6.
一戦後、いつものようにアクアと飯を食う。
昨日、あんな事があったからなのだろうか、アクアと2人で食事しているのが少し恥ずかしくなってきた。
もちろん、2人きりではないし、レストランと呼べるオシャレな場所ではない、むさ苦しい男が多い酒場だが。
年頃の男の子なら分かるだろう。この気持ち。
どこかの原作で別に好きでもないが、手を握られただけで俺はこの子好きなんじゃないかとか思っちゃう年頃ですよ。はい。
そして、先ほど俺が浴びせた水のせいで、服が肌に張り付き、体のラインがくっきりと見えて扇情的になっている。
その扇情的な光景から何とか目をそらす。勃ちそうだったわ。危ない危ない。
食事が始まるとアクアもすっかり回復し、目の前で何かわからない変な肉のステーキを食べている。
その肉はとても旨そうで、見ていてよだれが出てく……、待て。
「おい、お前の収入じゃそんなもん食えないだろ。どうやって金を調達した」
「そんなの決まってるじゃない。同じテーブルで食べてるんだから、まとめてカズマに払って貰えば私は何もしなくてもこのお肉が食べられるってことよ!」
俺の最初のアクアへのドキドキを返せ。
席を立つ。
「あの、カズマさん?トイレは反対側ですよ?……ねぇ、待って。どこ行くの?そっち出口なんですけど」
「個別会計でお願いします」
「わぁぁ!やめて!私が間違ってたから!カズマさん、いえカズマ様!ごめんなさい!一回お願い聞いてあげるからお金払っ」
「15000エリスあれば足りますよね?」
7.
アクアとの一戦のあと、飯を食ってから馬小屋へ戻る。
アクアは自分で自分にヒールを掛けている。なんか不憫だよなぁ…。
今日も昨日と同じく、藁を敷いた上に毛布を掛けて、寝る準備を整える。
「ねぇ、カズマさん」
珍しくアクアが俺に対して『さん』をつけた。
この後何を言われるか予想されるのは、悪い事したから許してほしいときとか、お願いと称して金を貸せといった時だ。
「金ならもう貸したし、何かをやらかしたならまずは誠心誠意謝ることだな」
「違うわよ!……いや、まぁお願いっちゃお願いなんだけどね……」
「はぁ…………。何だ、言ってみろよ」
アクアにしては珍しく歯切れが悪く、しかも所在なさげに落ち着かない様子。
やがて、ゆっくりと俺の前まで来て、服の裾を掴む。
突然の事態に戸惑っていると、アクアがか細い声で言葉を紡ぎ出す。
「あ、あのさ、今日私がカエルに食べられたじゃない?」
「そうだな」
「そ、それでね?……あれで暗いところが、結構……その、トラウマになっちゃって…………出来れば、し、暫く一緒に、寝てほしいな、って思ったんだけど………だめ、かな?」
瞳を潤わせ、上目遣いで懇願する。
その表情は普段のアクアからは想像できないほどに保護欲を掻き立てられ、思わず抱きしめたくなってしまうほど。
アクアの澄んだ水色の瞳に魅入られて、返事はおろか、息をするのも忘れてしまった。
「だ、だめじゃ……ない」
辛うじて絞り出せた声はおおよそ頼り甲斐のあるものではなかったが、それでもその言葉が嬉しかったのか、アクアが安心した満開の笑みを浮かべる。
(ここまで喜ばれるとは思わなかった……。でもあのジャイアントトードって、雑魚モンスターだよなぁ…………。明日は俺1人で狩りに行くか。)
服の裾を掴んだままのアクアと2人して布団に入る。
二人一緒に寝るなら、こんな大きなサイズ要らなかったなと思うが、後の祭りである。
俺が仰向けに寝ているのに対し、アクアは俺の方に体を向け、ピタッとくっつけてくる。
そしていつの間にか裾から手は離され、指に絡めるように手をきゅっ、と握っていた。
「えへへ、カズマ……おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
アクアは安心したように眠りにつく。
数秒後にはすぅ、すぅ、と規則正しい寝息が聞こえてくる。
だが。
(寝れるわけないだろぉぉぉぉぉー!)
と、俺は1人心の中で叫んでいた。
こっちに体を向けている時点で既に胸は腕にあたりその感触を存分に与えてくる、更にアクアの温かさが手を通じて流れ込んでくる。
人生で親以外に初めて手を握られるのがまさかアクアだとは思わなかった。
息をする度に胸が上下し、それで胸が押し付けられて引いて、押し付けられて引いて、と繰り返される。
邪念を払うように、顔を横に向ける。
顔を横に向けると、当然アクアの端正で美しい顔が目の前にくる。
そして、気づく。
閉じられた目から、一粒の涙が滲み出る。
(よっぽど怖かったんだな……)
零れ落ちる前にアクアの涙を拭う。
この女神は確かに戦闘向きではないから……俺が守らなくちゃ。
黙っていれば美しく可愛らしいアクアの顔を眺めながら、ある一点で視線が止まる。
気づけば、薄いピンク色の唇がほんの10センチほどの距離にある。
少し動けば、キスしてしまうような。
寝て間もないアクアの唇は、まだ少し湿っていて、艶かしい輝きを放っている。
(柔らかいのかな……)
無意識に、本当に無意識の内に、まるで甘い密に吸い寄せられるかのように唇との距離が短くなっていきー
「《ターン・アンデッド!》」
「ーッ⁉︎」
アクアが寝言を言い、起きたのではないかと思って慌てて距離をとる。
幸いアクアは起きていなかった。
それが落ち着くと、今自分が何をしようとしていたかを思い出し、顔が羞恥で染まる。
(俺は……あの時アクアが喋らなかったら、どうしていたんだろう…………)
勿論、この日一睡も出来なかったのは当然である。
続く。
次回は3月16日に投稿します!
お楽しみに!