独白増々でお送りいたします。
なお、気がつかれても黙ってニヤニヤしていただける事を願います。
遊び心は大事なのです。
足元にあるのは魔法陣。
ソレがやんわりと弱く発光して、僕を包んでいく。
曇天まで伸びた光の柱。その中心には僕が立っているのだ。
果たして僕は僕であるのだろうか。いいや、僕は僕にしか成れはしない。僕は僕で在り続けなくてはいけない。
でなければ、八雲紫に頼んだことすらも意味がなくなってしまう。
僕は苦笑する。
僕は笑顔を作る。
僕は哂う。
そうでなければいけない。
僕は僕だ。誰でもなく、僕は僕である。だからこそ、こうして僕は柱の中心で立っているのだ。
「本当に、いいのね?」
「……うん」
再三の確認である。
八雲紫に対して何かを覚えている訳ではないけれど、きっとそれでも彼女は僕に対して何かを想っているのだろう。いいや、それは贄という何かの執着なのだろうか。
「レン。どうしても?」
「……ごめんね、フランドール」
「ッ……うん、本当だよ」
金髪の吸血鬼は無理に笑顔を作ってくれる。
こうして僕だった僕が彼女達に向けて手紙を出した。この我侭に付き合ってくれそうな、そんな人物達に出した手紙。
もう記憶になんて残っていない。
おそらく大切な友人だった吸血鬼。
きっと好きよりも好きだろう火車。
それも全部覚えていない。あぁ、僕は忘れてしまう。
僕はきっと僕であることも忘れて、別の何かになってしまうだろう。その前に、その前に僕の我侭が叶えばいい。
僕の我侭を叶えてくれそうな八雲紫。
僕の我侭を利益と考える巫女。
そんな巫女が眉間を寄せる。
「ホント、同情するわ」
「贄という立場に?」
「……さてね、それは私の勝手でしょ」
「なら僕の選択も、僕の勝手であるべきだ」
やはり巫女は溜め息を吐いて肩を竦めた。
同情なんていらない。僕はこの為に生まれてきた。僕にこの選択肢以外を選ばせないでほしい。僕は僕の為でも、この世界の為でも、ましてや叔父の為でもなく消えてしまうのだ。
それは僕の我侭だ。
これは僕の我侭だ。
そして僕は我侭だ。
許可を求めず、理解を求めず、理由を求めず。
「ねぇ、魔法使い的にはどう思うの?」
「さて、器がどう思おうが私には関係ないわ。私は妹様の付き添いであり、この異変には関与するつもりは無いもの」
「あらそう。流石は動かない図書館ね」
「ただ……行く末は実に興味深いわ。器……贄が世界に溶け込む様なんてとっても素敵よ」
「あっそう。私にはやっぱり分かりそうにないわ。その気持ち」
紫色の髪の少女は木に凭れながら本を読んでいる。
その様子に溜め息を吐きだした巫女はフワリと宙へ浮く。
「けれど、幻想郷の為であるなら、私は動きましょう。それこそ、一応人間が妖怪に襲われる訳だし」
「それこそ私にはわからない理由ね」
「理由にすればくだらないモノよ。人間を守る、だなんて」
まるで自分を卑下するように口走った巫女は曇天へと上がり、そしてその姿を小さくした。
柱の前に座っていた火車はペタリとその肉球を柱へと押し付けた。光だけだというのに、押し付けられている肉球。
「……ねぇ、レン。あたしの事も忘れちまったのかい?」
「……ごめんね、猫さん。覚えておきたかったんだろうけれど、僕はアナタを思い出せないんだ」
「……あぁ、そう、だろうね…………そう、書いていたよ」
「ごめんね」
「……いいさ、それでも、それでもアタシ達がそれ相応の何かで繋がれているのはアタシが覚えているさ」
「…………」
「それで、それだけでいい。悲しい気持ちを嚥下するのは、また今度にするよ」
そういって二又の尻尾が揺れて猫は暗がりへと消えた。
日記に書いていた事である程度は覚えている。いいや、断片が繋がっているだけとも言えるけれど、それも正しいか定かではない。けれども正しいと思いたい。この気持ちは偽りでは無いと。
嘘ばかりで固めた自分。嘘で偽り続けた自分。嘘で在り続けた自分。
それでも、僕はこの嘘と共に在る事を決めて、そして今に至る。
これは僕の我侭だ。
誰にも邪魔させない。誰にも阻止させない。誰にも停止することの出来ない。僕の我侭だ。
フワリと風が頬を撫でた。
舞う草を見送る。
混じった幽かな花。
ゆっくり香りを吸い込む。
この匂いがとても好きだと知っている。
同時に僕はこの匂いを捨てる事を決めた。
同時に僕はそれから離れてしまう。
あぁ、そうか。
僕は死ぬのか。
やはり僕は苦笑してしまう。
