翌日、登校してきた超能力クラブの太った眼鏡の大松は、今朝の新聞を持ってモサに会いに来ると、こそこそ内緒話をしていた。
「昨日の事件で、宙に浮かんだ少年Aって・・・我が校の青沼らしいでっせ!」
「ほ、本当かよ!?大松さん?」
「ホンマやホンマ!しかも驚く無かれ、青沼が重傷を負う前に喧嘩していた相手が・・・何と朱紗って話でんがな!」
「エェェ!?じゃあ、朱紗が犯人かよ?」
「そこまでは・・・アッ!?噂をすれば何とやら、ほなわし戻るでぇ!!」
登校してきた真悟は、咥えタバコのままジロリと大松を睨むと、噂通りの真悟の豹変振りを目にし、大松は逃げるように教室を出て行った。真悟は不機嫌そうにモサを睨み付けると、
「おいモサ、今のは超能力クラブの大松じゃねえか!」
モサは思わず驚き、慌てて真悟に聞き返し、
「アニイ、ご存知で?」
「バカ野郎!俺はこの間まで超能力クラブに入ってたんだぞ・・・大松を知らねえ筈無いだろうが!」
真悟に怒鳴られたモサは混乱していた。モサは小首を傾げながら、
「でも、アニイは超能力クラブ何て知らないって・・・うわぁ!?」
突然真悟は怒り出し、モサの胸倉を掴んで引き寄せると、凄みを滲ませながら、
「すっとぼけた事言うんじゃねぇぇ!俺がそんな事いうか!!それよりモサ、青沼グループの事、当然知ってるな?」
「ハ、ハイ!」
「だったら話が早ぇ!モサ、青沼グループ一人一人の名前とクラス・・・出来ればたむろ場所もだ!!雪代が味わった苦しみ・・・この俺が奴らに思い知らせてやる!!!」
真悟の気迫にモサは驚き、慌てて立ち上がると調査に向かった・・・
その日の放課後、屋上で青沼と特攻服を除く青沼グループが話し合っていた。彼らにも青沼達に起こった不可解な現象の事は耳に入っていた。アフロは、情報源のカマチに確認するように、
「蛭川さんや串田さんもやられたんだろう?」
「病院送りらしいですぜ!グラサンも背中と腰を複雑骨折したらしくて、一生車椅子かも知れない何て話で・・・」
カマチの報告を聞き、ニキビリーゼントは顔色を変え、
「マジかよ!?青沼さんも昏睡状態だそうだろう?」
「青沼も運のねぇ野郎だな?」
頬に傷がある男に話し掛けられたアフロは、口元をニヤリとさせ、
「性格悪かったし、良い様だぜ!」
「蛭川のアニキや、串田のアニキの太鼓持ちのクセして、偉そうにしてやがったしなぁ!」
安村も同意し、一同が思わず笑った。だが、直ぐにカマチが表情を変えると、
「けど、笑い事じゃねぇぜ!・・・やったのは、朱紗って話でよ!!」
更なるカマチの情報で、やったのは真悟だと聞き、戸村は驚いた表情を浮かべ、
「朱紗!?あの坊主が?」
「どういう事だ!?俺達に袋だたきにされた時、あいつは・・・」
頬に傷がある男が、雪代母娘を輪姦した時の真悟は、喧嘩も素人同然で、青沼達に勝てるとは到底思えなかった。アフロは、瓜生達の顔を思い出し、更にカマチに確認すると、
「また瓜生の野郎が、朱紗に手を貸したんじゃねぇのか?」
「それが、その場に居た奴の話じゃ、居たのは朱紗だけで、蛭川さんと串田さんをやったのは、間違いなく朱紗だって言ってたぜ!何でも、この数日で人が変わったようになったとか・・・」
更なるカマチの情報で、安村は思わずゾッとした。一番先に小百合を犯そうとしたのは、自分なのだから・・・
「マジかよ!?・・・」
次は自分達かも知れない事に、皆恐怖した・・・
一同は、何かあれば連絡を取り合うと決めると、
「じゃあ、俺ボクシング部行かなきゃならねえから、先に行くぜぇ!これ以上さぼったら合田キャプテンに殺されちまうよ!」
「お前、まだ辞めねぇのか?」
「バカいえ!辞める何て言ったら・・・合田キャプテンにどんな目に合わされるか・・・」
合田の顔を思い出した安村は、ブルブル身体を震わせると、慌てて出て行った・・・
残ったメンバーが雑談している所に、真悟が現われる・・・
「いよぉ、先輩方お揃いで・・・」
「「「「「朱紗!?」」」」」
さっき注意しようと話して居た矢先の出来事に、5人の男達は驚愕した。確かに真悟の容貌は凄みを増して居た。真悟は口元をニヤリとさせると、アフロの男が睨み返し、
「朱紗!調子に乗るなよ!!」
「こっちは5人居るんだ!やっちまえ!!」
アフロが、頬に傷がある男が身構え、カマチとニキビリーゼントがナイフを取りだし、戸村は上着を脱いで空手の息吹を吐く、真悟は余裕の表情で睨み付けると、カマチとニキビリーゼントが持って居たナイフがグニャリと曲がり、2人が悲鳴を上げて腰を抜かし、殴り掛かって来たアフロと頬に傷がある男のパンチを楽々かわし、更に戸村の鋭い蹴りを後方に飛んで避けると、真悟のパンチが、蹴りが、一同を翻弄していった。
「す、朱紗!悪かった・・・勘弁してくれぇぇ!」
戦意を喪失したカマチが、土下座して真悟に詫びるも、真悟の目はまだまだ物足りないというように、
「雪代母娘も、そう言ってた筈だ・・・だが貴様らは、そんな彼女達に更なる惨い仕打ちをして、嘲笑いやがった!!雪代母娘が味わった恐怖・・・百倍にして返してやらぁぁ!!!」
真悟の髪がざわめき始めると、5人は真悟の変貌振りに恐怖した!
