色々あって贄である
で適当に想像して、今につなげてしまえば、とっても素敵なヤンデレスキマ様が完成です。
ステキッ! 抱いてッ!
ソレは平凡な一室だった。
襖があり、畳があり、行灯がいくつか並べられていた。
外は明るいというのに、行灯の薄らとした灯りだけが部屋を照らしている以外は、至って普通の一室だった。
その普通がとても異常だった。
「入りなさい」
八雲紫はそう言った。
僕の背中を押しながら、冷たい声で言ってのけた。
僕は縁側の床板から足を浮かして畳を踏んだ。
瞬間に、部屋が妖しく光る。ボウッ、とした光が足元から溢れ、細い光がズルズルと畳を這って部屋中に広がっていく。
「入りなさい」
八雲紫がもう一度言った。
先程よりも鋭い言葉に僕は従った。従う以外の選択肢など持ってはないのだ。
僕が歩を進める度に妖しい光は足元から広がり、そして部屋の真ん中に到着した時には部屋の中、それこそ壁も、襖も、天井でさえ、光によって薄らと光っていた。
目でその光を追えば、ソレが文字であることがわかる。複雑怪奇な、文字通り這って出来た文字の意味は分かりはしない。けれど、文字である事がわかってしまう。
「座りなさい」
八雲紫が更に言った。
淡々と口から放たれた言葉に従い部屋の真ん中、八雲紫に向う様に座る。
僕を見る瞳は鋭く、やはり悪戯気な表情は何処かへ消え去っているらしい。
「―――、少し、例え話をしましょう」
「……」
「この結界の綻びが僅かでもあれ、綻んでいる。その事に
先に説明した結界二つ。一方は私。そしてもう一方は博麗の巫女が管理統括しているモノ。
はて? 一方の管理者だけが気付いているのはオカシイのでは?」
口が裂けそうな程ニンマリと嗤った八雲紫。
クヒッっと耐えた何かが溢れ出た。
クヒッ、ケヒヒ、ヒヒャッ。
ついには耐える事もせずに、引き攣った嗤いを溢れ出している。
あぁ、これは結界の綻びを直す術式ではないのか。
あぁ、結界は綻んではいなかったのか。
「……よかった」
僕の呟きが空気に溶けた。溶けたと同時に八雲紫の嗤いが止まり、うわ言の様に、よかった?、と呟く。
「よかった? よかった? よかった、よかったぁぁ? よかったですってぇぇ?」
畳端を気にする事もなく、音を立てずに僕へと肉薄した八雲紫。
僕の鼻先に顔が触れそうになるほど顔を寄せて、瞳を零さんばかりに大きく開けて僕を写し込んだ。
「
「…………」
「
「…………」
「もう一度、私に
僕の肩を思いっきり掴んだ八雲紫。爪が肩に食い込んで、ジクリと痛む。
悲愴な顔で、まるで泣きそうな顔で、八雲紫は僕を映し込んだ。
僕はこの顔を知っている。
僕はこの表情を知っている。
僕は、僕はこの気持ちを知っている。
僕は八雲紫の顔を包むように頬へ手を乗せた。
指でゆっくりと撫でて、僕は口を開く。
「――わかるよ」
はっ、として八雲紫の表情が悲愴から驚きへ、そして怒りへと変わっていく。
唇を噛み締めんばかりに、唾を弾き出しながら声を荒げる。
「お前に、
「……わかる」
「お前の思いなど、私の想いよりも軽い! 失う悲しみも、失った虚無も、得た嫌悪も! 知らないガキが何を言うっ!」
「……失った虚無は、よく知ってる」
「――っ」
僕を見た八雲紫が詰まった様に息を止めた。
知っているから分かる。わかったからソレが分かる。
だから僕は彼女を視る。
僕に傘を差したように。僕を拾った時の様に。僕が人形になるように。
僕は紫の顔を少し撫でて、髪を梳き、頭を撫でる。
きっと僕は不器用に微笑んでいる。人形の時の様に上手く笑う事はない。
「……」
「少し、ほんの少しだけ、嘘を吐きましたわ」
「……そう」
「えぇ、本当は私、贄を食べるのは初めてですし、失う虚無感も、得た嫌悪感も失った絶望も私は知りませんわ」
「……」
「加えて続ければ結界が綻んでいるという嘘も嘘ですし、霊夢が気付いてないのは私が気づかせてないだけですわ。えぇ、コレが本当の話」
「……うん」
「更に言ってしまえば、私、嘘を吐き出しましたわ」
バッと扇で口元を隠してニンマリと目が笑う。
僕と始って会った時の様に、悪戯気に笑った。扇には大きく『
実に、あやふやである。
「笑顔はとても大切よ。続ける事はとても難しいけれど、ソレはとても素晴らしい事……らしいわ」
変わらずニマニマと笑っている紫は「受け売りよ、受け売り」と続けて眉尻を更に垂れ下げた。
