※この作品はR-18です。

ふたなり和風ファンタジー   作:ザ・シガー

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第六話 【蛭女紅殻】(後編)

ふたなり和風ファンタジー

 

【蛭女紅殻】(後編)

 

 息を切らし走る。

 繋いだ母の手が千切れるかと思うほどの疾走だった。

 屋敷の庭の方角より、先ほどから凄まじい音がする。

 爆音であった。

 何が起こっているかは明らかである、ゆきが戦っているのだ。

 相手はあの父、剣之城轟獣郎に他ならない。

 それがどれほどの意味を持つか、分からない凛ではなかった。

 ふすまを蹴破り戸を押し開け、凛は庭に駆け込みざまに抜刀した。

「ゆき!」

 地が割れ木が折れ、池が煮えたぎっていた。

 凄絶な戦闘があった事を如実に語る諸々の中、濛々とゆらめく白煙。

 煙る先より一個の影が歩み寄る。

 白髪と白髭、仕立ての良い上級武士にのみ着用を許された和服に、手には軽々と長大な大刀が握られていた。

 血刃をゆるりと肩に担ぎながら、その男、剣之城轟獣郎は笑っていた。

「あの蛙め、なかなかやりおるな」

「ゆきはどこですか……」

 背筋に冷たい、嫌な予感を覚える。

 凛は自分の声が震え上ずっているのさえ抑えられなかった。

 後ろで母が何かを叫んでいる、それも今は遠い。

「そこにあるではないか、目にはいらんのか、それとも、見たくないか?」

 口が、喉が乾く、凛はゆるゆると見た。

 赤い何かが、濡れた体が横たわっている。

 血まみれの美しい少女の体が。

 瞬間、血も肉も爆ぜた、剣者としてあるべき達観、水月の心を失い、無意識の踏み込みと斬撃。

 神刀無闘流が一手、絶刀唐竹斬り、ただただ渾身の力と霊力を剣身に込めて打ち込む殺人剣である。

「死ねぇえええええええッッ!!」

 これが自分の声かと疑うほどの、凄まじい絶叫を上げながら、凛は報仇に狂える剣狼となりて斬りかかる。

 轟獣郎は既にその動き最初の一歩の踏み込みを見た時点で気付いていた、危うげ無く僅かに身を反らせただけで悠々躱す。

 代わりに撃ち込まれる肘鉄の重い一撃。

 深く内懐まで踏み込み合った関係上、互いに剣を振り上げるゆとりはない、だが真に武芸の深奥を身につけた武人に武器の有無など前提条件の些細な違いにすぎない。

 剣を握る右手を引きつつ、左の肘を繰り出し、凛の下腹を強烈に打ち据える。

 凛は声にならぬ声を血反吐と共に吐きながら転がる。

 そこへすかさず繰り出される斬撃、上段の一刀は殺すのではなく、戦闘力を奪うべき、右肩を狙った。

 すんでのところでこれを跳ね上げた剣で弾く。

 反転、跳躍、構え、一挙動で全て行えた身軽さは流石は中近江に随一と言われた剣客の凛であった。

 対する父轟獣郎も何十年と合戦で磨き上げた死剣の使い手、両者は再び距離を隔てて相対する。

「おうおう、怒りおるわ。犬ころの雌一匹死んだところで何をそこまで怒る」

「黙れ……黙れ、死ねぇ!」

 餓狼の疾走、復讐の一刀、老武士の刃圏が迎え撃つ。

 鉄さえ断つ名刀の刃金が唸り、薄闇を孕み始めた夕刻に、今幾重にも火花が散りては消え、そしてまた散り乱れた。

 

□

 

