キリト・イン・ビーストテイマー R-18.ver 作:クジュラ・レイ
キリシノ。今日はキリシノ以外ありえない。
0.5:聖夜の後の記念日
□□□
「――違うッ」
息を詰まらせながら、詩乃は飛び起きた。目の前の光景はそれまで見ていた光景から変わって、いつもの自分の部屋になっていた。
「……あ」
息を荒くしつつ呆然としていたが、やがて詩乃は今のが夢であった事に気が付いた。その証拠に、自分のいる場所はいつものベッドの上だ。確認した詩乃は深く溜息を吐いた。
「……何よ……」
片手で顔を覆って、もう一度溜息を吐く。酷い夢だった。酷い夢、悪夢はよく見てきたものだが、今回のはかなり堪えるものがあったかもしれない。
こんなに酷い夢を見たのはいつ以来だっただろうか。少なくとも最近は、ここまで酷くはなかった。
いやそもそも、最近はそんなに酷い夢を見る事なんてなかった。眠れば、心地よい夢を見る事が多くなっていた。だからこそ、こうして悪夢を見た時には堪えるようになった。
「……どうして」
詩乃は自身の右横を振り向く。ベッドにはもう一人寝ている者が居た。
線が細い方で、味方によっては女性ではないかと疑ってしまうような顔つきの、黒い髪の少年。他でもない、詩乃にとってこれ以上無いくらい大切な人であり、愛する伴侶であるキリト/桐ヶ谷和人だった。
詩乃は昨日の夜から彼と一緒の時間を過ごしている。昨日はクリスマス・イヴであり、恋人達の日とも呼ばれている日だ。
しかし、だから和人と一緒に居たわけではない。和人と自分にとって、クリスマス・イヴの次の日である今日こそが大切な日だからこそ、共にこの日を迎えて、この日を過ごそうと思った。
そして今日、この日を迎えたというのに、その目覚めは最悪と来た。幸先が悪いどころではない。しかもその夢の内容も――。
「――ッ」
思い出しかけるだけで、背筋が凍りつきそうだった。まるで発作が始まる寸前のようだ。
駄目、これ以上思い出しては駄目。縮こまって胸の中へ何度も呼びかける。やがて背筋の悪寒が治まった時に目を開けると――和人の開かれた目と視線が交差した。
「あ……」
詩乃は思わず呆然としてしまった。すぐさま、そんな事をしている場合ではないと理解し、次の言葉を用意する。
「おはよ、和――」
最後まで言い切るより先に、詩乃は起き上がった和人に抱きすくめられていた。何度も入ってきた和人の胸の中、その肩口に顔を埋めさせられ、詩乃は思わず驚いていた。ある程度落ち着いたタイミングで彼に問いかける。
「和人、どうしたの」
後頭部に暖かさがあった。和人の手が詩乃の後頭部に添えられ、髪を撫でてくれていた。やがて彼からの応答があった。
「詩乃……大丈夫か」
「え?」
「詩乃、泣いてるじゃないか」
そこでようやく、詩乃は自身の瞳から雫が流れ落ちていた事に気が付いた。自分でも気付かなかった事に和人はいち早く気付いてくれて、こうして抱き締めてくれていたのだ。詩乃は少しだけ焦り、和人に答える。
「だ、大丈夫よ。思い切り欠伸したら、出ただけ……」
勿論そんなの嘘だ。欠伸など掻いていない。そんな詩乃の軽い嘘は、和人には既にばれていた。
「全然そんなふうに見えない。詩乃、君は嘘を吐くのが下手なんだ」
詩乃はもう一度「あ……」と言った後に、胸からこみ上げるものを感じた。それを最小限度に留めるために、詩乃は和人を抱き締め返した。
「……ごめんなさい。もう少しだけ、こうさせて……」
「……少しじゃなくて、いくらでもいいよ」
和人へ頷き、詩乃はしがみつくように和人を抱き締め、和人に抱き締められていた。そうしている事で、詩乃の胸に込み上げるものは声にも涙にもならず、収まってくれた。
◇◇◇
クリスマス・イヴの名残などありもしないメニューでの朝食を終えた俺は、詩乃の部屋のクッションに座っていた。彼女の部屋にはソファやチェアはなく、座れるものはクッションかベッドくらいしかない。
