第11話:豹変(その1)
真悟が超能力の巨人となり、町の暴力団事務所を壊滅させた翌日・・・
涼子は、何時もより遅く目を覚ました。昨夜、母和子から聞いた、朱紗一族の宿命について考えていて寝不足だった。
「私にも・・・超能力って本当にあるのかなぁ!?フアァァア、まだ眠いなぁ・・・」
涼子は、両腕を上げて伸びをすると、もぞもぞベッドから起き上がった。クリーム色の首回りにフリルの付いたネグリジェのまま、階段を下りて洗面台に向かうと、珍しく涼子より早く起きていた真悟が先に顔を洗っていた。昨夜の事を思い出したが、何時もと変わらないように真悟に声を掛けた。
「真ちゃん、おはよう!」
その声に、顔を上げた真悟の顔を見て、涼子は思わず驚いた。真悟には違いないのだが、どこか何時もの真悟とは違っていた。何処かワイルドさを醸し出しており、涼子は思わず口に出し、
「あ、あんた・・・本当に真悟なの?」
「ハァ!?何寝ぼけてやがる!俺が真悟じゃなきゃ、誰だってんだ?」
真悟は訝しげに涼子に言うと、涼子も戸惑ったように、
「い、いや、真悟だとは思うよ!思うけど・・・何か雰囲気や顔付きが、今までの真悟と違うような気がしてさ・・・」
「俺の雰囲気が違うだと!?」
真悟は小首を傾げながら、鏡を見て自分の顔を見直した。色々表情を変えてみるものの、真悟に取っては普段見慣れている当たり前の顔だった。
「ハァ!?何時も通りの良い男じゃねえか!変わったのは・・・アネキの方じゃねえか?」
(アネキ!?)
涼子は、真悟が自分の事をアネキと呼んだ事に違和感を覚えた。真悟は、涼子の事を姉ちゃんと常日頃呼んで居たのだから、戸惑う涼子を余所に、真悟は涼子の胸、尻を撫で、笑いながら去っていった。残された涼子は、唖然としてその場に立ち尽くしていたが、昨日の母和子の言葉が気に掛かり、
(真悟に何があったの!?やっぱり・・・私も超能力が欲しい!真悟の力になれるような・・・)
表情を険しくした涼子は、思わず両手をジィと見つめた・・・
真悟と涼子が朝食を終え、学校へと出かける前、真悟は書斎に置いてあった英介のタバコを吸い、一服しているのを涼子が見つけた。
「真ちゃん!?それパパのタバコじゃないの?真悟!!ママァ、真悟がタバコを・・・キャッ」
真悟は涼子に対して凄みを見せると、和子への告げ口が終わる前に、涼子をそのまま押し倒した。涼子の脳裏に、一瞬真悟に犯されそうになった時の事が思い出し、涼子は身を固くした。真悟は涼子の耳元に顔を近づけると、
「あんまりアネキ面吹かしてると・・・犯すぜぇ?」
「し、真悟!?」
「ハハハハ、冗談だ!」
真悟はそう言うと、涼子の胸を軽く揉み、嘲笑を浴びせながら出掛けて行った。涼子は思わず身体が震えてしまったが、慌てて真悟を追いかけ、
「このエロ真悟!良くも・・・エッ!?」
「アネキ、チャリンコ借りてくぜ!あばよ!!」
涼子は思わず目を見張った・・・
今まで真悟は自転車も乗れない程で、運動神経はあまり良いとは言えなかったのだから、その真悟が、当たり前のように自分の自転車を乗り、学校へと出掛け、涼子は呆然とした。
「ほ、本当に、あれが真悟なの!?・・・」
まだ玄関先にいる涼子を見て、和子がドアを開けて涼子に話し掛け、
「涼子、あなたもそろそろ行かないと?」
「ママ・・・真悟が、真悟があたしの自転車に乗って学校に行ったの!」
「エッ!?真悟は自転車に乗れない筈・・・ハッ!?」
「ママ、これって、昨夜ママが言ってた?」
「涼子・・・学校で真悟に目を掛けていて頂戴!何か嫌な予感がするわ!!」
「嫌な予感!?」
涼子は不安そうな表情を浮かべるも、自転車を真悟に乗られた為、学校まで走って行った・・・
学校に行った真悟だったが、タバコを吹かしながら登校する真悟の事を、生徒達はヒソヒソ話をしながら登校する。真悟はそんな生徒達見を気にせず、学校内に入ると、モサを発見した。真悟はモサの右肩に腕を回し、
