※この作品はR-18です。

やはり俺の英語教師がめぐり先輩というのは間違っている   作:町歩き

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本編と同じなかなか先に進みませんが、たぶんずっとこんな感じです。


特別じゃない特別

「八幡くんはさ、林檎と梨どっちがいいの?」

 

「今日は暑いですからね。ここは水分量が豊富な梨が良いかと思います。それか西瓜とか」

 

「ん~、でも西瓜はこの前、御宮で一緒に食べたよね。今日は違うものが食べたいかな~」

 

「なら林檎か梨ですけど、もし先輩が林檎がいいなら、俺はどっちでも構いませんよ」

 

「う~ん、私も梨がいいかな~。なんか林檎って冬のデザートって感じするし」

 

「あー、たしかに。寒いところで作ってるからですかね。それじゃ、梨にしときますか」

 

「うん! じゃあ、美味しい梨をチョイスしよう~」

 

先輩は元気な声でいうと、鼻歌混じりで陳列された梨をひとつひとつ検分していく。

 

場所はうちの近所のスーパーマーケット。

お昼なこの時間は近所の奥様方も買い物に来る時間なのか店内は賑わっている。

なぜそんな所に俺と先輩がいるかというと、お昼ご飯を何にするかふたりの意見を

まとめた結果、めでたく冷やし中華に決まり、食材で足りない中華麺と食後の

デザートを買いに立ち寄ったからである。

 

「これなんかどうかな?」

 

先輩は言って、ひとつ梨を手に取る。

俺には梨鑑定士の資格も素質もないので「お任せします」と答えると

先輩は梨を両手で大事そうに挾み、なかなか色気のある言葉を口にする。

 

「私をたべてって感じがしない?」

 

これがベットの上なら「やれやれ仕方がないな、子猫ちゃん」などと返したくなる言葉。

だが今は昼間、しかも周囲には耳ざとい主婦な方々が多くいる。

ただでさえ俺達くらいの年齢の男女が一緒にいるだけで好奇に満ちた視線を送ってくるというのに

そこへ投げ込まれた先輩のちょっとアレな発言に周囲がざわつく。

 

ていうか先輩のすぐ後ろにいるの、うちの二軒隣の山田さん家の奥さんじゃね?

なんか目を丸くしてこっち見てるんですけど……

ご近所の噂にされてしまいそうで怖い。

 

なので俺はこれ以上困ったことにならないよう会話のイニシアチブを取ろうと

気になっていたことを先輩に尋ねてみることにした。

 

「ところで、めぐりさん」

 

「なーに?」

 

「送ったメールの返事、いただけてないんですけど、お返事はどうなんでしょう?」

 

「八幡くん。守秘義務って知ってる?」

 

「知ってますけどね。それは知ってることを黙ってないといけないって意味ですよ。

めぐりさんの場合、多分黙秘権ですね」

 

「じゃあ、それで」

 

「いや、じゃあそれでって……。えっと、そんなにトマト、お嫌いですか?」

 

「嫌いというか、苦手かなぁ~ あのぐにゅっとした感じと独特の青臭さがね……」

 

わかる! わかるわー! 俺もそこが苦手! 

でもね、めぐりん。めぐりんはそれを俺に食べさせようとしてくるんだよね、わかってる?

 

もちろん先輩はわかってくれていなかった。

トマトトークでちょっと難しげに顰めていた顔をいつものほんわか笑顔にしてくれたが

その笑顔に似合わない不吉なことを口にする。

 

「だからね、八幡くんがトマト大好きでよかったーって思ったんだ。

ランチとかいくとさ、サラダに絶対、トマトって入ってるじゃない?

これまでは残すといけないから無理して食べてたんだけど、

これからは八幡くんが食べてくれるから助かるなって」

 

おいおい、それ俺が助かってねーよ! しかも、なに?

なんかもう決まったかのように話すのは止めていただけませんかね……

と言いたいところだが、俺は紳士なのだ。なのであの時と同じように紳士らしく答える。

 

「めぐりさん、任せてください。どんとこいです!」

 

言って自信有りげに自分の胸をとんと叩く。

にぱっと笑って「お願いね♪」といってくる先輩の顔を見つめながら、俺は考えてしまう。

現状のトマト・ヘルは、あの時も今も紳士らしくあろうとした結果なのだ。

紳士やめようかしら……そんなことを思っていると、

先輩が俺の服の裾をちまっと摘み話しかけてきた。

 

「でもね、この前みたく八幡くんが食べさせてくれるなら、食べれるかも」

 

「そ、そうですか」

 

「うん。食べさせてくれる?」

 

「それはまあ……、はい」

 

「じゃあ食べる」

 

先輩は言うと、えへっと笑う。

その後ろで山田さんの奥さんが驚いたような表情で俺を見ていた。

困りましたね、これは……

 

「と、とりあえず、お会計済ませちゃいましょうか」

 

俺は言うと先輩の手を引いてその場からそそくさと離れたのだった。

 

× × ×

 

会計を済ませ袋詰めをすると先輩と二人、出口へと向かう。

二人でてってと歩いていると、先輩が頬を薄く染め口を開く。

 

「なんかこうしてスーパーとかでね、二人でこうやって買い物しているとさ

その……、新婚さんみたいだよね」

 

「そ、そうですね」

 

先輩が照れくさそうに口にした言葉にドギマギしつつ、店の外に出る。

スーパーの広い駐車場を歩きながら、先輩と今の関係になる前のことを思い出す。

 

俺は今まで幾人かの女の子と買い物をしに出掛けたことがあるが、それはどちらかというと

特別なときの特別なもの、例えば誕生日のプレゼントのような

そういうものを買いに行くことが殆どだったように思う。

 

なので今の俺たちのように、自分たちの口に入るものを自分たちで買いに来る。

そんなごく当たり前の日常的なことを二人ですると、そうじゃない特別なことをするよりも

先輩と親密になれた気がした。

コンビニとかだとそういう気分にならないんだけどな、不思議なもんだ。

そんなことを思いつつ、俺は先輩と二人で家へと向かうのだった。

 

 




それでは次回で
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