ここは彼女が一人で暮らしている部屋なのだから、これくらいの家財道具しかないのは当然だ。そんな事はずっと前から知っているし、慣れ親しんでいる事でもあった。
「ねぇ、和人」
彼女の声に俺は「うん?」と応じた。そういえば彼女が「ねぇ」と呼びかけるのは、俺だけにかもしれない。俺以外の友人達に、彼女が「ねぇ」と言っていたところは見た事がなかった。
いや、俺が見ていないところで使っているのかもしれないが。
「今日はどうする。ALO行く?」
俺自身はALOに行く用事を今日は作ってはいない。だが彼女が望むのであれば、行こうとは思っていた。
「俺は別に用事無いけど、詩乃はあるのか。難しいクエストとかなら、手伝うよ」
「ううん、聞いてみただけ。私もALOには用事がないの、今日は」
「そっか」
となると、今日は何をするべきだろうか。外はクリスマス・イヴの直後というだけあって騒がしい。そういった騒がしい場所を好まないのが詩乃であり、俺もまた同じように好きではない。
騒がしくても良いとあればどこにでも行っていいのだろうが、そうはいかなかった。ではどうするべきだろう。
「そういう和人は、どこか行きたい場所とかない」
「……色々考えはしたんだけれど、ないんだよこれが。全然思い付かない」
「そうなんだ」
彼女はそう言って苦笑いする。俺の事を頼ってくれているようだが、その期待に応えられないのが何とも言えなかった。
ALOならば、俺達の望んでいる風景や場所が存在しているかもしれないが、今日はそこへは行かないつもりである。
何かあるとすぐにALO、もしくはフルダイブ機器に頼ろうとする。もしかしたら俺達はALOに頼り過ぎているのか――そんな気さえしてきた。
さて、どうするべきか。ふと考えに耽ろうとしたその時に、俺は左半身に温もりと重さを感じた。
離れた位置に居たはずの詩乃がやってきて、俺の左半身に身体を預けてくれていた。彼女だけが持っている柔らかく、心地よい温もりがじんわりと広がってくる。
「詩乃?」
「なら、今日はこうしてていい……? 私、こうしてたい……」
俺に応じる詩乃の声は、どこかか細かった。
このような声を出している時は、彼女が本当に俺を必要としてくれている時。
そして――言うなれば俺に甘えてくれている時だ。その時俺は、それに目一杯応えるようにしている。彼女が本当に俺を必要としてくれている時に引き離そうとするなど、残酷にさえ思うからだ。
そして彼女がそうなっている時、高確率で俺もまた、彼女からの甘えが欲しい時だったりする。今もそうだった。
「いいよ。今日は《特別な日》、だしな」
「……ありがと」
そう呟く詩乃の頭をゆっくり優しく撫でてやる。
昨日は十二月二十四日、クリスマス・イヴ。
古代の海外では神に大いなる祈りを捧げる祝祭とされ、現在では家族や恋人と過ごす日とされている日。祝祭であるというのは日本でも変わりなく、昨日はどこでも大盛り上がりだった。
ショッピングモールにしろ、スーパーマーケットにしろ、沢山の装飾が施され、パーティー向けの食材や料理が売られて、家族連れや恋人同士が楽しそうに歩き回っていた。
そんなかつては恋人同士、現在は夫婦であるエギル/アンドリューとその奥さんによる小さなパーティーが、彼らの営むダイシー・カフェにて開催された。
理由はアンドリューの本国であるアメリカ――と言ってもアンドリューは日本育ちで生粋の江戸っ子――で、クリスマス・イヴが現在も変わらず大いなる祝祭の日とされているからだそうだ。
たまにはVRじゃなく、現実で盛り上がろうじゃないか――そんなアンドリューの計らいに皆が乗り気になり、俺も詩乃も勿論参加。
かつてSAOで力を合わせて戦った者達、ALOでは今も尚一緒に攻略を進める仲間達同士で、大いに盛り上がったのだった。普段は騒がしい場面が苦手な俺達も、その時ばかりは大いに盛り上がり、楽しむ事が出来た。
まぁ、途中で酔った
だが、俺と詩乃にとっては、その祝祭の翌日である今日こそが何よりも大切だった。