ようやく行き着いた答えがなんともオカシイのだ。
ソレは終わった事なのに……いいや、始まった事なのだろうか。
結果的に、僕は戻ってしまった。帰結した、と言えるのだろうか。
やはり僕は苦笑する。
やはり僕は笑みを作る。
やはり僕は哂ってしまう。
我侭な僕は際限無い我侭をもう一つ言いそうだ。けれどソレは求めすぎというモノだろう。
まるで絵本の様な事は起こらない。起きても僕は拒絶するしかないのだ。
僕だった僕の我侭を止める事は僕である僕ですらしてはいけないのだから。
~~
「はて、ともかくとして、私の行く先を止めるのは火車ですか……」
「あぁそうらしいね。天狗」
森の上空。
正確に言うならば、永遠亭と丘を結ぶ最短の直線上に位置している空中。そこに烏天狗と猫耳猫尻尾の女の子が立っていた。烏天狗は手に持った羽団扇をそのままに腕を組んでいる。対して火車と呼ばれる妖怪はただ立っているだけ、いいや、自身の背後に青白く光る
烏天狗、射命丸文がこのルートを選んだのはそれこそ単純な理由だった。最短で最速であったからだ。それ以外は最上であっても最低なのだ。
対して火車、火焔猫燐がこの位置に立っていたのは偶然にも等しい。いいや、なんとなく予想していただけというのが正しいのだろう。
「どうせレンを助けるんだろう? その必要はないよ。ネタにもなりはしない」
「生憎、オナネタは十二分にあるんですよ」
「……」
肩を竦めてとんでもないことを言ってのけた烏天狗。火車は思わず顔を顰めて溜め息を吐き出す。まぁ何にしても、両者とも目の前の存在が敵である事は変わらない。
「ならいいじゃないか。簡単にレンを逝かせておやりよ」
「ソレは問屋も文屋も卸しません。ネタは常に新鮮な方がいいでしょう?」
「そんな事、レンは望んでないよ。生きる事も、なにより盗撮される事もね」
「盗撮なんて許可された時点で撮影会でしかないんですよ。それに彼が生きていない世界なんてソレこそ盗撮する価値が無いじゃないですか」
「盗撮しなけりゃいいだろう?」
「ソレはそれ。これはコレ。第一、盗撮しなけりゃネタなんて掴めませんよ」
なんとも都合のいい解釈だった。そもそも盗撮なんてしなくてもいいだろうなんてツッコミはここに必要は無い。
文を中心に風が鳴く。まるで耳鳴りがするみたいに響いた風切り音に燐は口をへの字に変えてしまう。
「彼がいくら忘れたって。忘れた事を忘れたとしても。その事すら彼の記憶になくて、いつか私達の記憶から薄れたとしても、写真さえあれば思い出せますよ」
「……」
「写真を撮りましょう。どうせ何時かは忘れてしまうのですから。せめて誰かが覚える為に、写真として遺してあげますよ」
「…………その最初の使い道が下心なのはどうなのさ」
「ソレはそれ。これはコレですよ」
~~
「まったく、どうにかしてるんだぜ」
「……」
森の中。鬱蒼と生い茂る木々を薙ぎ倒して紅い剣が振られていた。
箒に跨った普通の魔法使いはそれを潜るように回避して、逆さまの状態で帽子を支えた。対して魔剣とも呼ばれるソレを振るった吸血鬼はただただそんな魔理沙を見ている。
見下しもせず、見上げることもなく、ただ真っ直ぐに。
「お前だって、あいつの事は好きなんだろ?」
「……うるさい」
「だったらアイツを助ければいいじゃねぇか」
「うるさい」
「アイツが死ぬことを望んだから、ソレを叶えてやる? ハッ! 馬鹿バカしいにも程があるぜ」
「うるさいウルサイウルサい!!」
剣が魔理沙に向かい振られる。背後にあった木を蹴り、剣を巻き込むように避けた魔理沙はその勢いのまま器用に木々の間を抜けてフランドールの周りを飛ぶ。
「レンが、レンの望んだ事だもん!」
「あぁ、そうらしいな!」
魔理沙の眼前に真っ赤な球体が現れた。それに息を飲みつつも言葉止めることはなかった。
「でも、そんな事知ったことじゃないんだぜ」
「レンが……レンの為だもん!! 魔理沙は何も知らないんでしょ!!」
その言葉に一瞬、ほんの瞬く間。魔理沙の動きが鈍って、弾幕の一片が魔理沙を掠った。
帽子が取れて、魔理沙が地面へと不時着をする。土煙が立ち上り、ようやく止まった魔理沙はギロリとフランドールを睨んでしまった。その睨みに対してもフランドールは気丈に睨み返し、改めて弾幕を張る準備をした。
「……あぁ、私は何も知らない」
近くに落ちた三角帽をヒョイと箒で持ち上げて頭に乗せた。帽子を改めて深く被った魔理沙は反省をする。少しだけ、フランドールの事を羨ましいと思ってしまった。ソレこそ、お門違いも甚だしい嫉妬というか、羨望というか。
