※この作品はR-18です。

ふたなり和風ファンタジー   作:ザ・シガー

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第二話 【ゆき】

ふたなり和風ファンタジー

 

【ゆき】

 

 中近江街道街、この賑やかな藩下随一の街で、さる美剣士の剣名は伝説の如きものとして語られていた。

 時は十年ほど前に遡る。

 藩下でも特に精強の門人が多いと言われる清堂刀流に、一人の男がやって来た。

 道場主たる横山清観の師、梅ヶ崎豪元から免許を授かったという男である。

 近頃亡くなった師豪元の推薦にて、この清堂刀流道場にて、兄弟弟子の縁により師範代として働かせてもらう為であった。

 端然と座し平服し挨拶するその姿に、清観を始め道場の者は皆一瞬、息を飲んだ。

 あまりに美しかった為だ。

 月光を結晶とし人の形にすれば、こんな姿になるのではあるまいか。

 夜の如き黒き髪といい、平素の挙措から窺えるしなやかな体躯といい、元服を迎えたばかりの剣士は美しきに過ぎた。

 本当に彼はかの梅ヶ崎豪元の免許を授かったのか、誰しもがそう思った。

 お義理に与えられた免許ではないか、そう感じた高弟達は当然新参の師範に「どうか一手指南賜りたく」と挑んだのだ。

 それも十人連続で、である。

 日夜骨肉を木剣で軋ませ人体の限界まで鍛え込んだ高弟が体格で圧倒的に劣る小兵を相手にするのだ、稽古の名を借りた私刑になるのではと危惧されたが、これが間違いだった。

 十人の高弟は一撃与えるどころか木剣を服に触れさせる事さえできずに一蹴されたのである。

 一人当たり要した時間は十数秒とてないという当たりに、美剣士の凄絶なる業前の程が知れた。

 たった一日にて彼は師範として迎えられたのである。

 伝説の二幕目はそれより一年後であった。

 豊臣家が徳川に滅ぼされてより、人界の混沌に影響されたゆえか、妖魔神仏の動きもまた活発化した。

 中近江街道の近くでもまた同じく、この地域では巨大な妖猿が出没した。

 これが凄まじい怪物で、身の丈九尺、体毛は針金の如く硬きもので矢さえ通さず、気性荒く凶暴を極め残忍狡猾。

 これが越冬の為に近隣の子供をさらった。

 柔らかい子供の肉を食うのが好きなのだ。

 当然尋常の刀刃及ぶものでなく、討伐隊は大口径種子島と特大の大身槍、火炎を操る法術士で編成された。

 が、それらの準備が整うより前に、真っ先に飛び出した者がいる、清堂刀流道場の、美剣士師範代である。

 果たして翌朝、剣士は悠然と街へ帰った、さらわれた子らは傷一つなく全員無事であった。

 それより数度猛る妖物を狩るが、極めつけは四年前の小合戦であろう。

 あれは正しく合戦であった。

 廃絶された豊臣方の残党兵、山賊として働く者多く、五十人からなる隊として中近江の街に来たる。

 大猿など話にもならない、陰陽の業や法術、種子島、長槍、弓で武装せし熟練の強者。

 これが計画的に商家を襲い、金品食料、さらには女まで強奪する。

 偶然通りかかった美剣士が、見過ごす筈はない。

 彼は抜いた、一瞬の判断の遅れもなく腰の大刀を抜き、斬った。

 斬って斬って斬り抜いた。

 敵の刀を捌き、槍を受け流し、矢を払い、弾を躱し、呪符を断つ。

 真昼の陽光の下、街道の砂塵の中に煌めく刃光、何年にも渡り語り継がれる丁々発止。

 五人が十人、十人が二十人、次々とばったばったと敵を薙ぎ倒し、気がつけば仁王立つ孤影。

 大小のみで五十人から成る賊を斬り伏せる者がいようか。

 かくして彼はその名を中近江の地で、一人とて知らぬ者のいない剣士として馳せた。

 魔矢坂凛豪宗近、世にも美しき剣者はしかし、男ではなく女である身を秘した美女であった。

 

□

 

