その日の昼休み、学校中に武団連合からのお知らせが鳴り響いた。それは一週間後に、合田と真悟のボクシングの試合が、体育館で行われるというお知らせだった。ドッと沸き返る生徒達、心配そうな表情を浮かべるのは、涼子と美剣、モサとミーコ、真悟は我関せずと、屋上で一服をしながら、色々思案していた。合田はフェアな戦いを望む男で、ボクシングに詳しく無い真悟を、一週間みっちり鍛えると約束してくれた。
放送を聞いたモサは驚き、慌てて真悟を探し回り、屋上で考え事をしている真悟の所に飛んできた。
「ア、 アニイ!本当ですか?合田と試合するって!?」
真悟はそうだと頷くと、モサはとんでもないと合田の武勇伝を語り出した。
その内容はこうである・・・
合田は、1年の時にはすでに、全国に出場するほどの実力者だったが、試合で一人事故とはいえ殺してしまい、対外試合をしばらく禁止された程で、リングに上がれば、人が変わったみたいに殺戮マシーンになる事などを真悟に告げた。
「ボクサーって言うのは、そういうもんじゃねぇのか?上手く言えねぇが、俺はあの人と戦う事が、俺のプラスになるような気がするんだ・・・心の中にある何かを、爆発させる切っ掛けになるような気がな・・・」
真悟はモサにそう語ると、なるようになるさと笑みを浮かべた。
その日の放課後、体操部の部活を終えたモサとミーコは、校庭に出ると、ボクシング部での稽古を終えた真悟と出くわした。こんな時間まで稽古をしていた真悟を、モサは不思議に思い真悟に聞いて見ると、
「ああ、俺はセンスが良いらしくてさ!合田さんが、直々に試合の日まで稽古つけてくれているのさ・・・俺の想像以上の人だ、あの人は・・・」
真悟は、ある意味合田を尊敬していた・・・
武団連合の敵でもある自分の事を、合田は対等の勝負がしたいと自ら鍛えてくれている。そんな合田の好意に応える為にも、真悟は、真面目にボクシングの練習に精を出していた。
三人で雑談しながら歩いていると、突然体育館のドアが開き、中からゾロゾロ顔付きの悪い集団が近づいて来た。周りを数十人の男達に囲まれると、ミーコが驚きの声を上げた。
「あ、あんた達は・・・ノスフェラトゥ!?」
真悟は、ミーコが発したノスフェラトゥと言う言葉に直ぐ反応し、思わずハッとして身構え、モサは震えながら、
「ア、アニイ!・・・ノスフェラトゥとも関わっちゃったんですか?」
「違う!こいつらには関わられたんだ!!それにどうやら、雪代母娘事件を青沼達に仕掛けたのは・・・こいつ等だそうだ!!」
真悟の発言を聞き、モサとミーコは思わずビビリ捲くった。たった三人で、数十人のノスフェラトゥに勝てるのだろうか?真悟は、無闇に攻撃せず、相手の出方を窺った・・・
「朱紗真悟とはどっちだ?」
ノスフェラトゥの一人、2メートルはありそうな丸坊主の大男が、真悟とモサを見比べ聞いてきた。すかさず真悟が一歩前に出ると、
「俺だ!ちょうど良いぜ、お前らに聞きてぇ事が山ほどある・・・出掛ける手間が省けたぜ!!」
威勢良く啖呵を切る真悟であったが、ノスフェラトゥの男達は、不気味な笑みを浮かべながら、
「お前が聞きたい事は分かっている!だが、我らは答えない・・・答えて欲しければ、朱紗真悟・・・お前が我らノスフェラトゥに入る事だけだ!!」
真悟の表情は見る見る険しくなると、ふざけるなとばかり、ノスフェラトゥの男達に殴り掛かった。
「真相がどうだろうが、手前らが雪代母娘達に関わってるのはお見通し何だ!!」
真悟は一人、また一人とノスフェラトゥを倒していくが、モサとミーコにもノスフェラトゥの面々は襲い掛かる。呆気なくやられるモサ、得意の物品引き寄せを使う間もなく、身体を押さえつけられ、胸を揉まれまくり悲鳴を上げるミーコ、
「モサ!ミーコ!そいつらは関係ねぇだろう?離しやがれ!!」
真悟が二人を気に掛け、思わず隙が生まれると、男達は真悟の両手をチェーンで塞ぎ殴りかかった。多数に無勢で、さしもの真悟も一方的に殴られ出した。
(せ、せめて、モサとミーコだけでも逃がさなきゃ・・・)
反撃のチャンスを窺う真悟であったが、闇の中から突然声が掛かり、
「待ちな!それ以上朱紗を壊されちゃ困るんだ!!」
ノスフェラトゥは、声のした方に振り向くと、皆動揺を隠せなかった。何故ならそこに立って居たのは、ボクシング部の練習を終え、制服に着替えて帰る所だった合田だったのだから・・・
「お、お前は、合田!?テ、テメェも邪魔するなら・・・」
合田は、ギロリとノスフェラトゥの面々を睨みつけると、
「ほう、邪魔するなら何だ!?思い上がったな、ノスフェラトゥ!我ら部団連合と正面からやり合うか?」
「うるせぇぇ!」
構わず向かってくるノスフェラトゥの面々に、合田の鉄拳が次から次へ炸裂する。長身の割に、合田のフットワークは軽く、相手の攻撃を蝶のように舞いながら躱し、隙を見付ければ、蜂のように鋭いパンチが次々と、ノスフェラトゥをKOして行った。モサとミーコは抱き合いながら震え、真悟は、合田の真の実力に驚愕する。
「ご、合田さんのパンチが・・・見えない!?」
真悟は、この時改めて合田の凄さを思い知らされた・・・
そして、合田との約束の試合の日がやって来た!!
