早苗さんが変態的なのはお察しください。
「さぁ!!レンさん!お風呂の時間ですよ!!」
僕は思わず顔を顰めた。それこそ、いつもの無表情なんて忘れて、とにかく眉を寄せて彼女を見てから、近くにいた神様二柱に視線を移した。逸らされた。
「一人で、入れる」
「何を言ってるんですか!!お姉ちゃんと一緒に入りましょう!!ソレが普通です!!」
「…………」
「フツウダネェ」
「ソウダネェ」
何処か遠くの方を向いている神様二柱が何かを読むようにそう言った。僕の知っている普通では一切有り得ないことが起こっている。
「ソレが、普通?」
「そうです、いいですかレンさん。レンさんは言ってしまえば居候なのです。いえ、もはや家族と言ってもいいかもしれません。そんな家族に必要な事、そう!!裸の付き合いです!!この守矢神社の巫女である私と一緒にお風呂に入るべきなんです。ソレが普通なんですよ!!」
「………お、おぉ」
「別にレンさんの肌を撫で回したいとか、イタズラしたいだとか、一切!!そう、合切も!邪な考えはありません!!レンさんに普通を教えたいだけなんです!!別に男の娘と一緒にお風呂に入って、だなんて本意は一切合切ありません!」
「早苗ー、本心が見え見えだよぉ」
「諏訪子、言ってあげないで」
何故か悲しそうな顔をしている神様二柱と、拳を握って力説している早苗。普通、というものがそれならば、それに従うべきなんだろう。
「わかった」
「やっっっったぁぁぁぁぁああああ!!奇跡が、今私の目の前で奇跡が!!」
「はい、早苗、ちょっと説教してあげるからコッチにおいで」
「ノォォォォォォォ!?神奈子様、ちょっと、ちょっと待ってください!!せめて、せめて一緒にお風呂に!!」
「はいはーい、また今度ねー」
「レンは気にしないでお風呂に入っておいで」
「でも、」
「うん、今の普通は早苗が説教を受ければいいんだよ」
「ソレが普通?」
「それが普通」
僕の普通には無い事なのだけど、ソレがここの普通なのだろう。なんとも、普通とは難しい事である。
神奈子に担がれて、涙目でコチラに手を伸ばす早苗を見て、どうしてだか溜め息が溢れ出た。
お湯を何度か被って、ヘチマで自身の汚れを落としていく。
何度摩っても、落ちる気はしない汚れを、何度も、何度も、何度も、何度も。
右足首がズキリと痛んで、摩っていた腕が真っ赤になっている事に気付いた。改めてお湯を被れば、赤くなった場所がヒリヒリと痛む。
木造の浴槽にたっぷりと溜められたお湯。爪先をゆっくりとさし入れ、そのまま身体をお湯の中に沈めていく。
「ふぅ……」
肩までしっかりと浸かった僕から出たのは、先ほど早苗に向かって吐いた溜め息でも無く、安堵にも似た息だった。
相変わらずヒリヒリと痛い箇所も、我慢出来る。
浴槽の縁に頭を預けて、瞼がゆっくりと落ちていく。お湯の熱がジワジワと自分の身体を侵食していき、自身が徐々に火照ってくる。いつもの火照りとは違い、一切不快感は無い。あるのは安堵だけ。
ピチョン、ピチョン、と水滴が水面に落ちて音を鳴らす。瞼を閉じてから、丁度、今ので七滴目。
八滴目。
九滴目。
深呼吸をすれば木の香りと湯気が肺に溜まり、そして吐き出される。
ゆっくりと、ゆっくりと、深呼吸を続ける。
吸って、吐いて、
吸って、少し止めて、吐いて、
吸って、……吐いて。
吸って……吐いて。
自分でわかる程度にフワフワとした感覚が身体を支配している。軽い快感を覚える。いや、覚えていた、と言う方が正しいのだろうか。
最初は快感から逃げる為に、それはいつの間にか快感の為に。受け入れやすくする為に、ちょっとした自分なりの儀式になってしまった行動。
今は一切そんな事は考えておらず、ただ、ゆったりとしたこの気持ちを受け入れやすくした。ただそれだけの事なのだ。
「レンさーん、着替え、ココに置いときますねー」
「……ありがとう、早苗」
「いえいえ、家族ですから」