 魔矢坂殿、あるいは宗近様、門下生や近所の女達はそう呼んで凛を慕った。

 惚れ惚れするほど美しく強い、端然として礼儀正しい彼女は、男女の別なく魅了する。

 二十五になっても未だに妻帯せぬので縁談を持ちかける武家の諸々、恋い焦がれる町娘、あるいは同門の士の男も言い寄る、この時代男の同性愛も珍しくはない。

 剣名の方での人気も凄まじく、道場はほとんど満員状態、道場内からあぶれた者は庭で木剣を振るうし、凛が高弟と試合をする時などぎゅうぎゅう詰めになった。 

「魔矢坂殿、どうですこの後」

 稽古を終えた夕刻、上半身裸になって汗を拭う同門の師範が、そう声をかけた。

 同じく師範として道場に居る年上の先輩であるが、凛の腕が自分より遥かに上であるのと免許皆伝である事を尊敬し、敬語である。

 凛は一瞬複雑そうな顔をし、首を振った。

「いえ、私はこれで」

「は、そうですか。では」

 同門の士が誘ったのは、言葉であまりおおっぴらにはせぬが遊郭である。

 若い血肉を持て余す男が女と酒を求めるのはさして珍しくもない。

 誘いを断った凛をお高く止まったと嫌う者はいなかった。

 むしろ逆に、酒にも女にも溺れずひたすらに剣の道に生きる姿に、余計尊敬を覚える。

 到底自分達の如き凡俗の徒の及ばぬお人、流石は魔矢坂殿だ、と囁いた。

 これがまったく見当違いであると彼らは知らない。

 さる理由により男装し、女である事を隠す凛が、彼らと遊郭に行く事などできなかった。

 そして、別に凛は高潔なわけでもなかった。

 むしろ逆に、性欲は激しく持て余していた。

「……」

 帰宅した凛は、決して誰も覗く者が居ない事を確認すると、するりと服を脱ぐ。

 胸元は圧縮の符を貼ったさらしを巻いていた。

 解けば、凄まじい大きさの白い乳房が、たぷんと弾んだ。

 二十を過ぎた頃から、元々大き目だった体の肉はさらに女として熟成しつつあった。

 長身である為なんとか男と偽っていれるが、腰や尻の線は袴越しにもどこか猥褻の気を帯び、いつバレやしないかとヒヤヒヤしている。 

「なんでこうも、大きくなってしまったのか……」

 ゆさり、と乳を持ち上げ、溜息をつく。

 自分の女を意識すると、体の芯でじくじくと熱が疼いた。 

「くぅッ」

 白蝋の美貌を微かに歪ませ、凛は下巻の布切れを押し上げようとする、自身の【雄】を感じた。

 並の男より遥かに大きく立派な、肉の剣。

 両性具有として生きる上で避けて通れぬ、おぞましい器官。

 こんなものがなければと、何度思った事か。 

「ふう、はぁ――」

 凛は目を瞑り、息を整え、下腹のあたりで氣を巡らせる。

 氣とはすなわち生命力、生きとし生けるもの全てが持つ力。

 霊力とも呼ばれるその力を律し、血流をも操る。

 そうして操作し、凛は立ち上がろうとするものを鎮めた。

 最近は、毎日こうしてやらないといけない。

 両性具有者、ふたなりの精力が並の人間より強いのは聞いていたが、それにしても自分の性欲は強すぎる。

 それが恥ずかしくて、内心凛は悶えた。

 目を瞑って氣の調息に集中する凛の脳裏に、ふとある記憶がよぎった。

 真っ白な豊満を極める、熟女の肉。

 白銀の髪。

 生まれて初めて味わう蜜壺、そして乳房による奉仕、射精……何度も、何度も抱いて、犯して、ぶち撒ける。

「~~ッ!」

 息が乱れ、体が震えた。

 思い出すだけで淫熱を抑えきれなくなる、めくるめく官能の過去。

 それは十年前、彼女が童貞を捧げた白狼神の夫人、まふゆとの情事だった。

 あれから十年も経つというのに、あまりに鮮烈な快楽と初体験は、今でも凛の心を掻き乱した。

 凛は必死に思考を巡らせ、別の事を考えて体を鎮めようとした。

 まふゆと共に居た、自分の助けた少女、ゆき。

 あどけない顔と、自分に懐いてくっついてくる姿の可愛さ。

 少しずつ落ち着いて、調息が成る。

 凛はそのまま床に伏した。

 天上の木目を見つめながら、まだ脳裏に残るゆきの顔。

「今頃あの子は、元気で山を駆けまわっているのか」

 そうぽつりと零した。

 

