やはり俺の英語教師がめぐり先輩というのは間違っている 作:町歩き
あんな会話をする高校生っていないですよね。
ちなみに最近耳にした高校生の会話がこちら
Aくん「○ック、寄ってこうぜ!」
Bくん「○ックって緑肉のとこじゃん。危なくね?」
Aくん「食べる前に見て、緑だったら交換してもらえばいいじゃん」
Bくん「そかー、だな」
逞しいな、おい…… と思いました。
家に着いた俺たちは二人で台所に立ち、てきぱきとお昼ご飯の用意を始める。
今日のメニューは暑いので、さっぽりとした冷やし中華をメインに
紫蘇入りの出汁巻き玉子と豆腐のサラダ。
そして冷たいものばかりだと体が冷えるので、大根と菜っ葉のお味噌汁を作ることにした。
先輩が卵焼きとサラダを作っている間、俺が味噌汁用の大根をしゅるしゅる桂剥きしていると
先輩が感心したような声を出す。
「八幡くんすごいねえ~、桂剥きとかできるんだ!」
「専業主夫として必須のスキルですよ。
あれれ、もしかして、まさかとは思いますけど、めぐりさん桂剥き出来ないんですか?」
「ぐっ……」
にぃと嫌な感じの笑みを浮かべながら言った俺の言葉に、先輩は悔しそうな呻き声をあげる。
悔しがるめぐりんかわええ……と思っていると、先輩が自己保身プログラムを発動させた。
「八幡くん、これがなんだかわかるかな?」
言われて、先輩の手元を見る。
「皮むき器ですね」
「そう、皮むき器。その名の通りお野菜の皮をむく道具だね。
でね、これは私のように桂剥きができ……苦手な人のために昔の人が英知を結集して作った訳よ」
「英知って……、大げさな気が」
「いい? 八幡くん。英知を結集して作った訳よ」
先輩の顔に浮かぶ冷たい笑顔に恐怖を覚えた俺は、自己安全プログラムを発動させる。
「そ、そうですね」
俺の返しに、先輩は満足気にうんっと頷くと、謎のめぐりん理論を展開しだす。
「それでだよ。この皮むき器を作ることで生計を立てている人たちも
世の中にはごまんといるわけだよね。わかる?」
「ごまんとはいないと思いますけど……」
「うん。私もそんなにはいないと思う……
はっ、で、でもね、それなりにはいると思わない?」
「ま、まあ、それなりならいるかもですね」
「うん。私の好きな月兎印とかLE CREUSETなんかの社員さんがそうだね」
「あー、この前先輩の家で一緒に料理したとき、置いてあったキッチン用品とか食器とかの
メーカーですよね。なんかすごくおしゃれで使いやすかったですよ、あれ」
「そうそう、あれいいでしょ! 無印も好きなんだけどね~
最近はね、DANSKの食器もいいな~と思うんだけどさ、ちょっと高いんだよねえ」
「そうなんですか?」
「うんっ。丸みがあるデザインでね、可愛いんだ!
でね、今欲しいのが小ぶりな片手鍋のバターウォーマーなんだけど
六千円くらいするんだよねえ……」
「他のとこだといくらくらいなんですか?」
「うーん、ほんとピンキリだからねえ。でも他だと大体半額くらいかなぁ」
「そう考えると高いですね。でもその分使いやすかったり長持ちするんですかね」
「うん! そうなの~ すごく使いやすいんだ。
あっ、そうだ、八幡くんはさ、三世代家具って言葉知ってる?」
問いかけに、頭を掻いてざっと記憶をさらってみる
「いや、ちょとわからないです」
「えっとね、例えばドイツの家庭だと、一年に一回、すごく高いお皿を一枚買うのね。
一枚のお値段が三万円とか五万円くらいの」
「そ、そんなに高いお皿があるんですか?」
「うんうん。でもモノが良いしファンも多いから、もし自分たちで使わなくなっても
中古で売りに出せば買った当時のお値段で売れるくらいなんだって」
「なんか骨董品みたいな感じですね」
「そうだね~。ただ、う~ん、なんていうのかなー
普段使うものほど良いものを使うべきってことなんだと思うの」
「まあ百均で揃えた食器とかだと、扱いも値段相応の雑な感じになるでしょうしね。
もちろん百均が悪いとかそういう意味じゃないですけど」
「うん。あれはあれで便利だしね。
それでね、そうやって高いお皿を買うんだけど、でも高いから一杯は買えないじゃない?