「オォォス!モサ!!」
「エッ!?す、朱紗かよ・・・」
モサは、思わず真悟を見て呆然とし、何時もとの真悟の違いに驚いた。真悟はタバコを吹かし、面構えもなにか凶暴さを醸し出していた。モサは呆然としながら、
「朱、朱紗・・・お前、何か雰囲気変わったな?」
その言葉を聞いた瞬間、真悟は朝涼子にも同じ事を言われた事を思いだし、またかよとばかり、タバコの煙をモサに吐きかけると、
「俺は昔からこうだ!喧嘩売ってんのかテメェ!?」
「ヒィィィ!け、喧嘩何か売ってないって!!」
モサは真悟を見て怯え、慌てて否定すると、真悟に機嫌を探るかのように、
「そ、そう言えば、朱紗・・・君、いや朱紗さん・・・いや、アニイ!雪代の事は、何て言ったらいいか・・・」
瓜生達の仲間になっていたモサにも、真悟達の身に起こった出来事は聞いていた。小百合は輪姦されたショックで転校したと思い、どう真悟に慰めの言葉を掛けようか思案して言葉を濁すが、真悟は意外な反応をモサに返した。
「雪代!?誰だそりゃ、女か?聞いた事もねぇなぁ・・・」
モサは、思わず我が耳を疑った。真悟が小百合に好意を持っている事を、モサは知っていた。その真悟が、あろう事か小百合の事など知らない素振りをした事で、モサは呆気に取られた。小首を傾げたモサは、
「雪代!雪代小百合の事ですよ!!アニイや俺のクラスメートだった・・・」
真悟は少し考えたものの、小首を傾げ思い出せなかった。モサは唖然としたが、慌てて話題を変えた。
「き、昨日の超能力の巨人のニュースは凄かったすねぇ?超能力で暴力団のビルを壊滅させた・・・」
真悟はやれやれと言った表情で、両手を広げ、
「モサ、お前は超能力何か興味あるのか?ヘッ、俺はゴメンだね!」
モサはまたキョトンとした・・・
何故なら真悟は超能力クラブに入っているのだから、
「だって、アニイは超能力クラブに入部してるじゃないですか?」
真悟は、再びモサを呆れたように見つめ、
「バカか!?俺は根っからのスポ-ツマンだぜぇ!そんなだせぇクラブに入るかよ・・・アバヨ!!」
真悟は、これ以上モサの胡散臭い話に付き合いきれないとばかり、モサを置いて学校内へと入っていった。モサは、その後ろ姿を呆然と見つめて居たが、真悟がショックのあまり、頭がおかしくなったのではと思った。
構内を歩いていた真悟は、美剣千草を見かけた。美剣もまた真悟の変わりように驚き、真悟の心の中を探ると、
(へぇ、良い女だなぁ・・・脱ぐと良い身体してそうだよな、あんな女とやりてぇもんだぜ・・・だが、何処かで会った気もするが!?・・・ン!?俺の事をジッと見てやがるなぁ?あんな美人見れば、忘れなさそうだがな・・・俺はスポーツばかりやってきたから、あんな良い女と知り合いの筈無いんだが・・・ま、いいや)
真悟は、無言で美剣の脇を通り抜けると、美剣は思わず振り返り、真悟の後ろ姿を見送った。
(肉体だけでなく・・・心まで変わっている!?まるで別人のようだわ・・・それに、雪代さんや、超能力に関する記憶が抜け落ちている。これは・・・変身だわ!!作り物の記憶の通りに、スポ-ツマンのような身体になっている)
美剣は、祖父に子供の頃より聞かされた話を思い出し、思わず身体が震え出した。
(凄ノ王は、変身を繰り返し、そして、女を欲しがると言う・・・やはり、朱紗真悟こそ・・・凄ノ王!?)
美剣は、自分達の推測が間違っていたのでは無いかと思うと、激しく動揺した。美剣の祖父は、瓜生麗こそ凄ノ王では無いかと疑い、危険人物として美剣に監視するように命じていた。だが、その推測は外れていたのでは無いかと思うと、顔から冷汗が流れた。
放課後、真悟はイライラしていた・・・
自分の事を高校デビューとからかう不良をボコり、タバコを吸っているのを注意した教師には、凄みを利かせて威嚇した。
(チッ、どいつもこいつも・・・女でも抱いて憂さ晴らしでも・・・ン!?)