「?裸の付き合いは?」
「あれは……いえ、なかった事にしましょう。思ったよりも神奈子様が怒ってて、それ以上に諏訪子様が」
ブツブツと呪詛の様に繰り返す早苗が磨硝子越しに見える。頭を抱えて勢いよく上下に振っている。一体彼女に何があったのだろうか。
「さなえー、」
「ひゃぃッ!?ワルイコト!シテませんヨ!?」
少し遠くから諏訪子の声が聞こえた。その声に驚いたのか、磨硝子越しの巫女は見て分かる程背筋を伸ばして、聞いて分かる程震えた声で返事をした。
返事をする時は震えているのが彼女の普通らしい。
時間はゆっくりと過ぎていき、月も高く昇り、湯船で火照った身体は夜風で冷めていった。
相変わらず綺麗に輝いている星と、確か太陽を反射しているらしい月。
「……」
ふと、これ程のんびりと夜を過ごすのは久しい事なのではないか、と考えてしまう。
思い返してみれば、という程に歴史ある人物ではないけれど、思い返せば、僕にとっての夜は犯されるだけの時間だった。
アチラにいるときは散々に貫かれて、吐き出された。コチラにいる時は幽香、風見幽香とずっと一緒にいた訳だし。
少しだけ冷めた筈の熱が身体を駆けて、夜風によって何処かへ運ばれてしまった。
「眠れないのかい?」
「……ん」
神出鬼没、というにはオカシナ話になるのだろう。けれど、いつの間にか隣にいた神奈子を称するにはいい言葉だった。
眠れない、という問いに対して僕は頷いた。夜に眠れる、という事に違和感を感じているのだ。身体が。
瞼を降ろして、それなりの呼吸をしていれば眠ることも可能なのだろうけれど、快楽に思考を落としてしまうので、それもどうかと思う。
「と、言うか、早苗もまた裸Yシャツだなんて……」
「わいしゃつ?」
「女モノの下着を着せている時点で早苗の未来が心配になってくるね」
「?」
神奈子とは逆の隣にいた諏訪子が僕の服の裾を持ち上げて溜め息を吐いた。落胆の溜め息である。
さっぱり意味の分からない言葉が並べられて思わず首を傾げてしまう。どうにか分かりやすい言葉で言って欲しい。
「寝れないなら何か話をしようか」
そう切り出した神奈子は僕の隣に、よっこいしょ、と言ってから座る。そして当然の様に諏訪子も座っていた。
神様二柱に挟まれる形で座っている、というのはなんとも不可思議な見た目だと思う。
「何の話をしようかね」
「オバサンは何の話も思いつかないんだね」
「蛙の解剖の話なんだけど」
「あら、丸呑みしか出来ない蛇が解剖の話なんて出来るの?私、初耳」
「よし、諏訪子、ちょっと表に出ようか?」
「アッハ、何言ってるの?耄碌したの?蛇が蛙に勝てる訳ないじゃない」
「聞きたいことが、ある」
僕を挟んで睨み合いをしていた二柱の会話を切り落として、口を開く。
言い合い、というには少しばかり違和感のある会話だからこそ割って入ることが出来たんだと思う。蛙の解剖は気になるけれど、今はそれ以上に知らなくてはいけないことがある。
「僕の“存在意義”を、教えて」
そう言うと、二柱は少しだけ眉を顰めて、言い争いをしていたにも関わらず、同時に溜め息を吐いた。
「“愛玩人形”、って自分で言ってたでしょ」
「ソレは僕の意見。神様から見ての意見が知りたい」
「……ふむ」
肩を竦めて諏訪子が言った言葉を否定して、どうにか言葉を進める。
知りたいのは、僕が愛玩人形だと答えた時の神奈子の違和感だ。愛玩人形以外の意味があるなら、人形ではない意義があるなら。
「私達神……いや、まぁ神も妖怪も人外として纏めた方が説明しやすいか」
「神奈子……」
「いいのよ、どうせこの子は知らなきゃいけない事なのだから。
……人外は人から力をもらってるのよ。信仰であり、直接食べたりね。
大雑把に言えば、人から受ける力はこの二つで、二つともが全くの別物、相容れるなんて事はない訳だ」
神奈子の言葉が切れて、僕を見る。
