※この作品はR-18です。

東方色贄録   作:猫毛布

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ここから三人称で書いていこうと思います。
遊び心半分と心情描写を少し省く為の処方です。

ついでに切り替えの意味も含めてサブタイトルもいじってたりします。
内容はいつも通りです。


さぁ、始めますよ。


49 かすみ草

 その空間には少年が一人だけ居た。

 白い着流しと黒い髪、片方だけの黒い瞳をその空間に這わせていた。

 ちょこんと、何も無い空間に三角座りをしてその膝に顔を押し付ける。

 そして、たった一言も漏らさずに、少年はたった一人で在るだけだった。

 

 

 

 

 

 少年、レンは目を覚ました。

 ぼんやりと開いた双眸をクシクシと手で拭って障子越しながら太陽の光を目の中に取り込んだ。

 黒い瞳と翡翠にも似た翠色の瞳を何度か瞬きし、ようやく出てきた欠伸を咬み殺す事もなく大きく口を開けて行使した。

 そのまま近くにあった本を手に取り最初の頁を開く。ソレは日記であった。持ち主は言わずもがな、彼である。

 その日記をしっかりと読んだレンは溜め息を吐いて、その本を閉じた。

 

「レンくーん、ご飯作りますよー」

 

 襖を確かめる様にあけたのはウサ耳を装着した少女、鈴仙・優曇華院・イナバ。料理をしてから朝食の準備に自ずと参加するようになったレン。そのレンを起こしに、というよりもあわよくば彼の文字通り朝一番(・・・)を得ようとやってくる鈴仙。もちろん、直属の上司であり、彼の主治医でもある月の煩悩……失礼、英知を極めし月の頭脳こと八意永琳には許可を得ている。更に言うなら、本人には一切了承されていない所ももはや言わずもがなだろう。

 そんな事など一切知らないレンはいつもの様に起床して、未然に彼女の悪行を防いでいる。朝早くに起こしに来てくれる鈴仙、イイ人。なんて勘違いまで起こしている始末である。

 

「……うん」

 

 短い返事をして立ち上がるレンは自身の着流しを改めて直して、鈴仙の手を掴んだ。掴まれた事に少し驚いた鈴仙だが、しっかりと彼にニッコリと笑って廊下を歩き始めた。

 尤も内心は、『クソ、なんで起きてんだよ、そこは少年としてもう少し寝てる筈だろ。 とか思ってた数秒前の私は直ぐ私に謝れ。もうこの可愛い生物を搾ろうとか考えてた過去の私は死んで詫びろ。今の私に土下座でもしてろ』なんて思っているのだけど、言葉に出さない限り聞こえないソレをレンが知る事は勿論ない。

 どうしてか外方向いた鈴仙に首を傾げて顔を覗くなんて追い打ちまで掛けているのだから、鈴仙の良心がズタボロにされていく。更にズタボロにされた良心が彼の顔を直視出来る訳もなく、外方向けばソレをまたレンが追いかける。気まずいループ行為である。

 そんな兎とのイタチごっこをしながらも歩き事はやめていなかったのですんなりと台所へと到着はした。

 台所へと入れば自然と作業に取り掛かる少年。そしてそのレンから解放された鈴仙は彼の知らぬ所で安堵の息を吐き出した。

 我慢するコッチの身にもなってほしいなぁ。なんて彼が知るわけない気持ちはしっかりと鈴仙の溜め息となって空気へと消えていった。

 

 

 

 人の到れぬ所にある八雲宅からスキマ経由で帰宅したレン。

 その目の前には一夜明けて喧嘩の熱も冷めたのか、それとも文字通り神の鉄拳でもくらったのか、それは定かではないのだけど、とにかく喧嘩をしていた早苗と幽香が隣り合って話合いをしていた。

 結論的に言えば、両者とも彼の言い分に従う事で纏まったらしい。纏まった後はお互いのレンに対する可愛さとか愛らしさとか、ともかく凡そ人に感じるソレではない何かを嬉々として語り合い、二人の仲はそれなりに良くなっていた。

