朱紗涼子と光子は、ハレンチの砦という変わった名の砦に招待されて居た。その理由は、途中の森で魔物に犯されそうになっていた少女を、二人が助けたお礼であった。少女は真悟と同じくらいの女の子で、道中、女の子からハレンチ砦についての情報を、涼子と光子は聞いた。女の子の学校の生徒達がほとんどだが、避難民の人や孤児なども匿い、自分達で自給自足の生活をして居るらしかった。光子は随分逞しい子供達だと感心し、砦の人々に会うのが楽しみだった。
砦に着いた三人の前に、突然砦の二階から、純白のスカートを靡かせた、長い黒髪の美少女が舞い降りた。
「アユちゃん!何処に行って居たの?でも、無事で良かったわ・・・こちらのお二方は?」
アユちゃんと呼ばれた少女の名は鮎美と言い、アユに話し掛けた少女の名は、柳生十兵衛みつ子と言い、彼女の家は、剣豪でなじみ深い、柳生一族の子孫だった。十兵衛は、無事に戻ったアユに抱き付き喜んで居ると、アユが理由を語り出し、
「私は、森にお花を摘みに行ったんだけど、そこで魔物に襲われそうになった時に、二人が助けてくれたの!十兵衛からもお礼を言って!!」
十兵衛は、涼子と光子に穏やかな微笑を向けると、
「アユちゃんを助けて頂き、ありがとうございました!私は、柳生十兵衛みつ子って言います!!」
十兵衛の言葉を聞いた光子は思わず驚き、
「あら、偶然ねぇ?私も光子って言うのよ!私は朱紗光子、こっちは姪の朱紗涼子よ・・・よろしくね!」
「私は、柳生十兵衛って名前の方に驚いたわ!やっぱり、剣道の達人とかかしら!?十兵衛ちゃんよろしくね!」
涼子は、その性格が幸いしてか、誰とでも直ぐ仲良くなれるタイプだった。その辺は、父英介に似たのだろう。その時、数人の男達が一同の前に現われた。
「お~い、十兵衛!アユちゃん戻ってきたのか?」
「あっ、山岸君!山岸君からも、この人達にお礼を言ってよ!アユちゃん、森で魔物に襲われそうになったのを、この人達が助けてくれて、此処まで送ってくださったのよ!!」
十兵衛の言う山岸とは、本名山岸八十八!見かけは悪ガキっぽいが、仲間から頼りにされているのは、光子にも分かった。
(成る程、この子がこの砦のリーダーのようねぇ・・・何か私や涼子を見る視線が、スケベそうなのは気になるけどね・・・)
光子は、思わず八十八のスケベ顔に苦笑した。八十八はそんな光子に気付かず、
「そっか~、俺は山岸八十八って言うんだ!アユちゃんが世話になったね!俺達はあんた達を歓迎するよ!二人共美人だしね!!二ヒヒ」
「山岸君!」
スケベ顔の八十八を、ジロッと十兵衛が睨み、ハァと溜息を付くと、
「まったく、美人を見ると直ぐ鼻の下伸ばすんだからぁ・・・さあ二人共、立ち話も何ですから、中に入ってください!大した物はありませんけど、お持てなしさせて頂きますわ!!」
十兵衛はそう言って、ハレンチの砦の中に涼子達を案内する。光子は、若者が多い此処に、もしかしたら真弓も居るかもと思い、十兵衛に訪ねてみた。
「柳生さん、ちょっと聞きたいのだけど・・・此処に朱紗真弓って言う、中学三年の女の子は居ないかしら?」
光子の問いかけに、十兵衛は小首を傾げながら考えて居たが、
「真弓さんですか!?聞いたこと無いですねぇ・・・朱紗って名字はあまり聞かないし、居れば直ぐ分かると思うんですけどねぇ・・・山岸君、聞いた事ある?」
十兵衛に聞かれた八十八も首を捻りながら考えるも、
「俺も聞かねぇなぁ・・・悪いね、力になれなくて・・・その娘、あんたの娘さん?」
「ええ・・・ゴメンね、変な事聞いちゃって!」
光子は、八十八と十兵衛に頭を下げた。心の中で真弓の顔が浮かんでくると、
(無事で居てね・・・真弓!!)
光子は、窓の景色をぼんやり見つめながら、娘真弓の無事を祈った。
「娘さん、心配ですね!私も姉を捜しているんです!姉と言っても、本当の姉じゃないんですけど・・・」
ハッとして光子が振り向くと、そこには長い金髪を靡かせて、光子に笑顔を向ける美少女が立っていた。耳には丸いイヤリング、首にはハートのアクセサリーを付けたネックレスをし、ベージュとオレンジのノースリーブで、胸元の空いたワンピースが、彼女の美しさを更に引き立てていた。光子は同性でありながら、思わずその少女の美しさに目を奪われた。
(わ、私、レズっ気なんてあったかしら!?でも、綺麗!!柳生さんも十分美人だけど、この娘は、何か神々しい雰囲気を持って居るわねぇ・・・)
光子がぼんやり美少女を見つめて居ると、八十八と先に歩いて居た涼子が光子を振り返り、
「おばさん、どうしたの?」
涼子は光子を心配して戻ってきた。八十八と十兵衛は、少し先で立ち止まり、こちらをにこやかに見ていた。
美少女は、近づいてきた涼子にも微笑み、
「初めまして!私は如月ハニーって言います!私も最近、こちらにご厄介になったんですよ!よろしくお願いしますね!!」
ハニーはそう言うと、涼子にお辞儀した。涼子もハニーの美しさに見惚れていたが、我に返ると慌てて自己紹介を始め、
「あっ、ゴメンね!私は朱紗涼子って言うの!こっちは叔母の朱紗光子よ・・・ハニーちゃん、よろしくね!!」
八十八も、ニヤニヤしながらハニーに見惚れていたが、ムッとした十兵衛に足を踏まれ、悲鳴を上げてその場で飛び上がって居た。十兵衛は八十八を無視し、涼子と光子、それにハニーに奥から声を掛け、
「ハニーちゃんも一緒にいらっしゃいよ!軽くお食事しながら、今この地方に起こっている状況を教えておくわ!!」
少し十兵衛の表情が引き締まったのを見て、三人は息をのみ、十兵衛の下に歩いて行った。一体、この山陰地方はどういう状況なのか、その手掛かりは欲しかった。