ルイのアナウンスにしたがってフロアに下りると、籠を抱えた‘旦那様’と少年たちがぞろぞろと集まってきた。
「皆様、もう全員いらっしゃいますね。では、‘旦那様’にはこちらにお並びいただいて、籠をスタッフにお渡しください」
俺はやっと焦れったい責め苦から解放され、ほっとしていた。その時、藤島に体を支えられた理央がよろよろと螺旋階段を下りてきた。
「…いだだだだ…」
「理央、だから無理するなって言っただろう?」
「どうしたんですか?」
理央は中腰のまま、苦しそうにうめいている。
「また理央のお尻が切れちゃってね…今から薬塗るとこなんだ」
「えっ!だ、大丈夫ですか?」
藤島は理央をいたわりながら、フロアのすみのソファーへ向かって行った。
「ほら、理央、がんばって」
「うぅ………」
俺が理央を気にしていると、金色の卵の集計がすんだのかフロアは静かになった。
「では、結果を発表いたします。まず、第3位の方から」
やや大袈裟なドラムロールの後で、名前が発表された。
「第3位は、九条さまです!5個手に入れられました」
悟の隣にいた九条は、少し照れたように笑った。
「3位か。少ないかと思ってたけど、嬉しいよ」
「続きまして、第2位の方」
再びドラムロールが響く。
「第2位は、高橋さまです!9個手に入れられました」
理央の‘旦那様’の一人である高橋は、嬉しそうに歯を見せて笑った。
「そして、第1位は……」
さっきよりも長めのドラムロールが響き、緊張感が増した。
「第1位は、間壁さまです!11個手に入れられました。おめでとうございます!」
拍手が起こり、間壁も笑顔で礼をした。そして、俺の方を見てにっこり笑った。
ルイはフロアのステージ上に間壁を呼び、軽く握手を交わした。
「間壁さま、優勝おめでとうございます。優勝賞品として、お気に入りの少年と邸外でのデートをお楽しみいただけます」
間壁に手招きされ、俺は戸惑いながらステージに上がった。
「連太郎くん、君と二人きりで過ごしたい。…いいかな?」
「よかったね、連。間壁さまをたっぷりおもてなしして、楽しんでいただきなさい」
皆に拍手され、俺はおろおろしたまま何も言えなかった。
(邸の外でデート、って…どうすればいいんだ)
イースターイベントが一通り終了すると、‘旦那様’たちはウサギ衣装の少年たちと部屋に戻って行った。
「和人さま!」
フロアを出ようとする和人を見かけ、俺は声をかけた。
「あの……間壁さまと勝負されてたんですか?……その……俺の身請けを賭けて…」
「…ああ、まぁな…」
和人は何かを言いたそうに、そわそわしていた。
「…間壁に負けた。ごめん」
「…いえ、そんな…」
「……正直、勝負なんかしたくなかったんだけどな。断れなくて、結局こうなってしまったんだ。勝手にやって悪かった。…お前がどうしたいのかも聞いてないのに、俺らが勝手に勝負して、決めるのもどうかと思うんだ」
「…和人さま……」
和人は俺に近付き、俺の目を見ながら呟いた。
「……俺は…お前と一緒にいるのが楽しくて、…最初はこんなことはくだらないと思ってたけど…。だから身請けを申し出たんだ。勝負に勝ったのは間壁だし、お前の気持ち次第だから…」
気まずそうに言うと、和人は邸の出入口に向かってゆっくり歩き始めた。
「…か、和人さま!」
「…なんだ?」
「あの…俺も…和人さまといられて楽しいです…だから、あの………」
ぐっと胸が苦しくなり、言葉が出てこなかった。
「…今日はゆっくり休めよ。またな」
車に乗り込む和人の姿を見たまま、俺は何も言えずにしばらく立ちつくしていた。
部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、間壁に呼び止められた。
「連太郎くん。邸外のデートのことだけど…」
「はい…」
「オーナーに頼んで三日間君といられることになったから、俺のプライベートビーチに行こう!」
「プ、プライベートビーチ、ですか?…まだ寒くないですか?」
「大丈夫だよ!日本じゃないからね」
間壁は嬉しそうに俺の頭を撫でた。
「明日から早速出発だよ。朝に迎えに来るから、準備しておいて」
「明日ですか!?俺水着とか何にも持ってないし…」
「プライベートビーチなんだから、全裸でいいよ!」
「……………」
俺に軽くキスをして、間壁は機嫌よく帰っていった。
翌朝、悟に借りたリュックに荷物を積め、俺は邸の玄関前で間壁を待った。
「お待たせ!」
間壁の運転する車に乗り込むと、俺達は間壁の邸宅へと向かった。
