キリト・イン・ビーストテイマー R-18.ver 作:クジュラ・レイ
現実世界に生きていた時、詩乃が生きていた日々は、重く、寒く、冷たくて仕方のないものだった。
犯したくて犯したわけでもないのに、無慈悲な重さを持つ罪を被せられて、毎日それに怯えて震えていた。それは病気のように日を重ねる毎に重くなっていって、いつ潰されるのか、怖くてたまらなく、それがこれから一生続いていくのかと、毎日絶望していた。
身体に流れる空気も冷たい。暖かさのない冷たい世界。何を触っても冷たい、色のない世界に、ずっといるしかないと、思っていた。だがある時、その冷たい世界に一人の少年が舞い降りてきた。自らの名前がキリトであると言った少年が、自分の前に現れてから、全てが変わった。
最初、詩乃はキリトの事を受け入れる事は出来なかった。これまで接してきた人間達は真実を知ると目の色を変え、詩乃から離れていった。どうせこの少年だって、真実を知れば逃げていくに違いない――そう思いながら、詩乃はキリトにきつく当たりながら、キリトとの日々を過ごした。
真実を知れば逃げていくのだから、仲良くする必要などないのだ。だから、キリトにきつく当たり続けた。
だが、キリトは一向に引き下がろうとはしなかった。そればかりか、キリトはどんなに詩乃が冷たくしても、詩乃に近付き、傍にいようとし、中に入り込もうとしてきた。どんなに逃げても追って来て、傍にいようとする少年キリト。
その存在と居続けたある時に、詩乃はキリトに全てを話した。犯した罪を、自分が忌むべき子供であるという事を、全て、打ち明けた。
詩乃はそこで、全てが終わると思った。これまで接してきた人間達は、自分の罪を聞けば逃げていった。この少年もまた真実を知れば、自分から離れていくのだ――そう心の中で唱えながら、詩乃はキリトに全てを打ち明けた。
だが、次に少年が取った行動は、詩乃の考えを裏切るものだった。彼は、詩乃の事を受け入れた。全てを吐き出した詩乃を、腕を広げて抱き締めて、受け入れた。
全くその事を予想できていなかった詩乃はただ驚く事しか出来なかったが、次第に彼が誰もが拒否し続けてきた自分を受け入れてくれたという現実に気付いた。そして、彼が暖かくて仕方が無い存在であるという事にも、気付く事が出来た。暖かい彼の胸の中で、彼に受け入れられる事を、詩乃は受け入れたのだった。
それから、詩乃の過ごす日々は変わった。まず白黒だった世界が色で溢れ、冷たさが消えて暖かさだけになり、近くにいつも彼がいるようになった。それから仲良く話せる友達が出来て、信頼できる仲間が出来た。
自分が生きてきた世界は消えてなくなり、望んでいた世界が現実となった。その事がたまらなく嬉しくて、詩乃は毎日が楽しくてたまらなかったし、何より、それを与えてくれた彼がいついかなる時も一緒に居てくれるのが、幸せで仕方がなかった。
こんな日々が、ずっとずっと続いてきますように――幸せな日々を過ごす詩乃の胸の中には、いつもこの願いが唱えられるようになった。そしてその願いが、ずっと叶い続けたのだった。
だが、そんな日々を続けていたある時、詩乃は突然不安に駆られた。もしかしたら、今過ごしている日々は、辛い日々を過ごしている自分が見ている幸せな夢なのではないか、幻視なのではないか――そんな考えがどこからともなく湧き上がって来て、胸の中が不安で満たされる
もしも、この幸せな日々が幻視だったのだとしたら――そんな考えが、よりにもよって彼と過ごす時間の時に溢れ出てきて、詩乃は震えた。その日の彼はとても嬉しそうに、楽しそうにしていて、自分に普段着ないような服を着せてくれたし、普段なかなか立ち寄らない美しい街を歩かせてくれたし、美味しい料理だって食べさせてくれた。
