだろう。受け入れよう。

 それでも、私は彼が欲しいのだ。きっと、彼は拒否してしまうかもしれない。けれど、ただ、彼が欲しい。

 

「入るわよ」

 

 そう、一言だけ口から出して、何拍か置いてみる。悲しいけれど、当然、中からの返事は無い。

 どこか心の中で安心しながら、私は襖を開く。

 

 開いたソコには、部屋の中心で眠っているレンが在る。

 どうやら私以外にも見舞い客はいるらしく、私がいない時に色々と置いて帰っている。ソレが彼の隣に積まれているのだから、溜め息モノだ。

 犬耳や、猫耳、更にはセーラー服やメイド服。一体何処に着けるつもりなのか、尻尾まで充実している見舞い品。見舞い品じゃないだろ、これ。

 持って来た花を花瓶に生ける。単なる自己満足の花。彼が見ても気が付かない程の自己満足。

 

 あの日から、五日。忌々しくも、貫いた感触はまだ腕に残っている。割いた皮膚の感触、貫いた肉の感触。

 そして、口から血を垂らしながらも微笑んでくれた彼。

 私がまだ初心だった頃なら、きっと自身の両頬に手を当てて身を揺らしただろう。今やるとゾッとしかしないが。

 

 そんな微笑んだ彼は今、いつもよりも無表情で眠っている。死んでいるのかもしれない。

 けれど手に触れて見ればほんのりと温かく、トクントクンと血流を感じれる。

 起きてほしい。

 起きて、私に声を掛けて欲しい。

 

 そんな願いを込めて、左頬を軽く撫でる。

 愛おしくて、壊れやすい、人間を、私は撫でる。

 

「…………―――」

「ッ!?」

 

 彼の瞼がピクリと動いた。左頬に触れていた手が制止する。

 もしかしたら、勘違いかもしれない。

 もしかしたら、起きたのかもしれない。

 息を飲み込んで、彼の動きを見る。薄らと左目が開いた。私の方は見ずに、何処か虚空を見つめている。

 そして、彼が口を開く。

 

「……――ダェ……?」

 

 乾いた声で、まるで確かめる様に呟いた言葉は私を戦慄させるには十分な言葉だった。

 思わず歯を食いしばる。

 いや、待て。まだもしかしたら寝ぼけて誰かを判断出来なかったのかもしれない。

 そんな淡い期待を抱いてみる。

 起きた事はとても嬉しい。嬉しくて涙が溢れてしまう程、嬉しい。今はソレでいいじゃないか。

 

「少し待ってなさい」

 

 私は薬師を呼ぶために立ち上がる。

 彼の頬に触れていた手が彼に掴まれた。彼に向けば、顔が少し動いていたようで、両目とも私をしっかりと見て、とても悲しそうな顔をしていた。

 何度か口をパクパクと動かして、ようやく彼は声を絞り出した。

 

「……―――ぁさい」

 

 そこで力はフッと弱くなり、彼はまた瞼を落とした。

 一体何を言おうとしていたのか、わからなかったけれど、けれど彼は起きたのだ。

 

 

 襖をピシリと閉じて、足を薬師のいる場所へ向ける。この時間なら診察所だろう。

 木の張られた廊下を歩き、すれ違うウサギ達を無視して、いつの間にかウサギ達の視線も置き去りにするように駆けて、音を鳴らして扉を開いた。

 

「薬師、レンの目が覚めたわ」

「……はぁ。嬉しいのはわかったから扉を破壊しないでちょうだい」

「そんな事、どうだっていいわ。だから」

「あーはいはい……ウドンゲ」

「はーい」

 

 棚の奥から紫色の髪のウサギが顔を覗かせる。

 私を見てゲッという顔をしやがった。

 

「そんなに殴られたいならはっきり言えばいいわ。殴ってください、お願いします。って膝を付いて願いなさいな」

「どうしてそう言う話になるんですか!? 私そんな顔してました!?」

「ええ」

「……うわぁ……涙目の人に言われた」

「よし、殴るわ」

「はいはい、漫才はやめなさい。私は彼を検診(み)に行くからコッチは閉めといて」

「わかりました。締め次第そちらへ」

「来なくてもいいわ」

「……わかりました」

 

 当然である。こんな万年発情兎がレンの所へ行くとレンに悪影響しか及ぼさないだろう。

 

「あと、アナタもダメよ」

「……何故かしら? 一応、保護者なのだけど?」

「知っているかしら、保護者って存在は保護下の相手の胸を貫いて病院には持ってこないのよ。あと顔を洗ってきなさい」

「…………」

 

 ソレを言われるとグゥの音も出ない。全体的な決定権は薬師が持っているのだから、きっと従う方が安全なのだろう。

 まだ彼は目覚めたばかりなのだ、安静であるべきなのだ。

 