今から数えて二年前の今日。二千二十三年十二月二十五日。その日こそ、俺と詩乃が初めて出会った日なのだ。
二年前の今日、俺はまだアインクラッドに囚われていた。アインクラッドの五十層のボス戦をリランと共に乗り越えて間もなくして辿り着いたアルゲードの街。猥雑な構造をしているその街を小さくなったリランと共に探索している時に、異変は起きた。
突然上空の時空が歪んだかと思えば、穴が開き、そこから一人の少女が姿を現したのだ。穴が閉じられると、少女はそのまま落下。いち早く気が付いた俺は駆け寄り、少女を受け止める事に成功した。
その少女こそ、本名を朝田詩乃という、《シノン》だったのだ。
そして、それが俺とシノン/詩乃の始まりの時だった。
「……ねぇ、和人」
「うん?」
「あなたは、あの日の事を憶えてる?」
詩乃の問いかけに勿論頷く。忘れるわけがない。忘れられるわけがないのだ。
突如として降ってきた詩乃/シノンは、記憶を失っていた。そして俺には警戒心を剥き出しにしていた。今からじゃ想像も出来ないくらいに、シノンは俺を警戒していたようだった。
そんなシノンは完全なるSAO部外者であり、俺達の助けがないとまともに戦う事も出来ないような状態だった。だからこそ俺はリランと一緒に彼女を保護する事になり――一緒に同じ屋根の下で暮らすようになった。
「当然だよ。忘れてないから、今日は何も予定を入れないで、君と一緒に居るんじゃないか」
「……そうね」
そんな日々を続けていくうちに、シノンは記憶を取り戻した。自分が殺人者であったという過去を。思いつめて逃げ出した彼女を追いかけ、土砂降りの雨の中で俺はシノンの全てを知った。
そして俺は、誰からも拒絶されていたとされたシノンを受け入れた。シノンを一生守る事を、一生その傍に居る事を誓った。
アインクラッド第二十二層から第五十三層にシノンを追って登った俺は、第五十三層から第二十二層へと、恋人と一緒に降りてきたのだった。
それから俺とシノンはもっともっと仲を深めていって、お互いをよく求め合うようになった。
後にシノンを現実で治療している医師であるイリスと出会ったが、彼女から「ここまでシノンが私以外の他人を求めるようになったなんて驚きだ。これからもシノンを頼む」と言われるくらいにまで、俺はシノンから、そしてその医師から信頼されるようにもなった。
そんな日々を繰り返し、俺はシノンを、朝田詩乃という一人の少女の様々な事柄を知っていった。彼女がどういう性格をしていて、どういうものを好んでいるか。
そして、どれだけ傷付いてボロボロになってしまっていたかを。
身体の左に寄り添っている彼女の身体がぶるっと震えたのと、彼女の心の無残さを思い出したのは同時だった。びっくりしながら顔を向けてみると、詩乃の顔は少し蒼褪めていた。
「詩乃」
「……ッ、ッ」
詩乃は下を向いたまま答えてくれない。
まただ。また
俺が知った時、既に彼女の心は傷でいっぱいになっていた。その深さも俺の想像など遥かに凌駕しているものであり、しかもどれもまだ塞がり切っていないものだった。
そんな彼女の心の傷はちょっとしたショックで開き、どくどくと血を流す。心の傷から血が流れ出ているその状態こそ、今の蒼褪めた詩乃なのだ。
咄嗟に俺は詩乃の身体を抱き締める。彼女の荒く、熱い息が胸にぶつかってくる。
「詩乃、大丈夫だ。大丈夫だよ。俺はここに居る。大丈夫だよ……」
「わた、しッ、かず、と、を……ろし、ころ、し……」
途絶え途絶えの言葉が聞き取れた。
俺を殺した? もしかしたら、今朝の夢の事だろうか。
俺が起きた時、詩乃は蒼褪めた顔で、涙を流していた。その原因が悪夢であるというのは聞かなくてもわかった。それだ。それが今に繋がっている。
そしてその対処は、比較的簡単だ。何故なら相手は夢であり、現実の出来事ではないからだ。俺はしっかりと詩乃を抱き締め、後頭部を撫でてやり続ける。