だけど、詩乃はそんな夢に見た時間を、思うように過ごす事が出来なかった。もしかしたら、この時間さえも自分の幻視の一つなのではないかという不安が、胸の中を支配して、苦しくて仕方がなかった。そして我慢できなくなった詩乃は、その全てを初めての時のように、彼に吐き出した。
詩乃の思いを聞いた彼は、詩乃の震える身体を抱き締めてくれた。君の思っている事は全て外れていて、君の過ごしている時間は幻視なんかじゃないと、言ってくれた。
彼の温もりに包み込まれ、暖かい声による言葉を聞けば、いつもならどんな不安もすぐに消えて、安らぎが心の中に溢れた。だが、今の詩乃の不安は、そんな彼の温もりさえもなかなか通じて行かず、消えて行こうとはしなかった。
そこで詩乃は、彼に頼んだ。
本当の名前を教えてほしい。
本当の名前で呼ばせてほしい。
本当の名前を教えてくれたあなたと、交わりたい。
彼はそれを受け入れた。そして彼は、本当の名前を、その口から紡いだ。
「
「き、り、がや……かずと……桐ヶ谷和人……それが、あなたの名前なの」
和人と名乗ったキリトは、何も言わずに頷いた。
キリトというの名前が本名ではなく、仮の名前であるという事を知ってから、詩乃はキリトの本名とはどのようなものかとずっと考えていた。そして今、その答えが導き出されたわけだが、キリトの名前は桐ヶ谷のキリ、和人のトを合わせてキリトだったのだ。何か壮大な由来があるのではと思っていたのに、こんなに簡単なものだったなんてと、詩乃は呆れると同時に、嬉しくてたまらなくなった。
「桐ヶ谷和人……苗字の《きり》と、名前の《と》を合わせて、《キリト》?」
「まぁ、そんな感じだな。簡単だろ」
和人がそっと笑うと、瞳から一粒の涙が零れ、それを皮切りにどんどん涙が溢れ出してきた。だが、胸の中にあるのは悲しい気持ちや悔しい気持でもない、大きな喜びと嬉しさだ。
「簡単過ぎよ……でも、なんだかあなたらしい……」
詩乃はそっと和人の頬に手を伸ばし、掌を当てる。和人へ温もりを伝えるように当て続けて、その口を開く。
「それじゃ……お願いするわ……和人」
「あぁ。君が不安で、俺の暖かさが必要なら、熱量を上げて焼いてやる。君の不安を、焼き尽くすよ」
「そんなに熱く出来るの?」
「それくらいやらないと、駄目そうだ。君の中の不安を全部焼いた後で、君を暖める。それでいいか」
「……お願い」
「了解です、姫様」
そう言い合ってから、和人はそっと詩乃の顔に自らの顔を近付けて、そのまま詩乃の唇を自分の唇で塞ぐ。間もなくして、和人は舌が詩乃の唇を割って口内へ入り、その中で詩乃の唾液を絡め取るように動き回る。突然やってきた和人の舌に詩乃は驚きながらも、呼応するように和人の舌に自分の舌を絡ませる。
くちゅくちゅという液体が混ざり合うような音を数回鳴らしてから、詩乃は和人の唇から離れ、唾液を垂らしながら「ぷあ」と息を吐く。
その時点で、お互いに暗い部屋の中でもわかるくらいに顔を赤くしている事がわかり、和人は詩乃の身体をぐっと掴み、ぐるんと身体を回転させる。「きゃっ」という詩乃の小さな悲鳴が暗がりの中に広がったその時には、和人が詩乃に覆いかぶさる形になっていた。
ようやくこの時が来たと、心の中で呟いた詩乃が微笑みながらうんと頷くと、和人は微笑みながらもう一度詩乃に顔を近付け、再度唇を自らの唇で塞ぐ。和人のが唇に触れたその時で、詩乃は目を閉じながら、両手を和人の背中と後頭部に回し、まさぐるように、もしくは撫でるように動かした。その中で詩乃は、和人の着ている服に手を伸ばし、少しずつまくり上げていく。
そこで動いていたのは腕だけではなく、舌もそうだ。
