DARKNESS FUR MOFUMOFU !!!! 〜僕はただモフモフしたいだけ〜 作:アンダーグラウンド
「えー、桃子さん、来ないんですかー」
「いつまでも『さん』付けしない。もう彼女なんだから」
オンラインゲームで数年、ソロプレイヤーとして名を馳せた僕らは結局、付き合うことになった。といっても、二人の実力には開きがあって、僕はいつまでも桃子をさん付けしてしまう。年齢が一つ上なのもある。
2〜3年前だったかな、初のバーチャルゲームとして話題になった【クロス・オン・クロス】は、多額の借金を抱えて頓挫。今回はオンラインゲームのメッカである【YUNITTO】が、一番に名乗り出た。それで、MMORPG──大規模多人数同時参加型オンラインRPG──の要素を持ったバーチャルゲームが、バーチャルゲーム史上の初めに刻まれることになった。それまでも『バーチャルリアリティゲーム』として、外部機器を頭に付けてプレイするゲームはあったけど、今回は電脳外殻に直接インストールすることになる。
一応、お兄さんにも連絡をしておこう。完全に五感を切った状態では、現実世界に起こることが認識出来ない。少なくとも同じ家の中に、プレイヤー以外に一人以上、人が居ることが推奨されている。僕は一人暮らしなんで、直ぐにそんな状況は作れない。
「やーぁあああああっと──インストール完了ktkr」
腕を伸ばしてあくびをする。
『バーチャルの世界へようこそ』
なんの面白味もない導入もそこそこに、僕はベッドの上で五感が切れる。
──草の匂い。粗末な小屋で目が覚める。藁ぶきの屋根に、石造りの家。ベッドに藁が敷いてあって、6畳あるか、ないか、それがこの家の広さ。窓にガラスなんてハマっていなくて、ドアも見当たらない。さんさんと太陽の光が部屋に射し込んで、部屋の外に想いを馳せる。しばらくボーっとしていたが、やがて自分の手を見つめて動かす。ある程度、現実の体型と違っても違和感がない。
「おーい、旅の人やーい」
遠くから声が聞こえたと思ったら、いかにもな農作業服の男が、玄関から覗いてくる。
「モンスターが暴れて、おらの家畜が喰われてるだ。なんとかしてけれ」
なんとか、って言われても、錆びた長剣しか持ってないんだけど。──自身の装備は、空間に浮いたウィンドウから把握出来る。
断ることも出来るかな──、一瞬思うが、ゲーマーとしての血が先に立つ。
「どこですか?」
「あの丘です、ああ、私のクリットが」
一々描写したくなるところを抑えて、一気に駆け抜ける。
モンスターは巨大なハンマーを傍に置き、羊の姿似のクリットを喰っている。
──一太刀、二太刀、浴びせるが、まるで効いている気配がない。敵の名前もHPも表示されていない、負けイベントか?
10回斬ったところで敵が動き出す。巨大なハンマーに一瞬思考が止まり、横から直撃を受ける。HPは1/3も残っていない。
「バカだろ──」
嫌な汗をかくが、瞬時に攻撃タイミング、回避タイミングを弾き出し、自身の反応速度、反射神経に身を委ねる。ふらふらしつつ、身体と心に余裕がある、このギリギリの中での余裕が、ゲームの醍醐味だった。
正直太刀筋はめちゃくちゃだったが、剣を当てさえすれば、武器分のダメージは与えられる。α、βテストで実証済みだ。
もう何時間、闘ったか分からないが、ついに敵は倒れて、巨大なハンマーだけが残る。実際の時間を見てみると、30分を少し過ぎている。
膝を付き、空を見上げて心を放つ。──青い空に白い雲。鳥の鳴き声が聞こえて、家畜の鳴く音がする。柔らかな風が吹き抜けて、上気した頬に心地いい。こんな『現実』を待っていた。
「旅の人、そのハンマーは持っていっても構いませんぞ。溶かせばいい鉄になる」
身なりのいい太った人が、汗を流して話しかけてくる。尋ねると、村長らしい。
ハンマーに手をかざすと、Yes,No のウィンドウが表示され、音声入力で Yes と答える。サラサラとハンマーが粒子になり、自分の方に向かって行く。
「マジックポーチですな。東のフェイルという街で造られている、と聞きます」
重量制限はしっかりあって、僅かに身体が重くなる。そのフェイルという街で、もう少し良質なものが手に入りそうだ。
立ち話もなんですから、と、指輪をこすると、大きな屋敷の前に移動する。
「少し休まれましたら、声を掛けてください」
使用人が僕に挨拶をし、先に屋敷に入った村長に続く。ここが一応のセーブポイントか。
ガサゴソと紙袋からファストフードを取り出して、レンジにかける。果物や野菜をミキサーにかけて、牛乳と混ぜる。全粒粉のバンズに、トマトソースがあふれるほど乗った、ごく普通のハンバーガー。それから玉ねぎに衣をつけて揚げたものと、ポテトを取り出す。
「今、ハンバーガー持ってる」
「それじゃあ、あーんして」
冷静に見れば、音声でいちゃいちゃするのって、めちゃくちゃ恥ずかしい。それは傍に置いて、彼女との昼食を楽しむ。
「じゃあ、また」
少し本を読んで胃を休める。まだ初めの街から出ていない。もう、みんな、大分先に行っちゃったな。ソロプレイヤーでも、社交的な繋がりはある。牛のような猪突猛進のプレイをする【yagyuu】が、どんなオンラインゲームでも先に立っていたな。身体の後に脳が付いてくる、彼の決まり文句だった。
ふかふかのベッドから起きると、村長に話を済ませて、いくつか検討を付ける。この村に武器庫があって、そこで武器を手に入れられるとのことだ。さらに魔法使いが滞在していて、スペルはそこで貰えるかもという話を聞く。
「お前さん、見たとこアーチャーだろ。だって大きな弓持ってるもんな、あはは。俺は必要ねーだろ」
とにかく腹に手を抱えて笑う魔法使いだ、名はベルベルトといった。
「最低限の素養はあるみたいだな。もう少し見込みがあれば、全部タダでやってもいいが」
属性なしのエンチャント魔法、これだけでも十分だ。
僕がなんの気無しに手を振ると、ベルベルトは大きく手を振り返してくる。