「詩乃、大丈夫だよ。そんな事にはならない」
「で、も、わた、し、わ、たし」
「大丈夫だよ。ゆっくり呼吸をしてくれ。大きく吸って、ゆっくり吐くんだ。それだけ、それだけやってくれ」
詩乃は咽ぶのをやめて、呼吸をし始めた。ゆっくりと吸い、それからもう一度ゆっくりと、吐く。
詩乃の心の傷が開いて、心の血が出てきた時、こうさせる事で止血する事が出来る――そんな対処方法を、詩乃の治療に当たっている医師であるイリスから聞いていた。彼女から教わった事を、今詩乃に施すのだ。今やるべき事はそれだけだ。
「はー、はーっ、はっ、はっ、はぁ、はぁ、はぁ……はぁ…」
見る見るうちに詩乃の呼吸がゆっくりになり、震えも止まった。やがて彼女の身体が一気に重くなったかと思うと、一際大きな溜息が聞こえてきた。――落ち着いてくれたようだった。
「……落ち着いただろ?」
詩乃は何も言わずに頷いた。
「大丈夫だよ。そんな事にはならないから。君は悪い夢を見て、びっくりしてるだけなんだ」
それは詩乃からの受け売りだった。俺がSAOで悪夢に飛び起きて不安になった時、彼女はそう言ってくれて、俺を落ち着かせてくれた。それを今、彼女に返してやっていた。
やがて、彼女からの返答が来た。
「……そう、よね……」
「そうだよ。ちょっとタイミング悪く、悪い夢を見ただけなんだ。だから気にしないで大丈夫だよ、詩乃」
体重を預けてくる詩乃の後頭部を引き続き撫でていく。アインクラッド第五十層で出会った彼女は、心の傷を沢山負っていて、それがいつ開くかわからない。そこから流れ出す血で、彼女がいつ苦しみ出したとしてもおかしくはない。
俺の伴侶である詩乃とは、そういう少女である。それを俺は――受け入れている。何故なら、彼女の苦しみが、痛みが、どれだけのものであるかを、自分の感覚として知っているからだ。そこまで俺達は深く繋がった間だった。
「……ごめんなさい、和人」
「え?」
「……今日、大切な日なのに、私、こんなに不安定になってて……」
俺は首を横に振る。そんな事はない。
「大丈夫だよ、気にしないでいいんだ」
「……ううん、気にする。今日くらい、ちゃんと安定してたい。午後から……ちゃんとしてたいの」
そんな無理をしなくたっていいと思っても、彼女が聞き入れてくれそうになかった。
具合が良くなったのだろう、彼女は俺から離れて立ち上がると、窓へ向かった。両脇にある遮光カーテンを閉めて、部屋の中を暗くして、外から内側が見えないようになった。
「……詩乃?」
彼女は何も答えない。かと思いきや、自身の上着に手を伸ばし、そのまま脱いだ。オフショルダーのTシャツの下の、黒いタンクトップ一枚だけになって、更に下に履いている黒いショートパンツも脱ぎ、下着が直に見える状態になってしまった。
急に肌が近しい恰好になったものだから、俺の胸はどきりとしていた。そんな俺を彼女は見下ろしていた。心の底から懇願するような表情をして。
「……だから、お願い、和人……こんな時間だけど、この日だけど……」
彼女が望んでいる事は既にわかっていた。俺や皆が詩乃に治療を施しても、足りない時がある。あまりに血が流れてしまった時とでも言えばいいのだろうか。その時は、俺だけが唯一許されている方法で治療に当たる。
その瞬間は、俺にとっても貴重で大切な時間だ。今からそれを始めなければならないが、嫌なんて気持ちは一切ない。
「……いいよ」
俺は詩乃に近付いた。
□□□
彼女とこうやって交わうようになったのは、彼女と出会ってそんなに間が空いていなかったかもしれない。
こうして距離を近付けていくうちに、彼女の方からその距離をもっと詰めてくるようになり、最終的に交わるようになった。それを和人は一度たりとも嫌だと思った事がない。寧ろ、そうして彼女と交わう事を望んでもいた。
しかし、彼女と交わうという事は、彼女にどこまでも近付き、その身体に触れるという事。なのでどこまでも気を付けなくてはならない。傷を付けてしまわないように、痛みを与えてしまわぬように、そっと、そっと。