和人の後頭部と背中を撫で、服をまくり上げながらも、詩乃は和人の口の中に舌を入れて和人の舌と絡み合わせる。その唾液をある程度味わったところで唇を離し、和人の服を完全に脱がせた時に、腹部の辺りにひんやりとした空気が触れてくるようになったのがわかった。その感覚が胸元まで来たところで、和人の唇と舌が離れ、目を開けたその時に、今日買ったばかりの服が下着ごと和人によってまくり上げられて、露出した乳房とお腹が夜の冷たい空気に晒されているのが見えた。
「かず、と」
「出来るだけ優しく?」
「……うん」
「わかったよ」
詩乃に頷いた和人は、ゆっくりと詩乃の乳房に手を伸ばし、音が出ないくらいの力加減で掴んだ。手を置かれただけで強い快感の波が来て、声が出そうになってしまったが、詩乃は何とか声を出さないように一瞬喘ぐ。続けて、和人が優しい手つきで詩乃の乳房を静かに揉み込み始めると、更に大きな快感が連続して届けられてくるようになる。
こういう行為に至った時には、毎回和人にしてもらっているけれども、未だにこの快感に喘がないようになるのは出来ていない。出来る人は性感帯を刺激されても喘がないなんていう話があるそうだが、それは嘘なのではないかと、詩乃は和人にしてもらう度に思う。
いや、恐らくその話は嘘だ。自分が弱いところを刺激されて性的に喘がない人など、いないのだ――思っていたその時に、詩乃は乳首に走った刺激と、押し寄せてきた快感の電撃に大きな声を出し、身体をびくりと言わせた。いつの間にか、和人の手が詩乃の乳首に及んでおり、右手の人差指と親指で、きゅうと詩乃の右乳首を摘まんでいた。
「ふああっ、あっ」
「詩乃ってば、相変わらずここが弱いんだな」
「だって、そこ、一番感じ、るとこ……」
「それじゃ、ここを重点的に、だな」
独り言のように言うと、和人はくりくりと詩乃の乳首を弄り始める。乳頭を強弱を付けて挟まれたり、きゅうと上の方に引っ張られたりする度に快感が突き上げてきて、大きな声が出る。こうやって和人に刺激されるようになってからだ、自分が性行為の時に一番よく感じる部分が乳首であるという事を知ったのは。
それをよくわかっているのは和人もそうのようで、和人はある程度詩乃の乳首を弄り回した後に離すと、次はと言わんばかりに、ぴんと自己主張する詩乃の乳首を口に含む。間もなくして和人の舌が詩乃の乳首を舐め回すようになると、先程よりも強い快感が止まる事なく押し寄せ、詩乃はたまらず声を上げてしまう。
「くああっ、ああはあっ、あはっ、はあっ、はっ、はあっ」
乳頭や乳輪に濡れた舌が触れる度にどこよりも大きな快感が来て、吸われた時にはそれよりも大きいのが押し寄せ、声を出さずにいられなくなる。和人と出会う前では、絶対に感じる事の出来なかった快感に喘ぎ、その波に酔いしれていると、腹部よりも下……股に違和感を感じた。
和人が覆いかぶさっているせいでよく見えないが、間違いなく下着が思い切り濡れている。和人が与えてくれる快感を受け、性器から溢れ出した淫液で、もうべとべとになってしまっているのだ。詩乃がそれを伝えるよりも先に、和人は手を動かして、詩乃の性器に指を添えていた。
「かず、と……そこ……」
「ここに行ってもいいか」
「いい、よ……」
和人はまた「わかった」と言うと、詩乃の下着をすっと脱がせた。脱がされた下着と女陰の間につうと液体の糸が伸び、ベッドに落ちると、和人はその指を詩乃の濡れた女陰に添え、くにくにと押し込んだりし始める。まだ入り込んで来ていないのに、乳首や乳房の時とはまた刺激が来て、詩乃は押し殺したような声で喘いだところで、和人の人差し指は詩乃の女陰を割り、液を纏いながら膣の内に入り込む。
「くうふっ、ふぅあっ」
詩乃が大きな声で喘ぎを聞きながら、和人の指は休まずに詩乃の膣内を掻き回す。散々乳首を刺激されたせいで感度が上がってしまっている膣を弄り回された詩乃は、痙攣するようにびくびくと反応を示し、部屋の中に木霊するくらいの声で喘ぎ続け、大量の蜜を膣から溢れ出させる。