 実の父子が殺し合う剣戟の演舞を固唾を呑んで見守る、妻であり母、龍姫は浴びせられる剣気の鋭さに身をこわばらせていたが、やがてはっと正気を取り戻す。

「ゆきさん!」

 慌てて駆け寄る、少女は答える事もなく、ただただ横たわっていた。

 そっと壊れ物を扱うように慎重に抱き上げ、膝に乗せた。

 酷い傷だ、深々とあちこちに刃を浴び、呼吸も脈拍も止まっている。

 だが、かつては巫女として霊物の眷属を使役し、深い造詣のある龍姫には分かった。

 まだゆきの身からは魂は抜けていないし、全身の細胞も最低限の生命活動を行っている。

 いわば仮死状態というものだ。

「でも、どうすれば……」

 救う為には、強い陽の氣を流し込むのが最善であろう。

 しかし轟獣郎の術を長年かけられ自由に術を使えない龍姫では……

 そう考えた時だ、龍姫は自分の白い指先に、揺らめく淡い光を見た。

 霊力の発露する燐光であった。

 二十年、術を使うはおろかまともに巡らせる事もできなかったものが、忽然と出現した。

「これは」

 轟獣郎の術が弱まっている、その時初めて龍姫は事実を感じ取った。

 なぜ? 理由は、一つしかない。

 霊力の波長の合う実の娘と、まぐわったからだ。

 たっぷりと精を受け、飲み干した子宮のあたりが、熱を持って甘く疼く。

 龍姫はそっと下腹を撫で、戦慄いた。

「う、うそ……そんな」

 体の内側の経絡に、探るように氣を巡らせた時である、龍姫は子宮にある小さな、とても小さなものを感じ取った。

 新しい命の息吹である。

 かぁ、と顔が赤くなり、凄まじい羞恥心と倫理観を踏みにじってしまった罪悪感、そして……堪らない歓喜。

 まさか、実の娘に種付けされてしまうとは。

 恥ずかしさのあまり死んでしまいたくなる、が、今はそんな事を言っているわけにはいかなかった。

 凛との行為と身籠った娘……いや、孫でもあるのだが、のお陰で、龍姫は久方ぶりに巫女の術を用いれる。

 これならば。

「ゆきさん、その……」

 仮死状態で眠る少女に、顔を赤くして熟女は告げる。

 ちらと視線を、死闘を続ける轟獣郎と凛へ向けた。

 夫と娘が戦っている横で、こんな事をしなければいけないとは。

 しかも相手は娘の恋人である。

 けれど、しなければいけない。

 陽の氣を最も強く流し込めるのは、命を繋ぐところ、産むところ、女性器に他ならない。

 ゾクゾクと羞恥心を感じ、同時にそれはなんとも言えぬ甘い快美の痺れを作った。

 恥ずかしい、恥ずかしいのが気持ちよさを助長する、自分が二十年犯され続けた結果真性の被虐癖の変態にされた事を薄々噛み締めながら、龍姫は和服の合わせ目を緩め始めた。

 ゆきの着物も前を肌蹴させた。

 まずは、表面的な傷の治癒だ。

 龍姫は呪文を唱え、指先に紡いだ氣でゆきの傷を塞いでいく。

 刃が極めて鋭利であった事が幸いしたか、傷はすぐに消えた。

 難しいのはここからだ。

 龍姫は手を重ね合わせ、その内に強く念じて造型を開始した。

「やだ、もう……」

 ずるん、と粘った汁を伴い、おぞましい塊ができる。

 龍姫の内心の欲求を表現したように、ごつごつとしたいかつい輪郭であった。

 氣を練り合わせて作られた、肉棒と酷似した張型だ、前後二方向に亀頭の伸びた形状をしている。

 龍姫は恥ずかしさと期待とに子宮を疼かせながら、それをそっと自分の膣口にあてがい、挿入する。

「んふぅうッ♡」

 声が裏返ってしまう。