「普段着の連太郎くん見るの初めてだから、なんか新鮮だなぁ。こうやってみると普通の男の子みたいだね」
「そ、そうですか?…」
確かにいつもの状況は普通じゃないよな、と俺は改めて思った。
「ほら、着いたよ」
間壁の邸宅は男娼館並みに大きく、年季の入った豪邸だった。庭は広大すぎて、どこまでが間壁の持ち物なのか分からなかった。
「すごい…ここに住んでるんですか?」
「実家だよ。普段は仕事で忙しいから、都内のマンションに一人暮らしだよ。ジェット機がここからしか飛ばせないんだ」
「ジェット機!?自家用ですか…?」
「うん、そうだよ。連太郎くん、ジェット機でも大丈夫?」
「は、はい…」
間壁は俺を連れて、すでに用意されたジェット機に乗り込んだ。
「あの…間壁さまが操縦するんですか…?」
「まさか!ちゃんと操縦士がいるから大丈夫だよ」
中はまるでホテルのようにきれいで広々とし、国内線のエコノミーしか乗ったことのない俺は驚いて何の感想も口にできなかった。
「ごめんね。もうちょっと大きい方のジェット機は今兄貴が使ってて…狭い方になっちゃったんだ」
「狭い!?実家の俺の部屋よりかなり広いですよ…」
離陸すると、間壁はグラスにワインを注いで渡してくれた。
「あ、ありがとうございます…」
「連太郎くん、緊張してる?」
「いや、あの…なんかスゴすぎて…」
俺は、間壁のことを一代でのしあがったタイプの金持ちだと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。
「実家もお金持ちなんですね…」
「大したことないよ。うちは祖父の代から会社を経営しててね。兄貴が跡を継がなかったから、父親にお前が継げって言われたんだけど…俺は別にやりたいことがあったからね」
俺達は食事をとり、いつものように会話をした。しばらくすると、間壁は俺の肩に腕を回して引き寄せた。
「連太郎くん、着いたらすぐビーチだから、ここで脱いじゃっていいよ」
「いや、それはさすがにちょっと…」
「俺達以外誰もいないんだから、大丈夫だって!何なら俺が手伝ってあげようか?」
そう言って間壁は俺のスタジャンを強引に脱がそうとしたため、俺は慌てて制止した。
「いいです、自分でできますから…!」
「やってあげるのに…」
俺が服を脱ぎ、間壁も水着に着替え終わる頃、ジェット機が着陸した。
プライベートビーチに向かうと、一面にクリーム色の砂浜が広がり、まだ肌寒い日本とは違って裸でも平気なほど暖かかった。穏やかな澄んだ海がゆっくりと揺れている。
「きれいな所ですねー」
「だろ?気に入ってもらえて嬉しいよ。俺もここが好きなんだ」
砂浜を歩き、海に足を入れると、穏やかな薄い波が指の間を抜けていった。
「泳いできていいよ。ここで見てるから」
「間壁さまは泳がないんですか?」
「俺はいいよ。連太郎くんを見ていたいから」
間壁はビーチチェアに横になり、くつろいだ様子で足を組んだ。
俺は波を蹴飛ばしながら歩き、ゆっくりと海に入った。海水はちょうどいい温度だ。
「…クラゲとかいたらヤバイな…」
全裸で海に入るのは初めてで、なんとなく心許ない感じがした。
青色の海はゆらゆらと揺れ、差し込んでくる日の光が小さな魚や海藻を照らしてキラキラ光っていた。
「…なんか、夢みたいだ」
一ヶ月ほど前まで引きこもりニートだった生活からは想像できなかった景色に、俺はうっとりとした。
無防備な部分を波がくすぐり、妙な解放感がある。
しばらく泳ぎ、海面から顔を上げると、澄んだ青空が広がっていた。
「連太郎くん」
砂浜から間壁が俺を呼び、俺は海から上がった。
「けっこう泳ぎ上手いんだね。海はどうだった?」
「温かかったし、めっちゃきれいでした」
「君も綺麗だったよ。そこ座って」
ビーチチェアに座り、渡された水を飲んだ。
「本当に誰もいませんね」
「そうだよ。だから全裸でも恥ずかしくないだろ?」
間壁はビーチチェアから体を起こし、俺のヘソからぺニスまでゆっくりと撫で下ろした。
「あっ………」
「ここならセックスしても大丈夫だよ」
体を撫で、ぺニスを擦りながらキスをされた。
「んっ…はぁ…」
「おちんちんが勃つの、いつもより早いね…興奮してるのかな?」
アナルまで指を滑らせ、ぺニスから垂れた蜜を塗り込めるように撫でられた。
「ほら、もう二本も入っちゃったよ…」
「やっ…あぁぁん…」
解放的になっているせいか、いつもより体が感じやすくなっていた。
「もう入れられそうだな…お尻こっちに向けて」