「あと、ウドンゲ」

「はい?」

「てゐと兎達の抑えもよろしくね」

「ちょ!? そんな大変な仕事を咄嗟に任せないでくださいよ」

「ウドンゲ」

「無理なんて言いませんよ!! やりたくは無いですけどね!」

 

 ニッコリと嗤う薬師と今にも泣き出しそうな発情兎。思わずにやりと笑った私。ウサギ達を唆して発情兎弄りをしようかしら。

 

 

 

 

 

 

 

~~

 

 胸が痛い。

 喉が痛い。

 落とした瞼と離れてしまった手。あの声は確かに幽香であったし、きちんと顔を見て確認もした。

 声は出なかったけれど、謝りもした。ちゃんと声が出るようになれば、もう一度謝ろう。

 

 襖の開いた音がした。おそらく誰かが入っていたのだろう。

 重い瞼を上げて、誰かを確認する。

 暗い左目の視界では一切見えない。顔を動かして右の視界に姿を写した。

 

 藍色と赤色の二色の服。その後ろに銀色が揺れていた。

 

「目を覚ましたのね」

 

 誰かはそう告げる。襖を閉じられて、畳を踏みながらコチラに寄る足音。

 足音が止まり、布が擦れる音が聞こえる。

 

「……ダ、ェ?」

「五日間、何も摂っていないのだから、喋れないわよね」

 

 クスクスと嗤い声が鼓膜を揺らし、水音がチャプリと聞こえた。

 おそらく水差しを取った音だろう。

 視界を動かすのが億劫だ。

 水の入った透明の入れ物。その水を少しだけ口に含んで、コチラに顔を寄せてくる。

 

「ん」

「……ンック」

 

 顔はしっかりと固定されて唇が合わさる。誰かから流し込まれる冷たい水と熱い舌。

 自身の舌を押さえつけられて、水を嚥下してしまった。口端から飲み込めなかった水が垂れる。

 しっとりと潤していく水が喉を通り過ぎて、落ちていく。足りないと身体は判断したのか、口が離された時に舌が伸びてしまう。

 もっと。もっとほしい。

 そんな僕に苦笑して、彼女はまた自身の口に水を含んで僕の頬を抑えて口を付ける。

 

 舌が上顎を撫で、歯茎の内側を舐めていく。冷たい水を舌に感じながらも熱い舌が絡められる。

 水が流し終わると、口は離れていく。彼女の唇と僕に銀色の橋が掛かり、それがプツンと切れた。

 しっかり十秒程、彼女の目を見続けて、「さて、」と彼女は言い始める。

 

「さて、初めまして。私は八意(ヤゴコロ)永琳(エイリン)。花の妖怪にアナタを任されて、治療している者よ」

「……レン」

「えぇ、よろしく」

 

 花の妖怪、という事はやはり幽香なのだろう。

 八意永琳の手によって、僕の布団は剥がされ、胸に触れられる。貫かれた筈のソコを触れられ、鋭い痛みが走る。

 

「……やっぱり」

「……何が?」

「コチラの話よ。怪我の具合はだいぶマシになっているわ」

 

 でも少し入院ね。 と付け足しながら片目をパチリと閉じた八意永琳。

 

「他に何処か痛みや異常を感じる所はない?」

「……左目」

「……? もしかして見えてないのかしら」

 

 僕はコクリと頷く。原因らしい原因はおそらく察しているけれど、一応異常だ。

 ふむ、と顎に手を置いて考え始める八意永琳。治療していると言う事は、彼女が薬を処方したのだろうか。全くソレが原因ではないのだけれど……いいか。

 

「疑問点は後にしましょ。 上半身は上げれるかしら?」

 

 そう言われ、手を杖替わりにして半身を持ち上げる。

 胸に痛みが走ったけれど、我慢出来る程度なので無理に起き上がった。

 

「ふむ……薬の効果は出ているけれど、片目を失明したか」

「……?」

「いいえ、コチラの話。あとは変に無理とかちちゃダメよ?」

「…………」

 

 メッ、と言われたけれど、僕は応える事は無かった。応えなかったからか、溜め息を吐き出されてしっかりと支えられて、横に寝かされた。

 

「今はゆっくりと眠りなさい。何かあれば声を出して。近くにいる誰かが来るはずだから」

「……うん」

「それでは、御大事に」

 

 八意永琳はどうしてか笑みを浮かべて立ち上がって部屋から出て行った。

 僕は息を吐き出して、瞼を閉じる。先程まで眠っていた筈なのに、どうしてか直ぐに眠気がやってきて、僕はその眠気に身を任せる。




永遠亭は、エロい方が多くて筆が困ります。
いっそエロなしで切り抜ける事もやぶさかではない……ッ!!



無理ですよねー
なるべく本編に関係あるようにエロエロしときます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。