テニス部に居た美剣、陸上部で走りこみをしていた涼子にも、真悟が放つ怒りのパワーを感じた。
(朱紗君!駄目、駄目よ、殺しちゃ・・・)
美剣は不安そうに屋上を見つめ、涼子もまた不安そうに辺りを見回していた。真悟の怒りのパワーを感じ取れた事を見ても、涼子の超能力の目覚めも、もう時間の問題だった。
屋上では、5人の男が腕や足などを折られて気絶していた。真悟はタバコに火を付けて一息付き、悠然と屋上から降りてくると、険しい表情をした3人のランニングシャツにズボン姿の男達と出くわした。
「探したぞ、朱紗真悟!合田キャプテンがお呼びだ、一緒にボクシング部まで来てもらうぞ!!」
「ボクシング部!?」
真悟は、ボクシング部のキャプテンが、自分の事を呼んで居ると聞き首を傾げた。応援団ならば話は分かると思った。何故なら、自分が応援団に喧嘩を売り、不可抗力とは言え、応援団の部室を火事にさせたのだから、だが相手がボクシング部となると、身に覚えは無かった。
「俺は、ボクシングのキャプテンさんに呼ばれる用事など、考えてもピンと来ねぇが、お呼びとあれば、面かしてやるよ!!」
真悟はそう言うと、3人のボクシング部員に前と両脇を挟まれながら、ボクシング部の部室へと向かった。
そのボクシング部では、遅れて来た安村が、キャプテンの合田に説教をくらい、角で道具を磨いていた。そこにボクシング部員が真悟を連れて戻って来た。
(朱紗だと!?何であいつがボクシング部に?)
安村は、真悟に見つからないように、サンドバッグの背後に隠れながら、道具磨きを続けた。
「合田キャプテン、朱紗真悟を連れてきました!」
合田は、部員達にご苦労と労いの言葉を掛けると、真悟に近づき向き合った。
「俺は、ボクシング部キャプテン合田と言うものだ!応援団の部室に殴りこんだ度胸は褒めてやるが、我が校にはしきたりがあってな・・・明日、学校の体育館で俺と試合をしてもらう!断る事は許されん・・・良いな!?」
急に合田に試合を決められた真悟は、訝しげに合田に質問し、
「ちょっと待て!俺が殴りこんだのは応援団だぜ?ボクシング部では無い!!何故あんたと試合する必要があるんだ?」
合田は、そんな事も知らないのかと言いたげに、フッと笑みを浮かべると、
「我が校には、部団連合と言うものがあってな・・・それぞれの運動系部長が集まって作っている会だ!一つの部の問題は、連合全ての問題と言う訳で、今回応援団から頼まれ、この俺がその任を受けたって訳だ・・・出来れば、俺も涼子の弟を痛めつけるのは、気が引けるのだが・・・」
合田が突然、姉涼子の名前を出し、真悟は思わず咽かえり、
「ア、アネキ!?あんた、アネキの知り合いなのか!?」
合田は少し照れながら、
「ま、まあな、1年の時のクラスメイトと言う奴だ・・・ゴホン!・・・まあ、しかしそれはそれだ・・・逃げるなよ、朱紗!」
合田に念を押されたものの、真悟はサンドバッグの後ろに隠れて居た安村に気付くと、再び目に炎を点した。
「その勝負受けても良いが、一つ条件がある!サンドバッグの後ろでコソコソ道具を磨いている野郎と・・・この俺を今直ぐ勝負させろ!!それが俺の条件だ!!!」
「安村と!?どういうことだ?」
「一つは・・・俺はボクシングなどした事が無いからな、明日の練習も兼ねて、もう一つは・・・この俺の、この俺の個人的な恨みだぁぁぁ!!」
「ヒィィィィ!」
真悟に睨まれた安村が、思わず腰が抜けたかのように崩れ落ち、怯えた表情を浮かべた。それを見た合田は、真悟の発言の真意が少なからず分かった気がして、真悟と安村のスパーリングを許可した。尚もビビリまくる安村を合田が一喝して、急遽真悟と安村の3ラウンドの試合が組まれた。真悟は制服を脱ぎ、黒のランニング姿になると、グローブを嵌めて貰い、リングに上がった。