笑顔を続ける事はそれ程難しくはない。笑顔であり続ける事で素晴らしい事なんかにはなれない。
表情だけでは、救われない。救うことも救われる事もなかった。
そう思考すれば、紫は困った様に笑い、僕の頬を抓った。
「子供が難しい事考えるんじゃないわ」
「……む」
「笑顔で在り続けなさい。以前のアナタを知るわけではないけれど、私が助けてあげるわ。……今度こそ、ね」
僕を見ている筈の紫の瞳は、僕を映しながらも別の所を見ていた。ソレがどこかは分からない。
けれど、彼女は微笑み、抓られている僕も強制的に笑顔へと歪められている。
「……ああ、花の妖怪さんも助けてくれるわ」
と、思い出したように、やはり悪戯気に付け加えるまで、紫は誰かを見続けていた。
結界の解れは以外にも早く直ったらしい。あの後、紫が僕を放して溜め息を吐いてから終わりを告げたのだ。
それこそ、まるで何も無かったかの様に立ち振舞う紫。その表情からは何も読み取れる事はないし、読み取る技術を僕は持ち合わせていない。
「ふふふふふ」
「…………」
縁側で僕は空を見上げ、ソレを背中から抱く形で紫が僕を乗せていた。
柔らかい感触が背中に広がり、先程から紫の楽しげな声と吐息が僕の耳をくすぐっている。
「紫様、戯れも大概にしてくださいね」
「あら、浴場で彼を失神させたのは誰だったかしらぁ?」
「……」
「主の言いつけは彼を手厚く歓迎しろ、という事だったのだけれど。まさか薄い本が厚くなる様な展開はワタクシ望んでなくてよ?」
「……私がお風呂に入ると同時に彼を落とした紫様が悪いんでしょう。というか、そうなる事ぐらい予想出来てましたよね」
「当然じゃない。けれど、そうなる予想を覆してくれる事も予想してたのよ? 面白かったけれど、全く面白味は無かったわね」
藍が溜め息を吐いて隣に座った。
そんな様子をクスクスと笑いながら紫は見ている。
当然その事を知っている筈の藍もどこか諦めた様に紫を見ている。
「で、何が望みですか? お茶菓子もお茶も準備はしましたよ」
「あら、私がそんなにはしたなく見えて? 失礼しちゃうわ」
「はしたなくは見えませんよ。下品で下劣で下等で下卑てても、そんな風には見せないでしょう?」
「ええ、勿論そうだけど。ねぇ藍、もしかしてそんな事思ってたのかしら?」
「思ってませんよ。例えただけです。 わかるでしょう? アナタの式ですよ」
「そうね、私の式だもの。 じゃぁ私の望む事もわかるでしょう?」
「尻尾だけはモフモフさせませんよ」
「えー」
「ダメです」
「ほら、レンも言ってみなさいな。えー」
「……えー」
「レンに言わせたってダメです。というか、レンはこの人にいう事あんまり聞いちゃいけません。こんな人格になっちゃいますよ」
「それって私に喧嘩売ってるのかしら」
「とんでもない。私はアナタの式ですよ? ゴシュジンサマ」
ニッコリと笑う藍に「ぐぬぬ」と少し笑いながらも漏らした紫。
藍がソレを見てフフン、と鼻を鳴らした瞬間に浮遊感が僕を襲う。そして、突然ボフリ、と音を立てて僕は何処かへと落ちた。
黄色いモフモフ。僕はこれを知っていた。知っていたからこそ、どうしようか迷った。
「大丈夫か? レン」
「……うん」
尻尾の切れ目から鋭い瞳を覗かせた藍に無事を伝えた。伝えて、目の前にあった九本のうちの一本に抱きついた。
「ひゃわっ!?」
もふもふとした感触。それこそ天日干しした布団の様で。手触りのいい感触を確かめる。
驚いた様に声を出した藍の事など、この際無視をしよう。
「よくやったわ!レン。 さぁ私も」
「紫様はダメです!!」
「ぶぅ……」
「膨れたってダメなモノは駄目なんです!! 年齢を考えてください!」
「…………そう、年齢を考えればいいのね」
「あ、」
「とりゃぁ!!」
「どうして年齢考えてコッチに突っ込んでくるんですか!?」
目の前の尻尾をもふもふしていれば紫が尻尾に飛びついてきた。
やはりどこか悪戯気に笑っている紫。慌てる藍。
その様子で、僕は自然と頬が緩んでしまった。いや、これはきっと尻尾が心地いいのが原因だ。確か早苗もモフモフは至高とか言っていた様な気がする。
アトガキ
失った虚無感なんて、人それぞれです。
けれども二人は似てます。いや、似ても似つかないですが、とても親しい存在ではあります。
まぁ、紫様がヤンデレで可愛いという事だけが書きたかったので、文句は受け付けます。
ヤンデレ至上主義の私を正す事などできないでしょうけどね!!