 恥ずかしい、恥ずかしい……恥ずかしくて死にそうだ。

 努めて冷静に自分を客観視しないようにしながら、熟母はもう一方の亀頭の方を、ゆきの秘所に宛てがった。

「ゆきさん、ごめんなさい……あ、貴女の為、だから」

 まるで言い訳をするように告げて、龍姫は腰を前に突き出す。

 あまり濡れていなかったが、滴る龍姫の愛液で最低限の湿りは得ていた。

 にちにちと肉の壷を掻き分け、侵入する張型。

 当然その動きは間接的に繋がった龍姫の膣をも抉る。

「く、ああ……あッ♡ ああ♡ ごめんなさい……ごめんなさいぃ♡」

 涙と唾液で白い美貌を汚しながら、母は腰を振る。

 決して激しくはない、お腹の子とゆきを気遣った緩やかな腰使いだが、同時に快楽を貪る為の捻りも忘れない浅ましい動きだった。

 快感にむせび泣きながら、熟しきった巫女の女は、丹田から子宮、膣を通して生命の氣をゆきの肉体へ流し込み始める。

 黒い髪が乱れ、着物から零れた爆乳がだぷだぷと波打った。

 突き上げられるたび、ゆきの豊かな胸も弾む。

 心の臓が止まっていた体が、徐々に赤みを帯び始めた。

 指先が動く、表情が動く、臓腑が蘇る。

 さすがは白狼神の一族であった、巫女の血族の氣を帯びて、緩やかにゆきの生命は回復し始めた。

「あ……あれ、あ……ひゃああッ♡ ちょ、ちょ……龍姫さん、おかあさん……なに、あッ♡ ああッ♡」

 目を覚まし、仮死状態から目覚めたゆきは、突然感じた蕩けるような快楽に目を白黒させた。

 当たり前だ、寝起きにいきなり義母と言える相手に襲わてて驚かないものがいようか。

 龍姫といえば、腰を振るのが相当良かったのか、張型が膣に合い過ぎたのか、もう腰が止められなかった。

「ごめんなさい、あとちょっと……あと、ちょっとで、ひあ♡ お゛ぉぉ♡ くる……くる! ああああッ♡」

「くぅうう!!」

 一際強い突きが、ゆきの奥を擦り上げる。

 あとちょっと、それは淫乱の熟女がイクまでの時間であり、ゆきの肉体を完全回復させる氣の流れをも意味していた。

 射精こそできないまでも、おびただしい形なき氣の流れがゆきを満たす。

 同時に、快楽も二つの女体を満たした。

 子宮から腰、腰から背筋、そして全身の血脈へと行き渡る強烈な氣。

「ああ、もう……龍姫さん、がっつきすぎ……」

「ごめんなさい……んッ!?」

 息を切らし、羞恥心に身を震わせる熟女に、ゆきは顔を寄せて唇を重ね、ぬるりと舌を差し込んだ。

 ぴちゃぴちゃ唾液を飲み合う淫らな接吻をすると、糸を引かせながら離す。

「うふふ、可愛い♡ 別に気にしてませんよ、凛とまぐわうのも、私とするのも、どっちも気持ち良いんですよね? 凛をお嫁さんにしたら、二人でいっぱい可愛がってあげますから」

「や、やだ……もう……」

 自分が娘の凛とまぐわった事も知られていて、今またからかうように煽られる事に、背筋が震えてしまった。

 ゆきに些末な悋気は薄い。

 そもそも神々にとって、近親相姦や一夫多妻という重婚の禁忌感などは重い意味など持たなかった。

 神代の昔より大和の神々は親兄弟で子を作る事も多いゆえに。

 ゆきはゆっくり身を起こす。

 そして和服を着直した。

 龍姫は彼女に霊氣を与え過ぎた為か、ぐったりと地べたに膝を下ろしたままである。

 そもそも直接的な戦う術の少ない巫女だ、見ているだけの方がありがたい。

 手振りで龍姫に下がっているように示すと、ゆきは一気に駈け出した。

 

□

 