しっかりと聞いていれば、意味は分かる。けれど、僕の存在意義は一切ない。
「さて、じゃあ、人から受ける力以外。コレは人外共通なんだけど。
自然界、言ってしまえば今ココに存在している空気も人外に力を与えている。まぁコレは人からの力に比べて微々たるモノなのだけど」
「妖怪も、神も、自然界の力を貰って存在してる、って思ったらいいかな。実際そうだし」
「本題に入るけど、レンはどちらかと言えば人じゃなくて自然界寄りの力を保有しているの。ソレも、多大に」
背筋にゾクリとした感覚が走る。快楽とか、そんな感情は無く、ただただ、冷たい感触が背中を這っていく。
脳に響く、粘っこい、嫌悪する声。
『八百万の神々と、幾多の妖に捧ぐ……』
「レンの様な存在の事を、私達は贄と呼び、妖怪達は餌と呼称してる」
「わかった、ありがとう」
ズキリと痛む頭は、きっとあの人の声を思い出したからだ。
気持ち悪い、胃の中がかき混ぜられている様な感情。嘔吐感はないけれど、ひたすらに気持ち悪い。
ゆっくりと立ち上がろうとした僕。身体が横に引っ張られて神奈子にもたれ掛かってしまう。
「まぁ、もう少し話を聞きなさいな」
「君の力は人外にとってひじょーに、魅力的なんだ」
耳朶を打つ荒い息と、首筋に掛かる熱い吐息。
人外である二柱にも、僕は“美味しく”見えるのだろう。
空に浮かぶ星が逆さまに映った神奈子の顔に被さって見えなくなる。
唇を合わせるだけの接吻。柔らかい感触が唇に当たって、離れる。
「神奈子だけズルい!」
「あー、ごめん」
「許す」
そう言いながら小さな手が僕の頬を覆って、端整な顔が近づいてくる。
神奈子の時とは違い、一度だけ軽い接吻。その後に少しだけ角度を変えられてまた唇が合わさる。
何度か唇が甘噛みされて、歯列を舌で軽く叩かれる。ゆっくりと歯を開いてやると、そこまでの優しさなんて虚像でしかなかった様に、舌が乱暴に絡められて、吸い出される。
ジュ、ジュル、と水気の多い音が聞こえて、自分の舌が吸われて、撫でられ、足りなくなった唾液が相手によって注がれていく。
数秒して、ようやく接吻から解放された僕と満足げにしている諏訪子。少しだけ顔を赤らめている神奈子。
口が甘い刺激で半開きになっている。自覚はしているけれど、戻すことは出来ない。
「ふむ……唾液も美味しい、と」
「いや、諏訪子さんや、手加減を知らないのかい?」
「手加減してるけど?」
「……コレが合法ロリの力と言うのだろうか」
「神奈子ー、変な電波受信してるよー」
アッハッハ、と笑う諏訪子に、頭を抱えている神奈子。頭の中が徐々にそういう行為に傾いてきている僕。
今、神奈子に抑えられている手も、触れられているという事だけで僕に快楽を伝えてくる。
「ふむ、脱がせるか……いや、半脱ぎにするべきか……」
「大事なのか?そこは」
「ダメだなぁ、神奈子は。半脱ぎこそロマン、しかし全裸には全裸の良さがあるんだよ」
「うん、なんか納得した。半脱ぎどうのこうのじゃなくて、納得した」
頭に疑問符を浮かべる僕と、僕の服を丁寧に半分だけ脱がしている諏訪子をよそに、神奈子は盛大に溜め息を吐いた。
「いっそビリビリに破いてしまった方が……」
「それは止めなさい」
「いや、和姦だからこそ、こうムチャクチャに」
「おい」
「ごめんなさい、睨まないで」
謝っているというのに、その顔には笑顔が張り付いている。その顔に頭上からまた溜め息が聞こえた。
「まぁ、神奈子はレンとのキスを楽しんどきなよ」
「諏訪子は?」
「シチュ萌え」
「は?」
「まぁまぁ」
「……まぁいいけど」
また瞼をしっかり閉じている神奈子の顔が降りてくる。顎を上げて、彼女の唇に自身の唇を合わせる。
おずおずと忍び込んできた舌を唇で甘噛みして、絡める。握られた手に少しだけ力が込められた。
「ん、ふぅ、」
「……ん、」
鼻息の荒い神奈子の攻めは弱い。というよりは、今までの体験者が酷く攻めすぎていたのだろうか。比べるというのもオカシナ話だけれど、まったりとした接吻は初めてだ。