あまりに大量に出してしまっているせいで、和人の手は詩乃の蜜でぐちょぐちょになってしまっていたが、和人は構わずに詩乃の膣に入れる指を増やして、出し入れをする。和人の指が動きを見せる度に、詩乃の膣壁から大量の蜜が溢れ出して飛び散り、くちゅくちゅという音が連続して鳴り、ベッドがどんどん濡れていく。
「あうっ、あぅっ、ふぁあっ、くあぁはっ、はあっ、あっ、あっ、んあぅっ」
「詩乃、詩乃、どうだっ」
「あぅっ、かずっ、とっ、ひゃあっ、ひあっ、たしっ、わたしっ、わたっ、しっ、うっ、ぁあっん、くあああ――――――っ」
和人に答えようとしたのよりも先に突き上げてきた、受け止めきれないくらいの快感波に飲まれたその時、絶頂を迎えた詩乃はより大きな声を出し、びくびくと数回痙攣した後に「くたぁ」とベッドへ倒れた。
「はっ、はっ、はぁっ、はぁ、はあっ……」
「詩乃ってば、今日は随分といきやすいんじゃないか」
「だって、あなたが、あなたの名前が、わかったから……」
「俺の名前?」
「あなたの名前がわかったから、本当のあなたにしてもらってるってわかったから、あなたが私の不安を、消そうと頑張ってくれてるから、いつもより何倍も気持ちよくて……暖かくて、幸せ、なの……」
本当の名前を教えてくれた愛する人の顔に、詩乃は手を伸ばして、両手でその頬を包み込んだ。息が上がっているせいなのか、それともいつもよりも激しくしているためなのか、愛する人の頬は熱いくらいだった。
「和人、お願い……和人の、欲しいの。和人のを、受け入れたい、の……だから、だから……」
「……わかった。俺も、いつも以上に君の事が欲しくて、たまらないんだ」
和人はそう言うなり、するりとズボンと下着を脱ぎおろし、ベッドの外へと投げ捨てる。
詩乃への愛撫を続け、更に愛の告白とも思える言葉を受けていた事もあってか、和人の性器は、血管が見えそうなくらいにまでいきり立っている。
その熱を帯びて立っている自らの性器を、和人は手で軽く掴み、先端を詩乃のスリットに付着させたが、そこで詩乃はそっと上半身を起こして、もう一度和人の頬を両手で包み込んだ。詩乃の行動を予想していなかった和人が驚きの顔を浮かべるのを瞳の中に映しながら、詩乃は微笑む。
「和人……入れるなら、キスしながらが、いい」
「そう、だな。それがいいかもしれない。っていうか、それがいいな」
和人は誘われるように詩乃の顔に近付き、そのまま詩乃の唇を自らの唇で塞いで舌を詩乃の口内に入れるのほぼ同時に、性器を詩乃の膣内へと押し進める。
「くぅんんん――――――ッ」
じゅぷじゅぷという液体の淫らな音が鳴り、詩乃が悲鳴にも近い喘ぎ声を上げる中で、和人は陰茎の先端を、詩乃の最奥部にある子宮口に到達させた。和人と性器を交えて一つになった事で、和人の持っている心地よい熱が、不安を焼き尽くそうとしている熱さが、快感と共に直接詩乃の身体の中へと広がり、子宮周辺と腹の中が燃えるように熱くなる。
あまりにも強くて熱い快感が来たものだから、詩乃は口の中に入って来ている和人の舌を噛みそうになってしまったが、なんとか我慢して、和人の舌に自分の舌を絡ませ続ける。そして和人の唇を離した時には、「ぷは」という声と共に、和人に熱い吐息を吐きかけた。
「詩乃、入ったぞ……」
「すご、い……かずと、の、すごく、あつい……やけ、ど、しそう」
「詩乃のもすごいよ。いつもよりすごく熱いし、締め付けてくる……俺の、焼けるかも」
「かず、と、うご、いて……動いて」
「わかった。やるぞぉ」