会場は超満員で、体育館に入れない者も出る程であった。応援団長藤倉は、自分の力でこの試合を実現させた事に得意気であった。その隣には、武団連合会長九頭木剛が腕組みしながら座り、試合の始まりを不気味な沈黙で待っていた。
弟の真悟の身を心配した涼子は、真悟の控え室にやって来ると、今にも泣きそうな表情を浮かべ、
「真悟、今ならまだ間に合うわ!試合を止めて!!相手はあの合田君なのよ!!」
「んな事は分かってる!今更止められるかよ・・・それに、俺もこの一週間でどれだけ力を付けたのか、試したいとも思ってる!!」
「アァン、もう!分かったわよ!!ミーコ、真悟がヤバイと思ったら、試合を止めてよね!!」
「うん、あたいも真吾ちゃんが殺されるのだけは見たくないもん!」
「じゃあ、私は会場に戻るけど・・・真悟、無理しないで!」
「ハイハイ!」
真悟は涼子の言葉を軽く受け流すも、涼子が心から自分の事を心配してくれているのは分かった。
「アニイ!美人のお姉さんの言うように、試合放棄するのも手ですぜ?学校中でアニイが殺されるって評判ですぜ?」
「あたいも涼子やモサの言う通りだと思うよ!」
「うるさいなぁ!少しは考えさせてくれよ!!」
ミーコも同意するも、考え事をしていた真悟は二人を黙らした。真悟は、ブツブツ呟きながら、ボクシング部で合田に教わった事を思いだしていた。その場でシャドーボクシングを始め、基本である左右のジャブに磨きを掛けていた。合田にボクシングを教わった、一週間の付け刃とは思えない程、真悟の拳はシュッシュッと鋭い音を立てていた。だが、真悟の表情が冴える事は無かった。
(ノスフェラトゥを瞬く間に倒した合田のパンチを、俺は全く見えなかった・・・どうする!?どう戦えばいいんだ・・・)
真悟は、合田とどう戦えば良いのか、全く思いつかなかった・・・
一方、合田の控え室では、合田が鏡の前で、シャドーボクシングをしながらイメ-ジトレーニングをしていた。顔の厳つい坊主頭の副キャプテンは、困惑気味に合田に話し掛け、
「キャプテン・・・本当に朱紗を殺す気ですか?あいつは良い奴ですよ!」
合田は、副キャプテンが真悟の事を心配しているのに気付き、フッと笑みを浮かべ、
「俺も朱紗の事は気に入っているよ!だが、試合となると分からねえ・・・朱紗が俺の想像以上の強さなら・・・俺も本気で戦うだけだ!!」
そう言った合田は、直ぐに目に炎を点し、今戦士としてリングに向かう準備が整った!