そんな初めて、は数秒程続いて、強制的に中止された。
「んひぃ、」
「ふぁ!?」
「あ、うん、なんかごめんなさい」
全く謝る気の無い諏訪子の声が聞こえたけれど、こっちはそれどころでは無かった。
舌を吸われながら、胸の快楽点を抓まれて頭がチカチカしている。ぼやけた視界に神奈子の心配そうな顔が映って、思わず笑ってしまう。
身体をひっくり返して神奈子の正面を向いて、また唇を合わせる。
同じ様に、ゆっくりと舌を絡ませて、後ろに逃げる神奈子を追いかけていく。
「ん、ひぁ、ちゅ……ッ、やぁ、コリコリするの、だめ」
「うーん、そう言われると」
背中から僕に覆いかぶさって、快楽点をずっと指で挟んでいる諏訪子の声が耳を刺激する。
片や、快楽で強制的にやめてしまった接吻に不満そうな神奈子が僕の頭を抱き込んで顔を寄せる。
「ッ、」
「あ、スマナイ」
鋭い痛みと一緒に口の中に鉄の味が広がる。どうやら唇が噛まれたらしい。
謝りつつも、お構いなしという風にまた接吻を続行する神奈子。
胸を弄りながらも、片手は徐々に下腹部に這う諏訪子。
「んー、ちゅ……ふむ、やはり存在に深く交わるモノは力が濃いわね」
「そんな冷静に分析するのは後でいいんじゃない?」
「そう?」
「んひぃぃいいいいい!?」
「そうに決まってるじゃない」
下腹部まで伸びた手は、はち切れんばかりの僕を刺激して、その快感が頭の中を真っ白にしていく。
頭の中に何度も警鐘が鳴り響き、目の前にいた神奈子の手を必死に握り締める。
「ねぇ、レン。イキたい?イキたいよね?じゃぁ、イかしてください、ってお願いしなくちゃね」
「諏訪子ェ……」
明らかに呆れている声を出している神奈子。その神奈子に向かって、言う。
「イキたい、イかせて、くりゃしゃい、もうりゃめ」
涙がボロボロと溢れ出て、口からヨダレが垂れる。
頭はずっと真っ白のままで、何も考えたくない。何も考えれない!!
「いいよ、イっていいよ」
「んんんぃぃぃーーー!?」
だらしなく咆哮してしまった僕は虚脱感とドクドクと何かが出ていく感覚と一緒に床に崩れ落ちた。
「ふむ……こっちはこっちで美味しいのか」
「諏訪子、私が悪かった。コレは、イイモノだ」
そんな二柱の会話は頭に入ってこない。
バクバクと鳴り響く心臓とずっと宙に浮きっぱなしの感覚。現実味なんて一切無い。
気がついたときには布団の中だった。
布団の暖かさではない温もりを感じて、瞼を上げた。
「あ、……」
「……」
目の前にはバツの悪い顔をした神奈子がいた。薄らと日は昇っているけれど、腰が持ち上がらない。
「あー、その……すまない」
「気にしない」
「それはそれで問題なんだけど……」
神奈子はまた溜め息を吐き出して、僕を見つめる。
「二つ程、言い忘れていた事がある」
「何?」
「一つ、贄の力は贄自身は使えない。人間だからとかじゃなくて、贄だから」
「……わかった。もう一つは?」
「…………―――――」
わかっている事を言われて、少しだけ苦笑してしまう。それも悲しい顔で言われたから。
「大丈夫……知ってる」
「……ごめんなさい」
「大丈夫……」
辛そうに唇を噛み締める人のいい神様を抱きしめて、僕はもう一度瞼を降ろす。
今日は、少しだけ寝坊をしよう。
諏訪子様が変態なのもお察しください。
後書
贄(餌)に関して、少し
文中で書いていることですが。
・贄は人外(神・妖)にとって力の塊
・重要度に比例し力の濃さが決まる
魂≧心臓>>各種臓器>精液(次代に繋ぐ為)≧血液≧その他体液
これらの物質は人外達にとって“美味”と感じてしまう。
・贄は自身の力を魔術、魔法、その他の力によって顕現する事は出来ない
・○○○○
恐らく箇条書きでこんな感じです。最後の一つは……まぁ、先で書きます。
精液≧血液にしている理由はお察しください。