なので毎年少しずつ揃えて、それを財産として子供や孫に残していく。
そういう考え方って、なんか素敵だなって思うんだよね」
さすがドイツ人。ドイツの科学力は世界一ィィィィは伊達じゃない。
いや、科学関係ねーか、と思いつつ、似たような話を漫画で読んだことを思い出す。
「少し違うかもですけど、そういう考え方って遊牧民族の人たちもあるみたいですよ」
「そうなの?」
「はい。えっと、森薫って人が書いてる「乙嫁語り」って漫画があるんですよ。
めぐりさん、読んだことあります?」
「ん~、ないかも」
「雰囲気が好きで読み始めたんですけど、遊牧民族の人たちの生活スタイルっていうんですかね。
そういうのがすごくわかりやすく描かれているんですよね」
「ほほう、読んでみたいかも!
そうゆう自分とは違う生活をしてる人の話って面白いしね。
んと、八幡くん。乙嫁ってどういう意味なの?」
「可愛いお嫁さんって意味らしいですよ」
「お嫁さん……」
先輩はぽしょっと呟くと、顔を赤くして照れたように俯いてしまう。
うん。そんな態度を取られると俺まで恥ずかしくなるからさ、ちょっと控えようよ、めぐりん
まあ、そういうところが可愛いんだけどさ!
なにやら微妙な雰囲気になったので、咳払いを一つして気を取り直すと話しの続きを口にする。
「それで遊牧民族の女性には“布支度”っていうのがあるらしいんですよ」
「布支度?」
「はい。結婚するときに持っていく自分たちが日常で使う、えーっと例えば
櫛入れとかお財布とかの小物入れや着る服に刺繍を入れていくんですよね」
「そうやって小さい頃から針仕事を覚えて、自分の旦那さんや子供たちの服やらなにやらを
繕ったり、華やかにするみたいな感じなんですよ。
まあ物じゃなく技術を、子供や孫に伝えるんですけどね。
なんか先輩の話と、ちょっと近いかなって」
「いいねえ~ そういうの。なんかあったかい」
「ですよね。そういう本当の意味での手作りっていいなーって」
「八幡くんも、そういうの欲しいの?」
「えっと、手作りのですか?」
「うんっ!」
「まあ、憧れは少しありますけどね。作ってくれる人がいませんし」
「私、和裁も洋裁もできるよ? そんな大した腕じゃないけど」
「ええ! 凄いじゃないですか」
「うひひ。おばあちゃんにね、教わったんだ~。
それで遺品としてね、着物とか一杯残してもらえたからさ、繕ったりして大事に着てるの。
その、あのね。結婚したら自分の子供にも着せたいなって」
「いいですね、そういうの」
「そっかな、えへへ」
子供かー! まあその前にめぐりん。子作りしないとですね! ぐふふふ
おっといかん。ほのぼの話でムラムラっとしてしまったぜ……危ない危ない。
「全巻部屋に置いてあるんで、良かったら貸しますよ」
「ご飯食べ終わったら読みたいな~」
「えっ、めぐりさん。たしか今日は、俺に英語を教えに来てくれたんですよね?」
「うん、そうだよ~ でも漫画を読んでからね!」
自分の欲求に素直すぎるめぐりん。だが、そこがいい! と思いつつ
そういえば一体なんの話をしてたんだっけと気付き、聞いてみることにした。
「えーっと、めぐりさん。もとはなんの話でしたっけ?」
「あれ、なんだっけ?」
「たしか皮むき器を作って生計を立ててる人もいるって話だったような……」
「そうだったっけ?」
「うーん……多分ですけど。
まあそれは置いといて、料理もできましたし食べましょうか」
「うん!」
俺の言葉に、先輩は元気に答えると楽しげに鼻歌を歌いながら
食卓にできたばかりの料理を並べ始める。
それでは次回で。