 頭上から振り下ろされた雷刀を危うく剣で受ける凛。

 霊力差はそこまで甚大ではない、だが体格差が大きい、筋骨の塊のような腕の斬撃を受けかね、あわや額に触れそうになる轟獣郎の一刀。

 瞬間、轟獣郎の顔に足がめり込む。

 鋭い爪を宿した長いしなやかな白い足だ。

 霊氣によって白銀に煌めき輝く髪を揺らし、狼の少女が降り立った。

「ゆき!?」

 轟獣郎を殺そうとやっきになって戦い続けたあまり、傍らでまぐわった二人の姿も、生き返ったゆきの事も知らなかった凛は、声を上げて驚いた。

 ゆきはというと、にんまりと悪戯っぽく笑う。

「ゆき、生きて……いたのか。良かった」

「うん。龍姫さんのお陰で助かったよ、今から私も手伝ってあげるからね」

 口角を釣り上げるゆき、口から覗く牙が鋭く威圧的に轟獣郎へ向けられる。

 老武士はつまらなそうにふんと鼻を鳴らした。

「しつこいのう、いい加減死におれ」

「死ぬのは貴方」

 冷たい目を向け、ゆきが跳ぶ。

 長い鉤爪の一撃が空を切る。

 地を這うように踏み込んだ凛の一閃も同時に奔る。

 右手に大刀、左手に小刀を持った轟獣郎が応じた。

 交錯する三つの影。

 老いた男の脇腹から血の線が噴き出る。

「ぬう」

 落ち着きを取り戻した凛の剣は鋭く冷静であり、二対一という数的不利が強く働いている。

 さしもの轟獣郎もこれには苦戦を強いられよう。

 その時、彼の傍に降り立つ赤い影がある。

「紅殻か」

「はい、主様」

 赤い髪と着物の美しき妖女、蛭女紅殻である。

 その出現がいかなる意味を持つか。

 右手には何やら赤い塊があった。

「蛙めはどうした」

「もちろん、ぶち殺してさしあげましたわ。自慢の舌も、この通り♪」

 びちゃりと地面に落ちる長いそれは、蝦蟇兵衛の舌であった。

 首級と同義の舌を見て、血の凍る思いを、怒りを抱く三者。

 轟獣郎はほくそ笑んで声を上げる。

「はは! よくぞやった。さて、ではこれよりあの二人を片付けるゆえ、手伝え。ああ、そうだ、凛の方はできるだけ殺さずにな。狼は殺せ、絶対に殺せ」

「仰せのままに」

 しなやかな白い腕の先から蛭の触手を伸ばす紅殻。

 轟獣郎と並んで挑む戦力がどれほどのものになるか、凛とゆきは身構えた。

 刹那、紅殻の一撃が走った。

 傍らの、主へと。

「……な、に」

 轟獣郎が、初めて驚愕に目を剥いた。

 彼がこんな顔をするのは何十年ぶりであろう。

 自分の胸から突き出る触手、蠢く軟体の蛭の鋭い切っ先は、背中から入っている。

 忠臣である下僕の叛意であった。

「あぁん、主様。ごめんなさい♡」

「~~ッ!」

 嘲りの笑いを浮かべ邪悪に囁く下僕へ、一刀を振り抜く轟獣郎。

 その腕を何かが絡めた。

 粘った液である。

 蝦蟇の油である。

 何かが土中より飛んだ。

 土遁の術により潜んでいた忍はその時、積年の恨みを忍者刀に込めて叫んだ。

「我が姫の恨みである、受け取れぇい!」

「乱破ぁあああ!!」

 咄嗟に身を翻し応じようとする轟獣郎、だが遅かった。

 脳天より胸板、心の臓符までを、妖魔忍の一斬は確かに捉え、両断してのけた。

 着地する蝦蟇兵衛を、凛もゆきも、龍姫も呆然と見つめていた。

「が、蝦蟇兵衛様、ご無事で……い、一体」

「いやなに、大事ござらぬ。舌先三寸失ったに過ぎませぬ」

 蝦蟇兵衛はべろりと長い舌を伸ばし、先端を幾分か失った様を見せた。

 これで平素と変わらぬしゃべり方をできるのだから便利この上ない。

 忍者は鬱陶しそうに、傍らにいる蛭を見た。

 蛭もまた蛙を疎ましそうに見た。

「ちょっとした取引にござる」

 

□

 

