芸術家の逢坂が絵画を仕上げるために男娼館に滞在し、三日が経った。彼はアトリエにこもったまま、一階フロアに降りてくることもなく、絵画に没頭しているようだった。
俺達はいつものように過ごし、この日の昼も食堂で雑談していた。朝から強い雨が降り、来館する‘旦那様’も減ってしまいそうな日だった。
「あーあ。絵のモデルだったら、ぜったいぼくのほうが芸術的な絵になるのにぃ~」
いちごミルクのジュースをストローで吸いながら、ダルそうに理央が呟いた。
「いやいや無理ですよ理央さん、あの方ショタコンの趣味ないって言ってたじゃないですか」
「悟くんだって、芸術的じゃないって言われてたじゃん~」
理央と悟はじゃれあっている。
「…そう言えば二人とも、ユーのお見舞い行ったの?」
「一応、行くにはいったんですけどね…」
あの後、俺と悟はユーミットの部屋を見舞ったのだ。しかし、ユーミットの返事はなく、部屋に閉じこもったきり姿を見ていない。
「どうしちゃったんですかね、ユーミットさん…」
理央はうーんと考える仕草をした。
「……これはおそらく……恋煩いかな!」
「恋煩い?一体誰にですか?」
「誰って…そりゃあ城崎さまに決まってんじゃん」
「えー?お客さんにですか?」
俺がそう言うと、理央は目を丸くした。
「お客さん…って!城崎さまはユーの水揚げした人だし、一番ご贔屓してくれてるんだよ?ユーにとってはただのお客さん以上の大事な存在だよ!」
「でも…ユーミットさんってゲイなんですか?そうじゃなかったらいくらお世話になってても、恋愛なんか無理ですよ」
理央ははぁーとため息をつき、大袈裟に首を振ってみせた。
「まだまだ分かってないなぁ~連太郎は。ぼくたちは、単純に男性の夜のお相手をしてればいいんじゃなくて、心での繋がりを一番大切にしないといけないの。だからゲイとかノンケとか関係なしに、心構えとして‘旦那様’に恋する気持ちがないとダメなんだよ。‘旦那様’たちもそれを理解した上で、ただエッチするだけじゃなくて、ぼくたちとの疑似恋愛を楽しむためにいらっしゃるんだ。」
俺はいまいちピンとこなかったが、思っていたより奥深い世界だということはなんとなく分かった。
「ユーだって、男の人が好きなわけじゃないと思うけど、城崎さまとは長い間‘お付きあい’してるから、本当にそういう気持ちが芽生えても不思議じゃないってこと!」
うんうんと自分で頷きながら、理央はいちごミルクを飲みほした。
「やっぱ、城崎さまのことでなんかあったんですかねー。早く元気になってほしい…」
「そういう悟くんは?九条さまとなんかあった?」
ニヤニヤしながら理央が尋ねると、悟は少し顔を赤くした。
「いや…その、初めて僕のご贔屓様になってくれるって…」
「よかったじゃん!!九条さま、悟にメロメロだったもんね~。メイドイベントの時も、結局朝までずーっと…」
「もう!その話はいいですって!」
「なんでー?だって、フロアでもみんな見てたよ。あの日、九条さまは何をする時も悟のアナルに挿れたまま…」
「もー!いいってば!」
悟は真っ赤になって理央を制止した。
「で、連太郎くんは?龍ヶ崎さまと」
「…えっ?俺ですか?…特には…。和人さまもなんとなく素っ気ない方だし…」
すると、キョトンとした顔で悟が呟いた。
「連太郎くんと龍ヶ崎さまとのエッチは、けっこう評判だったよ」
「!?えぇっ?なんでですか!?」
俺は今さら人前でセックスしたことへの恥ずかしさが込み上げてきた。
「だって、連太郎くんまだ入ったばかりなのに、‘ミルクティー’までやっちゃうし、ローションなしで龍ヶ崎さまに挿れられて、あんなに乱れてたから…」
「そうそう!周りにいた他の‘旦那様’たちも、あんなにアナルで蕩けちゃう子と自分もエッチしたいって、連太郎くんを狙ってたよ」
自分の恥ずかしい姿をしっかり見られていたことに多少のショックを受けた俺は、言い訳をした。
「いや、あの…違うんです。‘ミルクティー’は本当に普通の紅茶だと思って…それに、アナルだってそんな…」
「龍ヶ崎さま、しっかり連太郎くんを捕まえて、独り占めしてたもんね。他の‘旦那様’が連太郎くんを狙ってるのが分かったんだよ」
