DARKNESS FUR MOFUMOFU !!!! 〜僕はただモフモフしたいだけ〜 作:アンダーグラウンド
いろいろ物理的なキャパが足りないので、ギンとアル以外のキャラは簡素です。
ビルの屋上の角に座って、眼下に広がる街を眺める。日常生活の片手間にバグを斬って、軽い金稼ぎだ。細身の片手剣に手をやり、横に引き抜く。剣には東洋の龍が彫られ、図らずもそれが、バグの王の姿だった。黒い鍔は短く横に伸び、先細りになる。握り部分に巻かれたサラシは、明るめの紺と真黒な布が交差している。柄頭は、握り部分の幅のリングが付いている。ストラップに自身の伴侶の、黒い羽根と毛皮を束ねたものを付けている。全体的に見れば、東洋の刀をイメージさせる造りだ。鞘には金の雲の装飾が、上から下まで引かれて浮いている。
「アルカディル──」
捕縛完了──。ゴーグルを付けて首に麻布を巻いた、簡易なマントをはためかせる。大きな体格に見合うだけの、巨大な鳥の翼を持ち上げる。全身黒のシルエットに、鮮やかな金の眼が映える。
僕も立ち上がり、着物を風に揺らして草履の感触を確かめる。風は向かい風だが、いい風が吹いている。秋に向かう僅かな間の、温かく湿った空気。
人型のバグに急襲し、首を即座にはねる。剣に付いた血を払う動作をして、アルカディルの背から飛び降りる。後には漆黒の羽根が舞う。
「──」
「どうした、銀嶺」
今、人に見られた感覚が。
「確かに違和感があったな。俺の魔法が及ぶ範囲の影は、把握しているハズだが──」
でも、探しても無駄だぜ、もうどこにも居ない。影の俺が言うんだから、確かだ。
「あーるぅー」
「はいはい」
目を逸らしてバツの悪そうな顔をする。後にはティッシュが大量に引き抜かれている。
「決めた、手を出して」
「いーやーだー」
爪切りになると本気で嫌がる。逃げはしないけど、言葉で赦しを請う。「マジで痛いの無理」「ギン様、こればかりは、何とぞお慈悲を」「そこをなんとか、ね、ね、俺とギンの仲じゃない」「伴侶とは、互いを思いやるものである」「もう、ぜーったいやらないから、許して、ね、ね」「にゃ〜ん、にゃんにゃん」
「アルがなんでそこまで爪切り嫌いなのか知らないけど、爪を切る事は、最低限の身だしなみです」
「だぁーって、本当のこと言ったら笑うもん」
「この女々しさは、僕が責めのときに使えるな」
「──ネコにとって爪は武器なんです。同時に弱点でもあるんです」
くっくく、他人行儀なのが妙に笑える。
「あー笑った、今笑ったー」
「はい、逃げようとしても無駄です。手を出してください」
「鬼ー!! アクマー!!」
ものっそい固く眼をつむって、爪が切れるごとに身体が大きくはねる。
「そんなに身体を動かしたら、本当に根元まで切っちゃうよ」
「ひぃっ!!」
少し傷をえぐり過ぎたな。アルをなだめながら慎重に切っていく。
──いつもなら全部切った後は、脱兎の如く逃げ出すのに、今日は震えて固まっている。
僕はアルを抱き締めると、「いたいのいやだ」と、子供っぽい口調で返ってくる。母性が刺激されて、アルの背中をゆっくりとさする。──翼が邪魔してさすり辛い──。大丈夫、大丈夫、と、あやしていると、「うぐぅ……」と本格的に泣く。泣くといってもそこは雄だ、直ぐに頭を振り、気丈に振る舞う。
「わーりぃ、ちっと頭に血が上ってた」
「今、料理作るから待ってて」
「おう、肉多めにな」
「はいはい」
アルは自分の部屋に駆け込む。
人が空を見上げるときって、どんなときだと思う? 悲しいとき、やるせないとき、上を向きたいとき。ぼくはセックスしてもらいたいとき!!