「安村・・・分かってるだろうなぁ?素人相手に遅れを取れば・・・」
「は、はい」
坊主頭の副キャプテンに脅された安村だったが、こうなれば自棄だと、リング上でシャドウボクシングをして身体を慣らした。ゴングがなった瞬間、真悟は猛然とダッシュし、ビビッた安村は、思わず目を瞑りながら右ストレートを放った。安村の手に真悟にヒットした感覚があり、目を開けた安村は、真悟がダウンしている姿を見て思わず惚けた。
(な、何だ!?本当に素人じゃねぇか・・・へへへ、ビビって損したぜ!一丁俺に二度と刃向かえないように、ボコってやるか!!)
起き上がった真悟をみて、レフリーが再びファイトの合図を出すと、今度は安村が猛然と真悟目掛けダッシュし、真悟にパンチの雨霰を浴びせた。蹌踉めいた真悟目掛け、安村の右アッパーが炸裂し、真悟は二度目のダウンを受けた。
「へへへ、どうした朱紗!?分かったか、喧嘩とボクシングは違うんだよ!!次で終りにしてやるぜ!!」
起き上がった真悟目掛け、安村が止めとばかり、右フック、左アッパー、右ストレート、再びアッパーと、当たれば大ダメージの大振りのパンチを炸裂させるも、真悟は何とかそのパンチを躱し続け、1ラウンド目の終了ゴングが鳴った。
「フフフ、所詮素人ですね!次のラウンドで安村の勝ちですな!!」
「そうかな!?俺は・・・この勝負朱紗が勝つと見た!!」
「エッ!?」
副キャプテン始め、ボクシング部員達は、安村の勝ちと判断したが、合田だけは真悟が勝つと読んでいた。
「キャプテン・・・どうして!?」
「確かに朱紗は素人だが、試合の駆け引きは朱紗の方が数段上だ・・・見ろ!安村は調子に乗って大振りばかりで息が上がってるじゃねえか!それにたいして朱紗は、安村の動きを良く見て最小限の動きでパンチをかわしている・・・次で決まるぜ!!」
2ラウンド目のゴングが鳴った!
安村は再び猛攻に出るが、真悟は確実にパンチを躱し、安村にもっとパンチを打ってこいと挑発する。安村は怒り、がむしゃらにパンチを繰り出すが、安村のパンチは空を切るだけで当たらなかった。逆に、真悟の繰り出すパンチが、確実に安村の顔面を捉え始めた。合田が睨んだ通り、素人の真悟は、1ラウンド目は安村の動きを見ながらボクシングというものを、身体で学習したかのようだった。2ラウンド目にして、真悟と安村では、実力に大きな差が出来ていた・・・
「おい、パンチって言うのは・・・こういうのを言うんじゃねぇのか?」
音を立てて繰り出された真悟の右ストレートが、安村の顔面に炸裂し、その勢いのまま安村は吹っ飛びダウンする。他の部員達に安村は罵声を浴びせられるも、安村の戦意を喪失した・・・
「す、朱紗!お、俺の負けだ!!もう勘弁してくれぇぇぇ!!!」
「勘弁だと!?そうやって、雪代母娘も言った筈だ!やめてくれってな・・・だがテメェらは止めなかった!!」
更に目に炎を点した真悟は、雄叫び上げた右ストレートを再び繰り出すと、安村は再び吹っ飛んだ。部員達は真悟のパンチに驚愕する中、合田はニヤリと笑った。立ち上がった安村に、真悟のローブロー(金玉攻撃)が飛び、のたうち回る安村を、冷たい視線で見る真悟だったが、
「朱紗ぁぁ!ローブローは反則だ!!」
「うるせぇ!そんな事は知ってんだぁ・・・いいかぁ、よく聞きやがれ!!この野郎は、不良仲間共と一緒に・・・俺の、俺の恋人母娘を・・・俺の目の前で犯したんだぞぉぉ!!!テメェら、ボクシング部は、そんな奴を庇う、下衆の集まりかぁぁ!?」
真悟の魂の叫びを聞いた合田も、ボクシング部員達も思わず呆然とし、静まりかえった。
(噂には聞いていたが・・・あれは朱紗の彼女だったのか・・・安村めぇぇぇ!!)