すでに蕩けたアナルにぺニスを突き入れられ、初めから激しくピストンされた。
「あっあっあっあっあっ…」
「あぁ、もうトロトロだね…おちんちん欲しかったの?」
頭がボーッとし始め、俺はセックス開始早々イってしまった。
「…んっ…あぁぁん!」
「あれ、もうイっちゃった?…思ってた以上の効果だな」
間壁は俺が射精した後も激しくぺニスを打ち付け、やがて自身もコンドームの中に射精した。
「あぁ…よかったよ」
俺に軽くキスをし、ぺニスを引き抜いた。
「んあっ…」
「お腹空いただろ?昼ごはんにしよう」
俺は間壁に連れられ、全裸のままビーチの側に建つテラスに向かった。
「今日は俺が腕を振るって、連太郎くんに美味しいもの食べさせてあげるよ」
「間壁さま、料理されるんですね」
「一人暮らしが長いしね。料理は好きだよ」
間壁が手際よく料理をしている間も、俺の頭はぼんやりしていた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。これは…なんていうやつでしたっけ」
「ナシゴレンだよ。インドネシアのチャーハンみたいなやつ」
「……美味しい!間壁さま、さすがですね」
俺はバクバクと料理を食べた。料理が美味しいのと、泳いでお腹が空いていたからだろう。
「よかったよ。連太郎くん、けっこうよく食べるね。まだあるからどうぞ」
少しおかわりをもらうと、満腹感とともに急激に眠気が襲ってきた。頭が重くて上げられない。どんどん意識が遠のき、俺は深い眠りに落ちた。
「ん……ここ、どこ………」
目を覚ますと、白っぽい天井が目に入った。地面が微かに揺れ、低いモーター音が聞こえる。
「目が覚めた?」
間壁が俺の顔を覗き込み、額にキスをした。
「まかべ、さま……」
軽い頭痛がし、俺は何度も瞬きした。
「連太郎くん、これで本当に二人きりだよ」
目だけを動かし、周りを見回すと、そこは初めに乗ってきたジェット機の中だった。
「あれ…帰るんですか?」
「いいや。今から俺の新居に行くんだ。最近サウスベイに引っ越したから」
「さうすべい…?って何ですか?」
間壁は俺の髪を撫でながら言った。
「ロサンゼルスだよ。本社をロスにうつすことになって、俺もそっちの家を買ったんだ」
まだ状況が理解できず、頭が回らなかった。
「つまり、君を身請けするから、ロサンゼルスの家で一緒に住もう、ってことだよ」
身請け、という言葉に、俺は少し目が覚めた。ガバッと起き上がると、まだ頭痛がした。
「え、そんな…俺、まだ何も…」
「まだ身請けの手続きはしてないけど、とりあえず君を連れて行ってからでもいいよね」
ぎゅっと抱き締められ、耳許で囁かれる。
「もう俺のものだよ。逃がさないから」
ジェット機の中ではどうすることもできず、俺は全裸のままソファーの隅で固まっていた。
「もっとくつろぎなよ。ロサンゼルスまではまだまだ時間かかるよ。途中で給油しないといけないし…ほら、こっちおいでよ」
腕を引っ張られ、間壁の隣に引き寄せられた。
「あの…俺…」
「どうしたの?」
間壁は俺の内腿をくすぐるように撫で始めた。
「間壁さまに、まだ返事できてないし…それに、身請けだって……」
「連太郎くん」
肩を掴まれ、鋭い視線で見つめられた。
「どっちが君にとって良いことなのか、考えたほうがいいよ。男娼館に戻ってずっと男娼として暮らすか、俺とロサンゼルスで暮らすか」
息がかかるほど顔を近づけられ、俺は目線をそらした。
「あの龍ヶ崎っていう男が気になってるの?…あの男は君のことを何とも思ってないよ。勝負の話を持ちかけた時だって、あいつは嫌々承諾したんだ。ひどい奴だよ、初めから君を身請けする気なんてなかったんだ」
「そ…そんな人じゃないです、和人さまは…」
間壁は、はぁ、と溜め息をついた。
「あの男のことをそんなによく知ってるのか?聞くところによると、初めは男娼館のことも良く思ってなかったそうじゃないか」
「で、でも…和人さまは…優しい方です」
イライラしたように間壁は立ち上がり、小さな窓から外を眺めた。
「…連太郎くんは…龍ヶ崎が好きなのか?」
そう言われ、ズキンと胸の奥が痛んだ。
「………えっと……」
「俺は別に構わないよ。今、君が龍ヶ崎を好きでも」
間壁は背を向けたまま、彼の荷物から何かを取り出した。
「俺のことを好きにさせるから。俺とのエッチじゃないとイけないようにしてあげる」
いきなり俺の上に乗りかかり、間壁は激しくキスをした。
(第13話に続く)