□

 

 街道を行くその姿は、あらゆる人々の視線を吸い寄せた。

 さらさらと揺れる白い、いや、銀か? どちらとも呼べる色素のない長い髪は、腰どころか尻まで達するほどである。

 その尻といえば、まるではち切れんばかりに和服を押し上げ、歩く度に揺れていた。

 胸元も同じく、窮屈な衣装から零れそうになっている乳房は、見ているだけでしゃぶりつきたくなるような実りっぷりであった。

 だがそれ以上に人目を引くのは、腰から伸びる尾、頭の上にぴょこんと生えた耳である。

 狐か? あるいは犬か? 狼か?

 そのどれかは知れないが、少女は一目で人ならざる者と分かる存在だった。

 通常、妖魔にしろ神仏の類にしろ、人外の存在はみだりに人里を訪れない。

 絶無というわけでないが数は少ない、必然的に注目を集める。

 ましてや、少女は凄まじく美しかった。

 大きな銀色の瞳は見るからに穢れを知らず、可憐で、きょときょと周囲を見ながら歩く様は、人里への好奇心に満ちていた。

「お狐様かい? お嬢ちゃん、どこか探してるのかい?」

 大通りで周囲をぐるりと見渡しているその姿に、見かねた商店の老婆が声をかけた。

 娘はくるりと振り返ると、ふるふる首を振った。

「ううん、狐じゃない、狼だよ」

「おやまあ」

 狐は稲荷として社を作り詣でられる事もある、利益ありし神である。

 それに比べると犬や狼は粗暴で凶悪な事もあり、厭われる事も多々あった。

 だが娘は見るからに闊達で、人に害成すと思えぬ、その意外さに老婆は驚いたのだ。

「狼の娘さん、何か買いに来たのかい?」

「人に会いに来たの」

「ほぉ、誰だい? あたしゃここに住んで長いよ、知ってる人なら教えたげるさね」

「んーとね、凛っていうんだけど、凄く綺麗な人で、お侍。それに凄く強いの」

 美麗で強い侍、すぐさま老婆はある人物に思い当たった。

「もしかして凛様、清堂刀流道場の魔矢坂様かい?」

「あ、そう! 魔矢坂! 知ってる!?」

 魔矢坂の名前が出た途端、狼の娘はぱたぱたと綺麗な白い尾を振り、老婆に顔を寄せて喜色を浮かべた。

 あまりに目をキラキラさせるので、老婆はその純粋な喜びように面食らったほどだ。

「ああ、そりゃ有名人だからね。魔矢坂様のお家なら、ここを真っ直ぐ行って二つ目の角を右に曲がればすぐさ」

「うん! 教えてくれてありがと!」

 聞くや否や少女は踵を返して走って行こうとする。

 老婆は最後に一声疑問符を投げかけた。

「あんたあの人に何の用なんだい?」

 少女は振り返って言った。

「凛をお嫁にしに行くのー」

 と。

 老婆はきょとんと首を傾げた。

「嫁に?」

 あの仁は、男でなかったか。

 

□

 