 屋敷内での蝦蟇兵衛と紅殻との戦いは、相当に白熱した接戦であった。

 片や伊賀の名忍であった妖魔の蛙。

 片や名門剣之城家の秘術を駆使し神を素材に産んだ妖である。

 蝦蟇兵衛の手裏剣と舌は触手の鞭に弾かれ、同時に紅殻の鞭も蝦蟇兵衛の忍者刀に受け流される。

 数百手の攻防を交わすうち、二人はこの戦いが終わりないものであるのを悟った。

 かといって逃げ出すという手段は決してない。

 最初に武器を納めたのは蝦蟇兵衛であった。

「己に問いたき儀がある」

「命乞い?」

「己、本当にあの轟獣郎めに身魂を捧げて奉じる存念か」

「……」

 それまで妖しく艶やかに人を嘲り、からかい、嬲ってきた女の顔から、表情が消えた。

 蝦蟇兵衛は知っていた、あの轟獣郎という男が己の下僕をどう扱っているか。

 そして、紅殻の神性の由来も。

 誇り高い八百万の神々に連なる彼女が、永遠の下僕の生に不満を抱いているのも。

「剣之城には新たな主が必要であろう」

「つまり……?」

「わからぬか」

 にやりと蝦蟇兵衛は笑った。

 忍の武器はただ武器や術のみにあらず、口八丁手八丁にて対手の戦意を削ぎ、あるいは叛意を促すのもまた忍者であった。

 

□

 