「愛されてるね~」
ニヤニヤした理央につんと肩をつつかれ、和人のことがよく分からない俺は、複雑な気持ちになった。
夜になり、‘旦那様’を迎えるためフロアに集まった俺達の前に、ルイがやってきた。
「みんな、いいお知らせだよ」
ルイは、逢坂のモデルとしてアトリエにこもっていた雅を連れていた。
「ここにいる雅が、逢坂さまに身請けされることが決まったんだ!」
それを聞いた少年たちは、皆おめでとうと言いながら拍手をした。
「雅はこれから逢坂さまのモデル兼助手として、逢坂さまの活動に参加するんだ。いますぐ邸を出るわけではないけど、雅と過ごせるのもあと5日ほどだから、みんな最後まで仲良くして門出の際には祝ってあげてね!じゃあ雅、何か一言」
「皆さん、今までありがとうございました」
「……もういいの?ずいぶんあっさりしてるけど…まぁいいや!とにかくおめでとう!」
ルイと少年たちが盛大に拍手をすると、雅はぺこりと頭を下げた。
「雅早いな~、もう身請けか~」
‘旦那様’を迎え、フロアに移動する途中で理央は感心したように言った。
「あのー、身請けって何ですか?」
「身請けっていうのはね、‘旦那様’が特別に気に入った子を養子にしたり、男娼館から引き取ることだよ。中には同性結婚OKの国で結婚しちゃう子もいるの。身請けを目標にしてる子もいっぱいいるよ」
「理央さんも身請けされるんですか?」
理央はうーんと唸った。
「藤島さまとか、ご贔屓してくれる方はいるけど~…いまのところそういう話はないし、ぼくは身請け嫌かなぁ~」
「え?そうなんですか?なんか意外ですね」
「だって、ぼくはたくさんの‘旦那様’にちやほやされたいし、みんなの理央だからね☆」
「あー、なるほど…」
雨にも関わらず、今日は新規の‘旦那様’が多かった。その中の二人の若い男が、俺と理央に話しかけてきた。
「こんにちは。一緒に話さない?」
「俺は相模原で、こいつは神田。二人ともかわいいね、遊ぼうよ」
「よ、ようこそいらっしゃいました…ぼくは理央で、こっちは連太郎です」
相模原はがっしりとした体系の男で、目がぎらぎら血走っていた。一方、神田は相模原に比べると華奢で若く見えるが、青白く顔色の悪い男だった。
高そうなブランドのスーツを着ているが、男娼館ではあまり見かけないようなチャラい雰囲気に、俺は少し驚いてしまった。
「どなたからのご紹介なんですか?」
神田はそう聞いた理央の肩を馴れ馴れしく抱き、理央の耳にキスをした。
「そんなのどうでもいいじゃん。早くエッチしようよ、すぐ気持ちよくしてあげるからさ」
珍しく動揺する理央の脇に手を入れて、神田は高い高いするように理央を持ち上げた。
「うわ、めっちゃかわいい…理央ちゃん何歳?おちんちんもう剥けてるの?」
そう言うと神田は理央のペニスを衣装ごしに鷲掴みにした。
「ひゃぁっ!?旦那様、ここではダメです!」
「‘旦那様’だってよ、エッロイなぁ…いっつも金持ち連中にズポズポされてんの?」
それまで見ていた相模原は、俺に抱きついて衣装の中をまさぐり始めた。
「やっ!い、いけません!フロアではまだ…」
「お、ちんぽの毛剃ってあんじゃん!‘旦那様’にやられたのか?いーよなー、こんなかわいい子好き放題できて…」
俺達が相模原と神田に力ずくで触られていると、それに気付いたルイが歩み寄ってきた。
「いらっしゃいませ。ご新規の‘旦那様’ですね。オーナーのアンドレセンと申します。申し訳ありません、フロアでの愛撫は禁じられております」
笑顔のルイに言われ、俺達はやっと解放された。
「失礼ですが、どなたからのご紹介でしょうか?」
相模原は面倒くさそうにポケットから紹介書を取り出した。ルイはそれを受け取り、目を通した。
「……失礼いたしました。相模原さま、神田さま、少年たちとの戯れはぜひ彼らの個室でお楽しみください」
神田は咳払いをし、姿勢を直した。
俺達は相模原と神田を部屋に案内した。
「二階が連太郎の部屋で、三階がぼくの部屋です」
相模原と神田は何やら小声で話し合い、にやけながら言った。
「ねぇ、どっちかの部屋で一緒にエッチしようよ。それはできるんでしょ?」