 その日稽古を終え、凛はいつものように帰宅した。

 汗に濡れた体を早く拭いたい、道場ではうかつに服を脱げないからだ。

 帰途、凛は肌に感じる霊気に気付いた。

 自宅より漂う、清浄で敵意はないが、強く激しい氣であった。

 一瞬立ち止まり、確かめるように剣柄に触れる。

 見ずとも屋内に何か見知らぬ存在、人ならざる者が潜んでいるのが分かった。

 凛は静かに歩を進め、油断なく戸を開けた。

 鼻先を夕餉の香りがくすぐる。

 すると彼女の目の前に、にっこりと笑う花の如き美貌が、出迎えた。

「おかえりなさいあなた。ご飯にする? お風呂にする? それとも、私?」

 割烹着を身に付けた白髪の亜人娘が、しゃなりとしなを作ってそう言った。

 本来ならもっと艶を有して人の淫欲をくすぐる言葉だろうが、少女の無垢さゆえかそこまで淫靡さを感じさせない。

 むしろ背伸びして大人ぶろうとする様がどこか滑稽で、愛くるしさが募るようだった。

 見知らぬ娘に出迎えられ、凛はあんぐり口を開けて固まった。

「あ、え……どなたか」

「え!? 私の事忘れちゃったの凛!」

「ん……む?」

 自分を凛と呼ぶ、綺麗な白い髪と尾の、娘。

 狐、いや、犬……いや、狼か。

 連想により、即座に凛の記憶は蘇った。

「まさか、ゆきか」

「うん! そうだよ! 会いたかった!」

「ひゃッ」

 そう言って笑うと、ゆきは飛びついてきた。

 凛は素っ頓狂な声を上げた。

 むにゅむにゅとかなり大きくなった胸が押し付けられ、鼻先をくすぐる髪が蕩けるような甘い香りを撒き散らす。

 背中に手を回し、強く強くゆきは抱きしめてくる。

 十年を経た成長は凄まじかった。

 思わず、体の芯に生まれる強烈な淫欲、柔らかく甘い香りの豊満な女体に、激しい衝動が駆け抜けた。

 凛はすぐさま調息による体内練気でこれを納め、慌ててゆきの肩に手をかけ離す。

「ま、待ってくれ。なぜお前がここに」

「んと、凛に嫁ぎに」

「はいぃい!?」

 あっけらかんと応えるゆきに、凛は目を剥いた。

 普段ならまず出さない素っ頓狂な声を上げて絶句する。

 そんな彼女を、むしろ逆にこちらこそ意外という顔でゆきは見た。

「んー、おかしいなあ、母者はこうすればイチコロって言ってたんだけど」

 どうやら先程の、出迎えの言葉が間違っているのかと思っていた。

 もそもそと割烹着を脱ぐと、谷間の白い目に焼き付くような肌を覗かせた和服姿になる。

 凛は思わず生唾を飲んだ。

 そんな彼女の手を取り、ゆきはぐいぐい引っ張って居間へ連れて行く。

「ともかくご飯にしよ。腕によりをかけて作ったからね♪」

「あ、ちょ、ま」

 あれよあれよという間に凛は腰掛け夕飯の席についた。

 白い飯と焼き魚、煮物、汁。

 湯気を立てたどれもが美味そうな香りを燻らせる。

「さあ、どうぞ」

 両手を広げ、にっこりと笑うゆき。

 ただ見ているだけでふっと心を許してしまうその顔に釣られ「……では」と、凛はおずおず箸を伸ばした。

 見た目通り、匂い通り、どれもが美味かった。

 一人暮らしでいい加減に済ませていたこれまでの食生活が吹き飛ぶような美味だった。

「どう?」

「ああ、美味い」

「良かった! 母者や姉者にならっていっぱい勉強したからね!」

 ゆきは、ふん、と腕まくりして力こぶを作る真似をして自信ありげに主張する。

 体はすっかり肉付いて女らしくなったが、まだ心の方は少し幼さを残しているのが窺えた。

 それが余計に愛らしい。

 箸を進めつつ、凛は微笑した。

 そして大体食事を終えた頃になりようやく。

「ところで、さっきの話だが。嫁ぐとはどういう事だ」

「凛の事好きだから結婚したい」

「……」

 世にこれほど直球で飾らぬ求愛の言葉があったかと。

 凛は面食らってどう言い返せば良いか分からなくなった。

 そうだ、この娘は自分が女と知らないから、助けられた恩を返そうと押しかけてきたのか。

 それにしても十年も経って来るとは。

「いや待て、しかし、だな、そう簡単に嫁ぐの嫁がんのとは、家の問題もあるしそもそも私とお前は種が違うし」

「だめ? ゆきの事嫌い?」

「いや、いや……決してそうは」

 凛が難色を示した途端、ゆきは目を潤ませ、身を乗り出して問う。

 その姿は思わず抱きしめたくなるほど愛らしかった。

 自分の中で凄まじい劣情が燃え上がるのを凛は意識した。

 両性具有者として、同性に感じてしまう性欲、この豊満な体を暴きたい、めちゃくちゃに突き入れ、最奥まで……白濁を注ぎたい、ぶち撒けたい。

 凛は下唇を噛んでその衝動を抑えた。

 この娘の母と契って童貞を失って、娘にまで手をかけるなど、到底彼女の倫理観で許容できる事ではなかった。

「お前は嫌いでない、が……男女の仲、婚儀というのはその場の感情で決めて良いものではないんだ」

「男? 凛女でしょ?」

 凛は完全に言葉を失った。

 知られている? まふゆが教えたのか? それとも見られたのか?