その姿勢を彼女から「おっかなびっくりになってる」と言われる事もあったが、それも和人はそんな感じになってしまう有様だった。
「ん、むく、ちゅ、ぢゅう」
そんなおっかなびっくりの姿勢になっているけれども、それを隠すようにして、和人は詩乃と共にベッドへ転がり込んだ。つい数時間前まで寝ていたベッドに、予想以上の速さで戻る事になってしまった。
服を脱ぎ棄て、下着だけになった詩乃と唇を重ねつつ、その唇を割って舌を入れ込む。先程まで不安定な状態になっていたせいか、彼女の口の中は既にべとつく
「ん、くうふ、ぷはぁあ」
彼女の口の中の苦みを取ってやるようなキスを終えると、詩乃の顔はとろんとした表情になっていた。熱っぽくて湿っぽくて、こちらの目を奪う顔。VRでも現実でも、こういったキスをしてやると、彼女はいつもこんな顔をする。例えそれが向こうから来たものだったとしても。
数秒そんな顔を見つめてから、和人は詩乃の顔から胸元へ目を向けた。黒いタンクトップの中に手を入れて地肌に触れつつ、そのままくんと捲り上げると、詩乃の乳房がぷるんと揺れつつ、姿を見せた。
整った形で、一定の張りを持ちつつも柔らかい、大きくない乳房。その真ん中では肌色に少しだけ桃色を混ぜたような、可愛らしい色合いの乳首がつんと存在を主張していた。
詩乃の乳房は大きくない。口に出した事もないし、本人が気にしているかどうかはわからないが、詩乃の乳房は一般的な女性と比べると小さい方に入っている。友人達のそれと比べても、下から三番目くらいが詩乃の立ち位置だった。
「ん、んうう、んああ」
そんな小さくも可愛らしい詩乃の乳房にそっと手を差し伸べ、掴む。柔らかくて好ましい触感を味わうように揉み込むと、それに合わせて詩乃の乳房は形を変えていき、詩乃はぴくぴくと反応を示す。
やはり詩乃の乳房には小さくとも強い張りがある。言うなればとても丈夫だ。しかし、それこそが彼女の乳房の特徴というわけでもない。最初は驚いたけれども、今では慣れている、最大の特徴に向けて和人は手を伸ばし、指を置いた。
「ひあうッ……くううん……」
少し指先が置かれただけで詩乃が大きく反応したのは、乳首だった。和人との交わりを続けた結果なのか、詩乃は非常に乳首で感じやすい。ほんの少し刺激しただけでびくりと反応してしまうくらいだ。
普段は何ともないようだが、こうして交わる時になった途端、一気に感度が上がる。まるで状態変化が存在しているかのようだ。そんな詩乃の乳首を指先で、乳輪の上を転がしてやる。
「くう、んうう、ふああ、ひぁああッ」
見る見るうちに乳頭は硬くなり、ほんの少しだけ大きくなる。詩乃の乳首は愛撫を受けると、すぐに硬くなって勃つ。まるでもっと愛撫してと頼んできているかのようだから、和人はもっと愛撫する。
指先でくりくりと転がし、人差し指と親指できゅうと摘まんでやると、詩乃の乳首はこりこりとした独特の弾力を返してきて、その身体は弓のように仰け反る。
「んふあっ、んあっ、くああっ、ひうああッ」
「詩乃、やっぱり乳首弱いんだなぁ……」
思わず呟くと、詩乃は荒くなった息に混ぜて、言葉を送ってきた。
「かず……もっと、もっとして、え……」
「いいよ」と返して、和人は詩乃の乳首を口の中に含ませた。
「んあああッ」
途端に詩乃が激しく身体をびくつかせる。絶頂する寸前までいったみたいだが、到達はしなかったらしい。ならば到達させてあげようじゃないか。そう思った和人は力を込めて彼女の乳首を吸い上げた。
「ひうっ、ひぐっ、んっ、あ、ああぁん」
優しく吸ったり、強く吸い上げたり、乳頭の先端を舌先でちろちろと舐めてみると、乳首がより硬くなってこりこりになってきた。同時に詩乃の反応も、甘ったるい声も大きくなっていく。いつの間にか力を込めてシーツを握り締めてもいた。
(これで……)