俺達は顔を見合わせたが、‘旦那様’の言うことにあまり反対もできず、了承した。
「じゃあ決まり!神田、どっちの部屋にする?」
「やっぱ三階の方が音が…だから理央ちゃんの部屋行こう」
俺達は理央の部屋に入り、相模原と神田はすぐにスーツを脱ぎ始めた。俺達がシャワーを浴びようとすると、相模原がそれを止めた。
「いいよ、風呂なんて。俺らもう我慢できないんだ」
相模原は俺をベッドに押し倒して押さえつけ、乱暴に衣装を脱がせた。
「さっ…相模原さまっ…」
「うわ、おちんちんピンク色じゃん…アナルもきれいだし…」
足首を掴んでむりやり脚を開かされ、陰部をまじまじと見られた俺は、恥ずかしくて勃起してしまった。
「…おい、見られておちんちん勃ってるぞ…どんだけ調教されてんだよ」
指先でペニスを強く弾かれ、俺は痛みで悶えた。
「いたっ!」
「お前、すぐイきそうだな。これはめてやるよ」
相模原は俺のペニスに金属の輪をはめ、根本を縛ってしまった。
「いっ…いやっ…!」
ふと横を見ると、神田が理央の身体中を舐め回していた。内腿や尻に噛みつかれると、その度に理央はびくんと反応した。
「あ…はぁ…かんださま…おやめください…」
「理央ちゃん、俺、君みたいなちっちゃい男の子とエッチするの夢だったんだ…」
神田は理央のペニスを潰れるほど強く握りこんだ。
「っ!?いだぁ、いだいよぉ!はなしてぇ!」
「ねぇ、理央ちゃん、今までリストカットとかしたことある?」
理央は半泣きで首を左右に振る。
「じゃあ今日は俺としようよ。気持ちいいからさ…」
神田はどこに隠し持っていたのか、赤いロープを取り出して手際よく理央を縛り、アナルにローションを垂らした。そして、全くほぐされていない理央のアナルにいきなり太く勃起した自らのペニスを挿入した。
「ひぎぃっ!?」
理央は涙を流しながら歯を食いしばり神田のペニスから逃れようとするが、理央のアナルには容赦なく巨大なペニスが出し入れされた。
「あぁぁ…理央ちゃんのケツまんこ、キツキツで気持ちいい…やっぱショタっ子は違うなぁ…」
相模原は自らの指を舐め、俺のアナルに突き刺した。
「ひゃあっ!あ、相模原さま…」
くにくにと中で動く指に、俺は蜜を垂らしてしまった。
「ほら、俺のしゃぶれよ」
目の前に相模原のペニスを突きつけられ、俺は戸惑いながら口に含んだ。
「んん!…ん、ふぅ…」
口にペニスを出し入れされ、喉の奥まで届く圧迫感に何度もむせそうになる。
「ん…んぅ…」
「…お前、フェラ下手だな…」
そう言うと相模原はペニスを抜き、俺のアナルにあてがった。
「もうおちんちんビンビンになってんじゃん…ケツ入れてほしいの?」
ぺちぺちとペニスの先端でアナルの入口を叩かれ、指の刺激だけでは足りなかった俺は欲しくてたまらなかった。
「あ…ほし、い…」
「ほんと変態だな、お前」
ぐっと先端が押し込まれ、俺の体はびくっと反応した。
「ああ!…あぁん…」
奥まで挿れると、相模原は激しいピストンを始めた。
「あっあっあっあっあっ!」
「おー締まる…毎晩アナル犯されてんだろ?」
乱暴に中をかき混ぜられ、俺は頭がくらくらしてきた。
「‘旦那様’とかいうふざけた金持ちに毎晩中出しされて、あんあんよがって鳴いてんだろ?あいつらだけ良い思いしやがって…」
その時俺は、コンドームを付けずに挿れられていることに気がついた。
「あっ!いや、だめぇ、抜いてぇ!なま、生挿入は…いやぁ…!」
「なんだよ今さら?生チンポ気持ちいいんだろ?」
「いやっ…!だめぇ…かずと、だけだからぁ…」
相模原は体位を変え、より深くペニスを突きさした。アナルの奥を刺激され、俺の体は勝手に快感に震えてしまう。射精を止められた俺のペニスがびくびくと跳ねた。
「あぁっ!?あぁん!…やっ…いやぁ…!」
「誰だよカズトって。お前のご主人様か?いいだろ、ほらもう中出しすんぞ」
「いやぁぁ!」
なぜだか分からなかったが、俺は和人以外に生挿入されていることがショックだった。あれほど毎日‘旦那様’の相手をしていたのに、その時の俺は和人は特別なんだという思いが強くなっていた。
「いや、いやだぁぁ…かずとぉ!たすけてぇ…!」
「呼んでも誰も助けてくれねーぞ!どうせ他の部屋でもバコバコやってんだからよ」