「はい、これで終わりー」
獣姦モノのAV撮影も終わって、ぼくは人に戻る。あーきもちよかった。「あんた、いつも泣いてるけど、そんなに辛いなら止めれば?」「やだなぁ、傘を持って来るのを忘れるんですよ」「だったらほら、タオル」「ありがとうございます」
ぼくは再び犬に戻って、夏野さんに送ってもらう。
「高校一年でAVに出るの、相当ぶっ飛んでるよ」
「ぼく、セックスしたくてたまらないんです」
「他の誰が勧めても、私だけは反対するよ。送りと帰り、何度だって言ってやる」
「夏野さんは優しいなあ、だからあそこも柔らかいんですね」
車が急に止まるので、ぼくは鼻を思い切りぶつけてしまう。「いてて──」
「なにするんですか? 鼻が折れたら台無しじゃないですか」
「あんた、一人暮らしだよね。私のところに来な。飯も光熱費も部屋代も、全部タダだよ」
「セックスはつきますか?」
「あたし一人だけならね」
「ぼく、結構激しいですよ、1日数回はしますよ」
「まだまだチンポの青いガキだな。この私がその程度で根を上げるとでも?」
街灯がどんどん溶けては遠くへ消えて行く。今日は家に泊りな──と、言われて素直に従ってみる。なにやってんだ、人間なんてメタメタに嚙み殺して精液ぶち撒けるだけじゃないか。……初めてそれが出来そうにない相手を知って、ぼくは頭が真っ白になっていた。
「学校の宿題置いてきたんですけど」
「人生なんて簡単には潰れやしないよ」
下着が大量に転がっているソファをガバッと片して、「ホラ、ここに寝てな、今、飯作るから」久し振り、誰かのゴハン作るの──そう言って、ガチャガチャと冷蔵庫を漁る。
ああ、誰かを殺したい。安堵を感じて自然にそう思う。でも、その対象に夏野さんはいない。ぼくは初めて、胸の苦しみで空を見上げる。
「夕映暮葉くん、だっけ」
そーですよー──っと、テレビを見ながら答える。こいつらぶっ殺したら、夏野さんなんて思うかな──
「すごいね、暮葉くんの絵。よくこんなグロテスクな絵、描けるね」
「実際に人を殺すところを想像して、描いているんですよ」
「──本当に人を殺したことは?」
「ないですよ、ぜーんぜん」
「じゃあワタシ、暮葉くんの優しいところ見つけちゃったんだ」
すっげームカついてくるのに、殺したい衝動が湧いて来ない。いつから画面の向こうの下等生物になったんだ、ぼくは。
「ん? マル秘計画──バーチャルに精神を移した奴らを、丸ごと締め上げる。わっ──」
夏野さんは、ソファの背から顔を出しているぼくに驚く。「いきなり人に戻ったら驚くじゃないか」──ごめん、夏野さん──ぼくは自分らしくない返答に、反吐が出そうだった。自分は欠陥品なんだ──認めてもらいたい、ぼくは完璧な人間なんだ。
「な、なんだ、険しい顔して」
「別に、ただ溜まってるんですよ、今脱いでくれます?」
「女性にストレートに言うもんじゃないぞ。そこがガキだな」
今日こそ亀頭球入れてもらえます? ダメだ そんなこと言われたら入れたくなりますよ 入れる勇気がないくせに
「ふぅー 暮葉くんとやると大変だねー」
「あれ、根を上げないんじゃないですか?」
「乙女にも意地ってものがあるのよ」
で、あんたは今なにを思って、将来を考えているのかしら。
「神織銀嶺を殺す」
笑われるか、怒られるか、諭されるか──。
「そんなちっぽけな夢、直ぐに消えちまうよ」
夏野さんはぼくにキスをした後、優しく頭を撫でてくる。