 絶対人に知られていけない己の秘事を知られ、凛は脳裏が白色に染まる。

 そんな彼女に、ゆきはするすると寄ってきた。

「あの時、母者と契ってるの見てたんだ。それに、凛が女だって、初めて会った時から知ってたし。初めて会った時から、この人をお嫁さんにしたいって思ってたよ」

「な……ちょ、ま……いや」

 ゆきはうっとり目を潤ませ、甘やかな髪の香りで、吐息で凛を惑わしながら、身を寄せていく。

 白い、正しく名が体を表すが如き指が、するりと凛の服を割っていく。

 邪魔なさらしはすぐに剥いた。

 呪符で圧縮され隠されていた豊かな乳房が、ゆっさりと現れた。

 ゆきは目を細め、嬉しそうにその綺麗な胸に魅入る。

「わあ、あの時より、おっきいね。ゆきもおっきくなったよ、ほら」

 窮屈そうな着物を肌蹴ると、真っ白な乳房が飛び出した。

 凛も大きいが、ゆきはそれよりもう少し大きかった。

 桃色の乳首と大き目の乳輪が淫らで美しい。

 それにふぅわりと良い香りまでする。

 のしかかる柔らかさと量感に、凛はわなわなと震え、興奮を抑えきれず、もはや調息による体の制御などできなかった。

 袴を押し上げる肉棒の膨らみを、ゆきは手探りで触れた。

「ああ、こっちもおっきい♡ これで……母者を犯したんだね、私……あの時はまだ契りの意味も分からなかったけど、後で意味を知って……母者が羨ましくて妬ましかった、私も凛にして欲しいって思ったよ」