口の中の乳首に和人は歯を当て、ほんの少しの力を入れて噛んだ。痛みを与えない程度に前歯で噛んであげると、こりっとした甘い触感が返ってきて、
「ん、ぐっ、ふあああああんんぅッ」
詩乃の身体は強く弓なりに仰け反った。そのまま数回びくびくと
「詩乃、いった?」
荒い息に混ぜて、詩乃は頷いてきた。その顔は真っ赤になっているが、悪い色ではなかった。
「いっちゃ、た……和人のが、いいん……だ……もん……」
「詩乃って、本当に乳首が弱いんだね」
「そう、みたい……って……あなた……わかる、でしょ……」
勿論だ。これまで詩乃とずっと過ごしてきて、交わってきたのだから、身体的特徴というものも理解できている。言葉ではなく、笑みで返してやると、彼女もまた小さな小さな微笑みを返してきた。
「和人……もう、いいみたい……早く、お願、い……」
詩乃が懇願するように伸ばしてきた手と自身の手で恋人繋ぎし、尚且つその下半身に触れる。彼女の陰部は下着の上からわかるくらいにまでぐっしょりと愛蜜で濡れていた。
一方で和人の下半身の性器もまた下着の上からわかるくらいにまで力強くそそり立っていた。お互いに早くも頃合いを迎えているらしい。詩乃の下着を脱がせつつ、自身の下着も脱ぐと、二人の性器が互いに姿を見せあった。
どちらも繋がり合ってきて長い関係だった。だが、ここで一つ動作が必要だ。和人は近くに用意してあった一枚の小さなゴム袋を手に取って開けた。避妊具であるコンドームだ。
これが無い状態でもし彼女と繋がり、その中にぶちまけようならば、残酷な苦しみを彼女に余計に与える事になる。杭のように心にそれが刺さっている和人は、手早く自身の性器にコンドームを被せ、そのまま先端を詩乃の性器の入口へ付けた。
「詩乃、挿入れるよ」
「……来て……」
詩乃へ頷き、力を入れて和人は腰を押し出した。性器の先端が彼女の陰部の入り口を割り、一気に膣内へと入り込んでいった。力を少し込め過ぎたようで、最奥部にまで行ったところで止まった。
「んくううううううッ」
「……ッ」
彼女の膣内は準備万端どころか、ねだっていたように和人の陰茎を締め付けてきた。気を付けていないと、そのまま達してしまいそうなくらいだ。一方で詩乃も和人の挿入が効いたようで、軽く絶頂し、息を荒くしていた。
「詩乃、大丈夫か。痛くないか」
「へい、きぃ……和人……抱き締め、て……」
まだ動いていないのに――少し不思議に思いつつ、和人は詩乃を抱き締めた。繋がったままなせいか、くちゅくちゅと淫らな音がして、彼女の唇から甘い鳴き声がした。
何も着ていない詩乃の身体を抱き締めて、直に温もりを感じられるようになると、詩乃が腕を背中へ廻してきた。
「……詩乃」
「……する夢だった」
「え?」
詩乃は何も問わないまま、語り始めた。和人は口を閉ざして、聞く姿勢になる。
「……私、あなたと、夢の中でしてた。今してるように、してたんだ……あなたと繋がって、気持ちよくって……でもいつも以上に気持ちよくって、気持ちいいのが欲しくて……あなたは、私の
「足りなかった……」
――そういえば自分の精液の量とはどれくらいなのだろうか。ちゃんと詩乃を満たせるくらいの基準に到達できているのだろうか。そんな気を頭の片隅で感じつつ、聞き続ける。
「いつもはそんな事絶対に感じない。けれど、何故かその時、全然足りない気がして……あなたにねだって……欲しくて欲しくて仕方が無くなって……そしたら、あなたは思い切り射精してくれたの」
おい、言われなきゃ彼女を満たせないのか。俺はお前みたいな男じゃあないぞ――詩乃の夢の中に出たという自分に嫌悪を感じたが、その時詩乃の身体が震えている事に気が付き、すぐに我に返った。
「……その時、私、あなたの首を絞めて……殺してた」
和人は目を見開いた。同時に今さっきの全てが繋がったような気がした。