和人は詩乃の腰を両手で抑え付けると、詩乃の膣内を掻き回すように、激しく陰茎の抜き差しを開始する。和人の亀頭が詩乃の膣壁に擦れる度に、ぐちゅくちゅ、ぢゅぷぢゅぷという、淫液が絡まり合って飛び散る音が鳴り、部屋いっぱいに何度も木霊する。
「くああっ、あっ、あんぅっ、んぅっ、んっ、あぅっ、くあっ、あぁっ」
「詩乃ってば、いつもより、大きな声出してる、なっ」
「だって、だって、ああっ、あぅっ、かずっ、とのぉっ、がぁっ、よすぎっ、なのっ、ぉおっ」
「詩乃のだって、気持ち良すぎだよっ、こんなに気持ちいいのは、詩乃だけだっ」
「わたしもっ、かずとだけ、かずと、せんよう、のなのっ」
「お互いに、お互い専用か」
和人は詩乃の腰を抑えると、そのまま詩乃をうつ伏せにして突き上げたり、もう一度仰向けにして突き上げるを繰り返す。姿勢を変えられる度に、陰茎と膣壁が擦れ合い、互いに強い快感の波を与え合う。だが、その快感の波では満足できなくなっていた詩乃は、仰向けになって和人の顔が見えるようになったその時に、その手を和人へ伸ばした。
「かずとっ、だいてっ、だきしめてっ、むねのおと、きかせっ、てっ」
「いいよっ。詩乃のも聞かせてくれっ」
和人は詩乃の身体に手を回すと、腰を突き上げつつ、ぎゅうと詩乃の身体を抱き締めた。そして自らの胸元に詩乃の耳を当てさせ、詩乃から伝わってくる音を感じ取る。
「はっ、はぁっ……言ってる……和人の胸から、とくとくって音、する……」
「とくとくっていうか、ばくばくだぜ。君と一つになってるからな」
「私のも、聞こえる? 私の胸の音も、聞こえるの」
「あぁ、聞こえるよ。君と繋がってるから、一つになってるから、みんなわかるんだ」
詩乃は子供の時に戻ったかのように、和人の胸に耳を当て、目を閉じる。確かに、和人の言っているとおり、とくん、とくんというリズムではなく、どくんどくんどくんどくんという、かなり早いリズムとなっている。
しかし速度こそ早いものの、和人の胸から聞こえてくる心音が耳を通って頭の中に届けられると、不思議な暖かさと心地よさが生まれて、心の中いっぱいに広がっていく。心の中で渦を巻いていた不安や怖さが、少しずつ溶けていき、安堵と安心と言った気持ちの良い感情が生まれていく。和人の胸の音が、生み出してくるのだ。
和人の言っているように、自分の胸もまた、早いリズムで心音が刻んでいるのだろうけれども、和人の胸からの音を聞き続けていると、自らの心音がゆっくりになっていくような感覚になる。
不安をすべて消し去り、暖かさと安堵を与えてくれて、いつまでも聞いていたいと思えるような音が、和人の心音だった。
「和人、このまま……動ける?」
「あぁ、動けるとも。このままで、しようか」
「そうして、頂戴」
和人はわかったと言うと、再度腰を激しく前へ後ろへと動かし始めた。再び和人の陰茎が膣内を高速で出入りする、強い快感と混ざり合った感覚が襲ってきて、詩乃は和人の胸の中で声を上げる。
「あぅっ、くああっ、はぅっ、はあぅ、あっ、ああぁっ、くうぅんっ、ぅんっ、うあぁんっ」
「詩乃、しのっ、しのっ」
ぐちゅん、ぷちゅん、ずちゅんという、詩乃の愛液と和人の分泌液が混ざり合って飛び散る音に負けないくらい、和人の心音が大きく、そして早いものとなる。どんなに速さと大きさが増しても、その音がもたらしてくれる心地よさや現実感は、何一つ変わる事がない。その音を聞いているためなのか、いつもよりも押し寄せてくる快感が強くて、声を上げないという事自体が出来なくなる。
「かずとっ、あっ、あぅうっ、かずっ、とっ、すきっ、すきっ、あっ、だっ、だいすっ、きっ」
「俺もだっ、詩乃の事、誰よりもっ、好きだっ、大好きだっ」