「ゆき、私は……私は」

 ゆきは豊かな胸と胸をくっつけ、さらりと前髪と前髪を重ね、唇が触れ合う寸前まで顔を近づけた。

 涙に濡れた銀の瞳が愛おしそうに切なそうに自分を見つめる。

 なんという可憐さと美しさ。

 あの時の無垢な少女が、その穢れない心はそのままに、豊熟と迫る。

 だが獣欲のままに抱く事への嫌悪感が、凛を踏みとどまらせ、自身の性への恐れが体を縛る。

 もう少しで口づけをするというところで、ゆきは止まった。

「凛、どうしても嫌ならそう言って。諦めて山に帰る」

「ゆき」

「でも、少しでも私を受け入れてくれるなら……抱いて、欲しい」

「――ッ」

 十年、この子の中で燻り、燃え続けた恋慕の炎を想う。

 気づけば凛の手はその細くくびれた腰を抱き、自分から顔を寄せていた。

「んぅ……ッ♡」

 凛にすればまふゆ以来、ゆきは初めての接吻だった。

 まず触れ合うだけ、唇と唇の接触に始まり、やがてどちらともなく舌を伸ばした。

 ぎこちなくも愛おしさを込めた舌の動きは、ぴちゃぴちゃと淫らな水音を奏でた。

 馬尾のように結った黒髪を揺らす凛、白銀の髪を揺らすゆき、二人が体を寄せ合い、接吻を交わす様は、例えようもなく美しく妖艶だった。

「はあ……ちゅぷ、ふッ……んふぅッ」

「ちゅッ……ん、んぅ……りん……りん、すき……すきッ」

 とろんと目尻を下げ、涙と唾液で顔を濡らすゆき、凛は忘我の有様で、手探りで自分の着物に手を掛けた。

 邪魔な着衣を剥がし、袴を脱ぐ。

 下巻の布を取れば、茂みの中より鎌首をもたげる巨根が飛び出した。

 白狼神の長たるまふゆを魅了するほどの肉棒は、へその上まで達するほどの豪刀であった。

 しかしゆきは恐れるどころか興味津々で、愛おしそうにその幹を撫でた。

「すご……うわぁ、ほんとにおっきい……」

「あ、あまり触るな……」

 なでなでと幹を擦られ、その手探りの感触にそれだけでイキそうになる。

 ゆきはしかし、止めない。

 たっぷりと硬さと大きさを確かめるように触れて、凛を昂ぶらせた。

「ねえ、どういう格好でしたい?」

「どうって」

「後ろ向きとか、前向きとか。私が上になった方が良い?」

 一体どこでそういう知識を、と思ったが、よくよく考えればあのまふゆが娘を送り出すのに何も仕込まぬわけないか。

 きっと母に吹きこまれたのだろう。

 凛がそう考えていると、ゆきは自分から彼女の前で寝そべった。

 着物の前を開き、はち切れそうな巨大な胸も、しっとりと愛液で濡れた茂みも秘裂も剥き出しにして、脚を左右に開く。

「この格好が、良いかな……えへへ、ちょっと恥ずかしいね……♡」

 少し恥ずかしそうに顔を手で隠すが、迎え入れるように開いた脚は閉じない。

 凛はごくりと生唾を飲んだ。

 愛液と汗の甘酸っぱい香りが天然の媚香となる、人ならざるものは、匂いまで違うのか。

 凛自身、乱した着物から豊かな乳房をまろび出させた格好で、膝立ちになり、ゆっくりとゆきの前に行く。

 開いた膝の間に割り込んで、腰をかがめ、ぴたりと膣口へ亀頭を宛てがった。

「い、良いのか……本当に」

「うん。良いよ、凛以外のひととはしたくないよ。凛が良い、凛だけが良いの……」

 ゆきは手を広げ、凛の全てを受け入れるような顔をする。

「来て、抱いて……私の女になって、貴女の女にして」

「ゆき……ッ」

 ぷつん、と、凛の中で何かが切れた。

 一気に腰が沈み、濡れた媚肉を掻き分け、純潔の証を引き裂く。

「く、ぅああああッ!!」

「ふぅううッ!」

 一方は痛み、もう一方は快感に目を剥く。

 だがそれも長くは続かない。

 霊気過多の末に産まれた両性具有者の体液は、当然体内の氣脈の流れを帯び、同性の女を狂わす極上の媚薬と成る。

 それを直接膣の粘膜へなど刷り込まれれば、処女であろうと例外なく、よがる。

 ゆきは痛みを塗り潰すような壮絶な快感に身をよじり、歓喜の鳴き声を上げた。

「あ、あああッ♡ す、すご……ひぃッ♡ なに、これ……すご、しゅごひ……あ、あああッ♡ りん……りんのチンポ、すごッ♡ ……あ♡ お、おかしくなっちゃうよおッ♡」