「あなたは首が折れて、顔が真っ青になってて……私、そんなつもりじゃなかったのに、あなたを殺したいなんて思ってないのに……そしたらあなたが動き出して……私に言ったの。「別にいいんだよ。俺の事を殺しても。だってお前はそういう女じゃないか。自分の快楽しか考えてないような女だから、俺を殺しても別にいいんだろ」って……それで、目が覚めて……」
気付いた時、和人は歯を食い縛っていた。思っても仕方がないとわかっていても、詩乃の夢の中に出てきた自分自身が許せなかった。震える和人に、詩乃は震える身体で抱き着いて来ていた。
「私、本当にそうなの。本当にそんな奴なの。そうなら私、いつかあなたを殺しちゃうの……? このまま一緒に居たら……誰よりも大切な和人を、殺し……ちゃ……」
また傷が開いた。気付くより先に和人は、詩乃の震える身体を抱き締め返していた。力を入れて、少し痛いくらいかもしれないが、気にせずに抱き締めた。
「そんなわけない。詩乃はそんな奴じゃない。詩乃は誰よりも優しい人だよ」
「……かず、と……」
「まだ二年くらいしか一緒に過ごしてないけど、俺はもう君がどんな人なのか、全部知ってるつもりだ。君は本当は優しくて、周りを思いやれて、強くいられる人だよ。それで、俺を受け入れてくれた人だ」
詩乃は震えていた。胸元に暖かいものがぽつぽつと当たってくる。涙だった。
「けど、けど、わた、し、わたし、本当、はぁ……」
「本当も何も、そんな事ない。君は君が思っているような人なんかじゃないし、君の夢に出てきた俺はまやかしだ。俺は君にそんな事言ったりしないし、君をそんなふうに思ってなんかいない。全部わかるんだよ。君の記憶が、俺の中にもあるんだから」
詩乃ははっとしたような声を出した。和人は続ける。
「俺は君の事がわかる。君が受けてきた苦しみも、痛みも、全部。これにどれだけ君が苦しんでいるかも、辛い思いをしているかも、全部理解してるつもりだ。君がどんな心をしているから、苦しんでいるかも、全部……」
「和人……ぉ……」
震えている詩乃の身体をきつく抱き締めつつも、和人はその後ろ頭をまた撫でた。
「大丈夫だよ、詩乃。君の見た悪い夢の出来事は何も起こらない。現実になんてならない。そんな事にはならないんだ。だから、大丈夫」
まだ詩乃とは会って二年しか経過していないが、既に和人にとっての詩乃は、人生で最も大きな存在とさえ思えるようになっていた。
彼女の記憶を持ったあたりから、彼女をまるで自分の身体の半分を分け与えている存在のように思えてきて、限りなく愛おしく感じられるようになった。
「だから、大丈夫だよ。安心してくれ、詩乃。辛くなったり苦しくなったりしたら、俺がすぐに支える。俺が何とかするから、だから、安心してくれ……大丈夫、だよ……」
詩乃はじっと和人に抱き締められるままになっていたが、やがて
彼女の心は傷だらけで、その傷は時折開いて血を流す。
血を止めて傷を塞いでやった後は、こうして泣かせてやる事も必要だ。それを和人は一切嫌だと思った事はない。
自分の身体を分け与えた存在に、そんな事を思う事など、和人は考えられもしなかった。
大丈夫だ。大丈夫だよ――そんなふうに呼びかけて背中を
「――んひうッ」
詩乃の泣き声がびっくりしたように止まった。和人も我に返ったように驚き、詩乃の下の方を見る。
……そういえば、繋がっている最中だった。それも始めたばかりだ。二人でその事を思い出し、互いに向き合う。
「……そうだった。してる最中、だったな」
「そう、ね……」
二人で完全にきょとんとしてしまっていたが、やがて詩乃が深呼吸をした。取り乱している様子も、怯えている様子もなかった。
「詩乃、大丈夫か」
「……不思議ね……和人からそう言われると、すごく落ち着く……大丈夫だって、わかる……」
「本当はリランの力を使えば一発なんだろうけど……」
「ううん、あなたのはリランの力よりも効いてくれるの。おかげで、なんだか……胸がすっきりしたかも……」
とても穏やかで温かい笑みを浮かべた顔を、彼女は向けてきた。途端に胸が熱く高鳴る。