 かくして、謀反は相成ったのである。

 舌先程度失うに怯えなどない。

 蝦蟇兵衛は見事に積年の仇敵を討ち取ったのだ。

 屋敷に残っていた奉公人や侍は、正妻である龍姫に言われ暇を出された。

 使い魔や妖魔の類の配下も逆らう事はない、最上位の側近であった紅殻の一言で彼らは伏するのである。

 夕刻の一戦が嘘のように、夜半の剣之城家屋敷は静寂に包まれた。

「お二人は身共が介抱いたす」

 蝦蟇兵衛は深々と平伏し、急激な消耗で横たわった龍姫とゆきの傍についた。

 古来、蝦蟇の油は傷薬にも最良と言われてきた、忍者である蝦蟇兵衛は手当の術も心得たものだ。

 すっかり氣力も体力も消耗して眠る龍姫とゆきの傍につき、不休で忠臣の老忍者は侍った。

 凛はというと、実の父の死や、諸々の事にまだどこか心が飛んでいるような心地で、ぼんやりと布団の上で座禅を組んでいた。

「……」

 果たして、この先どうすれば良いのだろう。

 轟獣郎の躯は庭に埋めた。

 この事を、藩庁に報告すべきか否か。

 もし報告したとして我が身は、母やゆきはどうなるか。

 兄達にはなんと言うべきなのか。

 それに……自分の子を身籠ってしまった母。

 考えねばならぬ事はあまりに多かった。

 そんな風に考えに耽っていると、ふすまの外に気配を感じる。

「誰か」

「蛭女紅殻にございますわ」

「……な」

「失礼を」

 するするとふすまを開け、三指を突いた美しい妖女が訪れた。

 凛は語るべき言葉を失った。

 敵として己を捉え、母諸共に辱め、そして裏切り自分についた妖怪の女。

 赤い髪をさらさらと揺らし、白い顔の切れ長の瞳も、また赤い。

 正に血を啜る蛭の化身である。

「何用か」

 硬い声で凛は問いかける。

 妖女ははにかんだように微笑んだ。

 美しく、艶やかに。

「新たな主様のご挨拶に、と」

 するすると、膝立ちのままゆっくり近づいてくる紅殻。

 思わず凛は座禅を解き、後ろに退こうとする。

 その手を白い指が絡めとった。

「ああ、お待ちになって。何も、そんなに怯えずともよろしいですわ」

「怯えてなど」

「でも、震えておりますわ」

「それは」

 顔がぐいと寄ってきた。

 前髪と前髪が重なる、寝間着であった凛の、家人が誰も居ないために隠すのを忘れていた、豊かな胸の膨らみに、紅殻の膨らみがぶつかる。

 いやらしくひしゃげる乳の肉と肉。

 龍姫ほど大きくはないが、少なくとも凛やゆきに負けないほどの大きさがある。

 凄まじい乳房だ。

 近づく顔。

 かかる吐息は蜜のように甘い。

 生唾を飲む凛は、慌てて手を伸ばす。

「やめ、近づくな」

「あら。そんなご無体な。わたくしの仕える主様は、もっと素直になってよろしいんですのよ?」

「!」

 伸ばした手を、紅殻は肩から自分の胸へ手を添えて誘導した。

 むにゅりと指が埋まる、素晴らしい感触。

 いつのまに服を緩めていたのか、紅殻は白い肉を溢れさせていた。

 真っ白で、柔らかい、蕩けるような感触だ。

 するすると服を脱ぎ、淫らな肢体を凛へ覆い被せていく紅殻。

 凛はその強引さと色香に心乱されたのか、自然と息を乱して見入ってしまう。

 股間が熱い……肉が、硬く……大きくなる。

「ふふ♡ わかりますわよ。ふたなりの女が、どう感じるか、同じ女をどうしたいか、わたくしだってそうなれますもの。どうです? わたくしの事、犯したいでしょう?」

「そんな、それは……それは」

 ゆきと龍姫の事が脳裏をかすめ、凛は拒もうとする。

 そんな事を、劣情に任せて女を犯すような事を、許せるはずがなかった。

 彼女はどこまでも頭が硬い、そして、貞操の観念が強かった。

 しかし妖女はなおも甘い言葉で畳み掛ける。

「お気になさらないで。わたくしは下僕、今日からは轟獣郎様に代わって、貴女様に仕える奴隷ですわ。好きな時好きなようにわたくしを犯して、苛めて……ものみたいに扱って、嬲り尽くしてよろしいんですのよ?」