 それなり、というには少しばかり語弊がある程二人はとても仲良くなっていた。けれど決定的な溝はあるようで、それはもう巷の茸筍戦争、もしくは犬猫論争の如く、決裂は決定的なモノであった。

 そんな二人に迫られつつも、レンは近くにいた永琳に無言の助けを求めた。

「とにかく、彼は疲れているでしょうし。彼の判断を聞くのは明日でも構わないでしょう。っていうかお前らいい加減に帰れよ」

 と鶴の一声というべきか、鬼の一声で二人はありもしない尻尾を巻いて自身の住処へと帰ったのである。

 スキマから永遠亭へ戻り、ようやく彼が口を開いて最初に出たのは溜め息だったのは言う必要もないだろう。

 

「あら、レン。おはよう」

「……おはよう」

「師匠、おはようございます」

「おはよう、エロ兎」

「もう反応しませんよ」

「本当の事だからよね」

 

 料理もある程度完成に近付き、髪を頭の上で纏めた永琳が登場。軽口というには少しばかりキツイ物言いで鈴仙を苛めて彼女の朝は始まるらしい。

 そんな鈴仙弄りを楽しんでいる永琳の脇を通り、レンは台所を後にする。彼の台所での仕事は終わり別の仕事に移る。

 きっと月の秘術だと言われそうな、どうしてだか空間的に広すぎる永遠亭の廊下をイナバ達に聞きながら家主の所へ向う。

 煌びやかな襖を静かに開けば、だだっ広い空間に布団が敷かれ、ソレに眠っている文字通りの美少女、蓬莱山輝夜。

 

「……輝夜、朝」

「うーん、あと五年」

 

 なんて定番から大体131万倍した時間を言う輝夜。百年の恋も眠り姫相手に五年待てば十分覚めるだろう。

 そんな一日千秋を地で言ってしまう輝夜に溜め息を吐いて、その唇を自身の唇で塞いだレン。以前はこの方法で起きたのだから、今回も起きるだろう、なんて希望的観測の元の行動だ。

 自然に寝起きでキスされて思考を白黒させながらも、どうにか落ち着いて、どうにか出来ないか思考を巡らせる。

 

「……輝夜、朝ごはん出来る」

 

 唇を放して、再度呼びかけたレン。輝夜の頭の中ではこれでエプロンしてたら最高なんだろうな、なんて意外に下世話な事を考えているのだけど、思考は個人の自由なので何も言うまい。

 咄嗟に何を思いついたのか、輝夜はレンの腕を掴んで布団の中へ引き入れようとした。残念な事に腕は回避されて、剰え(あまつさえ)その手を弾かれた。

 当然、そんな事をされるとは思っていなかった輝夜は口を「え?」と開けて驚きを隠せない。

 幾度の朝を幽香と過ごし、そしてその拘束の手を弾き続けたレンが輝夜の行動を阻めないかと言われれば応えは否になる。そして、レンにとって所謂ハニートラップ的な、甘い誘いは効果を為さない。

 結果的に彼から出される言葉は

 

「……ごはん」

 

 になるのは当然である。無表情ながらも少しばかりムッとした彼の表情から出された言葉。

 自身の能力さえ使えば彼を捉える事は容易いのだけれど朝からそんな体力を使う事は些か億劫であるし、昨晩に現世で発売されていたらしい新しいゲームをスキマから譲り受けた輝夜は碌に眠っていなかったのだから、その思考に拍車を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして永遠亭最後の朝は迎えられ、朝食風景は至って普通……とも言えなかった。

 

「レンさんのご飯が食べれると聞いて、ワタクシ、射命丸文が疾風の如くきましたよ!!」

 

 きっちりとポーズまで決めて庭先へと降りてきた烏天狗。どこかそのポーズに目を輝かせているレン以外は眉間に思いっきり皺を寄せていた。もちろん、そこらにいるイナバまでだ。

 そんな事なんて知ったものかとズカズカと居間に入り込み、レンの横を確保した烏天狗。その表情は非常に勝ち誇っている。

 ともあれ、家主の許可なしに入ってきたのは少しいただけない。溜め息を一度吐いて家主である輝夜が口を開く。

 