ボクシング部の中から、そのような不埒な人間を出した事に、合田もまた怒りを爆発させた。合田は真悟を指差し、
「よぉぉし、朱紗ぁぁ、許可する!この試合に限りローブローを許可するぞぉぉ!!我が部の恥さらしを、思う存分叩き潰せぇぇ!!!」
「ヒィィィィ!」
安村は慌ててリングから逃げようと試みるも、合田の命令を受けた部員達が、安村を左右から捕まえ罵る。安村は怯えまくり、真悟も驚く意外な言葉を述べた。
「朱紗!キャプテン!か、勘弁してくれぇぇ!!俺は、俺は命令されただけなんだぁぁ!だから、だから、もう殴るのは止めてくれぇぇ!!!」
「命令されただとぉぉ!?本当か?」
安村は、もう言い逃れできないと悟ったのか、コクリと頷いた。安村が放った言葉に、真悟は混乱した・・・雪代母娘を青沼達が襲った事には、何か裏があったのかと思うと、真悟は真相を知りたくなった。真悟は安村の両肩を掴むと、
「言え!言ってくれ!!」
「か、勘弁してくれぇぇ!あいつらに殺されちまうよ!!」
「安村、正直に朱紗に話せ!言い逃れの嘘なら・・・俺が許さん!!」
真悟だけで無く、合田にまで言われては、もう安村も観念して真実を語る以外無かった。安村はヘナヘナリング上でへたり込み、まだビビっていたが真相を語り始めた・・・
「お、俺が命令されたのはこうです・・・1年の雪代って女を犯す事、出来れば朱紗って奴の目の前で・・・俺は一人じゃ怖かったから、中々実行出来なかった!そこに上手い具合に、青沼が女を紹介しろと言ってきたんです!!俺は雪代の事を思いだし、奴らを利用した・・・」
「命令したのは誰だ!?あの頃の俺には・・・人に恨まれる覚えは無いんだ!」
「ノス・・・ノスフェラトゥ!不死団と名乗る超能力を持った集団だよ!!し、知らねえのか?」
真悟に激しく肩を揺さぶられ、安村は震えながらその名を遂に口にした・・・
安村が不死団の名を出しても、真悟はピンと来なかったようで首を傾げた。真悟は今初めてノスフェラトゥと言う言葉を聞いた。そんな真悟の動揺を見て、合田が真悟に教え、
「朱紗・・・どうやらお前は、とんでもない奴らに目を付けられたな!奴らは、この学校の闇だ!!我が耳宇高校が荒廃しているのも、奴らのせいだと言ってもよい・・・奴らは悪の秘密結社、言わば、奴らは学園マフィア!!我が部団連合最大の敵でもある!!!」
合田が悪の秘密結社と漫画や特撮のような言葉を出し、思わず真悟は虚を突かれたものの、直ぐに我に返り、
「何でそんな奴らが俺を狙うんだ?」
「いや、それを俺に聞かれても・・・」
安村は、それ程深く不死団と関わっていた訳では無かった。だから安村にも、不死団が真悟を何故狙うのか、その理由は分からなかった。真悟は両手のグローブを合わせてバシッと叩き、
「だったら、本人達に聞いてやろうじゃないの!安村、付き合ってもらうぜぇ!!ノスフェラトゥのアジトって奴によぉ!!!」
「朱紗、ノスフェラトゥ相手に、お前一人じゃ無理だ!ノスフェラトゥは、我が武団連合の宿敵・・・お前が奴らに狙われていると分かれば、俺からも働きかけて武団連合が手を貸すぞ?」
「合田さん、あんたには色々世話になっちまったなぁ・・・だが、これは俺の問題だ!俺の手でケジメを付けたい!合田さん、あんたとの勝負も・・・楽しみにしてるぜ!!」
真悟は、合田に礼を言い、怯える安村を無理矢理連れて、ノスフェラトゥのアジトに向かった。腕組みした合田は、真悟と安村の背を見ながらポツリと呟き、
「惜しいな、ノスフェラトゥ相手じゃ、いかに朱紗でも・・・」
合田は真悟達を見送った後、何か考え事をすると、副キャプテンに後時を託し、何処かへ出掛けて行った。