遂に試合開始の時刻が迫り、両者が体育館に設置された特設会場へと向かって行った。真悟もリングに向かうが、途中で美剣が待っていた。瓜生グループの一員であるモサとミーコは、美剣と一緒に居る所を見られたら不味いと思ったのか、少し二人から離れた。美剣は、真悟の目をジィと見つめながら、
「朱紗君、あなたは殺されるわ!あなたの実力では、合田に殺されるしかない・・・」
真悟は、一瞬目を険しくさせるも溜息を付いた。そんな事は美剣に言われる迄もなく、自分自身にも分かっていた。だから色々考えて居るんだろうと思って居ると、少し美剣に嫌みの一つでも言いたくなって来た。真悟は口笛を吹いて両手を広げ、
「ヒュー!やれやれ、これから試合に行く選手に言う言葉かねぇ・・・死なないで!勝ったら私をあげるわぁぁ!!てなぐらい、言えないのかねぇ?」
真悟はそう言って、美剣を茶化し反応を伺うも、美剣は別段気にせず言葉を続けようとして、真悟は舌打ちした。
(チェッ、俺の事を心配してくれてるのかと思ってたが・・・)
美剣は、真悟の心を読んだかのように、一瞬虚を突かれた表情を見せるも、少し頬を染めながら、
「朱紗くん、私はあなたの事を心配しているわ!だから私は、あなたに話に来たの・・・たった一つだけ、あなたが勝つ方法を伝えに!!」
「「勝つ方法!?」」
モサとミーコは、美剣が発した言葉に食い付き、思わず敵対しているのも忘れて近付いた。真悟も直ぐに真顔になり、美剣の事を見つめ返すと、
「それは、あなたの心の中に眠る真の力を目覚めさせる事・・・それを目覚めさせれば、あなたは必ず勝てる!!」
美剣は、真悟を指差しそう断言した。だが真悟は、聞いた俺がバカだったといった表情を浮かべ、
「この忙しい中、何を言い出すかと思えば・・・」
真悟は、そのまま美剣の脇を擦り抜け、美剣をその場に残しリングに向かった。途中涼子に会い、小言を言われるも、真悟はそのまま無視した。
遂に両選手がリングインすると、会場のボルテ-ジが盛り上がり、大歓声が体育館内に響き渡った。
その会場内には、無表情の九頭木を筆頭に、部団連合の面々が集い、更に武団連合からの申告を受け、この戦いを承認した生徒会長瓜生麗とその取り巻き達、ノスフェラトゥの何人かも会場内に紛れ、更にニックとレイの超能力教師、そして、心配そうに真悟を見つめる美剣千草と姉涼子・・・
大勢の観客達に見守られ、両選手が、ゴングがなるのを待っている筈だった・・・
そんな中、真悟の様子がおかしくなった・・・
気付いたモサが真悟に話し掛け、
「アニイ、どうかしたんですか?」
真悟はおどおどした様子で、
「モサ・・・俺は何でこんな所に居るんだ?俺は殴り合いなんて嫌いなのに・・・」
真悟は、会場の雰囲気に飲まれ戦意喪失し、昔の真悟に戻ったような言葉を吐いた。慌ててモサは今更遅いと真悟を説得し、ミーコも心配そうに真悟に声を掛けた。虚ろな目をして何気なく見た観客席の中に、真悟は雪代小百合を見た。目の錯覚かと思って、グラブでゴシゴシ目を擦っても、確かにそこには小百合の姿があった。慌てて、リングを降りようとする真悟を、モサが身体を張って慌てて止め、
「ア、 アニイ・・・今更逃げる何て・・・」
「違う!雪代が、雪代が来てるんだぁ!!モサ、モサ、捜してくれ、雪代を・・・」
モサは、真悟が恐怖の余り錯乱しているんじゃないかと思ったものの、ミーコに目配せすると、ミーコはコクリと頷き、リングから降りた。異変を察知した涼子は、ミーコに駆け寄り、
「ミーコ、真悟に何かあったの?」
「ウン、あたいにも良く分からないんだけど、何でもこの会場に雪代小百合が来てるから、あたいに捜してくれって!でも、真悟ちゃんの様子が少しおかしいから、あたい心配で・・・」
「エッ!?雪代さんが・・・分かった!私が捜すから、ミーコは真悟の事お願い!!」
「良いの!?じゃあ、涼子に任せるよ!あたいは真悟ちゃんの所に戻るね!!」
互いに手を上げて、涼子は小百合を捜しに、ミーコは真悟の元へと戻った。
「真悟ちゃん、雪代さんは涼子が捜してくれてるから、今は試合に集中しよう!」
「アネキが!?そうか・・・」
ミーコは、涼子が捜しているから、真悟は試合に集中してくれと言うと、真悟は心の中で涼子に感謝しながら、心の中で喜びの声を上げていた。
(雪代が、雪代が、俺を見に来てくれている!俺を・・・よぉぉし!!)
真悟の心に自信が戻って来たその時、遂にゴングが高らかに鳴った!