「……ねぇ、最後の一押し、お願い……大好きな和人」
「……あぁ、最後までやるぞ」
次の瞬間、和人は腰を突き上げ始めた。詩乃の性器に自身の性器を挿入れて抜いて、挿入れて抜いてを早く繰り返す。詩乃の子宮口に陰茎がぶつかる度、ぐちゅ、ぶちゅと淫らな水の音が鳴り、部屋に響いていく。
「くあっ、ふああっ、あんっ、あんっ、いうっ、いあっ、ひうあっ、ああんんっ、あっ」
「ぐ、うう、詩乃の膣内、すごい……ゴム越しで、全部わかるッ……」
厚いゴムで覆っているはずなのに、彼女の膣内を締め付けられながら滑っている感触が陰茎に広がっている。現実でするのはこれが二度目だが、一度目では感じられなかった感覚な気がした。
「和人のも、かずとのも、すご、いっ、すごい、すき、好きいッ、この感じッ、和人の、好きぃッ」
「俺もだ、俺も詩乃のが、好きだッ、詩乃も、詩乃のもッ」
そう言って伸ばした和人の手に詩乃は手を伸ばし、恋人繋ぎをする。指先から彼女の温もりが伝わってくるようになると、陰茎に走る快感がより強くなった。
今日で彼女とは二年目の付き合いになる。もしかしたらまだ二年目であり、別れる事も出来るのかもしれない。実際二年の交際を経て別れるカップルもいるという話だ。
だが、和人はそんな気は一切ない。
迷いも何もありゃしない。
この少女と一緒に居る、朝田詩乃という少女をずっと愛していく、守っていくという誓いは揺るがないし、揺るがしもしない。ここまで自分という存在を受け入れてくれて、記憶を共有する事まで許してくれている。
そんな詩乃を愛せないわけがなかった。そして何より、苦しんでいる彼女から逃げる事など、出来そうになかった。
「詩乃ッ」
「んああ、あっ、あんっ、あうっ、ふ、えぇッ?」
「これからも、一緒に居ようッ、ずっと一緒に居ようッ、ずっと、ずっと」
詩乃は喘ぎながら、何度も何度も頷いた。
「うん、うんっ、一緒に、一緒に居ようッ、居ましょ、あぁうッ、和人、大好、きぃッ、愛して、るぅッ」
「俺も、君が大好きだよッ、誰よりも愛してるッ」
二人で確かめ合ったそこで、和人は強いものを下半身に感じた。見る見るうちに下半身の中央から上がり、陰茎へ迸ろうとしている。
「詩乃、俺、いくッ」
「私も、いくうッ」
次の瞬間、和人の陰茎の先端で激しい奔流が起きた。同時に詩乃の膣内でも奔流が起き、詩乃は大きな声を出していた。
「ぐっ、うぅ」
「ふ、んぅあああああああああッ」
溜め込まれていた精液が詩乃の子宮目掛けて放たれたが、それを厚いゴムの壁が残さず食い止める。和人は下半身を中心とした痙攣を起こしていた。ゴムの中は瞬く間にいっぱいになり、その外は詩乃の愛液でいっぱいになっていた。
一回だけだけど、数回重ねる必要がないくらいの強くて濃い一回。そんな絶頂を迎えた二人のうち、和人は陰茎を詩乃の陰部から引き抜いてすぐにベッドへ倒れた。
すぐ隣には仰向けになって力尽きている詩乃がいる。
「詩乃……どうだった……」
詩乃は右手で軽く自身の下腹部を摩った。何かを不思議がっているような仕草だ。
「そういえば……射精されないんだった、わね……」
「そうだな……もし射精したら……それこそ……」
「そ……っか……」
そんな準備はまだ出来ていない。まだ出来ていないからこそ、繋がったとしてもこの結果なのだ。しかし詩乃はそれでも、嬉しそうにしていた。いや、楽しみにしているような表情だった。
「……けれど、今から楽しみかも……その日が……」
「楽しみ?」
「だって、その日はきっと、ううん、その時にはきっと私達、一緒に居る事が当たり前になってると思うから……毎日、一緒に居られるようになってると、思うから……」
そう言って詩乃は身体ごと和人に向き直り、その手を和人の頬に当ててきた。
「だから……これからもよろしくね……和人……」
微笑む彼女に、和人も微笑みを返し、手を頬に当て返した。
「こちらこそよろしくな……詩乃……」
そうして二人は、二回目の十二月二十五日を迎えた。