一つになっているお互いへの思いを伝え合ったその直後、和人の胸が刻む心音がより大きなものへと変わり、自分の中からこれまで以上に大きな快感の電撃が近付いてくるのを、詩乃は感じ取った。自分の性器の中へ自らの性器を入れ、一つになってくれている和人は今、達しそうになっているのだ。そして近付いて来ている快感の電撃の兆候も、自分が達そうとしているという事の証明に他ならない。
「かずとっ、かずとっ、わたし、わたしっ、わたしっ、い、くっ、いくっ、いくうっ」
「俺も、おれもっ、いきそうだっ、で、そうっ」
「いくならっ、いくならぁっ、いっしょに、いっしょっ、にぃっ」
「わかったっ、わかっ、た、出るっ、出るよっ、だすよっ」
「だしてっ、かずと、のっ、おもいっきりっ、だしてえっ、くぅ、うぅっ、あっ、ああ――――――――――はっ」
次の瞬間、近付いて来ていた快感の電撃が詩乃の全身を走り抜け、同刻和人の陰茎の先端から大量の精液が迸り、詩乃の子宮の奥にぶつかり続けた。最近していなかったためなのか、和人の精液は思っていたよりも遥かに大量かつ高熱で、それを子宮の中に受け止め続けた詩乃は何度も絶頂しながら、より膣穴を狭め、和人の射精を促進させた。
腹を焼いているのではと錯覚しそうなくらいに熱う精液の放出は、七秒くらい続いたところで止まり、最後の一滴を受け止めたところで、詩乃はぐったりと和人の胸の中へと倒れ、和人は詩乃を抱き締めたままベッドへと倒れ込み、陰茎を詩乃の膣内から引き抜いた。
余るくらいの勢いのある射精を終えた和人の息は、自分と同じように荒かったが、胸の中から聞こえてくる心音は徐々にゆっくりになりつつあり、それを耳に入れながら、詩乃は目を閉じる。
先程まで自分の心の中には、自分ではどうする事も出来ない強さの不安と恐怖が渦巻いて仕方が無かった。しかし、今はその不安と恐怖は消え失せて、代わりに大きな安堵感と心地よさ、暖かさだけが残されていた。交わった和人が、心の中にまで入って来て、本当に不安と恐怖を焼き尽くしてくれたのだ。それを実感しつつ、自分の子宮の中にある熱さを感じながら、詩乃は呟くように言った。
「和人……ありがとう」
「詩乃?」
「和人のおかげで、胸の中がすごく暖かくなったわ。こんな幸せは、こんな熱さは……幻視じゃとても再現できないわ」
和人が軽く驚いたような声を出した後に、背中と後頭部に暖かいものが当たった。和人の手が、背中と後頭部を撫でてくれている。
「そうだろう。俺の胸の中にいる君は、間違いなく本物で、君が俺の胸の中にいる今は間違いなく現実だ。君はずっと、現実に生きているよ」
「ここ、現実じゃなくて仮想世界だけどね」
「そうだけど、君が見ている物は全て真実だよ。君と俺が一つになったのも、愛し合っているのも……みんな、真実だ」
「えぇ。今ならそう思えるわ……あなたの胸の中も、暖かさも、全部真実で現実だって、思える……」
和人の齎してくれる、暖かさと熱さと心地よさ。今日はそれが信じられなくなってしまったが、今ならばすべてを信じる事が出来る。目の間にいる桐ヶ谷和人は本物で、自分のまた本物として和人に抱き締められている。今ここにいる事、和人と愛し合っている事、その全てが真実なのだ――その事を噛みしめるように、詩乃は和人の胸に顔を軽く擦りつける。
「和人……今日はこのまま寝てもいい? あなたの音を聞きながら、眠りたいの」
「いいよ。俺も君の音を聞きながら寝たいんだ」
「それで、明日の朝、あなたが私よりも早く起きても……」
「君が起きるまでこうしてるよ。ずっと傍にいるから、大丈夫だ」
和人の答えを、心音と共に聞き入れた詩乃はすんと笑み、小さく言った。
「……ありがとう和人。……愛してる」
「うん。愛してるよ……詩乃」
詩乃はゆっくりと深呼吸をして、瞳を閉じた。とくん、とくんというリズムに戻った、世界で最も愛おしい人の愛おしい音が眠りへ導いてくれたのは、思っていたよりも早かった。