やはり俺の英語教師がめぐり先輩というのは間違っている 作:町歩き
夏空の下、自転車をギコギコ漕いで駅へと向かっていると携帯にメールが届く。
画面を見ると、差出人はめぐり先輩のようだ。
『八幡くん。お昼は食べた?』
自転車を止めて日陰に入りメールを書いて送信する。
『まだ食べてないですよ』
送ってすぐにメールが返ってくる。速いな、めぐりん。
『じゃあ少しお野菜もっていくね。
メインに使ってもいいし、付け合せのサラダにしてもいいしね!』
お野菜か……。多分きっと絶対に奴も来るだろう。
不吉な予感を感じた俺は急いでメールを書いて送る。
『めぐりさん。今日は朝からトマトを一杯食べたんで、トマト以外でお願いします』
ドキドキしながら待つことしばし。メールが返ってきた。
『でももう鞄に入れちゃったから、このままもっていくね!』
入れる前に聞いてよ……。
そう思ったが、さすがに「いらないです」とは言いにくい。
多分先輩は俺がトマト大好きだと勘違いしたままなのだろう。
自分で掘った穴とはいえ、ここまで苦しむはめになろうとは……。
まあ仕方がない、受けてたとうじゃないか。
先輩の育てたトマトなら、なぜだか美味しく食べれるし。
それでも同じ苦しみを味わう仲間が欲しかった俺は先輩にも食べさせようと思い
その旨をメールに書いて送る。
『やったー! トマト楽しみです。そうだ、もちろん先輩も食べるんですよね?』
メールを送って五分経過。待てど暮らせど返事は返ってこなかった。あの人……
俺は諦めて携帯をポケットにしまうと自転車に跨り直し
暑い暑いとぼやきながら駅へと向かうのだった
× × ×
駅に着いた俺は駐輪場に自転車を止めると、待ち合わせ場所の改札へと向かう。
先輩は自転車に乗れないという素晴らしい運動神経の持ち主なので
案の定、まだ来ていなかった。
改札そばの壁に寄りかかって待つことしばし、先輩は初めてウチに来た時と同じように
なんだかえらく遠くから「遅れてごめんなさ~い」と叫びつつとててっと走ってきた。
何事かと周囲の人達の視線が先輩に集中し、おっ、可愛い、などと囁く野獣どもの声が聞こえた。
そんな野獣どもを腐った目で威嚇しつつ、俺からも先輩のほうへてってと駆け寄る。
「八幡くん、こんにちは!」
ハァハァと肩で息をしながら挨拶をする先輩の笑顔は、今日もほんわかとしている。
その笑顔で野獣どもへの威嚇のため険しかった俺の顔も思わず綻んでしまう。
「こんにちはです、めぐりさん。今日も暑いすね」
「うんうん。暑いよね~。
今日はね、朝から菜園で水を撒いたり草むしりしてたんだ。それがちょっと前に終わってね。
それで八幡くん、なにしてるかな~て思って電話したんだよ」
「そうだったんですか。お疲れさまっす。
俺は今日ちょっと早起きしたんで、朝からずっと英語の問題集を解いてましたよ」
「そかぁ~、受験だもんね」
先輩は言うと、ちまっと服の裾を摘んでくる。
そして少しうつむき加減に下を向くと、上目遣いで俺を見ながらぽしょっと呟く。
「ん~……、もしかして私、勉強の邪魔しちゃったかな?」
「やっ、そんなことないですよ。会えて嬉しいです。その……すごく」
言うと、先輩は耳までかーっと赤くなる。
そんな先輩を見ると俺まで恥ずかしくなり、顔をこそっと逸らしてしまう。
「………」
「………」
お互い暫く無言でいたが、いつまでもそうしているわけもいかず
上擦りそうな声をなんとか抑えて口を開く。
「え、えーと、ここでこうしててもあれなんで、そろそろいきましょうか」
「う、うん……」
先輩は俺の声に返事を返すと、裾を摘んでいた手を離しそのまま左手を握り締めてくる。
先輩の手はこの暑さだというのに少しひんやりとしていた。
まあ、うん。俺と先輩は付き合ってる訳で、なので手くらい繋ぐのは当たり前。
むしろ繋がないと可笑しいレベル。それに俺は誕生日を迎えもうエイティーンな大人なのだ。
なのでこのくらいちょうよゆう。
それにしても先輩の手。柔らかくて小さくて、すべすべしてるなぁ……
そんな、夏の暑さとは違う何かでくらくらしながら先輩の手を引いて駐輪場へと向かう。
向かった先、駐輪場で自転車を引っ張り出すと、ハンドルを握りながら俺は考えてしまう。
ここはやはり、定番のあれをしなくてはならないのだろうか……。
定番のあれ。それはもちろん二人乗り。青春ドラマに欠かせないものである。
そのことについて考えながら、ちらっと先輩へ視線を向ける。
先輩は白のサマードレスを着て黒のレギンスを履いている。
あれならまあ先輩の生足を野獣どもの目に晒さずに済むので安心ではある。
だが「後ろ、乗ります?」と口にするのが気恥ずかしい。
どうしたものか……と悩んでいると、先輩はそんな俺の逡巡をよそに
ちょこんと荷台に腰を降ろすと元気な声を出す。
「八幡くん。れっつご~!」
言われて慌てて自転車に跨り漕ぎだそうとすると、先輩は俺の腰に手を回し
体をぎゅっと押し付けてくる。
はわわ! む、胸があたちゃうー! と思ったが、とくに柔らかい感触を背中に感じない。
ふむ……、これ、小町の方があるんじゃねーか。
そんなことを思いつつも、とてもじゃないが口には出せない。
いくらここが妹天国千葉でも彼女と比べる対象が妹とか、ちょっと社会的にやばいレベル。
まあ先輩はそこがなくとも充分魅力的だしな、そう思いペダルを踏む足に力を入れた。