「○ョ○ョ立ちするなら、もっと背筋を反らせるべきよ」

「違うでしょ」

 

 流れる様なツッコミが永琳の口から呆れ混ざりに飛び出た。それは、もう予想していた様に。

 そんなツッコミも流して、輝夜は改めて、コホンと態とらしく咳き込んで口を開く。

 

「家主の許可無く入るとはどういう了見かしら?」

 

 それは先程のボケなんて無かったとも言うべき威圧感だった。サワサワと風が竹の葉を鳴らし、ソレを余計に助長させる。

 事と次第によっては、朝食は焼き鳥、或いは手羽先、もしくは少し早いクリスマスにでもなる様に緊迫した空気。

 その空気にキッと真剣な目付きで、正座をして対応するは件の烏天狗。懐から茶封筒を取り出し、ソレを輝夜へと差し出した。

 その茶封筒を訝しげに見ながらも中を開けて確認をした輝夜は目を見開いた。

 中に入っていたのは札束でもなければ彼女のスキャンダラスな事実でもない。むしろ夕方から朝までガッツリゲームを楽しむ美少女(笑)なんて存在自体が醜聞みたいなモノである。

 

「許可するわ」

「まぁ、当然ですね」

 

 まるで決まっていたかの様な口ぶりの烏天狗。輝夜はしっかりとその茶封筒を懐にしまった。後で楽しもう。そんな事を考えながら。

 そんなあっさりと買収されてしまった家主を眉間を寄せて抗議する従者達。ともあれ食事が始まれば烏天狗自体はほとんど害はない。

 

「あーん」

 

 こうしてレンに食べ物をねだる以外は。

 レン自身も何も言う事が無いので誰も何も言えないというのが事実なのだけれど、餌付けされる烏天狗と餌付けする少年というのは絵的にちょっと拙いかもしれない。

 もちろん、文にしてみればソレは当然の事であるのだから外聞もへったくれもないのだけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 レンの住居を変える作業というのは随分と早く終わる。それは同時に彼の荷物の少なさに所以するのだけれど、今回ばかりは少し時間が掛かっていた。

 

「……」

 

 原因は彼の目の前にある沢山の見舞い品……とは名ばかりの趣味の押し付け品である。いや、受け取った本人は見舞い品だと思っているのだから、見舞い品でいいのだろう。

 ともあれ、明らかに重傷の人間に送るにはかなりオカシナ荷物達。メイド服に猫耳、ねこしっぽ、そして本の塔に謎の長い棒や桃色の卵型のナニカ。コードが伸びてたりするのだけれど、彼はその得体のしれない何かに触れる事は無かった。

 ともかくそんな得体のしれない何かを端に追いやりつつも彼は巫女服(赤袴)をどうしようか悩んでいたりする。

 元々、最低限の持ち物しか所持を許されていなかったレンはこうして自身の所有物が増える事に違和感しか覚えなかった。

 身一つで移動していたレンは苦笑混じりに受け入れた。同時に彼は選択しなくてはいけない。次の居住をどうするか。

 

「あぁ、よかった。まだ居たのね」

「……輝夜?」

 

 長い黒髪を揺らして障子から現れたのは本日碌に眠ってもいない月の姫。その顔はどこかニヤリと笑っていて、そして彼女は自身しか知らないキーワードを口にする。

 

「――鏡花水月」

 

 ビシリ、とレンの挙動が止まり、どこか虚ろに輝夜を見ている。その様子を輝夜は確認して、催眠の効きは上々、と心で満足をした。

 さて、と輝夜が口を開いて、自身の欲求を口にする。

 

「アナタはここから離れる事は出来ない」

 

 ソレは彼女の欲求であった。

 催眠出来るなら、出来る所までイキたい。それこそ彼がおそらく拒絶するような激しい行為もである。ソレに催眠によって上げられた自身の好感度を無駄にする訳にもいかないのだ。

 そんな事を考えつつも輝夜は更に言葉を続ける。

 

「―だって、アナタは私の事が好きなのだから」

 