和人の名前を呼びながら、俺の目の前は涙でグショグショだった。
隣で犯されていた理央は、あまり声をあげなくなっていた。
「あっ………あ………」
「理央ちゃん……ねぇ、俺、理央ちゃんのことほんとに好きになっちゃった……」
涙でぼやけてよく見えなかったが、ロープで縛られた理央はぐったりしたままアナルを犯され続け、ベッドのシーツには血が滲んでいた。強く押さえつけられていたからなのか、体にいくつか痣ができていた。
神田は理央を怒張したペニスで犯しながら、理央の体に覆い被さり、耳許で囁いた。
「理央ちゃん、俺ね、君みたいなショタとセックスできたから…もう死のうと思ってるんだ……だから理央ちゃんも一緒に死のうよ?」
神田の息はますます荒くなり、脱ぎ散らかした自身のスーツからカッターナイフを取り出した。神田はカッターの歯を理央の背中に這わせ、肌を切った。
「ひっ!?」
理央は痛みに体を震わせたが、抵抗できないようだった。何本もつけられていく切り傷からは、細く赤い血が浮かんできた。俺はなんとかして止めなければ、本当に理央が殺されてしまうと怖くなった。
「あっ…あぁっ…かんだ、さまぁ、やめて、理央さんころさないで!」
しかし、神田は周りが見えなくなっているのか、興奮した様子で理央の手首にカッターの歯を強く押し込んだ。
「だめぇ!!、あ、がっ…」
「うるせえ!お前は俺とのセックスに集中しろ!」
相模原にほうを殴られ、俺は痛みと恐怖で一心不乱に和人の名前を呼んだ。
「いやぁあ!かずとぉ、かずとぉ!たすけてぇぇ!」
神田が押し込んだカッターの刃は理央の手首を大きく切り裂き、どくどくと血が流れ出した。
「理央ちゃん…きれいだよ、血まみれで…俺もすぐそっち行くからね…」
ぐったりと動かなくなった理央の上で、神田はカッターを自身の手首に押し込み、ぐっと引いた。ぽたぽたと血が流れ、血まみれになった手で自身の反対の手首も切った。
「あぁ…理央ちゃん…」
荒く息をしながら、神田は朦朧とした様子で腰を動かした。
「ほら、もう中出しするからな。しっかりケツまんこで飲み込めよ」
俺は激しく揺さぶられ、奥にペニスを打ちつけられていた。
「あぁ!あっあっあっあっ…いや、やだぁあ!かずとぉ…」
「あぁ…イく、イく、出すぞっ…あぁー!」
相模原は俺の中に射精した。どくどくと精液が流れ込み、俺は涙が止まらなかった。
「あー…すげぇ出た…」
ずるんとペニスが抜かれ、アナルに注ぎ込まれた精液が流れ出た。
「ひっ…うぅっ…」
「ふぅ…おい神田、帰るぞ。早くしねぇと見つかるから」
相模原は着替え始めたが、神田は理央の上で荒く息をしながら起き上がらなかった。理央はぴくりとも動かない。
しかし、その時だった。勢いよく部屋のドアが開かれ、スタッフたちとルイが駆け込んできた。一瞬で相模原はスタッフの男二人に取り押さえられ、俺はルイに慌てて抱き起こされた。
「連太郎!怪我はしてないかい!?ごめん、僕のミスで彼らを入れてしまった」
「オ、オーナァ…理央さん、理央さんがぁ…」
泣きじゃくる俺を毛布でくるみ、ルイは血まみれになった理央を神田の下から引きずり出した。
「理央!理央、しっかりしろ!」
ルイは必死で名前を呼びながら、部屋にあったタオルで理央の手首を押さえた。
「オーナー、救急車呼びますか」
「頼む、急いでくれ!」
スタッフがバタバタと慌ただしく駆け回っていたとき、大館に連れられて和人が部屋に入ってきた。
「和人さま!」
「連太郎!一体何があったんだ!?」
和人に抱き締められ、俺はルイが助けに来たとき以上の安堵を感じてまた泣きじゃくった。
「うぅ…和人さまぁ…」
「俺がもっと早く男娼館に来てればこんなことにならなかったのに…来てみたらお前がいないからおかしいと思ったんだ。ごめんな連太郎、怖かったな」
和人は優しく声をかけ、俺の頭を撫でた。
「理央、起きろ!理央!」
ルイの必死の呼び掛けに応えるように、理央がゆっくり目を開けた。
「理央…!」
「オー…ナー……ぼく………」
救急車が到着し、理央は担架に乗せられてルイの付き添いのもと運ばれていった。