 長い白銀の髪を振り乱し、凛の背中に手を、腰に脚を絡め、尾まで揺らし鳴き叫ぶゆき。

 凛も凛で、十年ぶりに、しかも禁欲生活の末に抱く女体に、溺れた。

 絡みつく肉ヒダ、肉の粒、締め付ける狭さ。

 ゆきは母に負けず劣らずの名器であった。

「ふう、ふ、ぅう! ゆき! ゆきぃい! あ、くああ……もう、で……でるぅう! あああああ!!」

 普段の凛然とした顔が嘘のように、くしゃくしゃに蕩けた雌の顔で叫び、彼女は撒き散らした。

 黄濁するほど濃い粘った汁は、まるで粥かにかわであった。

 発情期の獣のように振られる腰、子宮口にぴったり押し付けられた亀頭と鈴口が、溜まった精をこれでもかと吐き出す。

 まるで匂いをそこにこびりつかせ、ここが自分のものだと縄張り付けするようだ。

 大量の媚薬精液をまぶされ、ゆきも産まれて初めて、結合による絶頂を迎えた。

「あああ♡ い、イク♡ ゆきも、ゆきもイクよ♡ りん! りん! すき……だいすき♡ あ゛あ゛ぁぁああッ♡」

 無垢な少女はあられもなく声を裏返し、壮絶な法悦の波に飲まれ、果てた。

 何度も小刻みに震える柔らかく豊かな肉。

 桃色の乳首も白い肌も、しっとりと汗の雫に濡れている。

 室内は二人の女の体温で蒸され、白く煙る程であった。

 大きな尻を何度もぶるり、ぶるりと震わせ、凛は射精する。

 一度、二度……とうとう十度も、脈動しながら精を放った。

 よくもまあ、と、自分でも呆れるほどの射精量だった。

 禁欲もあるが、ゆきの体の素晴らしさ、相性も大きい。

「く、ああ……ゆき……」

「ん♡ りん……あ、はぁ……」

 二人は互いの胴の間で大きな胸を押し潰し、淫らにひしゃげさせながら、舌を伸ばしてまた口付けをする。

 布団もしかぬ床の上でくねり絡み合う白い女体は、果てしなく美しく、そして淫靡だった。

「ねえ、凛……一緒に、いさせて……傍に居たい……大好き、愛してるよ……」

 脚を絡ませ、手を絡ませ、秘所も胸も押し付け合い、耳元で愛おしそうに切なそうに囁く求愛。

 こんなものに抗う術など誰が持とうか。

 ましてや凛もまた、この無垢な愛を向ける少女に、とっくに参っていた。

 彼女は小さく頷くと、もう一度口付けし、再び求め、激しく動き始めた。

 その日の契りは凄まじく、延々と空が白むまで行われた。

 

□

 

 それよりの日々は、蜜月というより形容の言葉のない生活だった。

 昼は道場に行き、自身と門下生を鍛え、剣を磨く。

 夕刻になって家に帰れば、ゆきが待っている。

 共に食事をし、風呂に入り、床に入れば白く豊かな体と体を重ねた。

 これほどの幸せが、かつてあったろうか。

 凛は酔った、酔い痴れた。

 愛とは、これほどまでに甘美であったのか、温かかったのか。

 いや、温かいという表現では足りない……肉から骨の髄まで、魂まで焼くような紅蓮の大火であった。

 そうして凛はしばらくの歳月を穏やかに過ごした。

 春の花の香りを嗅ぎ、鳥の囀る歌を聞き、涼やかな風を浴び、夜は輝く金月を見上げる。

 その全てにゆきが寄り添った。

 男として世間に振る舞っていただけに、少女を伴っての生活に口を挟む者はいなかった。

 むしろ、美しい凛が美しいゆきと生活する事に周囲は「ようやく魔矢坂様も内儀を持たれた」と安堵したものだ。

 果たしてそんな日々は、唐突に打ち砕かれる事になるとは、何も知らず。

 

□

 

「ん、むう……む」

 ある朝、凛は戸を叩く音に目を開けた。

 床の上であり、豊満な裸身には、負けぬ程豊満な雪の体が覆いかぶさっている。

 むにゅりと潰れる乳肉と乳肉、乳首が擦れる快感がぴりりと頭の芯に来る。

 体を起こすと、股間のものが硬くなり始めるが、さすがに朝から盛ってはまずいと練気して納めた。

 勃起を収めると、体内の肉鞘に入った剛直は陰核と同じ外見をするので、見た目はほぼ女である。

 ふたなりの便利な肉体であった。

 が、さすがにいい加減着替えないとまずい。

 戸を叩く音と、ごめん、と言う人の声。

「むにゃあ……なぁに?」

 ゆきは、昨夜散々可愛がりすぎたせいかまだおねむであった。

 いつもはもう少し早く起きて朝食の支度をしてくれるのだが。

 凛はともかく身支度を整える。

「しばし待たれよ!」

 そう大声で言って、慌てて服を纏う。

 胸を隠し男ものの袴姿となり、腰に大小を差せば美男剣士の完成だ。

 そうして門まで赴くと、待っていたのは飛脚であった。

 渡されたのは文であった。

 裏返した時、凛は慄然とした。

「――」

 目を細め、表情より色をなくす。

 書かれた文字は名である。

 剣之城轟獣郎、と。

 玄関で立ち竦む凛に、遅れて服を整えたゆきが、眠い目を擦りながらやってきた。

「んー……凛、どしたの? お手紙? 誰から?」

 きょとんと首を傾げ、問いかける。

 振り返った凛はどこか寂寥を湛えた顔で、静かに応えた。

「私の、父だ」

 そして平穏なる日々は終わる。

 

続く

 

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