 催眠、つまり認識の誤解である。

 無理な願いには適当な理由を付けてやる。エッチな要求も「治療だから仕方ないよねッ」で押し通せる程強い催眠である。

 故に、正しく掛かればレンはここから出る事は出来ないし、輝夜にべったりになるだろう。

 

「それじゃあ、三秒数えて私が手を叩けばアナタは意識を戻すわ……さん、にぃ……いち」

 

 パンッ、と輝夜が手を叩けば何度か瞬きをしてキョロキョロと周りを見渡すレン。

 催眠の内容はおそらく覚えてないだろうけれど、ちゃんと掛かるのは既に実験済みである輝夜はほくそ笑んでる。

 

「それで、レンはこの後どこに住むのかしら?」

「……早苗の所」

「そうよね、やっぱり永遠亭が…………ん?」

 

 よっこいしょ、とどうしてか言葉に出して服を畳んで手に持つレン。本の塔は紐で縛られて彼の背中に背負われているがそんな事はどうでもいい。

 輝夜は真っ白になった頭をどうにか現実に戻して思考を開始する。

 色々と小難しい事を並べ立てる頭は流石は月の姫、伊達に月の頭脳と言われた永琳に教えられていただけはある。

 そんな小難しい事を考えている頭脳が弾き出した答え。ソレは彼に催眠が効いていないという事だ。

 いやいや、そんな事あるわけないじゃーん。とすぐさま否定した。もしもソレが事実ならば嬉し恥ずかし(性的な)お医者さんごっこが全て彼の記憶に残っているという事になる。

 実際の所そんな記憶彼の中には一切残ってないし、彼自身はまだ催眠に掛かっている。紐を解いてしまえば彼に『好き』という感情が希薄過ぎてそれ以上の感情を持ち合わせている早苗を含めた守矢一行へ行くのは、ある意味当然の結果とも言える。

 はてさて、そんな事は一切分かる筈のない月の道化こと蓬莱山輝夜。今の彼女を旧友でもあり宿敵とも言える不死鳥が見れば笑い死にしてリザレクションしている事だろう。つまり、それぐらい狼狽していた。

 具体的に言ってしまえば、顔を真っ赤にして今にも逃げ出さんばかりに自身の痴態を思い出したりしている。なお、真実がわからないので逃げようにも逃げ出せないもよう。

 

「ちょ、ちょっと待って、いつから、いったいいつから?」

「……?」

 

 レンにしてみれば何の事かさっぱり分からず、輝夜にしてみれば「そんな事もわからないの?」なんて挑発的に見えてしまった。屈辱とかそんな事感じる前に先程自分が言った言葉で顔から火が吹き出しそうな輝夜。

 

「レンさーん、お迎えにきましたよー」

「レン、さぁこっちへいらっしゃいな」

 

 と二人の登場によってどうにか自意識を取り戻す事が出来た輝夜。もちろん、全員が消えてから引き篭ってこの事実(ウソ)を忘れるべくゲームに集中する心積りである。

 登場した二人はどうしてかワナワナと震えている輝夜を疑問に覚えながらも、少年がきっと自分の所へ来てくれると思っている。

 当然、レンは先も言った通り早苗の下へと向う。

 地面を叩きながらどうしてよ、どうしてよ、なんて呟いている幽香。勿論、レンに任せる、と言った手前、彼の判断に従うしかない。

 代わって早苗はそんな幽香に同情の目を向けている。しっかりとレンを抱きしめている辺り、彼を譲る気はないようだ。

 

「ちなみにどうしてコッチに?」

「……本が沢山」

「…………」

 

 先も言った様にレンは自身の感情を偽っているのだけど、レン自身はどうしてかその事を言う事はなかった。

 姫様は「本に負けた……」と呟き手を地面に付き、花の妖怪は「本……か」と何処か悟った様な目付きで空を見上げ、風祝(かぜはふり)は「本で選ばれたのか……」と微妙な笑顔を浮かべた。

 かくして、微妙な空気が辺りを支配したのは言うまでもない。




射命丸文
 女性。黒い羽。黒い短髪。写真取られる。妖怪。

 日記の端書より抜粋。


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