真悟は長ランを着た応援団の練習風景に出くわした。リーダー格の男は竹刀を持ち、声が小さいなどと団員達に発破を掛けて居た。真悟は、鬱憤を晴らすかのようにそんな応援団達を鼻でせせら笑い、
「何だそりゃ、女のダンスか!?応援団だったら、もっとビシッと決めやがれ!まったく学校の恥じだぜ!!」
真悟が発した一言は、伝統ある応援団部員達の感に障った。応援団達は顔色変えて真悟を取り囲むと、竹刀の男が真悟を問い詰め、
「貴様ぁ!我が伝統ある応援団を・・・愚弄したなぁぁ!!許さん、面貸せぇぇ!!!」
「へいへい、貸しましょう!」
真悟は、応援団達をからかい、ニヤニヤしながら応援団の部室に連れて行かれた。応援団の部室は酷く汚れて居て、真悟を連れてきた竹刀の男が奥に声を掛ける・・・
「押忍!副長殿、我が応援団を愚弄した者に制裁を加えます!部室を汚す失礼をお許し下さい!!」
「分かった!許す!!」
「ありがとうございます!」
奥に居る副長から許すと声が掛かり、団員達が真悟に向かって来た。真悟はタバコの火を付け、フゥゥと一服付くと、目を凶暴に光らせた。奥では、副長が同じ三年の団員と酒を喰らっていた。
「ケッ、馬鹿な奴だぜ・・・我が応援団に楯突くとはなぁ・・・」
「まあ、今時応援団に喧嘩を吹っかける気狂いが居たのも驚いたけどな」
その時、後ろのドアが開いたが、二人は振り返りもせず、
「オウ、片付いたか?血反吐を片付けとけよ!」
だが、返事が無く訝りながら後ろを振り返ると、後ろに立っていたのは真悟であった。
「貴様ぁぁぁ!」
真悟が団員達を全員倒した事で、副団長の目は凶暴に光り、向かって来た。真悟は、二人を見てニヤリとし、酒の瓶を手に取ると、
「良い酒じゃねえか?お前らにゃ・・・勿体ねえよ!」
そう言うと、副団長の頭に叩きつけるも、副団長は動じず、頭から流れる血をペロリと舐め、
「いい度胸だ、小僧!だが、相手が悪かったな!!」
そう言うと指先から炎の渦が現われたが、真悟は手品ご苦労と茶化し、副団長をますます怒らせる。激昂した副団長は、当たり構わず超能力で作られた炎の渦で真悟を攻撃するが、ことごとく真悟にかわされる。
「ウヌゥ・・ちょこまかしやがってぇぇ!!」
激昂した副団長の攻撃が外れた場所から火の手があがる中、今度は真悟が反撃した。
「鈍いんだ、テメェは!そんな攻撃当たるかよ!!ほら、ほら、ほら」
副団長の能力は高いものの、真悟に攻撃を当てる事は出来ず、逆に真悟は、攻撃を的確に副団長にヒットさせて行く、
「超能力だか何か知らないが・・・ダセェんだタコ!」
止めのボデイブローの一撃で、副団長が気を失う中、応援団部室は益々燃え上がっていった。騒ぎを聞きつけ、他の部の人間達も集まり始める。その中にはテニス部の美剣や、陸上部の涼子の姿も居た。部室から真悟が、応援団員達を引きずりながら出て来て、他のクラブの人間達は驚愕した。真悟は怒鳴り、
「おい、誰か救急車呼んでやれ!この馬鹿、自分で火をつけて気絶しやがった!!」
そう言うと、真悟は燃えてる部室の火でタバコをふかし、見て居た涼子は、真悟を見て頭を抱えて呆れ返り、
「アチャア!?あの馬鹿・・・こんな真似しちゃ、部団連合に睨まれるじゃないのよ?」
プリプリ怒った涼子は、真悟の襟首を掴み、強引にこの場を離れさせた・・・
涼子の危惧した通り、この騒ぎは部団連合に伝わった・・・
武団連合は、緊急部長会を開き、各部の主将達を招集した。各部の主将が集まる中、部団連合会長、九頭木剛に伝令が伝わる。九頭木は、角刈りの頭で、顔には無数の傷があった。口数が少なく、無言で発するプレッシャーは、周りの者達を屈服させるかのように、重たらしい雰囲気を醸し出しえ居た。
「1年の朱紗・・・だと!?知らぬなぁ・・・だが、我らに逆らう者には・・・ケジメを付けられるのであろうな、応援団長よ?」
九頭木に念を押された応援団長は、額に汗を浮かべながら、必ず朱紗真悟に制裁を加えると答え、武団連合の会合は終わった・・・
各部の主将達は、次々に同志である応援団長、藤倉に力を貸すと答える中、ボクシング部主将で、いかつい顔をした髪の短い合田源児は、浮かぬ顔であった。
(朱紗だと!?確か涼子には、今年入学した弟がいた筈だが・・・まさか?)
ボクシング部主将の合田は、ミーコと一緒で1年の時、涼子と同じクラスであった。皆が合田を怖がる中、涼子とミーコは親しげに話し掛けてくれて、合田は特に涼子に好意を持って居た。そんな涼子の弟と戦う事になるかもしれない現状に、合田は内心複雑だった。
「おい、どうした合田!?お前は俺に力を貸してくれぬのか?」
藤倉は、訝しげに合田に問いかけると、ハッと我に返った合田は、藤倉を見つめ、
「あっ、いやスマン、考え事をしていた・・・無論、我がボクシング部も手を貸す!」
「そうか!ありがたい!!」
藤倉は満足気に何度も頷くも、真悟のしでかした好意を思い返すと、表情を険しくし、
「わしの部が殴りこみにあったのは、全校生徒が知っているんだ!全校生徒に分かるように、朱紗真悟に制裁を加えねば意味が無い!!表向きはスポーツの試合、出来れば試合中の事故で殺しても構わない部が良い・・・合田、お前の部で始末してくれんか!?」
武団連合に所属している限り、他の部の危機は、自分達の危機とも誓い合う同志、合田は、藤倉の案に無言で頷くのみであった・・・