「そ、そんな事!」

「だから、気にしなくてもよろしいですわ。轟獣郎様だって、わたくしをそう扱っていたんですから」

 ふふ、と妖しく微笑する紅殻。

 ぞくりとした。

 一瞬想像してしまう、この妖艶な女が、めちゃくちゃに犯し抜かれる様を。

 一層と股間が熱く硬くなった。

 気づけば、服を脱がされていた。

 紅殻が手をするりと滑りこませ、凛の服を剥く。

 豊かな胸が弾み、袴の中から巨大な肉棒がぶるんと飛び出す。

「まあ、本当に大きい♡」

「こ、紅殻! やめなさい、やめ……ふぁああ!」

 包まれた。

 ふわふわもちもちとした肉の海にへと。

 紅殻は唾液と汗のぬめりで湿る自慢の乳房の中に、凛の剛直を導いた。

 乳での愛撫が嫌いな男などいない、ましてやふたなりの凛ならなおのこと、敏感な剛直で感じるだろうと踏んでいた。

 事実、挟まれた瞬間に凜の声は裏返っていた。

 紅殻は微笑みながら、手で左右から強く挟む。

 そして上半身を揺らし、たっぷり扱き始めた。

「うふふ♡ びくびく震えて、可愛いですわ♡ どうです、わたくしの胸は?」

「くあ……あああ! んふうッ♡」

「その様子じゃ、聞くまでもありませんわね♡」

 長い赤い髪を揺らし、ちろちろと舌まで這わせる紅殻。

 掬い取る我慢汁を嚥下し、なおもねっとりと舐め上げる。

 それはかつて味わったまふゆの乳擦りに匹敵する快感だった。

 何人もの男を挟んできた愛撫の技量である。

 凛は声を上げ、腰を震わせ、与えられる快感に戦慄く。

 紅殻は性急に責めはせず、ゆっくりと高めるように擦り続けた。

 いつ出るかは全て手中にあった。

「さあ、お出しになって!」

「でる……でる、イクぅうう!」

 凛は呆気無く果てた。

 たっぷりと精の汁がぶち撒けられ、紅殻の赤い髪と白い美貌を濡らす。

 妖女は浴びせられた汁を飲み干し、心底美味しそうに舌なめずりした。

 そして体を起こし、横になる。

「ああ……」

 凛は呻いた。

 目の前で、紅殻が股を広げ待っている。

 豊かな乳は期待の動悸に上下し、むっちりとした白い腿は食べてしまいたくなるほど美味しそうで、指で広げられた膣口が早く犯して欲しいと愛液を垂らしている。

「さあ、主様♡ このはしたない家畜に、雌の奴隷にお情けをくださいまし♡ 今日から貴女の好きにできる玩具ですわよ♡」

 一見嗜虐癖の者に見える紅殻だが、その実は強烈な被虐癖のある女でもあった。

 犯すのも好きだが、犯されるのも大好きな真性の淫乱だ。

 ごくりと唾を飲んだ凛は、ゆるゆると彼女の股の間に身を割り込ませ、亀頭をぴたりを添える。

 そして、一瞬で突き抜いた。

「ひゃおおおおッ♡♡」

 歓喜の絶叫、余裕を一撃で奪われた紅殻であった。

 凛は挿れたが最後、後はもうしゃにむに腰を振りたくった。

 ゆきや母を抱くような戸惑いやいたわりは消えていた。

 獰猛な劣情のままに腰を突き上げ、抱く……いや、抱くというよりは、犯す、か。

「この! 人を、誘って! この、この! これが良いんですか! この淫売が!」

「嗚呼! ひぁ……おぉおお♡」

「答えなさい!」

「ひゃうう♡ は、はい♡ そうです♡ 誘ってましたわ♡ お、犯されるの好き♡ 大好きだからぁあ♡」

 凛は豊かな尻を打ち下ろし、それはもう強烈に犯す。

 遠慮会釈ない、鍛えられた足腰の力と、体重を全てかける姦通だった。

 身を寄せ合うと二人の豊かな乳はひしゃげ、顔が寄る。

 凛は口付けよりまず、首筋に噛み付いた。

 甘噛みであるが、相手を服従させる獣のように荒々しい愛撫だった。

 白い首に血の珠を浮かべ、それを舐められ、紅殻は声を裏返した。

「あ゛ぁあ♡ い、いたぁ♡ いたい……ああ」

「痛い方が、良いんでしょ。こんなに締め付けて……ド変態の奴隷ですね」

「あひぃい♡ も、もっと言って♡ いぢめてくださいまし♡ お゛ぉぉぉ♡ そこ、そう、そこ! もっと突いてぇえ!」

 最奥に叩きつけ、子宮口を亀頭でこじ開ける。

 ゆきが相手ならもう少し動きを落ち着かせ、射精まで我慢したかもしれないが、凛はそんな事はしなかった。

 ただただ自分勝手に射精を求め、一心不乱に動く。

 そうしてモノのように扱われる心地に、余計紅殻はゾクゾクと悦んだ。

「出しますよ! 受け取りなさい!」

「あ、あああ♡ あ゛ぁぁあ♡ ん゛ぅうう♡」

 ぶち撒けられる精液。

 粘りきった白濁が、膣も子宮も満たしていく。

 絶頂に飲み込まれた二つの女体は、汗みずくになって布団の上に横たわった。

 息を切らし、ぜえぜえと余韻に沈む凛と紅殻。

 新たな主の美しさと与えられる快楽に、紅殻は満悦の笑みを浮かべた。

「ああ……素敵、ですわ……主様♡」

 真性淫乱の彼女からすれば、逞しい男でも美しい女でも、構わない。

 相手が絶世の美女である凛ならなおの事だ。

 ゆっくりと身を起こし、今度は自分が上になろうとする。

 その時、背後でふすまが開いた。

 振り向いた妖女は顔面蒼白となった。

「お前の主はわしでなかったか」

 顔を真っ二つに割られた屍が、そう告げた。

 何かが飛んだ、紅殻の体を貫いた。

 剣が妖女を貫通したのである。

 凛は瞬間的に身を起こし、枕元の一刀に手を伸ばした。

「まさか……そんな、父上」

 刀を手にしながら、呻く。

 そこにいたのは、死んだ筈の轟獣郎であった。

 ありえない、躯が動くなど。

「父であるが、父ではない。軽々しく口をきくでないわ」

 躯は悠然と歩み、家長の居間に置かれていた諸々へと寄った。

 鎧と槍、そして弓。

 愛用の武器を手にし、躯は告げた。

「家祖、剣之城鳳頑である。ひかえおろう」

 

続く

 

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