大館は紹介書をスタッフに押さえつけられている相模原の前に突きつけた。
「津田さまからのご紹介となっているが、津田さまはお前たちを紹介などしていないと仰った。これを偽装して潜り込んだな」
黙ったまま悔しそうな顔をし、相模原は毒づいた。
「お前らだってどうせ金持ちに食われてるだけじゃねぇか!あいつらだけいい思いしやがって…」
「二度と男娼館に関わるな。それと、お前への制裁はしっかり下すから覚悟しておけ」
大館の合図でスタッフたちは相模原を引きずるようにして部屋を出ていった。
「連太郎さん、駆けつけるのが遅れて本当に申し訳ありません。奴らは警備の目をくぐり、入り込んだ暴漢です。私どもの失敗で怖い思いをさせてしまいました」
「大館…さん…ありがとう…俺は大丈夫…」
大館は俺に一礼すると、ベッドで倒れている神田の体を揺さぶった。
「起きろ。お前だな、津田さまの名前で紹介書を作り、相模原を誘って事を起こしたのは」
神田は大館にほうを叩かれても目を覚まさず、ぐったりとしているだけだった。
その時、慌てた様子で一人の男が部屋に入ってきた。
「津田さま」
「お、大館…すまなかった、俺が悪いんだ」
彼はかなり急いで来たのか、息が乱れていた。
「そいつは…神田は、俺の会社の社員なんだ。男娼館の話をしたら興味を持って、連れていけとうるさくてずっと断ってたんだが…紹介書盗まれていたのに気が付かなくて、こんなことになるとは…俺が悪いんだ、本当に申し訳ない」
津田は頭を俺達に向かって下げ、神田の体を抱き起こした。
「神田、神田、俺だよ。起きろ!」
津田の声に神田はうっすらと目を開けた。
「しゃちょう………」
「お前、とんでもないことをしてくれたな。謝ったぐらいでは許されないようなことなんだぞ」
「だっ…て…」
「神田、お前には必ず償ってもらう。お前が乱暴した子は病院で治療中だ。その子の手首を切ったそうだな。もしその子が死んでたら取り返しがつかなかったんだぞ」
津田はハンカチで神田の手首を押さえ、小声で言った。
「それと…我慢できないならなんで俺に言わなかったんだ。いつもお前の性癖に付き合ってやってるだろ」
「だって……しゃちょうが、リストカットだめって…いうから…」
「当たり前だろ。お前の手首、もう痣だらけじゃないか。何度縫ったか忘れたのか?それに、セックスの度に血だらけになるし、お前毎回気絶するだろ。俺だって血流しながら喘がれたら、勃たなくなるんだよ…普通のセックスで我慢できなくなってこんなことしたのか?」
「…………しゃちょう……キス………」
「駄目だ」
ごほん、と大館が咳払いをした。
「先程オーナーから連絡があり、理央は軽傷ですんだようです。今回の件につきましては、私どもが見抜けなかったという面もあり、警察沙汰にはいたしません」
「…わかりました。本当に申し訳ありませんでした」
「津田さま、これからも神田の管理と監視をお願いいたします」
「はい、もちろんです…」
津田は、腕の中で再び気絶しそうになっている神田のほうを叩いた。
「おい、ここで気絶するな。服着て、連れて帰ってやるから」
「津田さま、彼は病院に連れて行かなくても大丈夫なのですか?」
「いつもこうですから…たいして深く切ってませんし」
「いえ、頭の、というか精神的な方です」
うーん、と唸り、神田が目を覚ました。
「さむい………」
「ほら、パンツだけでも穿けよ」
津田は脱ぎ散らかされた衣服をかき集め、神田を抱えて俺たちに頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。この償いは必ずいたします」
神田の体を支え、引きずりながら彼らは部屋を出ていった。
「………連太郎、体は大丈夫か?」
俺は相模原に中出しされたことを言い出せず、黙ってしまった。
「どこか痛いところはないか?」
「………痛くはない」
自然に涙がこぼれてきてしまう。
「連太郎…?よしよし、怖かったよな」
「………された、の…中に…」
「中に…出されたのか…?」
頷くと、和人は俺の髪を撫でた。
「そうか……連太郎、傷がついてないか見てやるから…」
和人は俺を毛布でくるんだまま、二階の俺の部屋に向かった。
(第9話に続く)