自分の知らないレン。ソレは居て当然だ。なんせレンとの付き合いはかなり短い。それも自分が彼に興味を持ったのは単なる好奇心だ。誰もが執着している彼だからこそ、気になった。話してみれば淡々としていたけれど、しっかりと意見を持っている事を感じた。
そして、きっといい友人関係にもなると思っていた。いいや、魔理沙は自称ながら彼と友人だと言い切れるだろう。
「だからこそだ」
「……」
「だからこそ、私は
「レンはソレを望んでないんだよ!!」
「知ったことか! 私はレンの事をよく知らないんだぜ!」
魔理沙は不敵に笑ってみせて、箒に足を掛ける。穂先にミニ八卦炉が装着された箒。その八卦炉がまるでブーストの様に火が点される。
「バカしてる友達を止めて、アイツの事を知る為に生かして、知ってやる!」
「ソレがレンの為とでも思ってるの!?」
「ソレこそ知ったことじゃないんだぜ! 誰もが笑えるハッピーエンドってのが物語には必要なんだぜ!!」
~~
「霊夢さん的には、私が間違っていると思いますか?」
「ええ。それはもう当然ね」
川を伝う様に移動していた風祝の前に巫女が立ちふさがった。
超人的な勘を持ってここに滞在していたらしい博麗霊夢は東風谷早苗が来ると同時に問答も無く弾幕は張り巡らした。対して東風谷早苗はその弾幕を回避する訳でもなく、同じく弾幕で応戦する。
立ちふさがる敵に対して随分間抜けた事を聞いてしまった早苗。そしてその問いに対して淡々と応えた霊夢。
「そうね。博麗の巫女として言わせてもらうわ。引きなさい、東風谷早苗。彼は幻想郷にとって危険で、そして何よりも有益よ」
「そんなこと……」
「二度は言わないわ、早苗。黙って引くか、落とされるか。二つに一つよ」
そもそも、霊夢自身は贄である彼に興味のかけらすらなかった。
なかったからこそ、こうして淡々と早苗に言えるのだ。さらに言えば幻想郷にとって、守るべきソレを効率よく守る為に博麗霊夢は選択した。
贄を捧げる事を了承した。
故に、結果として幻想郷の安寧を脅かす事になる『贄を助ける行為』。そしてそれを複数人でやろうとしている事は異変だ。
異変は、対処しなくてはいけない。
こうして博麗霊夢は改めて頭の中に理由を作り出して、自分を正当化した。
「家族なんです……。守ろうって決めた! 守らないといけない、大切な家族なんですよッ!」
「…………」
だからこそ、こうして直情的に彼を助ける事の出来る存在が羨ましいとも思った。思っただけで口には出さない。霊夢だって、人が一人死ぬことを認めた訳ではないし、彼が生きていても幻想郷は案外安定することを知っている。
情報的に知っている訳ではない。直感的にそれを知っているのだ。
けれども、それでも。
「あっそう。それでも、面倒だけれど、止めるわ」
「分からず屋!」
「そんな職業なった覚えはないわよ」
東風谷早苗の激昂もなんのその。博麗霊夢は気怠げな印象のまま針を握る。
知っていたとしても、変わらないとしても、博麗霊夢は幻想郷の巫女なのだ。
少しくらい、幻想郷の贄である彼の為に働いてやろう。
内心、面倒だ、と溜め息を吐き出して霊夢は針を投げた。
まずはアトガキになりますが、遅れてしまって申し訳ございません。戦闘描写をどうするか考えていたらこんなに時間が掛かってしまいました。
結論的に言えば、戦闘描写、弾幕描写なんてなかったんや!!
戦闘描写は皆様の脳内で2Dのいつもの弾幕風景で繰り広げるか、適当に3Dにして妄想していただける事を願います。
レンの記憶に関して少しまとめ。
・眠ると記憶が無くなる
・記憶の喪失は不安定である
・断片的に記憶が残っている事もある
・日記でその断片を繋いで補完可能
たぶんこの程度です。
レン君の我侭に関しては、たぶん次か、その次か、はたまたいっそのこと語らないか、まぁ予定はしているけれど、予定は未定であるからして、ごにょごにょ。
あ、わかっていると思いますが、そろそろこの物語も終わりを迎えます。
エンディングだぞ、泣けよ。みたいなことにはたぶんしませんが、読者様を軒並み放置して作者如きが満足する仕様となっております。
いいか、気になる事は作者に聞けばいいんだ。まるで打つと響く鐘……とは言いませんが、ヤンキーにジャンプしろと言われて涙目で跳んでいるオッサン程度にはチャリチャリと鳴ります。
今ってヤンキーも死語なんですかね……。